往復書簡:「タイ・フィリピンの旅行産業と性産業」をめぐる議論

編・CGS編集部 著・小林成生(フィリピン在住)、吉成愛子(ICU卒業生)
【CGS News Letter004掲載】

 2005年4月発行CGSニューズレター3号に掲載された吉成愛子さん(ICU卒業生)の記事『タイ・フィリピンの旅行産業と性産業』について、フィリピンに在住する小林武生さんからCGS編集部宛にメールが届いた。小林さんは、日本のフィリピンクラブの店長やフィリピン人芸能人プロダクション勤務を経て、現在フィリピンで生活している。吉成さんは、3週間訪れたフィリピンとタイにおける「旅行産業と性産業」の実情をCGSオンラインに掲載する記事としてまとめた。小林さんは、この記事の情報がフィリピンの一部に限定された偏った情報である点をあげ、性産業が栄えているという偏った情報は、フィリピンのマイナスイメージにつながると意見した。

 二人の議論はフィリピンの現状についてさまざまな点から展開され、多くの情報が引き出された。吉成さんが第三世界における旅行産業の中に性産業が「経済的搾取」の構造で組み込まれてしまっていることに問題意識を置くのに対し、小林さんは、フィリピンで生活する側からみた現地の状況に焦点を当てている。立場の違いから若干の齟齬はみられるものの、往復した書簡からは結果的に多くを得た。編集部では小林さんと吉成さんの間を中継し、数回にわたる書簡のやり取りとその全文を、お二人の許可を得てCGSオンラインで公開する。

第一通 小林氏から吉成氏
第二通 吉成氏から小林氏
第三通 小林氏から吉成氏
第四通 吉成氏から小林氏
第五通 小林氏から編集部
最後に:CGS編集部の見解


第一通 小林氏から吉成氏

『タイ・フィリピンの旅行産業と性産業』を執筆された
ICU卒業生 : 吉成愛子 さま

 初めまして 私、フィリピン在住の小林と言います。あなたの執筆された『タイ・フィリピンの旅行産業と性産業』について少々、「事実と真実」を知らなすぎる偏った偏見をお持ちのようなので私の知るフィリピンを紹介したいと思います。問題の文章はタイの事も含まれていますが、私は、タイの事は知らないのでフィリピンの事だけお話し致します。

 その前に、このメールを書くきっかけになったのはヤフーのニュースに『タイ・比の人身売買、日本行きは「身近な人が勧誘」』と言う見出しの記事のリンク先に『タイ・フィリピンの旅行産業と性産業 - 国際基督教大学ジェンダー研究センター』となって、出ていたので何気なく拝見させて頂いた結果、あまりに偏見に満ちた文面に少々驚きや怒りにも似た感情を覚えたので、少しでも私の知る『真実や現実』をご理解頂けたらと思い、ここに記させて頂きます。

フィリピンの性産業について
 まず、あなたの見た性産業や風俗業(以下、性産業に統一します)は事実あります。オカマもオナベも確かに普通に暮らしています。その点、あなたの文章は間違いでも、嘘でもありません。18歳に満たない子が性産業に従事している事実もあります。ですが、それは国民の数に対して何パーセントになりますか?日本中の数多くある性産業(ソープランド〜ヘルス〜援交〜アダルトビデオ〜ビニ本etc・・・)これらでお金を貰ったことのある日本人女性は日本国民の何パーセントですか?どちらも、数%も無いでしょう・・・なまじフィリピンの方が店舗数や産業の種類の少なさから見て数がずっと少ないでしょう。あなたが見たのは日本で言えば東京・・・首都です。フィリピンの田舎にはゴーゴーバーなんて無いし、ホテルもほとんど無いです。日本には、10万人規模の市になれば相当数の性産業が成り立ちますし、私たちの感覚から言って性産業やラブホテルなんて日本中津々浦々乱立しているイメージを持っていると思いますが、ここフィリピンは違います。あなたの文を読まれた方はきっと『フィリピンの国中に性産業があって、ラブホテルがあって・・・フィリピンの低所得の家庭の女の子はみんな売春婦なんだ・・・』って思うことでしょう。

 ちなみに、私の住んでいる島はセブ島が肉眼で見える所ですが、当然、セブ島では無いので微かな観光客があるぐらいです。日本人もダイビング等で観光にくる島ですが、ここはあなたの知っているフィリピンとは大きくかけ離れています。まず、現市長の意向で私の住む市には性産業はありません。当然、ラブホテルも無いです。代わりに学校がいっぱいあります。ビックリするぐらい学校が多いのです。市内で一番大きな大学はフィリピンでも有数の優良校です。日本やアメリカの学校とも交流をしています。市内にストリートチルドレンは皆無です。ほとんどの子供たちは学校に通っており、両親は金銭的に苦しくても何とかして子供たちを学校へ行かせています。やむなく孤児になった子供たちは市の施設で保護して、教育も受けさせています。私の住む町の売春婦は私の知る限り2人・・・です。見るからに、40歳半ばのおばさんが、外人相手にフリーで活動しています。いつも、立ってるので、買うお客もいないようですが・・・(笑)こんな真面目な都市があるのを、あなたはご存知でしたか?

国際経済における為替と物価の関係
 あなたの文章は、東京の歌舞伎町だけを見て日本を語ったのと同じです。そして、もう一つは女の子の金額です。文中に約3000円で買うことが出来ると謳っていますが、これは為替の問題でたまたま今は円が強くペソが弱い結果にすぎないと思います。あなたの文章では『二束三文で女が買える国』ですが、フィリピン国内の平均月収で考えてください。現在の為替レートでは1Peso=約2円です。約3000円なら1500ペソと言ったところでしょうか? さて、この1500ペソを稼ぐのに何日かかると思いますか?マニラに住んでいる私の友人(フィリピン人男性)の場合、月収10.000ペソです。フィリピンの大手電話会社(日本のNTTに相当)のエンジニアは、月15.000ペソ貰っているそうです。この辺りがたぶん一般庶民の中間では?と思うので、これを基準に計算しましょう。月収10.000〜15.000ペソ÷30日=300〜500ペソ/日ですね!では、1500ペソの女の子を買いたい場合・・・3〜5日の給料が必要です。日本の平均日当は?10.000〜15.000円ぐらいですか?若い子なら10.000円/日も無いでしょうね・・・わかりやすく、日当10.000円の人がソープランドへ行く場合、フィリピンと同じように3〜5日分の給料は持って行かないと遊べない計算です。あなたは、解りやすいように『約3000円で女が買える』と書いたかもしれませんが、為替が急変動した場合、明日からでも約30.000円になるかもしれないし、約300円になるかもしれない。私たちは生まれながらにして日本人であり円で生活しています。世界トップクラスの貨幣価値を持つ国に生まれたからこそ『海外では何でも安い』と言えるだけで、円が下落すれば、国内にいる限り何も変わらないが、一歩、海外に出ればすべての物が高く見えるでしょう?違いますか?あなたは、ゴーゴーバーの給料を一日約300円+αと書いていますが、これもフィリピンで生活する給料としては普通です。多くも少なくもないでしょう。実際、私の現在の収入は一日200円(100Peso)も無いです。マニラでないので物価も安いし、交通費も安いです。それで、何とか生活が出来てしますのです。私の平均月収3000ペソで1500ペソの女が買えますか?半月分の給料を使ってまでそんな遊び出来ません。フィリピンでの1500ペソは高いのです!

宗教的背景について
 でも、あなたの文章を読んだ多くの人は、『フィリピン国民の大半は売春婦で若い女が二束三文で買える』『妊娠したら絶対に産むらしい・・・』『皆、従順なクリスチャンで日曜の朝にはミサに行ってるんだろうな・・・』って感じていることでしょう。私の家族や親戚(結構な人数です)で日曜の朝にミサに行く人は誰もいません。そして、フィリピン人の方たちから見た私たち日本人はすべて仏教徒です。確かに日本人のほとんどは仏教徒でしょうが、実際に信仰を深めている人や、教えを守っている人がどれぐらいいますか?冠婚葬祭の方法で大半が仏教や神教の方法をとっているだけでは無いですか?フィリピンも同じです。冠婚葬祭でカトリックの形式をとっているだけ!日本と同じく、ごく少数が信仰を深めている程度で、中絶もするしミサにも行かない、それが普通です。

日本国内の外国人性産業とビザ発給について
 日本へ行くための興行ビザにもふれていますが、あなたの解釈は日本への入国を厳しくすると見えないところで悪質化するから仕方なしにビザの発給をしてる・・・と言ったところでしょうか?この事にも疑問を持ったのですが、私もフィリピンに移住する以前の仕事が、このフィリピン人芸能人のプロダクションで仕事をしておりまたその前は、フィリピンクラブで店長もしていました。そんな私から見た意見を書き添えて終わりに致します。

 まず、国内のフィリピンクラブのお話です。私の知る99%以上のフィリピンクラブで売春の斡旋はしていません。彼女たちが隠れて副業をしているのがほとんどです。お店としてクラブで利益が出ているなら売春斡旋までのリスクは負いたくないですね。もし無理矢理、売春をさせているならば、それはすでにヤクザ屋さんのテリトリーです。その場合、クラブでの仕事は無いでしょう。マンション等に囲ってデリバリーするんじゃないですか?そうでもしないと、逃げて大使館にでも入られたら一大事ですから!クラブ形式で経営して売春させるなら、本人も理解して日本に来てると思います。ただ、私の知る限りそう言ったお店は極少数と思われます。ほとんどは、ホステス業・・・私の知っているお店の99%以上はこの形態です。残りの1%は本当に芸能活動しています。私が以前、入管に申請した興行ビザで2店舗程ですが、フィリピン人のバンドメンバーを招聘して、ディスコ経営をしていらしたオーナーさんがいます。バンドメンバーのほとんどが男です。残りの99%はご多分に漏れず『ダンサー・シンガー』と称して入国してホステス一本です。私も長い間、入国管理局にビザの申請に出向きましたが、あなたの考えるような理由でビザの発給を増減できるとは思えません。彼ら(入管職員)の仕事はお役所仕事です。きちっと書類をそろえて、不備もなく偽りも無い申請に対して『ビザの発給不許可』と出来ますか?そんな事をしたら国際問題になってしまいます。我々プロモーターも変な申請はしないし、入管法に基づいて法人プロダクションとして申請しているわけです。それを、彼らは拒む事ができないのです。あなたの考えるような『抑圧すればするほど地下にもぐって・・・』と言うのはたぶん違います。売春斡旋は今も昔も違法行為です。それを分かって斡旋する業者は、最初から地下に潜ってます。抑圧があってもなくても地下でないとできない営業です。違いますか?

 最後に・・・日本国内のフィリピンクラブでホステス業をすること事態は確かに違法行為です。でも、私たちや彼女らはそれなりに信頼し合い健全?なクラブ経営を営んでいます。私が店長をしていたときは、酔ったお客が女の子の胸を触ったりした場合一回は注意致しますが改善が見られないお客様は即刻ご退店頂いておりました。おかげで、私のお店では女の子(フィリピン人)とのトラブルは一切ありませんでした。

 今後、インターネット等おおやけの場所に文章を掲示されるときは、もう少し広い視野で考え、独断や偏見を捨て、他人に誤解を与えないような文章を考えてください。今後の活躍をご期待しています。尚、フィリピン国内の情報等、私が役に立つ事がありましたらお気軽にお質問ください。私の知る限りの範囲ではありますが、お応えできる事もあると思います。

 自分で読み直しもせず、誤字脱字及び乱筆乱文にて申し訳ありませんがこれにて失礼させて頂きます。


第二通 吉成氏から小林氏

小林様

 記事を読んだ上でのご意見を賜り、ありがとうございます。現地でお世話になった方からも意見を伺いたいと思っていますが、返事を書きたいと思います。記事ではタイについても書きましたがフィリピンのことに関してという前提でメールを読ませていただきました。

Re:フィリピンの性産業について

『まず、あなたの見た性産業や風俗業(以下、性産業に統一します)は事実あります。オカマもオナベも確かに普通に暮らしています。その点、あなたの文章は間違いでも、嘘でもありません。18歳に満たない子が性産業に従事している事実もあります。』

 実際にフィリピンで見たことなので事実ではあると思います。

『ですが、それは国民の数に対して何パーセントになりますか? 日本中の数多くある性産業(ソープランド〜ヘルス〜援交〜アダルトビデオ〜ビニ本etc・・・)これらでお金を貰ったことのある日本人女性は日本国民の何パーセントですか?』
 この問題を考えるにあたって日本とフィリピンの社会の違いをまず見なければならないと思います。日本では女性は職業に「選択肢」がたくさんあります。性産業よりもリスクが低く、お金を稼げる職はたくさんあります。しかし、フィリピンはどうでしょう。もちろん高収入な職はあるでしょう。しかし、フィリピンでまず驚いたのが国内産業や企業が圧倒的に少ないことでした。周りを見渡せば、マクドナルドやケンタッキーやネスレなど多国籍企業ばかりでした。こうした多国籍企業が貧しい国へ進出する場合多くが「安い労働力」を求めているのではないでしょうか?フィリピンのマクドナルドに入りましたがジュース一杯とアップルパイで約100円でした。日本では考えられない値段です。ここからもスタッフの時給の差は目に見えます。また街には外資系企業の高価な製品があふれていました。持っている人がいれば欲しくなる、売っていれば欲しくなる。手に入れるためには高い給料が必要となってくる。しかし、そのとき職の「選択肢」がどれだけあるか。そこをまず考えなければならないのではないでしょうか?
『日本中の数多くある性産業(ソープランド〜ヘルス〜援交〜アダルトビデオ〜ビニ本etc・・・)これらでお金を貰ったことのある日本人女性は日本国民の何パーセントですか?どちらも、数%も無いでしょう・・・なまじフィリピンの方が店舗数や産業の種類の少なさから見て数がずっと少ないでしょう。あなたが見たのは日本で言えば東京・・・首都です。フィリピンの田舎にはゴーゴーバーなんて無いし、ホテルもほとんど無いです。日本には、10万人規模の市になれば相当数の性産業が成り立ちますし私たちの感覚から言って性産業やラブホテルなんて日本中津々浦々乱立しているイメージを持っていると思いますが、ここフィリピンは違います。あなたの文を読まれた方はきっと『フィリピンの国中に性産業があってラブホテルがあって・・・フィリピンの低所得の家庭の女の子はみんな売春婦なんだ・・・』って思うことでしょう。』
 小林様の言うフィリピンの「田舎」がどこを指すかは分かりませんが、フィリピン滞在中はルソン島北部のアンへレスという街にほとんど滞在していました。アンへレスではバリバゴと呼ばれる地域にゴーゴーバーが集中しており、あとは普通の街です。ホテルも数えるほどしかありません。もちろん日本の歌舞伎町と比べたら規模はまったく違います。もちろん首都マニラにも数日間滞在し、ゴーゴーバーやstreet prostituteの集まるバーに行きました。マニラでも確かに日本の比ではありません。私の問題点は規模ではなくてその背景にあるものなのです。記事執筆に当たって文字数などが限られていたため割愛した部分は多々ありますが、軍、旅行産業、性産業の関連に焦点を当て、国中に性産業があるとは触れたつもりはありません。フィリピンに関していえば、米軍基地があった歴史から紐解いて書いたつもりです。
『ちなみに、私の住んでいる島はセブ島が肉眼で見える所ですが、当然、セブ島では無いので微かな観光客があるぐらいです。日本人もダイビング等で観光にくる島ですが、ここはあなたの知っているフィリピンとは大きくかけ離れています。まず、現市長の意向で私の住む市には性産業はありません。』
 マニラとセブの間で性産業施設に関して葛藤があったという文献があります。AIDSの到来によってマニラではAIDS抗体検査の強制ではなく性産業施設の縮小を政策に取り、他方でセブはAIDS検査の強制を政策にとり性産業はそのままにしていたという歴史がかつて有ったそうです。10年近く前の話なので現市長の政策とは関係がありませんが。またマニラには前述したとおりゴーゴーバーの昔の面影がマビニ通り沿いに残ってました。
『当然、ラブホテルも無いです。代わりに学校がいっぱいあります。ビックリするぐらい学校が多いのです。市内で一番大きな大学はフィリピンでも有数の優良校です。日本やアメリカの学校とも交流をしています。市内にストリートチルドレンは皆無です。ほとんどの子供たちは学校に通っており、両親は金銭的に苦しくても何とかして子供たちを学校へ行かせています。やむなく孤児になった子供たちは市の施設で保護して、教育も受けさせています。』
 それはそれで素晴らしいと思います。しかし、それで問題を隠してしまうのはどうかと思います。アンへレスにも大きな学校はありましたし、元気活発な学生の姿を見受けました。他方で市場で物売りをしている子どももいました。この差は何だと思われますか?またアンへレス郊外にあるロータリークラブがかかわっている孤児院にも訪問しました。そこはストリートで生活している子どもたちを救済し、学習の機会を与え、社会復帰できる環境を用意していました。しかし、そこにいる子どもたちはほんの一握りのストリートチルドレンであり、また維持費がとても足りないこと、中には頭を山刀でかち割られた上に親に捨てられた子どももいました。セブは大きな都市であり、観光地としての魅力もあり、資金も豊富なことでしょう。しかし、一歩外に出てみれば貧しい街もあるのではないでしょうか?

Re:為替と物価の関係

『そして、もう一つは女の子の金額です。文中に約3000円で買うことが出来ると謳っていますが、これは為替の問題でたまたま今は円が強くペソが弱い結果にすぎないと思います。あなたの文章では『二束三文で女が買える国』ですが、フィリピン国内の平均月収で考えてください。現在の為替レートでは1Peso=約2円 です。約3000円なら1500ペソと言ったところでしょうか? さて、この1500ペソを稼ぐのに何日かかると思いますか?マニラに住んでいる私の友人(フィリピン人男性)の場合、月収10.000ペソです。フィリピンの大手電話会社(日本のNTTに相当)のエンジニアは、月15.000ペソ貰っているそうです。この辺りがたぶん一般庶民の中間では?と思うので、これを基準に計算しましょう。月収10.000〜15.000ペソ÷30日=300〜500ペソ/日ですね!では、1500ペソの女の子を買いたい場合・・・3〜5日の給料が必要です。日本の平均日当は?10.000〜15.000円ぐらいですか?若い子なら10.000円/日も無いでしょうね・・・わかりやすく、日当10.000円の人がソープランドへ行く場合、フィリピンと同じように3〜5日分の給料は持って行かないと遊べない計算です。』

 日本人が日本で日本人を買う、フィリピン人がフィリピンでフィリピン人を買うことに問題意識をおいているのではないのです。先進国の思惑から国際機関を巻き込んでまで旅行産業を第三世界に広め、その旅行産業の中に性産業が「経済的搾取」の構造で組み込まれてしまっていることに問題意識をおいているのです。簡単に言ってしまえば富のある外国人が貧しい人の性をお金で買うという構造が「経済的、性的搾取」なのではないかと考えているのです。また小林様は男性の例を挙げていますが、フィリピン人女性は同等の給料を得ることができるのでしょうか?日本でさえ男女間の賃金格差が問題になっているところでフィリピンではどうでしょう?これは先ほど述べた職の選択肢にもつながることかと思います。

『あなたは、解りやすいように「約3000円で女が買える」と書いたかもしれませんが、為替が急変動した場合、明日からでも約30.000円になるかもしれないし、約300円になるかもしれない。私たちは生まれながらにして日本人であり円で生活しています。世界トップクラスの貨幣価値を持つ国に生まれたからこそ「海外では何でも安い」と言えるだけで、円が下落すれば、国内にいる限り何も変わらないが、一歩、海外に出ればすべての物が高く見えるでしょう?違いますか?』
 実際に女性のバーファインが1500ペソ前後でした。為替が変わればもちろんこの額も変わるでしょう。しかしその前に為替変動を引き起こす何かがあるはずです。たとえば日本をしのぐフィリピンの経済成長など。そうすれば女性の職の選択の幅も変わってくるかもしれませんね。女性がエンパワーメントされるかもしれません。
『あなたは、ゴーゴーバーの給料を一日約300円+αと書いていますが、これもフィリピンで生活する給料としては普通です。多くも少なくもないでしょう。実際、私の現在の収入は一日200円(100Peso)も無いです。マニラでないので物価も安いし、交通費も安いです。それで、何とか生活が出来てしまうのです。私の平均月収3000ペソで1500ペソの女が買えますか?半月分の給料を使ってまでそんな遊び出来ません。フィリピンでの1500ペソは高いのです!』
 この点は先ほど述べたとおり現地の人が現地で性産業を楽しむことではなく旅行の「目的」として外国人が性産業を楽しみにくることを問題にしているので視点が違います。またフィリピンでは長女が家庭を背負う慣習があると伺っています。小林様が何とか生活できる収入を仮に得られたとして、家庭に仕送りをしたら自分の生活はやっていけるでしょうか?おそらく難しいでしょう。

Re:宗教的背景について

『私の家族や親戚(結構な人数です)で日曜の朝にミサに行く人は誰もいません。そして、フィリピン人の方たちから見た私たち日本人はすべて仏教徒です。確かに日本人のほとんどは仏教徒でしょうが、実際に信仰を深めている人や、教えを守っている人がどれぐらいいますか?冠婚葬祭の方法で大半が仏教や神教の方法をとっているだけでは無いですか?フィリピンも同じです。冠婚葬祭でカトリックの形式をとっているだけ!日本と同じく、ごく少数が信仰を深めている程度で、中絶もするしミサにも行かない、それが普通です。』

 宗教に対する姿勢は日本人もフィリピン人も大して変わらないと考えています。日本人がお寺参りを頻繁にしないのと同様に、フィリピンの人も必ずしも毎週日曜日にミサに行くとは思っていません。むしろ世俗的な面で宗教が影響を及ぼしているのではないかと思います。たとえば日本人が祟りや仏教に関わる迷信を信じやすいようにフィリピン人もキリスト教の影響を何かしら受けているのではないかと思います。まだフィリピンに米軍基地があった頃、多くのアメラシアンの子どもが生まれました。米軍の撤退によって父親であるアメリカ人兵士は帰国し、フィリピンにはアメラシアンの子どもと母親が残されたそうです。生計を立てられない母親は子どもを捨て、その子どもはストリートチルドレンに・・・。なぜ「生まない」ことを選択しなかったのでしょうか?またフィリピンでは大家族を多く見受けました。日本は核家族化、少子化が進んでいますが、なぜフィリピンでは大家族が多いのでしょうか?その1つの要因にキリスト教があるのではないかと現地に行って感じたのです。

Re: 日本国内の外国人性産業とビザ発給

『日本へ行くための興行ビザにもふれていますが、あなたの解釈は日本への入国を厳しくすると見えないところで悪質化するから仕方なしにビザの発給をしている・・・と言ったところでしょうか?』

 違います。今日本では多くの外国人女性が暴力などから逃れるためにシェルターに駆け込んできています。必ずしも性産業が原因ではないですが、未知の土地での労働は不安がつきまとい、弱い立場におかれるものです。Entertainment Visaの発行の縮小が検討されていますが、ビザの発行を減らすことで人身売買がより一層地下にもぐり、女性がさらに不利な立場に置かれるのではないかと危惧しているのです。

『この事にも疑問を持ったのですが、私もフィリピンに移住する以前の仕事が、このフィリピン人芸能人のプロダクションで仕事をしておりまたその前は、フィリピンクラブで店長もしていました。そんな私から見た意見を書き添えて終わりに致します。まず、国内のフィリピンクラブのお話です。私の知る99%以上のフィリピンクラブで売春の斡旋はしていません。彼女たちが隠れて副業をしているのがほとんどです。お店としてクラブで利益が出ているなら売春斡旋までのリスクは負いたくないですね。もし無理矢理、売春をさせているならば、それはすでにヤクザ屋さんのテリトリーです。』
 そこが問題なのです。人身売買は暴力団やヤクザ、マフィアが必ず絡んできます。そうなったらもう救いの道がどんどん狭くなってしまっていくのです。
『クラブ形式で経営して売春させるなら、本人も理解して日本に来てると思いますただ、私の知る限りそう言ったお店は極少数と思われます。ほとんどは、ホステス業・・・私の知っているお店の99%以上はこの形態です。残りの1%は本当に芸能活動しています。私が以前、入管に申請した興行ビザで2店舗程ですが、フィリピン人のバンドメンバーを招聘して、ディスコ経営をしていらしたオーナーさんがいます。バンドメンバーのほとんどが男です。残りの99%はご多分に漏れず『ダンサー・シンガー』と称して入国してホステス一本です。』
 ダンサーになれる、シンガーになれる、そう言われて日本に来てみたら水商売だったということですか?それなら大問題だと思います。本人の理解なんてあったもんではありません。
『私も長い間、入国管理局にビザの申請に出向きましたが、あなたの考えるような理由でビザの発給を増減できるとは思えません。彼ら(入管職員)の仕事はお役所仕事です。きちっと書類をそろえて、不備もなく偽りも無い申請に対して「ビザの発給不許可」と出来ますか?そんな事したら国際問題になってしまいます。』
 その国際問題が実際に日本で起きているから問題なのです。日本の難民事情をご存知ですか?説明すると長くなるので割愛しますが、不備も無く、偽りも無い申請をしても難民認定が降りず強制送還されていく難民が後を絶えません。これも入管の仕事です。中にはUNHCRが難民認定をした人でさえ強制送還し、非難を浴びたこともあります。

末筆ながらご意見ありがとうございました。


第三通 小林氏から吉成氏

 私は前回の文章で冒頭に

少々、「事実と真実」を知らなすぎる偏った偏見をお持ちのようなので私の知るフィリピンを紹介したいと思います。問題の文章はタイの事も含まれていますが、私は、タイの事はしらないのでフィリピンの事だけお話し致します。

と書いておきましたが、それは、吉成 様の文章からはフィリピンの陰の部分・・・つまり、マイナスイメージしか伝わってこなかったからです。吉成 様の文章は大学のホームページ内に掲載されていました。一般的に政府や学術系からの情報なら中立の立場でプラス面もマイナス面も平等に公表されるべきと思っています。もし仮に、ボランティア募集や募金活動のホームページ内に掲載された記事なら私は何も言いません。ある目的の為に、ごく一部の事をクローズアップして世論に訴える・・・それなら普通の事と思いますが、今回は違います。紛れもなく学術系のホームページ内に記載された文章です。吉成 様の文章に欠けているものは、読書に誤解を招かないようにする配慮だと思われます。せめて、文中に『私の立ち寄った○△□という町では・・・・』とか『他のお店は分からないが、今回話を聞いた○店舗では・・・』など読んだ人が「そういう場所もあるのか・・・」とか「フィリピンの一部ではそんな事が・・・」など、吉成 様の文章を読まれた方が、「フィリピンの性産業の100%ではないが、一部でそんな事実もあるのか・・・」と理解してもらえる文面にして欲しかったのです。ホームページを見ていて、こんなメールをお送りしたのは今回が初めての事ですが、それは、私の個人的な理由が有っての事です。私がフィリピンに住んでいる事もあり、両親や身内・友人等はフィリピンに関するニュースや情報は気になるようで、目に付いたものには必ず目を通すようです。去年もフィリピンでクーデターがあったとき両親や友人からすぐに電話がかかってきて「そっちは大丈夫か?」って聞いてきたぐらいです。

 私の心配は、フィリピンというイメージが一般的にあまり良くない上に、日本のTVニュースや新聞記事にフィリピンに関する悪い事ばかりが表に出ている現状、さらにこの国のイメージが悪化しているように思えるのです。確かにフィリピンの政治や国内治安は、とてもほめられる様なものではありませんが、私もこの国に住んでいる以上やっぱり悪いイメージばかりでは肩身が狭いのです。あなたの見たフィリピンは悪い所ばかりだったですか?何故、日本でもフィリピンでも未成年が売春をするのでしょうか?ルイ・ヴィトンやシャネルのバックが欲しいから?最新の携帯が欲しいから?日本ならそんなくだらない理由で体を売る未成年も多いでしょうが、この国は家族や身内のために仕方なくそんな仕事を始める子が多いと思います。どうしてあなたの文章にはそう言ったフォローが無いのか不思議に思います。

○Re:Re:国際経済における為替と物価の関係について

『先進国の思惑から国際機関を巻き込んでまで旅行産業を第三世界に広め、その旅行産業の中に性産業が「経済的搾取」の構造で組み込まれてしまっていることに問題意識をおいているのです。
簡単に言ってしまえば富のある外国人が貧しい人の性をお金で買うという構造が「経済的、性的搾取」なのではないかと考えているのです。』

との事ですが、世界中の大半が社会主義や資本主義で動いている以上為替やモノの価値が変動するのは当たり前で国内でも貧富の差はあって当たり前、もし仮に、あなたが共産主義者なら、これ以上は読まずに消去してください。

 まず、為替の問題から考えてみましょう為替はどうして変動するのか?

 様々な状況を考慮して変動を続けています。これがもし世界中すべてのモノを統一された物価価値にしたら為替の変動は無くなるでしょう。当然そうなれば日本で働いてもフィリピンで働いても同じ仕事なら同じ給料になります。フィリピン人はわざわざ日本まで出稼ぎに行かなくても国内で働く事を選ぶでしょうし、日系企業も人件費や材料等の経費が同じなら海外生産する方が高くついてしまうので国内生産に切り替えるでしょう。世界中どこに行っても同じモノは同じ値段で買えて為替による恩恵も全くない、同じ内容の仕事ならどこの国で働いても同じ給料・・・この延長線が共産主義になると思います。あなたのおっしゃる、

『富のある外国人が貧しい人の性をお金で買う「経済的、性的搾取」』

こんな事はおきなくなります。でも、理想的発想の共産国はなくなりつつあります。競争や貧富の差のない世界では今後の発展が望めません。では、どうするべきか?たぶん良い答えは永遠に出ないでしょう・・・例えば、同じ通貨価値の2国間ならマクドナルドを買っても何をしてもレート換算すると自分の国とほとんど変わらない金額になるでしょう・・・でも、ある日突然、為替相場が変わったら?そうなれば国内では(輸入されるモノ以外)何も変わらない毎日なのに海外に出ると同じモノが高くなったり安くなったりしているわけです。『富のある外国人が貧しい人の・・・』は為替が変われば明日にだって日本とフィリピンの立場は変わるでしょうし、私だって日本の両親に仕送りができる事でしょう(笑)この為替を利用してあなたの考える問題はたぶん解決できないでしょう。

○売春行為等に対する規制
 次に法律や監視の強化でどこまで防げるか?フィリピンの法律では売春行為は不可です。ゴーゴーバーのお持ち帰りも同様で違法です。日本は合法的に『ソープランド』がありますが・・・それはさておき、違法行為の売春・・・特に未成年の買春は刑が厳しいです。それでもこれらのお店が無くならないのは、外貨が欲しいフィリピン人と強い通貨を持った外国人の利害関係が一致しているからでしょう・・・。単に需要と供給のバランスです。需要があれば法律で縛ってもどんなに監視しても供給されてしまうのです。日本の覚醒剤などが良い例でしょう。法も監視も厳しいのに無くならない・・・需要があるから供給されてしまう。

 この事からも、法律や取締の強化だけでは無くならない事はご理解頂けますでしょうか?

○Re:Re:日本国内の外国人性産業とビザ発給
 あと、日本で強制的に売春をさせられている外国人の問題ですが、この人たちも、『強い外貨が欲しい』という欲望があったと思います。いくらヤクザや悪徳業者が言葉巧みに誘っても、日本の通貨がフィリピンと同レベルなら誰もわざわざ日本に行って働きたいと思わないでしょう?本人も騙されたとはいえ、日本に行って楽して大金を掴みたいという邪な考えがあったからパスポートを取得したりvisaの申請をしたのと違いますか?どこかの国のように麻袋に日本人を詰め込んで問答無用でお持ち帰りするのとは訳が違います。『日本に行って楽して大金を掴みたい・・・』この考えを無くすには、為替の問題に戻ってしまうので、結果的にこの問題も解決不可能と思われます。そして、あなた曰く、

『現地の人が現地で性産業を楽しむことではなく旅行の「目的」として外国人が性産業を楽しみにくることを問題にしているので視点が違います。またフィリピンでは長女が家庭を背負う慣習があると伺っています。小林様が何とか生活できる収入を仮に得られたとして、家庭に仕送りをしたら自分の生活はやっていけるでしょうか?おそらく難しいでしょう。』

このすべては、為替で問題解決できるが、あなたが資本主義を認めているのなら貧富の差を含めて受け入れてあきらめる事です。どうしても貧富の差を受け入れられないなら、今日から共産主義を貫く事をお勧めします。現実できれば貧富の差のない理想郷ができるでしょう・・・ただ、今までの歴史上、発展や未来永劫の望みは薄いと思いますが。

○Re:Re:Re:宗教的背景についてとフィリピンの保険事情

『なぜ「生まない」ことを選択しなかったのでしょうか? またフィリピンでは大家族を多く見受けました。日本は核家族化、少子化が進んでいますが、なぜフィリピンでは大家族が多いのでしょうか?その1つの要因にキリスト教があるのではないかと現地に行って感じたのです。』

 この問題にもお答え致します。まず、宗教の問題は当たらずとも遠からず・・・です。フィリピン国家としてキリスト教は国の宗教です。日本の様に政教分離をしている国はほとんど無いのであしからず。キリスト教ではご存知のように堕胎を許していません。それが元で低料金の公立病院では堕胎ができないと聞きました、確認はしていないので、すべての公立病院が不可かは分かりません。結果、堕胎は料金の高い私立病院・・・それも、ある程度の設備が整った病院となると日本人から見ても高いです。宗教の問題で安い病院が使えない、だから「産まない」事を選択することができなかったという事ではないでしょうか?それと、おじいさんやおばあさんと同居している若い子は宗教的感覚か人道的感覚か判りかねますが、できた子供は産むように言われるそうです。

 蛇足ですが、保険の事も書いておきます。

 フィリピンには日本のように健康保険の制度が浸透していません。これは、日本なら以前は病院費用の9〜7割を保険で支払ってくれました。今でも8〜7?割は負担してくれます。それも、掛け金は所得に対して非常に安い上、自営業等の国民保険で無ければ半額は会社負担です。フィリピンでは所得に関係なく料金が決まります、SSS(フィリピンの健康保険)の料金表があり、その内容はいくつかランク分けされていて(数は忘れました)さらに、各ランクに毎月払いや3ヶ月分一括払い・6ヶ月分一括払い・1年分一括払いなどそれぞれに金額が書かれています。日本の生命保険に近い感覚です。入院のベッド代は1日○○○ペソ・・・などランクで金額は変わりますが掛け金に比べて支払われる金額が異常に少ない・・・これでは、加入者は増えない理由もうなずけます。

○フィリピン国内の職業におけるジェンダー

『フィリピンでは長女が家庭を背負う慣習があると伺っています。』
『男性の例を挙げていますが、フィリピン人女性は同等の給料を得ることができるのでしょうか?日本でさえ男女間の賃金格差が問題になっているところでフィリピンではどうでしょう?』

 この事にもつながるようにお答え致します。
 あなたの見た通り
『国内産業や企業が圧倒的に少ないことでした。周りを見渡せば、マクドナルドやケンタッキーやネスレなど多国籍企業ばかりでした。こうした多国籍企業が貧しい国へ進出する場合多くが「安い労働力」を求めているのではないでしょうか?』

 まさに、その通りで国内産業が圧倒的に少ない!大きな工場も少ない!外資系に至ってもキチッとした履歴で大学まで出てないとなかなか就職できない。働き口の少ない男はタクシードライバーやトライシクル(バイクのタクシー版)他には路上でピーナッツやタオルやおもちゃetc・・・色々なモノを売っています。それらはすべていわゆる自営業です。日本でも同じで、自営業は安定した収入ではありません。家族を養うには不安がつきまといます。その点、女性はマクドナルドやケンタッキーを含めデパートの売り子やレジ係大手企業(ここは男と同条件ですが)の受付から事務仕事まで安定収入を得ることができる場所が多いのです。あなたは「安い労働力」で外資系がフィリピン人を雇っていると思っているようですが、それは、あなたが日本人であなたの頭の中では常にペソが円にレート換算されて円で日本の相場と比べていませんか?そんな事すれば日本の相場と違うのは当たり前!少なくても私の知る限りのフィリピン人の方は大手外資に就職できるなら喜んで転職するでしょう。なぜなら、一般的に外資系の方が国内企業より平均して給料が良いし、安定もしている。あなたの考える「安い労働力」という方がよっぽど自己中心的な発想と受け止められます。少々話がずれましたが、上記のように若い女手の方が働き口と安定を求めると有利なので、家族内の年功序列で長女から順に家族の安定を支えてしまう。『長女が家庭を背負う慣習』があるようには私には見えませんが、結果的にそのようになってしまうのでしょうね。

 これが最後です、少々長くなってしまいましたが、今しばらくお付き合いください。誤解されている所がありましたので確認のため申し上げます。

『それはそれで素晴らしいと思います。しかし、それで問題を隠してしまうのはどうかと思います。アンへレスにも大きな学校はありましたし、元気活発な学生の姿を見受けました。他方で市場で物売りをしている子どももいました。この差は何だと思われますか?またアンへレス郊外にあるロータリークラブがかかわっている孤児院にも訪問しました。そこはストリートで生活している子どもたちを救済し、学習の機会を与え、社会復帰できる環境を用意していました。しかし、そこにいる子どもたちはほんの一握りのストリートチルドレンであり、また維持費がとても足りないこと、中には頭を山刀でかち割られた上に親に捨てられた子どももいました。セブは大きな都市であり、観光地としての魅力もあり、資金も豊富なことでしょう。しかし、一歩外に出てみれば貧しい街もあるのではないでしょうか?』

 上記の文に対して、まず一つ目に『しかし、それで問題を隠してしまうのは・・・』との事、私が言いたいのは『良いところ』を強調して、『悪いところ』を隠す・・・そんな事ではないのです。旅行代理店のパンフレットじゃないのですから、そんな事は望みません。大学のホームページに記載される文章として、中立であって欲しいのです。良いことも悪いこともバランスよく書いてくれれば良いのです。
冒頭にも書きましたが、あなたが全てでなくても、少なくとも半数以上の地域を見た結果でないのなら、その事を「私の見た○△と言う町では・・・」などフィリピンの一部として書いて欲しかったのです。あなたがワイドショーネタの記者でなく、「国際基督教大学ジェンダー研究センター」の卒業生として執筆したのなら尚のことと思うのは私だけでしょうか?

 あと、私の住んでいる田舎はセブではありません。

 これは、私の書き方が悪かったと思うのですが、ビサヤ地方の離島である事をイメージしてもらうため、「セブが肉眼で見える島に・・・」と書いたのです。私の住んでいる市は、フィリピン政府が公表している「各地の物価指数」の表がありましてレベル1〜5とスペシャルの6段階評価で下から2番目のレベル4の地区です。ちなみにスペシャルはマニラ市とケソン市だったと思いますが、2カ所しかありませんでした。

 私事ですが、去年までマニラに住んでいて、日本食材や家電に至るまで何不自由なく買い物ができたのですが、1つの不満が警官の腐敗でした。

 私は、よく交通違反で捕まりましたが、日本と同じように切符を切りサインをして後日、反則金を市役所に納めるのが普通ですが、マニラでは私を捕まえた警官で切符を切ったヤツは居ません!免許所を見て日本人と判れば本来の反則金の10〜20倍の金額を請求され、最初の頃はよく解らないまま支払いましたが、色々勉強するにつれ、交通違反のシステムや本当の反則金と知ったとき私の怒りは頂点に達しました。この時以来、警官の言い値で払うことは無くなりましたがそれでも、警官は手に持った切符帳をパンパンたたいて、「早く払わないと本当に切符切るぞ!」と凄んでいます・・・駄目押しのように、違反がかさむと講習会があって、その後、テストもあると言い出します。細かい交通ルールを知らない外人にとってテストは大問題・・・そう思い、相手の言い値で支払ったこともありますが、その警官に書く物を貸してくれと言ったら「今は持ってない」と答える始末。

 その点、今住んでいる田舎では、ほしい物が手に入らないことより驚いたのが、警官も真面目なんです。私の市には信号機は一個も無いですが、朝夕のラッシュ時には警官が混雑する各交差点で手信号・・・

 そして、私が駐禁をしたときもバイクの横で待ってました(笑)(日本と違って確実に犯人を捕まえるためらしいのですが)警官に言われるがままに免許を出したら、ちゃんと切符を切るじゃないですか! 免許にはしっかり「nationality」「Japan」と書いてあるのに! これも、市長の賜なのかどうか分かりませんが、少なくても一般的なフィリピンのイメージには当てはまらない町です。

 少々長くなりましたが、私の意見はご理解頂けましたでしょうか? 一見は百聞に・・・とは言いますが、その一見で、全てでは無いことと物事は見方や見る方角を変えると様々な形に変わる・・・今のあなたがフィリピン人なら「日本人の日当は私たちの月給と同額」って言うんでしょうね。それを聞いた日本人は「それは違う!物価も違うし・・・」と反論されるでしょう。これからは、反対の立場からも物事を考え、全てを知らないなら断言的な表現を避ける[べきではないでしょうか](ことでもう少し周りとの人間関係が良くなると思います)。

 吉成 様の今後のご発展を心よりご期待いたします。

 最近少々日本語離れしておりますので、誤字脱字や文法の間違いまであるとは思いますが、ご理解の程、お願いいたします。

 追伸、難民問題は専門外のためコメントは控えさせて頂きます。


第四通 吉成氏から小林氏

小林様

『私は前回の文章で冒頭に
少々、「事実と真実」を知らなすぎる偏った偏見をお持ちのようなので私の知るフィリピンを紹介したいと思います。問題の文章はタイの事も含まれていますが、私は、タイの事はしらないのでフィリピンの事だけお話し致します。
と書いておきましたが、それは、吉成 様の文章からはフィリピンの陰の部分・・・つまり、マイナスイメージしか伝わってこなかったからです。吉成 様の文章は大学のホームページ内に掲載されていました。一般的に政府や学術系からの情報なら中立の立場でプラス面もマイナス面も平等に公表されるべきと思っています。もし仮に、ボランティア募集や募金活動のホームページ内に掲載された記事なら私は何も言いません。ある目的の為に、ごく一部の事をクローズアップして世論に訴える・・・それなら普通の事と思いますが、今回は違います。紛れもなく学術系のホームページ内に記載された文章です。』
 今回は「卒業旅行で見てきたものを記事に書いてほしい」との依頼を受け、記事を執筆させていただきました。当初の文章は詳細な記述もあったのですが、当時のニュースレター編集担当者との打ち合わせの段階で原稿文字数の都合上大幅な割愛をさせていただきました。フィリピンに滞在して日本が失った人びとの温かさや大家族の絆などとても良い部分も実際に見聞し、日本に帰国後大変な逆カルチャーショックに悩まされました。日本に帰国したのがあいにくの金曜日だったので終電帰りで焦り、仕事漬けで自分のことで精一杯な日本人を認識したのをとても印象深く覚えています。
『吉成 様の文章に欠けているものは、読書に誤解を招かないようにする配慮だと思われます。せめて、文中に『私の立ち寄った○△□という町では・・・・』とか『他のお店は分からないが、今回話を聞いた○店舗では・・・』など読んだ人が「そういう場所もあるのか・・・」とか「フィリピンの一部ではそんな事が・・・」など、吉成 様の文章を読まれた方が、「フィリピンの性産業の100%ではないが、一部でそんな事実もあるのか・・・」と理解してもらえる文面にして欲しかったのです。』
 ICUジェンダー研究センターのHPの方を忙しいため確認できていないのですが、記事執筆段階で最終原稿と要約の方を提出しました。HPにどちらが掲載されているのかをまだ確認していないのですが、最終原稿ではフィリピンではアンヘレスという街に滞在し、バリバゴという地区にゴーゴーバーが集中しているとの記述をしました。また前回のメールでもお答えした通り、フィリピンを「悪」としているのではなく、このような経済構造を作りあげている日本を含めた先進国に問題意識を置いています。
『私の心配は、フィリピンというイメージが一般的にあまり良くない上に、日本のTVニュースや新聞記事にフィリピンに関する悪い事ばかりが表に出ている現状、さらにこの国のイメージが悪化しているように思えるのです。確かにフィリピンの政治や国内治安は、とてもほめられる様なものではありませんが、私もこの国に住んでいる以上やっぱり悪いイメージばかりでは肩身が狭いのです。あなたの見たフィリピンは悪い所ばかりだったですか? 何故、日本でもフィリピンでも未成年が売春をするのでしょうか? ルイ・ヴィトンやシャネルのバックが欲しいから? 最新の携帯が欲しいから? 日本ならそんなくだらない理由で体を売る未成年も多いでしょうがこの国は家族や身内のために仕方なくそんな仕事を始める子が多いと思います。どうしてあなたの文章にはそう言ったフォローが無いのか不思議に思います。』
 こちらも要約版では割愛してありますが、最終原稿の方では触れています。

 原稿提出後すぐに卒業し、記事担当者も同じく卒業したため、HPへの掲載記事に関しては全く関わっていないのと、HPへの掲載に関しては特に連絡も無く、確認をしていかったためもしかしたら大幅な差があるかもしれません。最終原稿もどこまで校正されたかは確認ができていないのが現状です。

○Re:Re:Re:国際経済における為替と物価

『そして、前回あなたから頂いたメールの中に
『先進国の思惑から国際機関を巻き込んでまで旅行産業を第三世界に広め、その旅行産業の中に性産業が「経済的搾取」の構造で組み込まれてしまっていることに問題意識をおいているのです。簡単に言ってしまえば富のある外国人が貧しい人の性をお金で買うという構造が「経済的、性的搾取」なのではないかと考えているのです。』

との事ですが、世界中の大半が社会主義や資本主義で動いている以上為替やモノの価値が変動するのは当たり前で国内でも貧富の差はあって当たり前、もし仮に、あなたが共産主義者なら、これ以上は読まずに消去してください。』

 確かに資本主義経済は「競争」ですから「勝ち」「負け」が出てくるのは仕方が無いことだと思います。しかしだからと言って「貧富の差があって当たり前」と言い切ってしまうのはどうかと思います。「貧富の差をいかにして縮めていくか」といことが重要なのではないでしょうか。世銀やIMFと言った国際機関は試行錯誤しながらも債務帳消し政策に取り組み、またUNDPはミレニアム開発目標を掲げ、何とか経済開発、人間開発を推し進めようとしています。もちろん勝ち組の先進国の思惑によって妨げられている部分もあるかと思います。しかし、そういった政治的思惑に捕らわれないNGOの活躍も大きな影響をもたらしていることと思います。日本でもフィリピンの貧困問題や教育問題で活動しているNGOがありますし、国際的なNGOも多分野で活動して成果を上げています。

『例えば、同じ通貨価値の2国間ならマクドナルドを買っても何をしてもレート換算すると自分の国とほとんど変わらない金額になるでしょう・・・でも、ある日突然、為替相場が変わったら?そうなれば国内では(輸入されるモノ以外)何も変わらない毎日なのに海外に出ると同じモノが高くなったり安くなったりしているわけです。『富のある外国人が貧しい人の・・・』は為替が変われば明日にだって日本とフィリピンの立場は変わるでしょうし、私だって日本の両親に仕送りができる事でしょう(笑)この為替を利用してあなたの考える問題はたぶん解決できないでしょう。』
 国際経済を考える上で為替レートの問題は避けられません。例えば日本対フィリピンの為替レートが大幅に逆転したとしましょう。その要因の一つは恐らくフィリピンの経済成長、フィリピンの経済基盤の強化(国内企業の躍進など)だと思われます。フィリピンが経済面で強くなったら、職の選択肢は増えるでしょうし、女性が就職先を検討する上でゴーゴーバーは影を薄めるかもしれません(決して無くなるとは思いません。日本でもお水の商売についている女性はいますし)女性がこのようにしてエンパワーされれば望まない外国人相手の風俗産業への就職は避けられるかと思います。もちろん本人が望んでゴーゴーバーなどで働く分には止めません。
『あなたは「安い労働力」で外資系がフィリピン人を雇っていると思っているようですが、それは、あなたが日本人であなたの頭の中では常にペソが円にレート換算されて円で日本の相場と比べていませんか?そんな事すれば日本の相場と違うのは当たり前!少なくても私の知る限りのフィリピン人の方は大手外資に就職できるなら喜んで転職するでしょう。なぜなら、一般的に外資系の方が国内企業より平均して給料が良いし、安定もしている。』
 個人的に企業のCSR(企業の社会的責任)問題や、フェアトレードについて関心を持っています。まず第一次産品に関しては経済発展のためにはフェアトレードが重要となってくると思いますが、多国籍企業の海外での雇用はCSRに大きく関わってくるかと思います。現地の為替レートを基準にして労働に見合った給料を提供しているのならばCSRの観点からすれば問題はないと思います。しかし、現地の物価を基準にしてその給料を考えるとどうでしょう?街には多くの外国製品(日本製電化製品を含め)が売られてました。その価格を決めるのも多国籍企業です。原価が同じならば関税などを考慮すると同じ製品でも日本とフィリピンではフィリピンで日本社の電化製品を買う方が幾分か高いことでしょう。ここではあえて同額として考えてみることにします。そうするとどうでしょうか?Aという5万円の製品を買うために日本の賃金とフィリピンの賃金ではどれだけ格差が生じるでしょうか?この例は小林様も認識されている通りフィリピンにおいて国内産業が少ないことを前提にして提示しています。フィリピンで電化製品を製造する企業があれば別に高い日本製品を買わなくても、質を問わない限り問題は無いと思います。

○Re:売春等に対する規制

『次に法律や監視の強化でどこまで防げるか?
フィリピンの法律では売春行為は不可です。ゴーゴーバーのお持ち帰りも同様で違法です。日本は合法的に『ソープランド』がありますが・・・それはさておき、違法行為の売春・・・特に未成年の買春は刑が厳しいです。それでもこれらのお店が無くならないのは、外貨が欲しいフィリピン人と強い通貨を持った外国人の利害関係が一致しているからでしょう・・・。単に需要と供給のバランスです。需要があれば法律で縛ってもどんなに監視しても供給されてしまうのです。日本の覚醒剤などが良い例でしょう。法も監視も厳しいのに無くならない・・・需要があるから供給されてしまう。この事からも、法律や取締の強化だけでは無くならない事はご理解頂けますでしょうか?』

 外国人相手の性産業と覚醒剤問題を比較する上で大きく異なるのは「司法管轄権」の問題だと思います。未成年相手の買春の罰則強化はいくらでも可能だと思いますし、日本でも形の上では国内での罰則強化の方向に向かっています。

 しかし、外国人相手の性産業の取り締まりを困難にさせているのは「司法管轄権」の問題です。自称医師「ドク」を名乗った丸山正義の事件をご存知でしょうか?当時ははまだ買春に関して国際司法が未熟でした。丸山容疑者はフィリピンで10人ほどの子どもをホテルに連れ込み、わいせつな行為をしたほかポルノ画像を製作していたと聞いています。(詳しい場所についてはわからないのですみません)彼はフィリピンで逮捕されましたが、日本人にとっては安い罰金を払うことであっさりと釈放され日本に帰国しました。もちろん日本で処罰することは管轄権上不可能でした。今はECPATなどの国際NGOの取り組みなどやインターポールやユニセフの取り組みによって多くの先進国で海外における買春に関してExtraterritorial jurisdictionを適用しています(卒論を英語で書いたため、日本語訳がわからないため英語で表記しておきます)。しかし、まだまだ厳しい罰則を持って処罰するのにはいくつもの壁があるそうです。カンボジアでの人身売買問題に取り組んでいる甲斐田万智子氏の講演会に先日足を運びましたがExtraterritorial jurisdictionの適用がされ始めたのはつい数年前のことだとおっしゃっていました。

○Re:Re:日本国内の外国人性産業とビザ発給

『あと、日本で強制的に売春をさせられている外国人の問題ですが、この人たちも、『強い外貨が欲しい』という欲望があったと思います。いくらヤクザや悪徳業者が言葉巧みに誘っても、日本の通貨がフィリピンと同レベルなら誰もわざわざ日本に行って働きたいと思わないでしょう?』

 そうだと思います。

『本人も騙されたとはいえ、日本に行って楽して大金を掴みたいという邪な考えがあったからパスポートを取得したりvisaの申請をしたのと違いますか?』
 フィリピンで(マニラかアンヘレスだったかの記憶は定かではないですが<写真を確認すれば分かりますが・・・>)international promotionという看板を目にしました。また今住んでいる首都圏の田舎町にもフィリピンパブがあります。それはさておき、何故「楽して大金をつかみたい」と思わなければならない状況にあるのでしょう?またそれは「邪な考え」なのでしょうか?彼女たちは大きな視点で捉えれば「被害者」なのだと思うのですが違いますか?日本にある女性の家センター「HELP」の代表者のお話を伺う機会がありましたが、本当に海外から来た外国人女性は傷つき、苦しんで、やっとの思いで「HELP」に駆け込むそうです(出身国はさまざまですが)またパスポートを取得したり、visaの申請をするのは果たして本人なのでしょうか?偽造パスポート問題やvisa取得の難しさなどを考えれば、出稼ぎにくる女性達が必ずしも高等教育を修了していないという現実からして、仲介するブローカーがパスポート申請(偽造パスポートの作成も含めて)やvisa申請を行っているのではないでしょうか?

○Re:Re宗教的背景とフィリピンの保険事情

『あと、『なぜ「生まない」ことを選択しなかったのでしょうか?またフィリピンでは大家族を多く見受けました。日本は核家族化、少子化が進んでいますが、なぜフィリピンでは大家族が多いのでしょうか?その1つの要因にキリスト教があるのではないかと現地に行って感じたのです。』

『この問題にもお答え致します。
まず、宗教の問題は当たらずとも遠からず・・・です。フィリピン国家としてキリスト教は国の宗教です。日本の様に政教分離をしている国はほとんど無いのであしからず。キリスト教ではご存知のように堕胎を許していません。それが元で低料金の公立病院では堕胎ができないと聞きました。確認はしていないので、すべての公立病院が不可かは分かりません。結果、堕胎は料金の高い私立病院・・・それも、ある程度の設備が整った病院となると日本人から見ても高いです。宗教の問題で安い病院が使えない、だから「産まない」事を選択することができなかったという事ではないでしょうか?それと、おじいさんやおばあさんと同居している若い子は宗教的感覚か人道的感覚か判りかねますが、できた子供は産むように言われるそうです。
 蛇足ですが、保険の事も書いておきます。
フィリピンには日本のように健康保険の制度が浸透していません。これは、日本なら以前は病院費用の9〜7割を保険で支払ってくれました。今でも8〜7?割は負担してくれます。それも、掛け金は所得に対して非常に安い上、自営業等の国民保険で無ければ半額は会社負担です。フィリピンでは所得に関係なく料金が決まります、SSS(フィリピンの健康保険)の料金表があり、その内容はいくつかランク分けされていて(数は忘れました)さらに、各ランクに毎月払いや3ヶ月分一括払い・6ヶ月分一括払い・1年分一括払いなどそれぞれに金額が書かれています。日本の生命保険に近い感覚です。入院のベッド代は1日○○○ペソ・・・などランクで金額は変わりますが掛け金に比べて支払われる金額が異常に少ない・・・これでは、加入者は増えない理由もうなずけます。』


 アンヘレスで病院(ONA-Ospital Ning Angeles)に訪問させていただき、アンヘレスに滞在している日本の方からフィリピンの保険制度について聞きました。死亡時の払い戻し金額が10万円だそうですね。これをフィリピンの人が高いとみるか安いとみるかは判断しかねますが。また、日本とは違い医療用品は病院が提供してくれるのではなく自己負担で買わなければならないと伺いました。日本でも出産や中絶に関する費用は保険が適用されないので高いです。フィリピンでは出産や中絶に保険は適用されるのでしょうか?もし日本と同じく適用外ならば保険制度の話は関係無くなりますし、適用されるならば保険制度も要因の一つとして考えなければなりませんね。

○Re:フィリピン国内の職業におけるジェンダー

『・・・男性の例を挙げていますが、フィリピン人女性は同等の給料を得ることができるのでしょうか?日本でさえ男女間の賃金格差が問題になっているところでフィリピンではどうでしょう?』

『この事にもつながるようにお答え致します。』

『国内産業や企業が圧倒的に少ないことでした。周りを見渡せば、マクドナルドやケンタッキーやネスレなど多国籍企業ばかりでした。こうした多国籍企業が貧しい国へ進出する場合多くが「安い労働力」を求めているのではないでしょうか?』

『まさに、その通りで国内産業が圧倒的に少ない!大きな工場も少ない!外資系に至ってもキチッとした履歴で大学まで出てないとなかなか就職できない。働き口の少ない男はタクシードライバーやトライシクル(バイクのタクシー版)他には路上でピーナッツやタオルやおもちゃetc・・・色々なモノを売っています。』


 トライシクルは一度だけ乗りましたがあまり乗り心地は良くなかったです。逆にバイヤット、パーラポーの声が飛び交うジプニーはとても便利だったので何度も乗りました。また市場で買い物もしましたが、学校に行けない子どもたちが物売りをしている光景を何度も見ました。

『それらはすべていわゆる自営業です。日本でも同じで、自営業は安定した収入ではありません。家族を養うには不安がつきまといます。』
 そうですね。特に第一次産品(農作物)を売って生計を立てている家庭は大変だと思いますし、これは日本の農家でも同じことでしょう。天候や風評によって値段などが大きく左右されますし。
『その点、女性はマクドナルドやケンタッキーを含めデパートの売り子やレジ係大手企業(ここは男と同条件ですが)の受付から事務仕事まで安定収入を得ることができる場所が多いのです。』
 マニラなどの都市ではNational Book StoreやRobinsonといった大型店舗が多くあり、その中では偽ブランド商品を売っている人もいれば、ケンタッキーやマクドナルドやMcBeeなどの外資系企業のレジ係をしている人もたくさんいました。アンヘレスでももちろん大型店舗はありましたがマニラの比ではありません。先進国の経済構造である第三次産業(サービス業)の突出はマニラでは見受けられましたが、アンヘレスではむしろ市場の盛況のほうが印象強く残っています。セブ島の様子は訪問していないので分かりませんが、マニラと並ぶ大都市なので似たような状況でしょう。マニラやセブで生まれ育った人は自然と安定収入の得られる外資系企業への就職も可能でしょう。しかし、他の貧困地区や山岳地帯(ゴーゴーダンサーの出身地の多くでもありますが)で生まれ育った人はまず家計が不安定→十分な教育が受けられない→職の選択肢が大都市に比べて少ない。こんな循環が起きているのではないでしょうか?
『これが最後です、少々長くなってしまいましたが、今しばらくお付き合いください。誤解されている所がありましたので確認のため申し上げます。』

『それはそれで素晴らしいと思います。しかし、それで問題を隠してしまうのはどうかと思います。アンへレスにも大きな学校はありましたし、元気活発な学生の姿を見受けました。他方で市場で物売りをしている子どももいました。この差は何だと思われますか?またアンへレス郊外にあるロータリークラブがかかわっている孤児院にも訪問しました。そこはストリートで生活している子どもたちを救済し、学習の機会を与え、社会復帰できる環境を用意していました。しかし、そこにいる子どもたちはほんの一握りのストリートチルドレンであり、また維持費がとても足りないこと、中には頭を山刀でかち割られた上に親に捨てられた子どももいました。セブは大きな都市であり、観光地としての魅力もあり、資金も豊富なことでしょう。しかし、一歩外に出てみれば貧しい街もあるのではないでしょうか?』

『上記の文に対して、まず一つ目に『しかし、それで問題を隠してしまうのは・・・』との事、私が言いたいのは『良いところ』を強調して、『悪いところ』を隠す・・・そんな事ではないのです。旅行代理店のパンフレットじゃないのですから、そんな事は望みません。大学のホームページに記載される文章として、中立であって欲しいのです。良いことも悪いこともバランスよく書いてくれれば良いのです。冒頭にも書きましたが、あなたが全てでなくても、少なくとも半数以上の地域を見た結果でないのなら、その事を「私の見た○△と言う町では・・・」などフィリピンの一部として書いて欲しかったのです。あなたがワイドショーネタの記者でなく、「国際基督教大学ジェンダー研究センター」の卒業生として執筆したのなら尚のことと思うのは私だけでしょうか?』


 前述したとおり最終原稿の段階では訪れた街についての記述を含めて書いてあります。その後の経緯に関しては関わる機会が無く、担当者も変わりましたので申し訳ないのですが回答することができません。
また誤解があるといけないので書いておきますが、私は「国際基督教大学ジェンダー研究センター」の卒業生ではなく、あくまでも「国際基督教大学」の卒業生です。なのでジェンダー研究センターの研究者だったわけではありません。ジェンダー問題に関心があり、事務バイトとして一学期間働かせていただいた関係でジェンダー研究センターと関わりを持ち記事の執筆依頼を受けたまでです。

『あと、私の住んでいる田舎はセブではありません。 これは、私の書き方が悪かったと思うのですが、ビサヤ地方の離島である事をイメージしてもらうため、「セブが肉眼で見える島に・・・」と書いたのです。私の住んでいる市は、フィリピン政府が公表している「各地の物価指数」の表がありましてレベル1〜5とスペシャルの6段階評価で下から2番目のレベル4の地区です。ちなみにスペシャルはマニラ市とケソン市だったと思いますが、』
 ビサヤだったのですか。それは失礼しました。ビサヤ出身のダンサーもいました。スペシャルがマニラとケソンというのは納得です。
『・・・一歩外に出てみれば貧しい街も・・・』と書かれていますが、レベル5の最低地区ではないので強くは言えませんが、それでも貧しい町に限りなく近く私の市から出ればすぐ隣はレベル5の地区です。 普通に考えてストリートチルドレンたちは、少しでも物乞いができる人口の多い所へ集まると思うのです。私の住む島なら、私の住んでいる市に集まっていると思うのですが、それら全ての子供を現市長の意向で施設に入れて教育を受けさせることができるなら同じレベル4以上の地区なら同じ事ができて当然と思いませんか? では何故、予算が足らないなどと言う市長が居るのか・・・ 私の想像ですが、この国の政治腐敗は世界有数です。それが、市長レベルにまで深く浸透しているのでは無いでしょうか? 例えば予算のほとんどを道路工事や箱物に費やし、その工事も親族の会社が入札無し(又は不正入札)で請け負う・・・そうなれば、その市内において市長の親族会社は大きくなり、市民も働き口が増える・・・次回の選挙でも前市長の親族会社で働く従業員は前市長に投票する。 たぶん、そんな悪循環が断ち切れないのでしょう・・・。』
 経済の専門家ではないので正確に回答をすることはできませんが、物価指数は経済指標の一部であったとしても果たしてそれが社会経済の全てを説明してくれるのかが少し引っかかります。会社の関係で睡眠時間が一日2〜3時間の生活をここ一週間送っていたので思考力が限界にあるので物価指数と経済の関係に関しての回答は今回は申し訳ありませんが割愛させていただきます。
『私事ですが、去年までマニラに住んでいて、日本食材や家電に至るまで何不自由なく買い物ができたのですが、1つの不満が警官の腐敗でした。 私は、よく交通違反で捕まりましたが、日本と同じように切符を切りサインをして後日、反則金を市役所に納めるのが普通ですが、マニラでは私を捕まえた警官で切符を切ったヤツは居ません!免許所を見て日本人と判れば本来の反則金の10〜20倍の金額を請求され、最初の頃はよく解らないまま支払いましたが、色々勉強するにつれ、交通違反のシステムや本当の反則金と知ったとき私の怒りは頂点に達しました。この時以来、警官の言い値で払うことは無くなりましたがそれでも、警官は手に持った切符帳をパンパンたたいて、「早く払わないと本当に切符切るぞ!」と凄んでいます・・・駄目押しのように、違反がかさむと講習会があって、その後、テストもあると言い出します。細かい交通ルールを知らない外人にとってテストは大問題・・・そう思い、相手の言い値で支払ったこともありますが、その警官に書く物を貸してくれと言ったら「今は持ってない」と答える始末。 その点、今住んでいる田舎では、ほしい物が手に入らないことより驚いたのが、警官も真面目なんです。私の市には信号機は一個も無いですが、朝夕のラッシュ時には警官が混雑する各交差点で手信号・・・ そして、私が駐禁をしたときもバイクの横で待ってました(笑)(日本と違って確実に犯人を捕まえるためらしいのですが)警官に言われるがままに免許を出したら、ちゃんと切符を切るじゃないですか!』
 警察官の汚職というか腐敗はアンヘレスでも伺いました。特に交通違反で「稼いでいる」警察官が多いそうです。この背景には警察官の給料が低いということがあるという文献を目にしましたが、その辺りの給与の差などは小林様の住んでいる地域とマニラ市や他の市などはどうなのでしょう。
『少々長くなりましたが、私の意見はご理解頂けましたでしょうか? 百聞は一見に・・・とは言いますが、その一見で、全てでは無いことと物事は見方や見る方角を変えると様々な形に変わる・・・今のあなたがフィリピン人なら「日本人の日当は私たちの月給と同額」って言うんでしょうね。それを聞いた日本人は「それは違う!物価も違うし・・・」と反論されるでしょう。これからは、反対の立場からも物事を考え、全てを知らないなら断言的な表現を避けることでもう少し周りとの人間関係が良くなると思います。』
 今回の記事依頼のテーマはあくまでも「タイ・フィリピンで見てきた性産業の様子」です。膨大な文字数が許される卒論とは違い、文字数の限られた記事でもありましたし、与えられたテーマに関して曖昧な知識しか持っていなかったら執筆依頼は受けていません。今回は現地で実際に見たことだけを書いたまでです。こうした一面を知っている人ならばもっと奥底まで書いてほしいと思われると思いますが、今回の記事に関しては担当者もここまで外国人相手の性産業が発達していることを知らなかったという驚きを持っていたため、「知らない人に知ってほしい」という前提で文字数も限られていましたのでエッセンスだけを絞って書きました。ちなみに文中にある卒業論文では120ページを割いて英語ですが、もっと幅広い視点で問題を捉えています。しかしながら現地訪問は卒業論文提出後でしたので机上の空論になっている部分もあるかと思います。そのために提出後に現地訪問をしたわけですが。
『追伸、難民問題は専門外のためコメントは控えさせて頂きます。』
 専門外であっても少しでも関心を持っていただけたら幸いです。

途中割愛してしまった部分もありますが、今の時点でお答えできるところだけを回答しました。


第五通 小林氏から編集部

国際基督教大学
ジェンダー研究センター
編集担当副手
平野遼 様

 皆様のお忙しいところ何度もお手数をお掛けして大変申し訳なく思っておりますが、この送信を最後にしたいと思います。

 吉成さんも『会社の関係で睡眠時間が一日2〜3時間の生活をここ一週間・・・』と言われていましたが、皆様の貴重なお時間を頂けたことそして何より、私の疑問に率直にお答え頂けたこと感謝の限りでございます。

 私もフィリピンに移住当時は「一日がなんて長い国なんだ!」「何でみんなこんなにのんびりしてるんだ!」って怒ってばかりでしたが今ではここのフィリピン人の方々と同じ感覚で24時間を過ごしております。

 『遠方への出張』や『睡眠時間が2〜3時間』などと聞いて、自分にもそんな時がありましたので、もし反対の立場なら?と考えたところ・・・きっと「こんな暇人の相手しておれん!」って言って本当に相手にしてなかったかもしません(笑)。

 それでも、皆様は誠意を持って対応して頂き、本当にありがとうございました。

 平野 様 最後にもう一つだけ私のわがままを聞いてください。

吉成 様へ
 「吉成 様の執筆された文章の大部分が割愛されていたことを知らずに、大変失礼な発言の数々をしたことお許しください。そして、お忙しい中、私、小林の為に割いて頂いたお時間、大変有り難く思います。
吉成 様の今後のご活躍を楽しみにしております。」

と、お伝えいただけますでしょうか?

 国際基督教大学と ジェンダー研究センターの皆様が今まで以上にご躍進されることを私の楽しみにして、見守っていきたいと思います。

 最後になりましたが、吉成 様の執筆された文章はフルネームで記載されていたと記憶しております。もし、必要と判断されるのであれば、私のフルネームを出すことも私は拒否致しません。

平野 様・吉成 様
 お忙しいとは思いますが、また機会がありましたら皆様からのお便りをお待ちしております。その時は、私もお返事を書かせて頂きます。


最後に:CGS編集部の見解

 編集部ではCGSオンラインに要約ではなく最終稿をのせていました。さて、今回の議論の大きなポイントはお二方それぞれが見ているフィリピンというものが若干異なっているという点です。小林さんはフィリピン在住ということもあって、生活者としてフィリピンを見ていらっしゃるのに対し、吉成さんは、フィリピンを世界的な構造の中の一部として捉え、そこで起きている性的、商業的、経済的搾取に焦点を当てて分析を展開されていました。言い換えるなら、小林さんはフィリピンの個別事象的な側面に焦点を当てて見ていらしたのに対し、吉成さんは構造的搾取という現象をフィリピンというフィールドを通し見ておられたものと思われます。そうしたお二人の立場の違いから、若干の齟齬が生まれたのではないでしょうか。

 しかし、その齟齬から始まった議論によって、大変多くのフィリピンに関する情報が引き出され、また多方面に議論が展開されたことにより、一段と問題に対する理解が深まったことは間違いありません。この場を借りてこの往復書簡を提供してくださったお二人とも、ありがとうございます。この場を借りて御礼申し上げます。

 CGSでは、記事に対するご指摘・ご批判を歓迎します。頂いたご意見は編集部を通して執筆者に伝え、責任を持ってお応えする所存です。ご意見ご感想お待ちしております。

月別 アーカイブ