「慰安婦」問題に問われる「謝罪」

「女たちの戦争と平和資料館」館長:西野瑠美子
【CGS Newsletter008掲載記事】【ペーパー版と同一の文章を掲載】

アメリカ下院に「慰安婦」決議(H.Res121)が提出されて以来、安倍首相は「河野談話は継承する」といいつつも、旧日本軍の強制を否定する発言を繰り返した。その発言が、被害国はもとよりアメリカの大手メディアを含めて国際社会から批判を浴びると一転、安倍首相は訪米中にブッシュ大統領に対して「謝罪」し、ブッシュ大統領は「謝罪を受け入れる」と応じたという。「慰安婦」被害者でもないブッシュ大統領に謝罪し、ブッシュ大統領が「受け入れる」というこの奇妙なやり取りは、一体、何だろうか。被害者疎外の「謝罪」が、何を解決するというのだろうか。

アメリカ下院に出された「慰安婦」決議は、日本政府に以下の4点を求めている。●日本政府は、1930年代から第二次大戦継続中のアジアと太平洋諸島の植民支配および戦時占領の期間において、世界に「慰安婦」として知られるようになった、若い女性たちに対し日本軍が性奴隷制を強制したことについて、明確かつ曖昧でない形で歴史的責任を正式に認め、謝罪し、受け入れるべきである。●日本政府は、この公式謝罪が日本国総理大臣により、総理大臣としての公的声明を発表する形で行なわれるようにすべきである。●日本政府は、日本軍のための「慰安婦」の性奴隷化と人身取引はなかったとするいかなる主張に対しても、明確かつ公的に反駁すべきである。●日本政府は、現在および未来の世代に対しこの恐るべき犯罪について教育し、「慰安婦」に関わる国際社会の数々の勧告に従うべきである。
この決議のポイントは、「明確で曖昧でない謝罪」である。日本政府は「これまで何度も謝罪してきた」と、アメリカ議会へのロビングを続けてきたが、そもそも日本政府の「謝罪」が被害者に「謝罪」として受け入れられてこなかったことが問題なのだ。謝罪とは何か? その問いは、「慰安婦」問題を巡る和解は、いかにして可能なのかを突きつけている。
謝罪とは、リドレスの重要な要素である。リドレスとは、単に金銭補償を意味するものではない。戦時下、そして戦後の長い間、この問題を放置し、責任に背を向け続けてきたことにより増大させた苦痛、いわば、「人間の苦しみ」に対して向き合うべき責任、誤りを認めた上でそれを正すための補償が、リドレスの意味するものだ。2000年、東京で開かれた女性国際戦犯法廷に参加したフィリピンの「慰安婦」被害女性マキシマ・レガラさんは、「正義はいつも私たちをおいてきぼりにした」と語られたが、謝罪とは、正義が正しく機能しなかったことに対する内省でなければならない。この内省は、日本社会そのものが向き合うべき未来への責任である。

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