女性労働訴訟で歴史的和解:住友電工裁判

ICU在学生:清水雄大・久保田裕之【CGS News Letter001掲載】

 2004年1月、男女雇用機会均等法をめぐる女性労働訴訟として注目を集め、控訴審で係争中だった住友電工裁判の和解が発表された。これは同社に勤務する女性らによって、男女差別を行ってきた会社と国を相手取って争われた労働賃金訴訟である。大阪高裁の強い勧告で実現した今回の和解では、間接差別の存在を認め、①会社は原告に1人500万円を支払う ②原告を昇進させる ③国は差別是正のため積極的に調停を行っていくという画期的な内容であった。私たちはこの朗報に強く胸を打たれたが、その夜のニュースでの扱いの小ささに日本での男女平等への道のりは長いのだと思い知らされた。

 2004年の年明け早々、嬉しいニュースが飛び込んできた。男女雇用機会均等法をめぐる女性労働訴訟として注目を集め、控訴審で係争中だった住友電工事件の和解が発表されたのだ。和解内容は原告全面勝訴以上の画期的な内容だった。

提訴までの経緯
 住友電工裁判は、1960年代に高卒事務職として採用され現在も同社に勤務する女性7人によって、会社と国(1)を相手取り争われた労働訴訟である。男女別雇用管理によって、能力向上と昇進の機会を不当に奪われたことを理由に、同期・同学歴の男性社員との月額20万円あまりの給与差額と慰謝料を求めて、1995年に提訴された。訴訟の主な焦点は、①1985年に制定された男女の昇給・昇進・待遇に関する差別の禁止を定めた男女雇用機会均等法が、同法施行前に雇用された労働者にも適用されるのかどうか、②均等法の実施に対応する形で、86年以降に同社で採用されたコース別雇用は、間接差別にあたるのかという2点だった。

第一審〜全面敗訴 (大阪地裁2000年7月31日判決)
 2000年7月、住友電工訴訟の第一審判決で大阪地方裁判所松本哲泓裁判長は、85年以前の女性差別について、憲法の趣旨に反するが、男女の役割分担意識や女性の結婚・出産による早期退社が一般的に認容されていた当時の社会情勢から考えて違法とまでは言えないとした。その上で、86年以降のコース別雇用に関しては、その実施以降に採用される女性に均等な機会を与える適当なものであり、それ以前に採用された者の処遇についての是正義務は生じないとして、国の調停不開始決定も支持。原告の全面敗訴となった。

 この判決は全国に衝撃を与え、女性労働問題に関る全ての人を失望させた。原告のひとり、白藤栄子さんは、「均等法以前に採用された私たちは、一生会社の中で平等に処遇されないのか」と涙ながらに判決の不当さを訴えていた。原告は「判決は時代に逆行するもの」として控訴、原告をサポートするワーキング・ウィメンズ・ネットワークとともに、国際的な支持を得るべく日本の裁判の実情を国連女性差別撤廃委員会(SEDAW)の会場で訴えるなど、精力的な活動を行ってきた。

第二審〜歴史的和解 (2003年12月24日和解成立)
 今回の控訴審での和解は日本の女性労働問題の歴史に新たな一ページを書き加える画期的なものとなった。和解に先立って大阪高等裁判所は、原告の意思を全面的に支持する形で和解勧告を行い、会社側も同意する形で和解成立した。和解内容は、①会社は解決金として原告に一人500万円を支払う、②原告を課長・係長クラスに昇格させる、③国は差別是正のため積極的に調停を行っていく、などとなっており、特に日本の判決ではなかなか認められない昇格に関する項目が目を引く。和解勧告の中で井垣敏生裁判長は、「過去の社会意識を前提とする差別の残滓を容認することは社会の進歩に背を向ける結果となる」ことに留意を促して、85年以前に雇用された労働者も平等に扱われるべきことを明示した。また、「直接的な差別のみならず、間接的な差別に対しても十分な配慮が求められている」として、コース別雇用が間接差別にあたる可能性を示した点で、歴史的であるといえる。

評価・感想
 男女差別が社会的にも許されないものとなった現在、均等法や女性差別撤廃条約などの効力が施行以前に遡及しないとした一審判決は、現に働いている女性の不利益を是正するという司法の責務を放棄したものにほかならないだろう。転じて二審で成立した和解内容は、同種の労働裁判の先例となるべき画期的内容である。
これまでの判例は、解雇や同一コース内での賃金格差における男女差別を認める一方、コース別雇用管理制度そのものや、昇格における男女差別は、「使用者の人事権の行使」とか「高度な経営判断」という名の下に、原則としてこれまで救済がなかった(2)。今後は実質的・間接的に男女差別となっていると批判されるコース別雇用や昇格などの人事専決事項と言われている部分にまで踏み込んでジェンダー平等を進めていかなければならないのではないだろうか。 (清水)

 私は2004年1月4日の朝刊で住友電工事件和解のニュースを読んで、興奮してバイトをサボり十数人に電話したのを覚えています。2001年の芝信用金庫訴訟高裁判決(3)とその後の和解で女性差別の是正に対して高まった機運が、2003年の兼松訴訟地裁判決で大きく後退していた時期の、久々に元気が出るニュースでした。しかし、私の期待に反してその夜のニュースやマスメディアでの扱いは小さく、国内の関心の低さをまざまざと見せ付けられました。現在、日本の男女平等への道のりは、激しいバックラッシュの只中にあって、突破口を模索しています。(久保田)

脚注
(1) 国が裁判に先立つ調停を「理由がない」として退けたことによる。
(2) 社会保険診療報酬支払基金事件(東京地裁1990年7月4日判決、労働判例565号7頁)、日ソ図書事件(東京地裁1993年8月27日判決、労働判例611号10頁)など。
(3) 東京高裁2001年12月12日判決、労働判例796号5頁・労働判例百選7版66頁。職能資格制度において、資格の付与の差別が賃金の差別と同様に観念でき、かつ資格が年功的に自動付与されている場合、同期男性社員と同じ地位に昇格されるべきとした。

参考文献・URL
赤松良子「芝信用金庫事件の判決に想う」『ジュリスト』1226号2-4頁
浅倉むつ子「性差別への法的アプローチ」『ジュリスト』1222号36-43頁
「コース転換制、実効認める」『日本経済新聞』2003年11月11日付夕刊13面
日本労働弁護団「住友電工事件大阪地裁判決に抗議し、男女差別是正と被害救済のために司法の本来の役割を求める決議」
『労働判例』792号48頁(大阪地裁2000年7月31日判決)
ワーキング・ウィメンズ・ネットワーク「住友電工裁判」

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