まっとうに「働く」ために

ICU大学院:平野遼【CGS NewsLetter 007掲載】

 まっとうに「働く」ために、今我々は何を知っておかなければならないのか。2006 年 9 月 29 日、女性ユニオン東京の伊藤みどり氏、藤井豊味氏を迎え、CGS /就職相談グループ /COE 共催による講演、「後悔しない就職、しませんか?-正規社員と非正規社員の現状と課題-」が開かれた。本講演は主に、正規雇用と非正規雇用の労働環境の現実をそれぞれ解説しながら、そのなかでどのような権利を労働者として行使でき、主張可能なのかという点を伝えるものだった。就職活動を控えた学生にもわかりやすいように、パワーポイントを用いたクイズ形式をとるなど、工夫も凝らされていた。日本では現在、非正規雇用は現在派遣社員、パート・アルバイト・契約社員・派遣社員等様々な就業形態がある。とりわけ、2004年の労働者派遣法の改定に伴い派遣社員は増加し、認知度が高まっている。

 例えば2007年1月より女性の派遣社員を主人公に据え、正社員の働きぶりとの対比を面白おかしく見せる「ハケンの品格」というドラマが放映されたりもした。これら非正規雇用は労働力の流動性を高め、企業において正規雇用の人員に比べ、人件費の調整を行いやすいため、多くの企業で導入されている。その一方で、不安定な収入や技能向上が本人の努力次第であったりと、労働者自身への負担が大きい。このように正社員のみならず様々な雇用形態がある現代において働くためのルールを押さえておくことは、自分自身を守るためにも必要な知識である。本講演で挙げられた例として、正社員と同様の勤務状態にあれば、アルバイトでも有給休暇の取得が可能であったり(正確に言えば週に30時間以上の労働が定められている場合や勤務時間に対応した比例付与によって決められた日数が認められる)、アルバイトであっても解雇されたときに団体交渉に持ち込むことが可能であるという。これらの知識は複雑化した現代社会で働くための一種の作法といえるだろう。
 また、これから働き始める学生は、一体どのような「まっとうな」労働を思い描けばいいのだろうか。正社員で入社すれば夜も昼もないようなサービス残業をさせられた同級生の話を多く私も聞いてきた。その一方で派遣社員やパートを掛け持ちして生活している友人は現在も多い。 当日会場に集まった学生も既に昔のようなモーレツ社員といった会社への忠誠をつくすような働き方がもうできないことを知っている。景気は上向いているといわれ、求人倍率もバブル期並みに回復してきた昨今ではあるが、既に失われたかつての働き方に代わる新しい労働のイメージがうまく構築されているとは決して思えない。
 伊藤氏はこの問いに対して、「会社は定時に帰り、残りの時間を自分自身の自己実現の時間に使う」社員像を示された。モーレツ社員として働き、一生を会社に捧げる人生が事実上幻想である現在、日本の経済成長のためではなく、本人の幸せに向かってまっとうに「働く」ことが重要であるといえる。就職活動を通して自らの自己実現のために企業で働くというあり方に何よりも必要なのが、氏らが講演で繰り返したように、自らが労働者としてどのような権利を持っているかをきちんと把握しておくことであろう。

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