2006, 夏: セクシュアルマイノリティイベント

ICU 大学院:加藤悠二【CGS NewsLetter 006掲載記事】

 2006年春に日本各地を縦断して行われた同性パートナーの法的保障を考える全国リレーシンポジウム「Rainbow Talk」に引き続き、夏も多くのセクシュアル・マイノリティの連帯を示すイベントが実施された。6月には愛知県で6回目となるHIV/AIDS啓発イベント・Nagoya Lesbian & Gay Revolution2006(NLGR2006)が、7月には第1回青森インターナショナルLGBTフィルムフェスティバルが開催されるなど、恒例となってきたイベントの他にも、新しいイベントも日本各地で興隆してきている。今回の記事では、私が参加した東京のイベントを中心に、2006年夏のセクシュアル・マイノリティイベントのレポートを記したい。

 7月上旬には、「アジアの映画の美しさ、世界の映画の美しさ」をテーマに、第15回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭が開催された。プレイベントと合わせて7日間におよんだ会期中には、セクシュアル・マイノリティ当事者に限らず、多くの映画ファンがウィメンズプラザホールとスパイラルホールの2会場を訪れていた。私は3つのプログラムを鑑賞したが、その中でも印象に残ったのは、「アジア女性クリエイター特集」で上映されたアニメ版「プリカちゃん」だ。「プリカちゃん」は天宮沙江によるレズビアンの日常を描いた4コマ漫画が原作で、掲載媒体を変えながらも10年間連載が続いている作品である。未だレズビアンが自分自身の声を表明できる場の少ない日本において、レズビアンの日常生活の機微を描き続けてきた「プリカちゃん」は、レズビアンを中心に多くのセクシュアル・マイノリティを楽しませ、また勇気づけてきた人気作品だ。今回の映画化に際しては、製作スタッフとして、あるいは映画内で紹介されたアンケートへの回答者として、あるいは制作費をカンパするサポーターとして、多くの「プリカちゃん」ファンが尽力したという。36分の短い作品でありながらも、10年間(以上)の「プリカちゃん」ファンの声が詰まったアニメ版「プリカちゃん」の上映に立ち会えたことは、私にとっても心温まる経験となった。
 7月下旬には、新宿の全労済ホール スペース・ゼロにおいて、Rainbow Arts 7th Exhibition 2006が開催された。Rainbow Artsは2000年に始まった、セクシュアル・マイノリティによるアート作品の展示会だ。6月には新宿二丁目のカフェ・CoCoLo cafeにおいてプレ展を開催し、7月にはRainbow Arts参加者が第2回関西Queer Film Festivalにチケットのイメージイラストを提供するなど、LGBTコミュニティにおけるアート展としてもその存在をアピールしている。本展では、過去最多の41名の作家が参加し、450名近くを集客した展示会となった。出展作品の多くは絵画・イラストレーションだが、油彩・水彩・デジタルペイントなど表現手法は多様であり、他にも写真作品や書の作品、立体作品では服飾作品や照明作品なども出展されており、Rainbow Artsの名に相応しく多彩な作家と作品が揃った展示会であったと言えるだろう。私は今回初めて作品出展者として参加したが、自分を表現する作品を多くの人々に見てもらうことができ、また、自分を表現する人々と多く知り合い、語り合う場を得られたこの展示会は、観覧者として参加してきたこれまでに比べてより楽しく、より刺激的なイベントとなった。
 そして8月には、東京レズビアン・ゲイパレード2006(TLGP2006)が開催された。2005年にTOKYO Prideを母体として3年振りの復活を果たしたTLGPだが、今年もTOKYO Prideから選出された実行委員と、多くのボランティアスタッフの手によって、2年連続の開催を迎える運びとなった。CGSでは春学期より学生スタッフが中心となり、パレードの歴史や意義を勉強する読書会を開催したり、寄付を募りTLGP2006公式パンフレットに広告を掲載するなどの準備を重ね、各々のプラカードを用意し、当日に臨んだ。TLGP2006に先立っては、セクシュアル・マイノリティ音楽団体が集うコンサート「TLGPへのプレリュード」や、お台場潮風公園でのバーベキュー、レズビアン・バイセクシュアル女性をはじめとしたセクシュアル・マイノリティのためのスペース「LOUD」における交流会など、多くのプレイベントも開催され、さながらこのパレードは、東京における夏のセクシュアル・マイノリティイベントの集大成のようであった。
 パレード当日の東京都心はあいにくの雨模様で、歩き始める1時間前には山手線が止まるほどの豪雨に見舞われ一時は開催が危ぶまれるほどだったが、幸いなことに奇跡的に雨は止み、2292名が隊列参加者として、また約1500名が沿道応援・イベント広場来場者として参加し、それぞれの想いを胸に、渋谷と原宿の大通りをパレードすることができた。実行委員であるパートナーがこの日の成功のために払ってきた努力を、その片鱗ながらも間近で見てきた私にとって、雨あがりの空は、パートナーと分かち合うことのできた大きな喜びとなった。また、CGSの仲間たちや、この春に学生間のリベレーションネットワークとして発足した、セクシュアルマイノリティーズ・インカレ・ネットワーク「Rainbow College」の仲間たちと、それぞれのメッセージを掲げながら共に歩けたことも、忘れ難い思い出となった。
 パレードの晩にはアフターパーティーに参加し、翌日の晩には新宿二丁目レインボー祭に赴き、ゲイ対象のエイズ啓発施設「akta」でのパネル展示会「性的マイノリティの30年とパレードの歴史」をみた。アフターパーティーで男装の芸人・G.O.Revolutionがパフォーマンスで言及していたように、あるいはパネル展示の資料が示していたように、パレードは多くの人々の想いや努力など、費やされてきたすべてのものの結実である。二丁目の夜空にあがる花火は、来年もまた私なりのやり方でパレードに関わっていきたいと、想いを新たにする夏の締めくくりとなった。
 このように、東京でも大きな盛り上がりを見せたセクシュアル・マイノリティイベントであったが、問題点も多く存在する。そのひとつには、一般メディアで表立って取り上げられないことが挙げられる。セクシュアル・マイノリティの可視化をその目的のひとつとしているこれらのイベントにとって、現行のメディアの体質は憂慮すべき、そして改善を求めて積極的に働きかけていくべき最重要事項だろう。ジャーナリストの北丸雄二氏はTLGP2006に対するメディアの無関心さを憂慮し、各メディアに対する連盟署名運動を8月に展開したが、そのような運動は今後も続けられていくべきではないだろうか。また、TLGP2006においては、警察の介入も大きな問題となった。従来のパレードでは、複数の隊列にそれぞれフロート(先導車となるトラック)がつき、フロート上でのパフォーマンスを中心に、パレードが進む形式がとられていた。しかしTLGP2006では、フロート上でのパフォーマンスは認められず、隊列とフロートが合流できないままに、隊列のみで出発するように命じられたケースも見られた。フロート上でのパフォーマンスに関しては、道路交通法に照らし合わせた規制であるという説明が成立するとはいえ、4月に都内で行われたサウンドデモでは逮捕者が出るなど、TLGPに限らず、デモ行進全体に対する締め付けが強まってきている現状は、注視していくべき問題点だろう。更に、セクシュアル・マイノリティのコミュニティ内部においても、ゲイの占める割合が多いことは、ひとつの課題だろう。ゲイの割合が多いことには、LGBT内におけるジェンダー格差やカミングアウトの困難さの違いなど、複数の要因が考えられるが、それらを乗り越え、より多くのセクシュアル・マイノリティが声を発せられるよう力を尽くす必要があると言えよう。数多くの楽しい思い出とともに、課題も多々見られた夏のセクシュアル・マイノリティイベントであったが、セクシュアル・マイノリティのコミュニティ内の、そしてセクシュアル・マイノリティと社会とのよりよい連帯を築いていく問題提起として捉え、今後に繋げていきたい。

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