ACW2代表、伊藤みどり氏へのインタビュー

Interviewer Izumi NIKI(left) and Ms.Midori ITO(right)インタヴュイー:伊藤みどり(ACW2)
記者:二木泉(ICU大学院)

【CGS Newsletter 008掲載記事】【全文】

 2007年1月20日、「働く女性の全国センター(ACW2 = Action Center for Working Women)」が発足した。これは個人で加入することができる、女性労働者のための初の全国支援組織である。今、女性限定の組織を立ち上げる意味は何だろう。世の中になんとなく漂う“あきらめ”感を私自身が抱えたまま、呼び掛け人代表の伊藤みどりさんを訪ねた。

インタビュー日時 2007年5月21日(月)

二木
 本日はよろしくお願いいたします。

伊藤 
 この資料をどうぞ。これは1月の(働く女性の全国センター(以下センター))結成大会のときに作ったものです。

二木
 ありがとうございます。1月に発足されて今、何名加入されているのですか。

伊藤
 ちょうど集計をしていたのですが、364人です。まだまだ。3年で1万人を目指しているので(笑)、まだまだ全然、知れ渡っていないです。

二木
 働く女性の全国センターと、女性ユニオン東京(など他のユニオン)との違いについて教えてください。

伊藤
 女性ユニオンというのは、労働組合だから、もちろん労働問題、セクハラだとか解雇事件とか、色々な労働問題抱えた人たちが単に相談に来るだけじゃなくて、会社勤め続けるということが困難になったケースで、会社と交渉して直接問題を解決するということを目的にやっているので、公の話し合い、つまり団体交渉というのですけれども、労働組合法という法律があって、団体交渉権を行使して問題を解決するというのがユニオン。

(働く女性の労働)センターというのは、もともと田中(かず子)さん(国際基督教大学ジェンダー研究センター所長)ともずっと話しをしていて、最初の最初に田中さんと私と2人でもいいから作ろうかっていう話になったのですけれども(笑)。働いている人というのは、今、日本の労働力人口というのは、6700万人くらいで、その半分くらい2700万人くらいは女性です。

 そのうちの半数、-最近は半数以上となってしまったのですが-、非正規雇用という状況で、その人たちが、じゃあ労働組合が組織されているかといったら、一番大きいのは連合というところなんですが-、全部あわせても18%くらいにしかならない。それは労働組合の組織率っていうのは、日本は戦後がピークで、58%くらいだったのかな。それがずっと下がり続けているのですよ。じゃあ、その18%の組織率の中の女性といったらもっと低いです。

 ではなんで、そういう風な状況になっちゃったのかということ。日本は労働組合というのは、最初女性たちから始まったの。それは、知っているか分からないけれども「野麦峠」といって、諏訪の製糸工場に岐阜の峠を越えて来た本当にまだ未成年の少女たちが、12時間労働させられて、それで肺炎になったり結核になったり、当時はセクハラっていう言葉もなかったですけれども、管理職の人たちに性暴力を受けて妊娠してしまったりとか、そのようなことで、本当に命が削られていくという中で、日本で最初に雨宮製糸工場というところで、自然発生的なストライキで、仕事をしない行動によって自分たちを守るというのがありました。

 それが、日本の労働組合の発祥だったのです。ずっと日本がまだ今のように、海外に生産現場を移してしまう以前は、日本でも本当に学歴のない女性たちを、工場での主要な労働力としてやってきた時代があったのです。それが、段々労働組合というのが働いている人のものから遠ざかっていったという実感があります。女性ユニオンはすごく一生懸命やって、今でもすごく人が溢れています。

 よく言われることですけれども、「女は貧乏だ」、「なぜ貧乏か。組織されないから貧乏だ」という言葉があるのですが、要するに女性は、どうしても結婚して、妊娠して、出産するなどということを抱えていて、そのことで、立場が男性と比べると劣るということ自体がおかしいのだけれども、事実上、会社の中では、女性たちがきちんとした価値として認められないという中で、労働組合も男性中心になってしまった。女たちの妊娠、出産に関わる相談だとか、あるいはセクシュアルハラスメントの相談だとか、賃金格差だとか、非正規雇用の問題だとかを、労働組合は一生懸命やっているかというと、そういうことはやらない、と。女は夫に養ってもらえばいいのだから、そんな男並みに働く必要はないし、賃金も男に養ってもらえばいいのだから、男の半分でいいのだっていう、事態がほとんどです。女性たちからみれば労働組合は無縁だった。それで、私はそもそも95年に女性ユニオンを立ち上げたのですけれども、それでも私たちはお金のない組織で一生懸命やっている、どっかからお金が出ればもっとすごいことを出来るのにと思うのですけれども、そのような貧乏組織の中で、毎日日々、相談と交渉に追われているっていう事態があります。

 全国センターをなぜ作ったかというと、女性たちが孤立しているわけじゃないですか。一つの職場に正社員だったり、派遣だったり、パートだったりして、以前だったらほとんど正社員。でも、今は雇用形態がバラバラなので、ひどい話、大手(の会社)なんかだと派遣社員がいても、派遣される元が全部違う会社だったりして、すごくコミュニケーションをとりづらくなってしまっている。しかも、例えば正社員がいて、パートがいて、派遣がいてという状況になっているわけですから、ひどいことに、ユニオンなんかでもあった例ですが、大手の損保なんかでは派遣社員が管理職だったりするわけです。別会社から派遣されてきている人が管理職で、その人から命令されたりして、だからすごく人間関係がギクシャクして、みんなで自分たちの職場をよくしていこうとか、ざっくばらんにやっていこうというのが不可能になってきている。じゃあ、労働組合がそれをきちんと受け止めて、よく話を聞いてまとめていけばいいのだけれども、そういう組合が少なくなっている。それで私たちは、働く女性の全国センターというのは、働いている一人ひとりの女性たちと、ユニオンを結びつける、ちょうど中間地帯に、接着剤のような役割を果たしたいということで作ったのね。

 というのは、女性ユニオンに来る人たちというのは、今は、ホームページやインターネットが普及してきたので、情報を検索して、女性ユニオンにたどり着く人たちがほとんどなのですけれども、それでも、今大学でも高校でも労働組合法とか労働基準法というのを教えなくなっちゃったのですね。だから、ユニオンというところにたどり着かない。

 会社に勤めていて、すごくおかしいなと思っていはいるのだけれども、それが当り前、仕方ないことだと思っている。私も驚いたことなんですけれども、新卒で働いている人が、8時間労働制というのを知らなかった。労働時間というのは、会社が終わるまで働かなくちゃいけないものだと思っていたとか、お休みというのは、会社の人に許可を得ないといけないものだと思っていたとか、有給休暇とか8時間労働制とかいう、最低限の人間らしい生活をする基準という法律があることすら知らないということがありました。

 労働組合にたどり着く前に、労働基準監督署とか国の機関に行く人がほとんどなんです。そういうところというのは、相談をいっぱい受けてくれるのだけれども、問題解決してくれる訳ではないんです。ほとんど役には立たないのですね。そういう中で、ちゃんと情報がいきわたらない。労働法の情報だけではなくて、相談する窓口がどこにあるかとか、その機関ではどのようなことが役にたつのか、とか。普通だとすぐ解雇されたっていうと、すぐに弁護士頼んで、裁判やらなくちゃいけないのだろうか、とかになって、労働組合、ということにはならない。でも、裁判に費用がいくらかかるのかとか、裁判に何年かかるのかとか、そういう情報が一人で調べていくというプロセス自体がとっても大変なことで。

 ユニオンに来る人っていうのは、大抵、あちこち相談所をたらいまわしにされて、ボロボロな状態でたどり着くみたいな(笑)感じで、たどり着いたときには、かなり手遅れ、という状態です。もっと簡単に、問題がこじれないで解決できたのに、その情報がないがために、色々なところをたらいまわしにされて、問題が余計こじれちゃったというのがあって。だから、その「旗」となるために立てました。ICUのジェンダー研究センターのあの、虹の旗が貼り付けてあって、あれを見て来るみたいな、シンボルが欲しいというのが一つ。

 そして、今若者のフリーターとか、ニートとかが社会問題になってきていますが、戦うどころじゃないというか、生活するのが精一杯、自分が生きていくことを続けるのが精一杯で、戦う時間があったら、仕事して金稼げよっていう人もまた増えてきている。その人たちというのは、本当に孤立していて、友達もいなかったり、術もなかったり、かなり絶望的というか、そのような人たちが元気になるという意味でのセンターにしたいというのがあります。

 これはまだ1月20日に立ち上げたばかりなので、そこまで事業が行っていないのですが。とりあえず、5月にホットラインという電話相談を実施しました。206件相談が来ました。これも、すさまじい相談で、電話を置けばかかるという状況で、ずっと電話を取り続けて、1日じゃとてもとりきれないくらいかかりっぱなしでした(笑)。その次の日からは「後ほどおかけ直しください」っていうのにして。本当は6時からなんだけど、その前に電話してきて「6時からいつ電話してもかからない」って言われるくらいすごい状況でした。

 アクセスする場所がないっていう。フリーダイヤルで宣伝して、九州から沖縄、北海道まで、全国全部入っていたわけです。NHKの朝の番組などで紹介されたこともあって、かなり電話がありました。やっぱり本当にどこに相談に行ったらいいか分からなかった。電話がつながって、話を聞いてもらえるだけで嬉しかったっていう声もあった。

Ms.Midori ITO(今後のセンターでの活動について)
 やっぱり今、会社が競争原理で、これは日本だけの現象じゃないのですけれども、24時間働きますよっていう競争社会になってきて、本当に働いている人たちが疲弊して、自信をなくしていて、自分がなんだか悪い人間じゃないか、能力がないといわれているような(感じになってくる)。そうなるとますます自信がなくなってくる。だから、今年1年は、ホットラインを年3回くらいやる予定なんですけれども、将来的には常設電話にしようと思っているのですけれどもー今は、組織しながらやっているのでねー、すごく大きな目標があります。

 もう一つは、本当に貧困で、生活が成り立たないという状況の中で元気をなくした人が元気を取り戻すための教育活動をしたいというのが、この全国センターを立ち上げる段階からありました。ICUで田中かず子さんが中心でやっていたのです。アン・ウォルシュさんっていうアメリカの人で、研究でICUに5年、6年くらい来ている人がいたのですけれども、田中さんと、ウエイン州立大学のハイジ・ゴッフリートさんという3月くらいまでお茶の水女子大で客員教員できていた教授が呼びかけて教育ワークショップを行いました。アメリカの大学にレイバーセンターというのが7箇所くらいあるのですよ。それはアメリカの公民権運動が発祥で、黒人たちが白人たちのバスに乗ってはいけないという時代に、全米を黒人と白人が同じバスに乗るっていうキャンペーンをして、その中でやっぱりアメリカってすごく他民族だから、コミュニケーション、言語が違うわけだから言葉も通じないっていうそういう状況の中で、コミュニケーション教育っていうのが本当に重要だった。コミュニケーションとか、リーダーシップだとか。そしてそういうことだけではなくて、自らの状況とどのように戦っていくのかとか、そういう状況とか。ものすごい膨大な教材があって、それを日本でやってみないかということで、ICUで3回くらいやったんですよ。ICUだけではなく、全国でICUの他に7回くらいやって、それがこの母体になったのです。田中さんたちと呼びかけて、アメリカからファシリテーターを呼んで、働く人たちの教材作りというのをやって、それがこのセンターに生かされています。今年も10月に京都でやることになっていますけれども、それはすごく効果的で、ユニオンにも実際その教育、コミュニケーショントレーニングという教材を使ってやっているのです。本当に病気とか、会社にひどい目にあって、うつ病になってしまった人たちがだんだん元気になる。元気になると活動に参加してくるっていう。やっぱりこれはすごく効果的だな、と。これは実はお隣の韓国にも、女性労組があって、そこでもすごく活発にやられている。香港や台湾、マレーシア、フィリピンでも活発で、アジアではフィリピンが、その教育教材というのが進んでいるというのが最近わかってきました。フィリピンも、やっぱり他民族なので、すごいのです。なんと気づいたら日本が一番遅れていたのです。

 フィリピンは本当にすごくて、みなさんも国際会議などで行くことがあれば、フィリピンなんか調査をしてみれば議論の仕方に驚愕するというか、ものすごく活発だし違う意見もきちんとコンセンサスを作っていくというか、一人の意見も捨てない。どの意見も尊重して、重ね合わせていくというやり方が、あります。すごくユーモアたっぷりで。そのようなファシリテーターのリーダーがいっぱい育っています。

 じゃあなんで日本は遅れたんだろうな、と考えると、日本は経済大国だったし、あんまり働くことで、一億総中流といわれた時代もあったし、格差というのが明確に見えてきたのはここ2,3年なんですね。だから、それまでは高度成長だとバブル時代だと、就職も困らない状況が崩れてきました。今年ちょっと団塊の世代がやめるので、新卒の就職率が良くなった、今年は10年ぶりくらいに求人がよくなったという状況なのだけれども。でもやっぱり、貧困は代わらないし、広がっていると私は思っていて、アジアと、日本もアジアなんだけれども、国際化の中で、企業は超えていった訳ですけれども、労働者の労働条件のあり方っていうのが、国を超えちゃったというのがある。

 韓国だったら、前は「ああ、まだ途上国だな」と思うことがあって、汚い路地裏があって、やっぱり日本が進んでいるかなと思うことがあったのだけれども、でも最近は、韓国行かれたかもしれないけれど、全然日本と、ほとんど変わらないでしょ。東アジアはほとんどもう変わらないという状況がある。そこは本当に富めるものと、貧しいものの貧富の格差があって、ある意味じゃアメリカ型っていうかそういう状況がある。アメリカのデトロイトもひどかったのですよ。2003年に行ったんですけれども、GM の工場がガラガラで、ザーっとシャッター通り。窓が割れているような家があるけれど、そこにも人が住んでいるですね。そういうゴーストタウンみたいなところがあって、でもちょっといったら高級住宅街がある。そこに行ったときは大学構内じゃないと安全じゃないということで、構内のホテルに泊まったんだけれども、コンビニエンスストアでも、レジが防弾ガラスで覆われている。地元の人も絶対一人じゃ歩いちゃいけないというそういうすごく治安の悪い状況があったんだけど、やっぱり日本でもそれが始まっているなと、思うわけ。

 ちょっと話がそれましたけど、アジアでの格差というのが、アジアだけじゃなくて世界で共通になってきているんだけれども、とりわけ東アジアでは共通になってきてる。かつてはアジアの人たちは、日本に学んでいたというところがあったわけです。ところが、今、逆に日本以外の方が進んでいて、そこから学ぶというか、教材も本当に優れているし、カラフルで素晴らしい印刷物がいっぱい作られているし、なんで日本がこんなに遅れてしまったんだろうというくらいです。運動する場というか、浮かれているうちに、どんどん競争が促進されて、環境も破壊されてきたし、気づいた時には、かなりおかしくなってきたという状況で。でも、それに今気づいたわけだから、少なくとも、田中さんと話していたのは、とにかく二人でもいいから、シンボルを挙げる。そしたら絶対に人はいるよっていう。まだ人は360人くらいだからなんとも言えないけれども、時事通信とか共同通信が配信してくれて、地方新聞にも載ったのですけれども、ホットラインをやってまた知ったという人もいて。東京とか都市圏はだいぶ知れ渡っているのですけれども、またまだ全然、新聞でも見たこともないという人もいるので、そのような意味ではまだまだこれからだと思っています。

二木
 ホットラインの内容はどのようなものがあったのですか。

伊藤
 今ちょうどまとめているのですが、全部で206件の相談がきました。そのうち正社員が72人、非正規雇用が114人、その他が4人、未回答が15人です。やっぱりホットラインの相談も非正規雇用の人からが増えていて、その中でも短時間パートで短時間だけ働いている人が36人、フルタイムという非正規雇用だけれども労働時間が8時間という人が29人、契約社員が16人という内訳です。特徴的だったのは、解雇の相談が11件くらいでした。普通だと解雇の相談が一番多いのです。でも今年は10年振りに就職率が回復したっていうことで、そこは少なかったです。すごく特徴的だったのは、相談の中身で分析してみたのですけれども、労働条件とか給料とか、労働時間の不利益変更という相談が、正社員が7%に対して、非正規雇用が18%で、正社員より非正規雇用の方が多かったのです。労働時間に関する相談というのが、正社員が9%、非正規雇用が13%だったので、労働時間の相談に対しても非正規雇用が多いということでした。だから、通常は、労働時間とか労働条件の不利益変更などは、正社員の方が多いのではないかと思うのです。もともと、非正規雇用は労働時間は短いはずだし、労働条件は不利益はずなんだからと、思うけれども、いずれも非正規の方が多かったです。

 あとは、いじめの相談は、若干、非正規雇用の方が多かったです。正規雇用23%に対して、非正規雇用は28%でした。だからいじめと、不利益変更が多かったですね。

 不利益変更の相談の中では、週5日のパートタイム、短時間パートだった人が週2日にしてくださいといわれて、生活できないとか。昼間だけの勤務で18時までには終わる仕事だったのに、20時に時間変更されて、それが嫌ならやめてくださいとか。あとは、時給が下げられたとか。さらに細切れにされているという実態があります。そういう相談がすごく多かったです。

 勤続年数なんかも聞いているのですけれども、非正規も正規も1年以上5年未満という層が一番多かったです。1年以上、5年未満というのが、非正規雇用が38%で、正社員が33%でした。働く期間、長さは非正規でも10年以上という人も19人いるから、非正規だから短いというわけではないのです。

 女性の労働が正社員の当り前の状況から、ホットラインの結果をみても非正規雇用が114人で、正規雇用が74人という明らかに非正規雇用が上回っています。ホットラインの結果と全体の結果がどうかという問題はありますが、ホットラインを行なうとその結果は、大体社会状況とクロスするんです。例えば病気の相談の割合と過労死の割合が、大体合っているとか。世間の縮図といっていいのではないかと思います。

二木
 さきほど「あきらめ」という話がでましたが、非正規雇用だから仕方ない、正社員は残業はしょうがないという、どの層にも「あきらめ」を感じることがあるのですけれども。

 正社員で若い世代には、終電が当り前という状況の人もいますね。

伊藤
 そうなんです。モラルハザードというか、この数年間は本当におかしい状況です。今、パート労働法というのが、国会で審議されていて、今週、参議院で通過しちゃいそうなんだけれども、パート労働の正社員との均衡処遇の基準として、職務が同じ、責任の度合いも同じ、それから移動の配転の範囲も同じで、これは契約期間の定めがないのと一緒ですが、この3つのハードルを越えた人だけ均衡処遇と言っています。国会審議前の厚生労働省の審議会の中で、「労働時間の長短」ということも言っていたのです。もちろん異動の範囲もおかしいのだけれども、これって正社員って均衡の処遇といっても、正社員でも配転のないひともいる、まれだけど残業のない人もいる。

 本当に、今は、残業と配転ありっていうのが正社員の基準にされている。以前、私が働いていたころなんていうのは、9時―5時が正社員の基準だった。8時間労働が基準であって、残業はイレギュラー、よっぽど会社が決算期とかで繁忙期で忙しいときだけ。それが普通だった。だから、今の正社員というのは、おそらく10年以上前の3人分の仕事を一人でこなしているのが今の正社員。だから、正社員はお金はパートよりは高いのだけれども、その代わり自由な時間はない。ところが、もっとひどくなっているのは、パートで自由があるかといったら、そこにも不利益があって、そこにも生活できなくて、ダブルジョブになる人がいる。

 つい最近の新聞に出ていましたが、杉並区の出版社で働く短時間パートの女性、4時間労働の人が過労自殺してしまった。これは、自殺で労働災害として認定されたんですけれども、それはどういうことだったかというと、4時間じゃ生活できないから、もう一つ他の出版社に勤めていたのです。でも、この複合労働では体が持たないから、もう仕事をやめたいと思ったんだけれども、社長が「辞めないでくれ」と。「契約期間が残っているのだから、損害賠償にかけるぞ」というようなことまで言われたらしいのですね。社長に脅しをかけられて、その翌日に自殺してしまったというのですね。

 前は、過労自殺というのは男性社員だったのです。ところが、女性の過労自殺が出てきた。ついにアルバイトの過労自殺が出てきてしまった。なんという世の中だと思いますね。本当に、最近の企業のモラルのなさというか。心理学かなにかの実験で、人がお芝居で、刑務所の看守役と囚人役をやっていると、看守役が暴力的になってくるという実験というのと一緒で、企業という社会で、経済がグローバル化して、何でもOK,全てを自由化しようと規制を解いています。

 これは、この前弁護士さんに教えてもらった付け焼刃なんですけれども、昔は市民契約法というのは何でも自由だった。すべて自由で取引をしましょう、と。一部の人が儲けて、人をこき使って搾り取るみたいな状況で、弊害が出てきたんですね。だから、なんでも自由な市民契約法から、少し制約する社会法、社会保障システムだとか、8時間労働だとか、そのような労働市場に制約を課す、有給休暇は与えなければいけないんですよ、とか、労働時間はここまでですよ、とか人を雇う側に制約を課して、その上で競争しなさい、というのがずっと戦後の日本の憲法のもとにつくられてきた労働法だったわけです。

 でも、最近では、労働法を変えようという動きが国会であって、先ほどのパート法もそうなんですけれども、労働契約法の改正というのは、今度の国会では、どうも選挙があるので引っ込めそうなんだけれども、アメリカとか既にやっていることはあって、それは全ての労働規制を解いて企業のやりたい放題で、自由競争。今やられている市場化テストは、民間ができるのもは民間がやろうということで、老人ホームでも福祉関係でも株式会社がやるようになってきたんですね。株式会社がやるとどういうことになるかというと、「より安く、より早く」になる。そうすると、人間という存在が忘れ去られていくわけです。

 だから、短時間アルバイトの人を脅して、脅して自殺させちゃった社長というのは、4時間アルバイトなのに、アルバイトに責任を負わせるのなんてそもそもおかしいわけですけど、それに責任を負わせて、4時間でよく働くアルバイト社員を安くて、より責任を重くというふうに使ったほうが、他社と競争を考えれば、絶対に勝つわけです。そういうことが今起きているわけです。ものすごいモラルハザードですよ。それがつい最近、御手洗さんというキヤノンの会長の人、あの人が経済界のドンなんですよ。彼の会社は、偽装派遣をやっていて、ものすごく儲けていて、グローバル企業になっている。そういう人が、経団連というところの長になっていて、内閣府の経済財政諮問会議の中心メンバーになっている。まあ、ICUの八代さんもそこに入ってるわけだけれども(笑)。八代さんは昔、民法改正などで女性の味方のようなこともあったのです。それが、急に、経済財政諮問会議で、私は机上の論理だと思うのだけれども、本当に八代さんに普通のOLと同じような仕事をして働いてみろって言いたくなっちゃう。大学で、教鞭とっているどころじゃないって。机上の論理ってあそこまで進むのかと思ったんですけれども、ああいう人たちが、内閣府っていう権力に行ってしまっている。その後、オリックスの会長も経済財政諮問会議に入ってるけれども、自分の会社で過労自殺まででているのですよ。そういうことを例外的にしか見ていない。自殺率が増えているし、女性の過労自殺なんかも厚生労働省が認めざるをえないくらいになっているのに、目をつぶっている事態というのは、とどめがないくらい、今の環境破壊のような、CO2制限しろっていっても「出来ません」っていってしまう国みたいな、まだ言っているほうが正直だというか、努力したいんだけどっていう。本当に恐ろしい世の中で、人間がどこかでモノが言えるという状況も崩壊してきているし。通常だったら、こんなに地球環境が破壊されて、このままだと人類が滅亡しちゃうから、「夜はお休みしましょ」ってなんで言えないだろって。こんな簡単なことが、大人の社会で決まらないっていう。だから、ものすごく利益重視っていうか、墓穴なんだよね。

 私は今、本当に大げさじゃなくて、人類の滅亡か、改革かという文字通りそういう時代になってきたなということをヒシヒシと感じているのです。そういう中で人間もおかしくなってきている。中学生のうつ病が20%だっけ。なんなのっていう。昔だったら、あなたたちの時代は受験戦争になってきてしまったかもしれないけれども、私の時代は子どもなんて全然勉強しない。遊んでいるという。小学生くらい遊ばせてあげよう、ってそんな時代じゃなくなってきてしまって。それで本当に効率が上がっているんだろうかって。どう考えたっておかしい。

 つい最近、外国人研修制度を厚生労働省がようやく見直すっていうことだったけれども、最近Made in Japan が増えてきたけれども、あれは全部日本国内のアジアから来た中国人なんかの研修生が、時給200円とかで、研修生名目でやっていたということ。縫製を教えてあげるとか。それが最近になって摘発されてきた。

 中国から日本に渡ってくるのも、パスポート取り上げられて、家の土地を売って日本にきて、日本で稼いで帰ろうってきたのに、時給200円で、帰りの旅費さえ稼げない。そういう中国の人たちが逃げてきて、昔の女工哀史と一緒なのよ。そういうことがまた起きている。底辺は移住労働者、そこから障がい者があり、女がありっていう。こういうことが実際に起きているのに、見ようとしない、それをやっているのは日本と中国の官僚どもが結託しあってるんだから。そういう企業って儲かることだったら、中国であろうと、日本であろうと、どんな主義をとっている国であろうと全部共通っていうひどい事態だと思うんですよ。

 だから、そこのところを私は……。もしかしたら「働く女性の全国センター」っていうのは手遅れかもしれないくらいに思っているのだけれども、やっぱり諦めてはいけないという、Women’s Power というか、こういう時代だから声を挙げていくというのが必要だと思う。

 昨日NHKで、佐多稲子さんという、もう亡くなってしまった婦人民主クラブ、「ふぇみん」という機関誌を作っているところの創設者の方なんだけれども、「今の人たちはものが言える時代に育って、ものが言えない時代に育った私はすごく、今の人たちが幸せであると思う」という件が、90何年の撮影の映像があったのですよ。でも、今の世の中から急速におかしくなっていると思って、企業の中でも物が言えない、学校でも先生がものが言えない時代になってきている。本当に言論の自由が危ないという状況で、だから、もう後悔したくないという思いなのです。とても人間って弱いから、自分の生活がかかってくると、生活を取るわけですよ。生活をとるというところで、モノを言わないということがどんどん利用されていくっていう状況です。その状況を、馬鹿にするなよっていうか、働いている人たちが支えているのに、なんで評価しないのって。だってそうでしょ。ほとんどトップの人たちは豪遊して、支配しているじゃない。それで実際に働いている人たちは、パートの人たちが担っているわけじゃない。だからそういう意味ではやり直さなくちゃいけない。

 アメリカなんかでは、ちょっと揺り戻しっていうか。ブッシュ政権に対する批判勢力が強くなってきていて、労働組合のNew Voiceっていうグループができて白人のネクタイしている人が率いる労働組合から、現場で働いている労働者自身が担う労働組合に変革が始まっている。それが本当の労働組合だと思うし、日本の労働組合はアメリカ的になってきてて。みなさんもメーデーとかに行ってみればわかるけれども「なにこれ」っていう。ホワイトカラーのなんだろう、この緊張感のなさっていう。

二木
 組合の幹部は管理職予備軍みたいなものですからね。

伊藤
 そう。組合が特権階級みたいな、組合に入れない人たちが膨大にいるのに、そこのところは目をつぶっているという。それがたった18%の人たちに、あたかも自分たちが多数であるかのような勘違いをしているっていう。そこを、1つ1つの女性ユニオンだと弱いから、女性ユニオン東京っていうのは、230人くらいしかいないの。それが限界なわけ、だからその一つ一つが小さいんだけど、それがつながれるように、と。今は組織がつながるのではなくて、個人がつながる、思いをつなげて。組織はあとからついてくる、と私は思っているので、まずはそういう思いの個人がつながろうっていうので、センターを立ち上げたというのがあります。

二木
 センターの運営というのは。

伊藤
 今、北海道、仙台、東京、名古屋、京都、大阪、九州から代表がきて、15人が運営委員という形をとっていて、後は若者のグループのPOSSEというG-POSSEというところの人が関わっています。女性ユニオンと、NGOと若い女性のグループです。

 モデルはアメリカの9to5という、全米労働者協会という女性の組織、それが20万人くらいの組織です。

 それと、韓国のKWWAUっていって、韓国女性労働者会協議会というのがあります。それらの組織がモデルです。韓国の女性労組は、センターと女性労組を持っていて、センターがホットラインなどをやって、女性労組が実際の問題解決をしている、両方がうまく分担して女性労組が5年間で400人の組織が6000人まで広がったの。韓国の女性労組は、日本の私たちの女性労組から学んで作っていったという歴史があって、だけど追い越されてしまったの。それは、全国組織という強いバックボーンがもともとあって、それで支えたということ。日本の場合は、全国組織がないところから全国組織を作ったので、逆になってしまった。

 今このセンターができたお陰で、名古屋にも女性ユニオンが出来たのですね。今、結構苦労しているみたいですけれども。そういう形で徐々に広げていきたいなと思っています。

二木
 ホットラインは、何人くらいで取ったのですか。

伊藤
 ホットラインは、全国10箇所で、全国の女性ユニオンと働く女性の問題をテーマにした女性団体で取りました。何人でとったかというのは、わからないのだけど、10箇所で取りました。50人以上の人で取りました。

二木
 ニューズレターを見る人で、これから就職する人も多いと思うのですが、何かメッセージをお願いします。

伊藤
 就職する人で、以前と比べて働くことというはすごく厳しい状況になっているのだけれども、会社というのは、人間性というのをある意味で、変に否定していくというか、必ずしもやりたい仕事と、自分の生活というのを両立することが困難になってきてる。一番ベストなのは、仕事も好きな仕事について、なおかつ生活も安定してというのが一番いいのだけれども、好きな仕事についたものの、労働時間が長すぎて後は寝るだけだとか、そういった矛盾に必ず突き当たると思うのですよ。その時に、これから就職活動して、就職する人たちこそが、自分たちの労働条件は人に頼むのではなく、自ら守って行かなくてはダメだと。そのために、ユニオンがあるし、センターがあるし、アクセスする場所というかを持っているだけで違うと思うのです。この間若者のメーデーにも行ったのだけど、すごく面白くて。それは、本当に貧困というか、マック難民とか、ネットカフェ難民だとかいう言葉になっちゃうくらいの人たちが多いのですけれども、それなりに自分たちの生存をかけてつながろうとしている、というか、家に引きこもっているのじゃなくて、私はそこにすごく期待しています。若い人はパワーがあるし、エネルギーがあるし、失敗してもやり直せるというか。会社って、囚われの身になると、「会社、クビになったらどうしよう」とか。会社クビになったって、就職するチャンスはあるわけですよ。だけど、それくらいマインドコントロールって強いので、会社と自分を一体化しないことっていうか、会社とうまく適当な距離をもって。理想としてよく言うのは、8時間労働で、「8時間は自分のために、8時間は地域のために、8時間は睡眠で」。仕事も生活も余暇も、楽しめるという、バランスよく生きていくというその事が大事。そのことを忘れちゃうと、企業人間になって、ワーカホリックになって、過労自殺になって、という状況が多発してしまうので。真面目な人間は、人のためにとか、会社のためにとか、その前に自分のために生きられないと、人のために生きられないよということを心に留めて置いて欲しいとおもいます。結構、真面目な人というのが会社人間になってしまう人が多いのですよ。それくらい、甘くはないけれども、就職する人に不安になることばかり言ってもダメなんだけれども。そこに抵抗しながら、今の大人達というのが作ってきた、団塊の世代は今年、卒業しますから。でもその人達が、シニアで何かやりそうなんだけれども・・・。団塊の世代が作ってきた世の中というのは本当に良かったと思えない。だから若者たちがこれから作っていく社会というのは、そこに抵抗しないと。やっぱりおじさんたちっていうのは、競争に巻き込まれたというのがあるの。最初は、学生時代には学生運動世代で、世の中革命だとか言っていたくせに、どんどん丸め込まれて、おかしくなっていったというか。あれは一体何なんだ、という状況だった。そういう意味では、今の若い人たちの方が、そういう大人の失敗というかをみて、全部学んでるわけですから、そこはとにかくなんかしゃかりきに仕事して、自分を犠牲にするのは流行らない。これはダサイという人もいるんだけれども、なにか生き甲斐を持つということが、会社とか仕事だけではない、ということ、そういう生き方を追求して欲しいなと。

 この前、マスコミの中のフリーの人で面白い人がいたのだけれども、「新聞記者なんか三流だ」という人がいたの。なぜならば、そのような大手の新聞記者なんかになれる人は、よっぽど自分が猫かぶりで、自分を抑えていない限りはあんな記者なんてやってられないはずだっていうの。本当にラジカルなものを書き続けようと思えば、貧乏にならざるを得ないという風に、自己肯定していたの。それって若いからやってられるというのはあるのですよ。一生貧乏生活というのは、きついものがあるからね。だから、だけど、そういう初心というのを持ち続けてほしいな、と。そういう人が増えれば、こんな狂った世の中、こんなに環境破壊があるのに、そんなこと言ったって、平気で自然破壊していくみたいな企業は生まれてこないと思うの。企業が本当は人間に、人間の生活を豊かにするためにある生産活動だったものが、逆に人間に復讐しているような感じがある。少し一部の企業でCSRとか、今のほとんどのCSRって形だけの、企業イメージだけでやってるものなんだけど、文字通り社会貢献を問い直そうという企業家も出てきているわけだから、そういうところをもう少し若い人たちが発想して欲しいというか。

 でも、会社に入ると、とたんにおじさん・おばさんになってしまうというか、すぐ染まるのよ(笑)。結構抵抗していくというのは、大変なのよ。でも、抵抗していくのがかっこいいという風になればいいな、と思っているのね。

 だから、抵抗している人たちがださくてかっこ悪いという風になってきているのが問題なので、もう少し、若い人たちが自分たち流の運動が始まっているのが、私は感動するというか、団塊の世代というのは、20年くらい同じスタイルで同じことをやってきたというのが多いので、本当に飽きもせず、同じことをやってきた、同じスタイルで運動してきて一般人からかけ離れていて気づかないという。それって現場から離れた運動をやってきたと思うのね。20代がそれを捉えてやってほしいな、と思います。

 変な話、30後半40代くらいのバブリー世代が本当に弱いよ。ちょっと嫌な事があると、へナーって。今20代の方が、親を見て育っているというか、今年はそうでもないけれど、就職も結構厳しかったりもしているので、もっと世の中ちゃんと見ているというか、大人っぽいなと思います。40代の方が子どもっぽくて逆転してると感じる。その時代、時代の育ち方がある。40代っていうのは、何でも手に入った時代で、ものすごくバブリーで、何でも食べられたし、一番ある意味では豊過ぎるという時代だった。だから、この人たちが今、逆にすごく大変です。うたれ弱くて、すぐフニャーってなっちゃう。その分、20代の方が期待できるなという感じがしています。あんまり人間、豊かになると良くない(笑)。何でも金で手に入ったりという。そこそこ、というのが必要です。自分の力と勘違いするというか。

二木
「働く女性の全国センター」と「女性」が名称についていますが。

伊藤
 それも、田中さんにも色々言われたんだけど。一応、性自認は女性ということで決めようと言って始めたのね。これは何でかというと、田中さんにジェンダーセンターでベルフックスやってるよという話を聞いたんだけれども、将来的に、もう今、性差とかジェンダーとか、SEXとか、二者択一の男女とかの区分けはできなくて、グラデーションになっているということが、だんだんと分かってきたわけでしょ。分かってきたんだけれども、ゲイ・レズビアンの世界でも女が差別されているという状況がある。性同一性障害のグループでも女になった方が差別されるわけ。女が男になったら給料上がるのね(笑)。変な話、本当なのよ。でも男が女になった場合には、「なんで君は、男らしくて良かったのに、女なんかになるの」って言われて、給料が下がるわけ。これは、性同一性障害のグループが働いている人たちの統計を見せてもらったら見事にそうなの。カミングアウトできるのも男なの。なぜなら、手術代とかを溜めて、女になりきって出てくるの。それっていうのは、やっぱり経済的に安定していないとできない。だから、結構高給取りの技術者だったり、公務員だったりするわけです。だから、社会的に作られた男女という中で、差別はあるわけです。それは、今の賃金体系でもそうだし、男と女の賃金体系が無くなったと言われているけれども、女性性という枠に押し込まれた人に対する差別は歴然とある。それは性同一性障害であろうが、なんであろうがあるという現状の中で、女自身が、自分は、例えば交渉力に欠けているとか、自分の自己尊重感が全くない。昨日も、男ばっかりで女が6人しかいない労働組合の幹部の教育ワークショップをやって欲しいと頼まれて行ったのです。そうしたら、女の組合の人たちは、「女性のプラスはなんですか」という質問に「母性愛」って答えた女ばっかりがいたの。そうなの。そう言う世界があるの。そう、気持ち悪いけど。女自身が女を好きになれないの。女が女を好きになれないの。なぜならば劣った性であると思っているから。だから私は、女性性が劣っているというよりは、むしろなんか最近元気なグループがあると思って見てみると、女が元気なグループだったり、女が元気だとグループも元気だっていう、ICUのジェンダーセンターもそうなんだけれども。女の人が活躍できないところっていうのは、なんか変、と。だけど、世の中の女達は自分の性をおとしめているわけ。生まれ変わるなら、女と男とどっちだって言ったら、「やっぱり男ですよね」という女がいかに多いか。その女達のエンパワーメントを図るためには、一つのコーカスが必要だ、と。これは別に男と連帯しないと言っているわけじゃないの。貧しい若者と障害者と移住労働者は連帯できるわけ(笑)。そこの女達が自分たちの本当に持っている力、自分たちはもっと誇ってもいいんだよっていう力を取り戻すという風に思っていて、男女で組むとどうしても美味しいところは男性が取っていってしまったりするわけ。どうしても男の方が発言力が強かったり社会的なところで慣れているから。会社なんていくとそうなんですよ。重要な会議は男しか呼ばれない、みたいな。そういう企業が多いから、そこで挫折する人が多いのだけれども、男にはいっぱいチャンスが与えられる。だから、私たちは逆で、affirmative actionで女にチャンスを与えるということ。だから、男の人のエンパワーメントは男の人たちでやっていく。男の性を問うというグループもあるのだけれども、そこはなかなか上手く成功してないと思うのですが。男の人を変えるのは、男にやって欲しいと思っている。今、ジェンダーバッシングがひどいっていうところで、大体世の中がおかしくなるときには、女性差別といつも時期が重なるのね。アフガニスタンの話をよくこういう時には例えにするんだけど、アフガニスタンの女性達は30年前はミニスカートをはいていたというの。今はブブカで覆っているけれども、それっていうのは、あの紛争地帯の中で、女は肌を表すなってなって、前身をクローズしちゃうっていうのは、あっという間じゃない。

 私の書いているブログなんて、変な右翼の男がいっぱい書き込みをして、「女性団体撲滅」とかいうのが来たり。そういう中で、私はそういう危険な状況の中というか、敢えて言わなくちゃいけないということで言っている中で、最近ようやく、貧しい若者たちのグループと移住労働者のグループが声をかけてくれるようになってきた。同じレベルになってきたということ。だから、今まで対立しているようにみえた男女の関係や、移住労働者、対日本人という対立関係が、もしかしたら手を結べる分かり合える関係、という状況に、この格差社会でなってきたのかなという、希望的に言えばね。

 だから、この「働く女性の全国センター」と言ったときに、「何で女性の悩みなんですか」「なぜ人の悩み」ではないんですか、という声がある。それはいいんですよ。今度のホットラインでも男の相談も、何件かあったのです。「男でも相談してもいいですか」というので「もちろんいいですよ」って話を聞くと、すごく大変。非正規雇用で派遣だったり、娘の相談だったりした。以前は、「女」ってついただけで、セクハラ電話や嫌がらせがガーと来たりしていたの。本当に。今回は、偶然かもしれないけれど、全くなかった。だから、それくらい男の人たちの中でも格差が生まれてきて、まだ男女の格差ほどひどくはないと思うのだけれども、共通理解というか、女のホットラインだけど、「男でもいいですか」って私は、そこにすごく可能性を感じるわけ。「男らしい男」だったら、女に相談するなんてしないの。だから、女に相談する男っていうのも一つのホットラインの特徴として、現れたかなと思っています。

 女性ユニオンも最近、性同一性障害だという人や、色々な人が電話をかけてきて、入りたい、と言ってくるのですね。そういうので言えば、これだけ長時間労働の中で、男として生きていくのが辛い、いやだという人もいます。「おまえは男なんだから、女より長く働け」「子育てなんてやるな」って言われるのが辛いという状況も出てきています。だから、やっぱり私たちのようなところが、もっと発信して、長時間労働というのが男らしいというのじゃないのですよ、と伝えて行かなくてはいけない。そんなのどうだっていいんだよ、だから男じゃなくなるなんて全然ないんだよっていうことをもっと伝えて行かなくてはいけないと思うのです。

 だから、これはある意味、「差別なんてないよ」っていう人たちへのメッセージということ。今は、男女平等なんだから、女性の差別なんて古いよっていう人に対するメッセージ。そりゃまあ、公平平等っていうのは基本だから。

 学生の世界はまだ平等だと思う。会社に一歩入ると全然違うのね(笑)。本当にそうなの。私は田舎の方で、まだそういう男尊女卑が残ってるんだけど、社会ってこれが近代的世の中かっておもうくらい連綿と続いている。そこを女の力で変えるしかないって思うんですよね。

二木
 一部の労働は、女性化していて、女性によって担われているというのがすごく顕著になってきています。

伊藤
 そうですね。逆に、経営側からすると、女性化するということは、貧困の女性化でもあるの。だから、女がトラックの運転手にって言っても、給料は上げないんだから。男と同じ給料にまで上げるなら分かるけれども、女性の給料に下げる。今、パートの戦力化とか基幹化や、女性の戦力化っていうのは、安い力を長時間こき使おうということ。あれも「戦力化」とか「基幹化」とかよく言ってくれたよなという感じ。戦力化するなら、もっと給料上げろって(笑)。だから、そのつい最近の杉並区のアルバイト女性の過労自殺というのは、まさに女を戦力化して、こき使ってる氷山の一角だと思うよ。今度の私の後任として、ユニオンのスタッフになった人は、某新聞社の編集出版の派遣社員だったの。彼女をユニオンの私の後釜にっていうことで、会社を辞めようということになったんだけど、辞めるときに、今だったら彼女は辞めますっていったのに、1ヶ月以上辞められなかったの。ものすごく脅されて。それこそ、損害賠償をするとかいうことだけではなくて、あなたと同じスキルを持った人を連れてこいとか言われた。雑誌が出なくなったら、おまえの責任で損害賠償するぞ、とか。決してその時にも、「正社員にしてあげる」とは言わなかった。確かに彼女は2冊くらい雑誌を担当していて、抜けたら発行日が遅れるかもしれないというのがあったかもしれない。でも、そんなの責任者は派遣じゃないんだから、会社がもってよっていう。それを「同じスキルの人間を連れてこい」なんて。

 私たちは、「明日から会社行くな」ってマインドコントロールの罠から手を引っ張って(笑)。会社を辞めさせたの。その後、社会保険の手続きで離職表が来ないとか、すごく苦労したのですよ。会社側は、辞めさせたくないのに、勝手に辞めたっていうことで、嫌がらせみたいに雇用保険の手続きなどちゃんとやってくれなかったりとか。だから、杉並の事件っていうのは氷山の一角だと思うよ。

鈴木
 人間は弱いから生活の方を取るという風は話が出ていましたが、生活をそこそこ取りながら環境を改善するというなかで、人と人とのつながりと組織というのが、具体的にはどういう風に作用していけばいいと思いますか。

伊藤
 今、本当に核家族だし、地域のコミュニティーっていうのがほとんど崩壊しています。大学だったらサークルがあるかもしれないけれども、会社の中でも「群れる」ということをシャットアウトしちゃってて、今本当に、隣の人に何かいうのも、上からの指揮命令も全部メールできてっていう、会社の人ともコミュニケーションをしないというひどい状態になっていて、ある意味、センターとか労働組合というのは、コミュニティをつくり直すという。人はやっぱり、日本の政党政治とか民主主義がとっても成熟していないので、多くの人は組織嫌い。組織なんかに入ってしまうと、自分っていうものを否定されて、無理矢理マインドコントロールされるんじゃないか、とか、そういう恐れがあって敢えて孤立化して、個人主義をとるっていうのがあるのだけど、人とぶつかりあって、人は多様な意見がある、多様な意見で自分が正しいと思っていたけれども、違うんだ、色々なものの見方があるんだということに気づきあって、民主主義のプロセスを学んで、一緒に作っていくためには、私は組織が必要だと思っています。

 ユニオンとか、全国センターとかも当事者主義というのをうたっているのだけれども、外に民主主義とかを叫んでいるのではなくて、うちの中、自分たちの組織の運営の中にも一人ひとりが尊重されて、一人ひとりの力が発揮できる組織をつくるというのも、実験だと思っているのですね。だから、一応全国センターも、運営委員会は誰でも参加していいですよ、という風になるべく公開していこうと思っています。本当は昔はそういうのは、当たり前だったのに、今の労働組合っていうのは本当にクローズになってしまっています。

鈴木
 さきほど、フィリピンなんかでコミュニケーショントレーニングが優れているという話がありましたが。

伊藤
 はい。ここにも何冊かあるので、実際に見てみますか。

 この『誰でも学べる女性労働組合』という本は、韓国の教材を日本語訳したものなんですが、これもオーストラリアの教材を翻訳して、韓国の文化に直したものです。こういうのってすごく発達していて、日本にも日本人の方で、アメリカで勉強してきて、その教材を日本語訳したものが出版されたりしています。こういうものがフィリピンにはいっぱいあって、ファシリテーター養成講座とか、リーダーシップ養成講座というのがすごく頻繁にやっていて、人材も多くそだっている。

 日本は、割と教室型に机が並べられているけれども、これは私が色々海外に行って感じたことだけれども、ヨーロッパとかどこにいってもロの字ですね。教室型なんてない。そして必ずキャンバスに模造紙があって、議論されたことは、全部この本の通りにやっている。最近日本では、企業が一生懸命これを取り入れているけれども、日本だけなんですよ。誰かがレジュメ書いてきて、議論して、というのは。だからこういう議論の仕方というのはほとんど、アジア共通していて、こういうトレーニングを積んでいる人たちがいっぱいいる。去年マレーシアで、女性ユニオンが入っている草の根の女性グループの36団体くらい入っている組織の総会をマレーシアでやったのです。その時には、東南アジアだけではなくて、南アジア、東アジア、紛争地帯の人たちパキスタンやバングラデシュの人たちもくる。そういうところで、紛争の問題とかになってくるんだけど、そのような人たちが一緒になってグローバリズムに女性労働者がどう対応するかなんて話をすると、もうそれこそ、紛争がどうしたこうした、話がいったりきたり、それをファシリテーターが、きちんとまとめて、議論して書くでしょ。それを3人くらいがすぐにパソコンでまとめて、翌朝、前日の会議の様子をパワーポイントでレビューするの。3日間なら、3日間ずっとタイムスケジュールがあるんだけど、朝、前日の議論のまとめをやって、やっぱり議論がずれちゃうとその日のスケジュールを変更した方がいいことがでてくる。だから、毎日、その日のスケジュールが変わるの。そのふり返りも、ただまとめをするだけじゃなくて、ウェザーニュースの番組みたいに、テレビのチャンネルみたいに面白おかしく、「昨日の会議はこんな事が話されて、どうでしたね!」みたいにやっちゃうの。すごく議論が活発になって、ちょっと喧嘩みたいになったときには、怒りのワークショップをやるの。剣道や空手の真似みたいのをやって、怒りをクールダウンして、冷静に議論するようにファシリテーターがやるのね。みんなに同意がえられたところは囲いをつけたりね。

 私たちも今、それを真似てやっているんだけど、そうすると大勢でどんなに沢山の議論がでても、ちゃんと道筋をたてられる。議論がずれても、その意見もすてちゃうんじゃなくて、一時停止というか、ポストに今のあなたの議論はとっても重要だけれども、また後で議論しましょうって、置いておく。

 そういうことをフィリピンのファシリテーターの人は、全然存在感はないんですよ。でも、後からなんでこんなにすごい議論をやっていて疲れなかったのかなと考えると、進行役の人がとても上手く人の意見を整理してくれていた。やっぱり、ファシリテーターって鏡というか。日本というと、司会をやる人がパワーを持ってしまうじゃない。でも、裏方に徹していて、静かにしていて、目立たないんだけれども、後からすると、その人の能力ってすごいなって。いろんな意見があるのに、うまくまとめてくれる。すごいなと思います。

 今度、国際会議があったら行ってみるといいですよ。

二木
 はい。とても興味深いですね。
 今日は長い時間、本当に色々なお話しを聞かせていただいて勉強になりました。
 どうもありがとうございました。

働く女性の全国センター--> http://acw2.org/

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