「美しい国」のジェンダー

国際基督教大学教授:御巫由美子
【CGS News Letter007掲載】【ペーパー版と同一の文章を掲載】

 やれやれ。案の定教育基本法改正が国会で成立した。改正法には現行法にはない「公共の精神」や「国を愛する態度」などが織り込まれる。改正法は、戦前の教育勅語のように国家の教育への介入・支配を示唆しており、それ自体非常に憂慮されるべきことであるが、ここではジェンダーの視点から、安倍政権が、教育基本法改正その他の政策を通じてめざそうとする「美しい国」の本質に迫ってみたい。

 安倍内閣は、いろいろな意味で時代逆行的要素をはらんでいる。まずあからさまなのは、2001年発足の第一次小泉内閣が、史上最多の女性閣僚5人を含んでいたのは記憶に新しいが、安倍内閣の女性閣僚は2名のみである。しかもジェンダー問題に直接的に関係する少子化・男女共同参画大臣は沖縄・北方、イノベーション科学技術、食品安全担当大臣を兼務しており、この内閣でいかにジェンダーおよび女性関連政策が軽んじられているかがよくわかる。
 そしてさらにジェンダーにからむ問題として、少子化・男女共同参画大臣に任命された高市早苗氏と教育再生首相補佐官になった山谷えり子氏に注目しなくてはならない。なぜか。まず高市氏は、女性の社会進出にとっては非常に重要な問題である夫婦別姓には強硬に反対しており、また「従軍慰安婦」を含む植民地支配や侵略の過去をみとめる歴史教科書を「自虐史観」に基づく教育と批判的である。また山谷氏は「ジェンダーフリー教育が『過激な性教育を生んだ』」(朝日新聞2006年9月27日)と批判している。これらの主張は、事実を歪曲するものであるだけでなく、ジェンダーに基づく暴力や抑圧、差別を肯定、維持あるいは強化する考え方として強く憂慮されるべきである。
 さらに重要なのは、安倍政権の掲げる「保守」の内容である。安倍政権の主張する保守とは、教育基本法改正に見え隠れする復古主義的な欧州流保守と小泉政権から引き継いだ小さな政府というアメリカ流の保守の両面をもつ。このことをジェンダーの視点でみると二つのことが言える。すなわち、欧州流の保守という意味では、「男はそと、女はうち」という日本の「伝統」が強化される可能性を孕み、またアメリカ流の保守は小さな政府を意味するゆえ、女性を含む社会的弱者にとってはより住み難い社会になるということである。したがって安倍政権の誕生は、われわれジェンダーフリーの社会実現をめざすものにとって英語でいうところの“the worst of two worlds”を意味しているのだ。嗚呼。

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