報告:フェリス女学院大学創立記念アイリーン・カーン氏講演会

ICU学部 : 番園寛也

 去る6月1日横浜市のフェリス女学院大学の創立記念講演として行われたアイリーン・カーン氏の講演に行ってきました。カーン氏はアムネスティインターナショナルの事務総長であり、世界で最大の規模を持つ同団体の代表に、初の女性、初のアジア系、そして初のイスラム教徒として就任されました。また事務総長就任以前は国連難民高等弁務官事務所に勤務し、2001年8月に事務総長の任に就き、その直後あの9.11同時多発テロに直面されました。彼女は9.11以降の困難な状況下で、様々な人権問題と向き合い、多くの分野においてアムネスティの役割を拡げ、発展へと導いてきました。この講演会ではアムネスティインターナショナルが推進する”Stop Violence Against Women”キャンペーンに関連し、彼女の経験とそれに基づくメッセージが語られました。

 2002年の調査によれば世界中の女性の5人に一人が何らかの暴力にさらされていると言います。こうした女性に対する暴力は遠くのことではなく、世界中我々の身近なところで起こっているものであり、時には自らにもふりかかり得る問題であるとカーン氏は訴えました。そして、女性に対する暴力は男女間の不平等・法的な免責・この問題に対する人々の無知という3つの要因がもたらしているものであると分析しています。 
 
 第一の男女間の不平等の問題に関しては、世界には女性の参政権すらない国もあり、法的・制度的に女性が保護されていない現状があることを彼女は指摘します。また法的な保護のなさ以上に社会的慣習や伝統によって女性を従属的な存在として位置づける文化が存在することを大きな要因として挙げています。
 
 第二の法的な免責については不平等の問題と関連し、女性に対し暴力が振るわれたとしてもその加害者が処罰されないという問題に触れました。家庭内で女性に対しパートナーが暴力を振るうことで処罰されることはほとんどありません。もし仮に被害者の女性が司法に訴え出たとしても正当な扱いを受けられず、まるで女性が悪いかのような尋問を受けると言います。こうしたことは日常生活においてしばしばおきますが、紛争中の地域においては一層大きな問題として起こりうると言います。紛争下では兵士による女性に対するレイプが行われ、時としてそれは軍事戦略の一環として行われています。こうした事態で加害者の兵士が罰せられることはほとんどありません。ましてや軍事戦略としてこのような行為を命じた権力者達に処罰が下ることはなく、女性に対する暴力を助長しています。
 
 カーン氏は第三の要因として挙げた人々の無知、無関心がこの問題の解決を阻んでいると語りました。これまで女性に対する暴力という問題には、女性が女性のために闘ってきました。彼女達は自分たちの社会のタブーを破り発言することにより、社会に変化をもたらしてきました。しかしこの闘いには男性も巻き込んでいかなくてはならないと彼女は主張します。なぜならこうした問題は女性だけの問題ではなく、国家・社会の問題であるからです。自分のいるコミュニティの差別に対し何ら行動を起こすことなく、こうした暴力に声を上げることがなければ、その暴力の共犯者であると彼女は続けます。そしてアンドレマルローの「ノーという人々によって歴史は作られる」という言葉を引用し、我々に行動するよう呼びかけました。
 
 彼女が学生であった1970年代は各地で軍事政権がうまれ、内戦などが多くあった時代でした。彼女はそうした軍事政権の独裁やアパルトヘイトといった人権問題に対して行動する学生活動家であり、当時の世論は彼女のような学生達に、そんな活動をしても無駄だ、そんなことをしても何も変わらないと言ったと言います。しかし現状はどうでしょう。未だ根強い差別は残るとはいえ、制度としてのアパルトヘイトはなくなり、また当時の軍事政権下の多くの国々は自由と独立を勝ち取りました。彼女はこうした流れの中で、行動することで必ず社会は変わっていく、自分たちの手で社会は変えられると語りました。現在においても心ない人たちは、1970年代と同じように若者達に、行動したところで何も変わらない、行動するだけ無駄であると言うでしょう。しかしそうではないと歴史が証明していると彼女は言います。アパルトヘイトもなくなり、ベルリンの壁もなくなったように、女性に対する暴力という問題も必ず自分たちの手で過去のものと出来るはずだと彼女は講演の最後に我々に呼びかけました。
 
 アイリーン・カーンという一人の行動者が、9.11、そしてイラク戦争を経た現在の困難な状況下で、自分の経験をもとに実感を持って語る、行動すれば社会は自らの手で変えられるという前向きなその言葉に、私は重みと深い感銘を覚えました。その言葉に、というよりもむしろ今日の困難な状況下においてもなお、彼女が前向きに語るということ、語ることが出来るということそのものに私は勇気づけられました。日頃思弁的になりがちな私にとって彼女の言葉は、女性に対する暴力という問題だけでなく、自分が学問を通し、また日常生活の中で抱いた問題意識に対し真摯に行動していくということの重要さを再認識させてくれました。

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