「ジェンダーの視点から改憲を検証する」講演会報告

ICU学部:大坪修平【CGS NewsLetter 007関連記事】

【この記事はニューズレター007号に掲載された記事「ジェンダーの視点から改憲を検証する」(石田法子氏)に関連して執筆されたものです。ニューズレター007号には掲載されていませんが、こちらもあわせてご覧下さい。】

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  2006年9月23日、国際基督教大学に於いて、弁護士・石田法子氏による講演会「ジェンダーの視点から改憲を検証する」が行なわれた。改憲問題をジェンダーという視点から検証する例は勿論、そのような内容の話を学生が法の専門家から直接聞く機会というのは法学部の無い国際基督教大学に於いては非常に少ない。また、法学を学んだ事が無い学生や改憲を巡る議論に明るくない人々にも解りやすいように配布資料も充実しており、講演の随所には詳細な説明が加えられていた。法律問題に明るくないICUの学生にとって本講演は実に学ぶ所の多い講演だったといえる。

講演は自民党の新憲法草案と現行憲法とを比較する事で、改定された箇所にどのような意味があるか、また改定される事によってどのような問題が生じるか等を明らかにするものだった。その中でも石田氏は憲法九条と二十四条の二点に特に注目し、それらの改正の問題点を明示した。
 戦争放棄が明文されている九条に関しては、第二項の改正によって戦力の不保持が自衛軍の保持へと挿げ替えられている点が問題であると氏は主張した。1928年のパリ不戦条約が功を奏することなく第二次世界大戦が起こったように、九条一項を残しただけでは平和主義が維持されない。平和主義を維持していく上では戦力を放棄する事こそが重要なのである。
 一方、二十四条は新憲法草案では改正されていない。しかしながら、この二十四条を問題視し、改正を求める動きがあった事も確かである。石田氏はその二十四条の改正案が結果的に反故になるまでの過程に注目し、衆院憲法調査会報告に於ける二十四条批判等、性的役割分担を否定する思想に対する攻撃の存在を明らかにした。その攻撃の行われる理由として氏が考えたのが、軍事体制が求める効率的な総力戦を可能とする性別役割分業の必要性である。この事から二十四条を改正する事は日本の軍国主義化を草の根から促進する事に繋がる。家庭を基盤として戦う男性と銃後を護る女性の構造を強化させる事によって国民の精神状態を画一化する事が可能になり、戦争を実行しやすい社会状況を作りだす事が出来るのである。従って、九条と二十四条の改定は日本の再軍備を進める「車の両輪」であると石田氏は主張した。逆に言えば、その一方が欠けるだけで、平和主義の維持は困難となるのである。
 憲法改正が叫ばれる昨今、ジェンダーの視点からその動きを検証する試みは時宜を得たものだったと感じた。憲法改正とジェンダーが関連性を持っている事を私は本講演会まで知らなかったが、それらは密接に結びついているようだ。改憲によってジェンダーの価値観が草の根から変化していき、其の事から徐々に軍国主義化が促進されていくような事態は急激な変化を伴わないという点から注目されにくく、また意識もされにくい。従って、平和主義を維持するためは常に憲法改正の動きやジェンダーの価値観に注意しておかなければならないだろう。憲法を改正する動きにどのような意味が含まれていて、それがどのように我々の日常生活に影響してくるのか。常にその問いを抱き続けながら以降の改憲を巡る議論を追っていきたい。

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