03. アジアから: 2011年6月アーカイブ

中華人民共和国からの留学生
【CGS Newsletter014掲載記事】【ペーパー版と同一の文章を掲載】
 2011年4月3日から4日にかけ、中華人民共和国・上海の外灘地区で営業していたQ Barというゲイバーに公安が押し入り、客と従業員合わせて60人以上を半日前後拘留した。拘留された人々は、食料や飲み物、毛布などを与えられることなく小東門警察署にて拘留されたという。拘留が行われた理由として、公安は「セックスショー」がバーで行われていたからとしているが、実際にはそのような事実はなかったと多数の被拘留者は述べている。
 なぜ、このような行為が行われてしまったのだろうか。考えられる理由がいくつか挙げられる。まず一つ目に、中華人民共和国に蔓延するホモフォビア(同性愛嫌悪)が挙げられるだろう。中華人民共和国では、1997年になりソドミー行為が合法化され、また2001年に精神疾患リストから同性愛が除外された。しかし、現在もなお、地域やコミュニティーのなかで、同性愛者、ひいては性的少数者に対しては、差別的な視線が向けられている。また、若い世代の間では、徐々に性的少数者に対しての差別視というものは薄れてきている反面、親世代などを含む社会全体は、未だ根強い差別意識を持っているということを、私自身も肌で感じてきた。
 二つ目の理由として、中華人民共和国の政治の性質が挙げられる。中華人民共和国の民主活動家が多数拘束、逮捕されている昨今の状况を鑑みてもわかるであろうが、政府にとって政治的不安定を招くと判断された中華人民共和国国民は、その政治的主張や社会的な位置を吟味されることなく、その自由が制限されてしまうことが往々にしてある。その明確な証拠として、今回の事件でも、中華人民共和国の法律では勾留できる対象は同国国民に限られるという事情もあるものの、バーにいた外国籍の客は拘留されることなく、中国籍の客と従業員が拘留されたことが挙げられるであろう。また、一つ目の理由として挙げたホモフォビアと重なるかもしれないが、2007年にも起こった上海のゲイバーへの大規模な手入れがあったことや、2005年に北京で「北京同性愛文化節」と銘打たれたイベントが、開催直前で公安による介入で中止させられたという事例もある。そして、2009年からLGBTの権利を主張する上海プライドウィークが企画・開催されているが、その中のコンテンツが急遽中止を求められたり、パレードを行うことができなかったりと、LGBTの権利拡大を求める行動は(市・省)政府の意向にそぐわない行為とみなされれば、抑圧されることがあるのだ。このように、LGBTをめぐる状况というものは、政治的、そして中華人民共和国独自の文化的・歴史的文脈など複雑な関係が入り乱れて形成されている。そのような事情があるため、今回ここで提示した理由は、全ての理由をもちろん含んでいないし、北京を含む中華人民共和国の各都市や、台湾や香港とは違うであろう。ここには留意しておいていただきたい。最後に、中華人民共和国を含む世界のLGBTがその性的指向を原因として差別されない世界が築かれることを希望して終わりとしたい。

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