講演会「燃え尽きない働き方」講演録1

【1. 人はなぜ燃え尽きるのか】
高山
 では、人はなぜ燃え尽きるのか。今日は「燃え尽きない働き方」というテーマだけれども、なぜ今回この「燃え尽きない働き方」というテーマにしたかというと、やっぱり最近、若い30代後半から、中間管理職あたりになる人が、すごく疲れているの。昔は終身雇用制という形で、ずーっとキレイに上に上がっていったけど、今は終身雇用制が段々崩れてきていて、成果主義になって、間の中間管理職というのはごっそり抜けています。

 そうすると、10年・15年働いた人たちが、ものすごい負担を抱えて働いているケースがすごく多い。そうすると、働けど働けど全然楽にならないっていう感じで燃え尽きちゃう人が増えているのね。だから今、30代の鬱が増えているよ、とかテレビでもよく言っているけれども、そういうことが起きている。だから今回こういう風に、「燃え尽きない働き方」ってどうやったらできるんだろうということをテーマにお話させていただくことにしました。

 燃え尽き症候群、って聞いたことあります?

(会場挙手)

 あー結構多いですね。燃え尽き症候群はBurnout Syndrome と言うんですけれども、この言葉は1970 年代半ばにアメリカの精神心理学者のHerbert Freudenbergerという人が初めて使いました。燃え尽き症候群って何か、と言うと、例えば、継続的、持続的な職業上のストレスがすごくかかって、意欲がなくなったり、情緒が乱れたり、あとは、抵抗力が低下したりね。対人関係が何か嫌になったり、そういう症状が出るのが、燃え尽き症候群という風に定義されています。

 日本でもよく五月病って言うよね。五月病ってよく聞くけど、実はあんまり意味をよく知らない、っていう人もいます。例えばこれからあなた達も就職するよね。来年の4月とかに新入社員として入りますよね。そうするとやる気満々なの。もう「何やろう、これやろう、研修楽しい」で、5月の連休がくるとね、なにか知らないけど、「私ここに就職して良かったのかなぁ」とか、不安に思ったりとか、「思っていたより人間関係がうまくいかないなぁ」とか思ったりね。不安になっちゃうわけ。で、そうすると、少し、憂鬱な時間が増えてきて、「あー、なんか会社に行きたくなくなっちゃったなぁ」、「4月に入った時はこんな楽しくてやる気まんまんだったのに、行きたくなくなっちゃったなぁ。」

 そういうことがよく5月の連休明けに起こるので、五月病って言われているのね。これって大学に入学したばっかりの新入生とかにも起こります。「あー大学行って、もう受験も終えて、大学行ってもうガンガン遊んでやろう」とか思っていたら、なんか行ったら自分が思っていたのと違う。で、5月の連休明けになったらば、ちょっと落ち込んじゃう。それも五月病って呼ばれます。 「全力投球して、自分の思うように働いて、燃え尽きたらカッコイイ」と思う人もいるかもしれないよね、もしかしたら。

 けれども、燃え尽きるまで仕事しても、仕事って、生きて食べていくために必ず必要なの。そうすると、大学の4年間とちょっと違うわけ。大学の4年間っていうのは、いつか卒業するよね。4年終わったらもしかしたら多くの人は卒業して、−−−なかには5年目を取りに行く人もいるけれども−−−大抵は4年終わったら卒業していく。でも仕事をするっていうことは、ほぼ永遠に続くことなの。食べてくにはどっかで働かなきゃいけない。それは正社員かもしれない。非正規社員という派遣労働かもしれない、アルバイトかもしれない。 でも、とにかく働いていく必要がある、ってことだよね。そうすると、職場というところは、燃え尽きるほど仕事をして、成功した後も、今度またすぐ「君、すごく優秀だね」って、また業務が来ちゃったりする。私もちょっとIT企業にいたことがあるんだけれども、「プロジェクトが終わった!しばらく休みたい」って思うじゃない。

 だけど、会社はそうはさせてくれないわけ。「じゃあ君、優秀だからこのプロジェクトやってよ。今度、こういう役割になってよ」って、仕事が来ちゃうの。なかなかリフレッシュして次のエネルギーを蓄えさせてくれる時間がないと言うのも、職場の特徴ではある。で、そういうところで一生懸命働いても働いても仕事が減らない。成功すればするほど、もしかしたら責任の重い仕事を任される。場合によっては、評価をちゃんとしてくれない上司にぶつかることもある。自分がこんなに頑張っているのに給料上げてくれない、昇進させてくれない。そうすると段々、仕事ばかりしていて、今度は、プライベートの時間も無くなってきちゃったりするのね。だからもう八方ふさがり状態になってしまうこともあります。そういう状態に追い込まれると、やっぱり燃え尽きやすくなる、ということが言えます。

 そういう状況でもバリバリ頑張っている人ももちろんいる。だけど多くの場合、まず体力、体、肉体的にすごく疲れる。で、今度は心が疲れてきちゃう。そうすると、燃え尽き症候群とか、五月病とかいう形で症状が出る人もいます。やっぱり、何か終わりのない、出口がないところに入ってしまったような気になると、肉体的に、心的に自分でも解消しきれない負担だったりすることもあるのです。だから、今日はそういった、燃え尽き症候群にならない方法と言うのは難しいけれども、−−−だって働かなきゃいけないし、一生懸命働かなきゃちゃんと評価してもらえないかもしれないから、一生懸命みんな働くの−−−けれども、そういう燃え尽き症候群にいかにならない、というかストレスを減らすか、ということについてお話をします。それはもしかしたら、コミュニケーションという形の中で、人の話を聞いたり、自分の意思を伝えたりする中で、自分のストレスをどうやって減らすかという話でもあります。

(1 ハンドアウト「自分の最大の敵は誰?」:あなたをself-downingしているものは・・・)

 今日、皆さんに配られたパケットの中に「自分の最大の敵は誰?」という紙が入っていますので、これを始めにやってもらいます。まず、ここに12の項目があります。この12個の項目の中の一番手前に四角があるよね。これに「自分これ何かちょっと当てはまるなぁ」って感じたものにチェックを入れてください。これは、あまり考えてやると意味ないので、パッと読んで、感じでポンッてチェックしてくれた方がいいので、あんまり考え込まないでね。1分あげます。
 この1分間の中でやってください。はい、お願いします。

(1分後)

 はい、終わり。ペンを置かなくてもいいです。まだやっている人はやりながら聞いてください。じゃ、まず、みんなの結果を聞こうかな。チェックがゼロの人、全然チェック入らなかった人手挙げて。・・・いない。1個・・・はい。2個は・・・おー。3個、・・・うーん。4個・・・、5個・・・、6個・・・、7個・・・、8個・・・、 9個・・・、10個・・・、11個・・・、パーフェクト、12個・・・。

(会場、順次挙手)

 はい、5個、6個とかいましたね。この項目は何を見るためのものかと言うと、チェックした項目が多ければ多いほど、ストレスが多くなる可能性がある、もしくはちょっと生きづらい可能性があるということです。で、ここに挙げられている項目、これらはちょっと極端な考え方だったり、ちょっと不合理な考え方をしている、ということです。例えば、一番上の「何かひとつのことを間違えると、すごい失敗をしたように感じる。」と書いてあって、これチェックした人いる?

(会場挙手)

 (笑)結構いるねぇ。これはどうして極端な考え方だと思う? チェックしなかった人に聞こうか。これどうしてチェックしなかった?

学生
完璧な人間なんていないから。

高山
 そうだよね。失敗しない人ってここにいる? 失敗しない人。少なくとも私が生きてきて、そんな人には一度も会ったことありません。私なんかしょっちゅう間違えちゃう。下手するとクライアントの名前間違えたりして、そんなことはないけど、例えば、うちの母親なんてね、暑いのに「暖房つけて」って言ったり、寒いのに「冷房つけて」って言っちゃったりね。間違いなんてみんなする。やらない? お母さん達とか。だんだん年取ってくると、逆を言うっていう。みんな間違いをするの。でも、1 個間違えちゃったからって全部だめってことはないですよ。

 例えば、転職もそうだよね。ひとつの会社、どこかの会社をなんらかの理由でこれから先辞めることがあるかもしれない。じゃあ、会社辞めちゃったら、もうその人ってダメな人? そんなこと全然ない。別に、転職をしなさいと言っているのではなくて、もしかしたら、辞めることが、これからあるかもしれないけど、別に辞めたからってその人がダメ人間とか、辞めたからその人がちゃんと仕事ができない人ということじゃないということ。

 例えば、私がアメリカでカウンセリングを勉強をしていた時、授業で必ず先生が話すのだけど、アメリカでは今、−−−今って言っても今から2、3年位前の話になっちゃうけど、−−−一生のうちに転職するのは、平均7回です。日本のデータは知らないけど、アメリカは平均7回転職するの。日本も、終身雇用制がすごくしっかりしていた頃というのは、あまりみんな転職しなかったんだよね。でも私の所に来るクライアントなんて、多くが転職する。でも、転職する時にすごく悩むの。理由は色々。例えば、すごく上まで上り詰めた女性、もう社長の右腕みたいなことやっていた人。でも突然、社長が何か自分のことを好かなくなっちゃったの。で、降格させられちゃったの。降格させられたら、「なんで私こんなに能力あるのに、このレベルで働かなきゃいけないの」と思うから、彼女は転職しようか、どうしようかすごく悩む。その人は、結局辞めて、もっといい仕事をこの間見つけました。

 職場の同僚にたまたま恵まれない人もいる。大体、人は週5日会社行くわけ。で、誰かと一緒にお昼食べられたらいいよね。毎日行くのだから。一人で食べたいっていう人もいるけど、誰もお昼一 緒に食べに行ってくれないってこともある。でも、それは自分がどうの、じゃなくて、たまたまそういう会社なの。だけど、そこに居づらい。何か、お昼になる度にお腹空いているのにお腹が痛い、みたいな。そうすると、「やっぱり私この会社辞めようかな」という気になる人もいる。

 もしくは、昇進昇格を、転職することで進めていく人も今すごく増えている。その会社の中で昇進したり、お給料が上がったりして、昇格していく人もいる。けれども、転職することで、そういう風に上っていく人たちもいる。だから、転職は一概に、一つの会社辞めたから全部が失敗しちゃった、ということでもない、ということ。

 では、チェックリスト、5番目の「誰かに何かを断られると、自分は人から好かれてない存在なのだと感じる」にチェックした人いる?

(会場挙手)

 ああ、そんなにいないね。例えば、これなんかも、よく私のクライアントにいるけれども、どうしてこれが極端だと思う?結構みんなチェックしてないということだから、何か、考えがあると思うけど。何だと思う?

学生
 これはひとつに思い上がりだと思います。

高山
 思い上がり。あーなるほど、どういう思い上がり?

学生
 何かやっぱり自分はまあ誰からも受け入れられる、もしくは、なんて言うか、自分の考え方は、まあ最大公約数的なものだろうという。

高山
 うーん。なるほどね。そう、100人いたら、100人に好かれなきゃいけないのかな。そう思う?会社に行ったら、社長もみんな含めて他に100人社員がいた。で、100人に好かれなきゃいけないの?私たち。それって可能? 可能だと思う人。

(・・・・)

  うーん、そうだよね。可能じゃないよね。そうなんです。例えば、私もそう。私の所にクライアントが来ます。1回で来なくなっちゃう人も、すごく少ないけどたまにいるの。それで、1回で来なくなっちゃって、私が、「うわーどうしよう、私何か言っちゃったのかなー」とか、「うわーどうして来なくなっちゃったんだろう」って思ったら、この仕事できないです。私、意図的に意地悪するようなことはカウンセリングではやらないからね。カウンセラーとしての役割をきちんと自分では果たしたと思っていたのに、彼女は1回しか来なかったの。でもそれで「私は、いけなかった」、「私が好かれなかった」と思っちゃうと、私この仕事辞めなきゃいけない。だってこれからも、もしかしたら1回で来なくなっちゃう人いるかもしれないし、5回来て、来なくなっちゃ う人いるかもしれない。相性って必ずあるのね。相性が合う・合わない。カウンセラーとクライアントもそう。 私とは合わないけど、もしかしたら他のカウンセラーとは合うかもしれない。

 お友達もそうでしょ。クラスメイトも、相性合う人・合わない人いるよね。家族でもそう。家族のなかでも「私、お母さんとはいっぱい話せるけど、お父さんとはあまり話せない」とか、「お姉ちゃんとはあまり話さないんだけど、妹とは話す」とかね。相性って必ずあります。不思議だけど。だから、みんなが「私がみんなに必ず好かれる、みんなと相性が合う」と思っているのだったら、それはちょっと極端な考え方かもしれない。ちょっと非現実的かもしれない、ということ。

 会社や仕事にも相性があります。自分がここだと思っていくけど、やっぱり行ってみなきゃわからないの、 就職も。転職もそう。行ってみないと最終的にその会社の環境が自分にあうかとか、どんな風にその会社の人が自分にあうかはわからない。相性があるの。だから、相性が合わなかったからって、自分がだめだなんて思う必要は全然ない。

 よく、私のところに来て、転職活動をしている心の疲れた女性たちが言うのは、「ああ、6通も履歴書送ったけど、どこも通らなかった、私だめなんでしょうか」ということ。履歴書1枚で、何がわかるんだろうねぇ。会社の人たちは、確かに履歴書を見て人選します。でも、履歴書1枚で、あなたのこと全部わかる?わかんないよねぇ? わかんないんだよ。わかんないけど、向こうは選ばなきゃいけないから選ぶの。何で選ぶかっていうと、会社にニーズがあるからだよね。「あ、こんな感じの人が欲しい」とか、「こんな技術持っている人が欲しい」とか。それこそ、そんな“感じ”なの。「だいたいこんな感じかな」と向こうも思っている。だけど、落とされた方、例えば面接に2回も行ったのに、落とされてしまうと、まるで何か自分が全否定されたような気持になったりする。でも履歴書を見て、学歴、趣味、どんな学科が好きなのかを書いて、住所、名前、電話番号、それで何がわかるの、あなたたちのことを。私がカウンセリングを10回やったって、その人のこと全部わからないの。だから面接とか書類で落ちたからって「あ~、私ってなんでこんなにどこにも好かれないのだろう」「なんで相性が合わないのだろう」などと思う必要は全然ないよね。もしかしたら書類の書き方がちょっ とまずかったというのはあるかもしれないけど、そう思ったら、そういう技術的なところは直せばいい。でも、自分自身を否定する必要は全然ないということ。向こうも、そういうつもりで落としているつもりないからね。あなたたちを否定しようと思って、面接官が落としているわけではない。面接官は、こんな感じの人が欲しいと思ったときに、それに合うか合わないか、相性を見ているだけだから。マッチングです、就職もね。そこは、極端に考えないで欲しい。

 今日、渡したハンドアウト、「自分の最大の敵は誰?」というタイトルになっているけれども、英語のタイトル、「Your Worst Enemy 」って書いてあるけれど、自分の最大の敵は誰だと思う?

(会場「自分」)

 そう、特に、職場に行ったときの環境が、思ったよりも良くなかった。ちょっと期待と違った、という場合。 そういう時って、さらに自分責めちゃったら、誰も肯定してくれない。しかも自分のこと一番知っているのは自分です。誰でもない、自分が一番よく自分のことを知っている。その自分が、自分を肯定しないで否定しちゃったら、誰が肯定してくれるのだろう?誰か、周りにあなたのこと、肯定してくれる人いる?たまにいる人もいる。自分の親とか、パートナーとか、よくわかってくれる人は、「自分がどんなに落ち込んでても、私のことを肯定してくれる」という人もいます。

 でも、どんなに他人が自分を肯定してくれても、自分が自分を肯定できなかったら、すごくきつい。だから、自分の最大の敵は誰かと言ったら、自分です。もし、ちょっと「最近落ち込んでるな」と思ったら、このリスト思いだして、もう1回やってみればいい。自分はどんな極端な考え方を持っているのだろうって。それで、この下の欄に、極端な考え方をいかに、もう少しポジティブに、もしくは罪悪感のない、自分を責めない方法に書きなおせるか、ということができるように、欄が空いています。さっき言っていたよね、なにか一つのことを間違えると、すごく失敗したように感じる、(これに対して)さっき彼が言ったみたいに、完璧な人間なんていないと書けばいい。「誰かに何かを断られると、自分は人から好かれない存在なんだと感じる」という欄は、さっき彼が言ったように「おごりだと思う。自分は最大公約数だと思うけど、そんなことないから。」

 誰かには好かれないこともある。私たちには、好かれないという権利もあるということ。この権利は憲法には書いてないけれども、私たちには、好かれないという権利があっていいのです。誰にでも好かれなければいけないのではない。好かれなくてもいいの。ただ、自分が好かれてないなと思ったときに、自分が「あ、ここはやっぱり、ちょっとまずいかな」と思うところは直せばいい。でも、そう思えないのだったら、好かれないという権利だってあるというふうに覚えて帰って。それが自分を肯定するということ。自分が自分を否定してしまったら、もっと生きづらくなるから。

(2 クライアントによくみられるパターン)

高山
 少し、クライアントの話をしようと思います。「自分の最大の敵は誰?」と言ったときに、自分と言ったよね。その自分が敵になっているクライアントによくあるパターンについて話をします。まず、自己尊重心が低下していたり、自信喪失、存在意義が喪失している人が、結構います。それはどうしてかというと、往々にして、自己否定の連続が起因していることが多いです。例えば、職場の上司に、他の社員の面前で、怒鳴られる、とか、過小評価受けるとか、頑張っても頑張っても仕事が減らないとか、理不尽な降格があったとか、セクハラとか、パワハラとか、そういうことがあることで、自信喪失していたりします。あとは自分がコントロールできないことに対するストレス。ストレスというのは、例えば、嫌いな上司を辞めさせたい、でも、自分にはそういう権利はないよね。あとは、事実とか現実とか現状に対する回避。「このパワハラはいつか終わるのだろう」と思っていると、働き続けなればいけない現実から、極端な思考で非現実的な要求に耐えたり、どこか理にかなっていないと思っていても矛盾と葛藤しながら働き続けたりということがあります。そうすると、こういうことが起因して、心が疲れてしまうのです。


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