国際基督教大学教授/IWS2007コーディネーター:御巫由美子
【CGS Newsletter 008掲載記事】【ペーパー版と同一の文章を掲載】
CGSは、「アジアにおける人間の安全保障とジェンダー」というテーマで2004年秋から3回にわたり国際ワークショップを開催してきたが、今回はその総括としてのワークショップを6月22日、23日の2日間にわたり行った。その目的は副題にあるようにこれまでのまとめと、CGSを拠点としたアジアにおけるジェンダー研究・教育活動の今後の方向性を探ることであった。参加者として、海外からは総勢8名、国内からは計3名を招聘した。第1日目には、招聘した参加者それぞれに、あらかじめ各自が参加した過去のワークショップに提出された論文を再読してもらい、それぞれの領域において「アジア」、「ジェンダー」、「人間の安全保障」という視点で何がいえるのかを3つのセッション(社会科学、人文科学、自然科学)にわけて報告してもらった。2日目は、午前のセッションは「アジアにおけるコロニアリズムとジェンダー」について、午後は参加者から討議したいテーマを募りそれにそって自由に議論をするという形式をとった。
今回のワークショップを通じ多くの問題点が提案され議論されたが、とくに記しておきたい論点としては、2日目の午前および午後を通じて議論された「心の中のコロニアリズム」(Colonialism of the mind)という視点である。この視点をめぐる議論では、コロニアリズムの視点でもってアジアとジェンダーをかたるとき、人間の内面にまでおよぶ―およそ狭義の「植民地」という言葉では語れない―力の作用の問題が浮き彫りにされた。この視点に関する参加者全員による熱のこもった議論は、このテーマがいかにアジアにおけるジェンダーを語る上で中心的なテーマであるかを明らかにしたといえよう。さらに重要な視点としては「身体の美」の議論を通じて問題視された(美の定義、再定義といったプロセスにおける)力の存在があげられる。誰がどこで、どのように力を行使しているのか?力の存在と行使の過程は、まさにコロニアリズムの過程そのものであり、その内容解明は今後とも深く追求すべき重要な課題のひとつであろう。
この他今回のワークショップを通じて多くの重要な問題が提起され議論された。ここにすべてを列記できないのが残念だが、その中で今後の課題として重要だと思う以下3点を記しておきたい。まず第一に、これまでのワークショップで何度も提示された点として、宗教を視点に加えることの重要性である。宗教については今回も参加者が何度か触れているにもかかわらず十分に議論することができなかった。第二は、ワークショップ2日目に顕在化した点として、英語という欧米の言葉をつかってアジアのジェンダーを語ることから派生する問題が挙げられる。アジアをアジアの視点で語るとき、英語という欧米のフィルターを一旦通過させなくてはならないコミュニケーションの孕む問題点について、今後ひきつづき批判的な検討が必要である。
最後に重要な点としては、前回のワークショップのあと加藤恵津子所員が「『アジア』というくくり」を問題視しているが(『ジェンダー&セクシュアリティ』2006年2号、96ページ)、今回も多くの参加者がアジアを意識し「アジアにおける」ジェンダーを議論することの意味について思いをめぐらせている。この点についても今回十分に議論できなかったことが非常に残念である。CGSが今後ともアジアを中心としてジェンダーを考える場である限り、これからもこの点について議論を重ねていきたいと思う。