日本でジェンダー法学会が発足

ICU在学生 : 久保田裕之【CGS News Letter001掲載】

 日本におけるジェンダー研究と法学の溝を埋め、研究者と法律実務家の橋渡しになることを目指して2003年12月6日・7日、早稲田大学においてジェンダー法学会の創立集会と第一回シンポジウムが行われました。2日間にわたって多くの法曹実務家・法学者・社会学者の方々が参加し、大変な盛況のうちに幕を閉じました。2004年度から日本で新しくスタートする法科大学院における将来の法曹のジェンダー教育の問題、および女子差別撤廃条約などの国際条約をどのようにして国内の裁判に活用していくかという問題などについて、発表・報告に続き熱い議論が交わされ、まだ新しいジェンダー法学という実践の可能性を感じた2日間でした。

 ジェンダーの視点からあらゆる学問が抜本的な見直しを図られるなか、法学は人権概念をその中心に据えながらも、ジェンダー視点を最も欠いている学問分野のひとつであると言われています。このことは、女性の経験と視点を欠いた保守的な判決として社会に跳ね返り、職場や家庭で差別に苦しむ女性を今も圧迫し続けています。

 このようなジェンダー研究と法学の溝を埋め、研究者と法律実務家の橋渡しになることを目指して2003年12月6日・7日、早稲田大学においてジェンダー法学会の創立集会と第一回シンポジウムが行われました。集会には二日間に渡って多くの法曹実務家、法学者、社会学者の方々が参加し、大変な盛況のうちに幕を閉じました。

 司法制度改革の一環として2004年度から法科大学院制度がスタートし、将来の法曹、とりわけ裁判官のジェンダー教育が大きな問題となります。この学会においてもロースクールにおけるジェンダー教育は一つの大きなトピックでした。弁護士の角田由紀子さんは、「英語が分からなくても本人に不利なだけで周りには関係ないが、ジェンダーが分からない人は本人に関係なくても周りが迷惑する」と、ロースクールでのジェンダー科目の必修化を以前から主張していました。実際にある大学のロースクールのカリキュラムに実際に関わる先生から、ジェンダー教育は「法曹倫理」として必修化が可能なのではないかなど、建設的な意見が出されていました。ICUからもロースクールを目指す学生が4人ほど出席していたようです。

 また、女子差別撤廃条約などの国際条約をどのようにして国内の裁判に活用していくかに関して、2003年にICUで「日本国憲法」の講座を持たれた横田耕一先生を含め4人の先生から報告があり、その後の討論会でも熱い議論が持たれました。とりわけ、均等法以前に採用された女性につき、職場での男女差別を「憲法の趣旨に反するが、原告らの採用当時の社会情勢では違法とは言えない」とした住友電工訴訟の一審判決(その後、2003年末に歴史的和解)に関してどのように反論するかが議論になり、憲法学者・辻村みよ子先生から「当時の社会的情勢が既に憲法に違反していた」とすれば足りるとの意見などが出されました。

 印象的だったのは、年配の弁護士さんらしい方々が会場の前列に陣取り、最後の質疑応答の際に、実際に係争中の事件のための理論構成について熱心に質問をしていたことです。彼女たちはおそらく労働事件やセクハラ事件の真只中にいて、依頼人のためにどうにか日本の裁判所の壁をこじ開けようと四苦八苦するなか、何かの突破口を求めてこのジェンダー法学会へ集まったんだろうと思います。

 私は満員の教室のちょうど中ほどで報告と講演を聴いていました。かつてはこの早稲田大学で弁護士を目指していた私が、法学のジェンダーへの無関心に疑問を感じてジェンダー研究に重心を移して以来、まさかこんな形で早稲田に戻ってくるとは思ってもみませんでした。それも、こんなにも早く。一般の人権問題に関してすら卒倒するくらい絶望的な判決を出す日本の裁判所が、仮に渋々ジェンダー視点を取り入れて変革されていくとしたらそれはもっともっとずっと後のことだろうと、私は正直悲観的でした。けれど、こうして立場も意見も違えど今の日本の裁判をどうにかしようと多くの専門家が集まり議論する場に立ち会ってみると、もしかして世の中が変わる瞬間に、私は、生きて立ち会えるんじゃないかと思い胸に熱いものが込み上げてきました。もしかして、今日ここから、社会を変えていくことができるのかもしれない。

 まだ新しいジェンダー法学という実践の、可能性を感じた二日間でした。詳しい資料やレジュメは、ICUジェンダー研究センターに保存してあるので、興味のある方は是非お立ちより下さい。

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