報告:「燃え尽きない働き方」

ICU学部:大坪修平
【CGS Newsletter009掲載記事】【ペーパー版と同一の文章を掲載】

Ms. Takayama
2007年10月5日、カウンセラーの高山直子氏を迎え、CGS/就職相談グループ共催の講演、「燃え尽きない働き方」が開催された。講演は高山氏のクライアントの事例を基に、社会人が直面する職場での心理的な抑圧がどのようなものであるかを概観した上で、それらの問題を回避する方法をカウンセリングの視座から模索するというものだった。就職活動を控えた学生や、職場で起こりうる問題に興味を抱いている人にも解り易いように充実した資料が配布された事に加え、講演参加者が記入する事で自らの抱えている問題を認識できるチェックリストなども用意されており、参加者の関心を惹きつけるための工夫が施されていた。

高山氏は燃え尽き症候群の原因を論じる際に「自分の敵は自分」であると主張する。つまり、職場に於いて上司に叱られるなどといった自己否定の連続が極端な思考による自己評価の低下をもたらし、結果として心を疲れさせるのである。このような状況を回避するべく高山氏は落ち込んだ時に自己認識が極端になりすぎていないかを考えるべきだと示唆する。しかしながら、この自己認識を巡る問題は個人では中々解決することが出来ない。そこで、氏は燃え尽き症候群の状態にある人への対処法として傾聴のスキルと、自分の意思や考えを伝えるスキルとの二つのコミュニケーションのスキルを紹介した。前者は相手の価値観を尊重して共感するというスキルであり、後者は自分の意思を相手に押し付けずにあくまでも選択肢として伝えるスキルである。
例えば、燃え尽きかけている人が自己の極端な思考に気づいて問題を解決できるほどの余裕を持っているとは考えにくい。むしろ、周囲の人が燃え尽きようとしている人に高山氏の提示したコミュニケーションのスキルを活用して相談に乗れば、その方がより、燃え尽きようとしている人が自らの偏った自己認識に気づく可能性は高いのではないか。燃え尽き症候群につながる自己評価の不当な低下を回避するためには、自力で自己認識の改善を目指すよりも、寧ろ周囲からの適切なコミュニケーション技術の応用による働きかけのほうが有効なのではないだろうか。
一見、高山氏の提示したコミュニケーションのスキルは簡単にできるようなものではないように思える。自分の価値観や一般常識を前提としたり押し付けたりせずに人と話すのは難しい。我々の多くは常に自分の価値観と一般常識に縛られているからである。会話をしている際に相手と自分の認識の間に生じる齟齬を完全に無くす事は出来ない。
しかし、だからこそ高山氏の提示したコミュニケーションのスキルには意味があるといえるだろう。この二つのスキルに共通しているのは自らと相手との主観性の差異を認め、且つ尊重した上で問題の解決を図っていくということだ。高山氏は「個人と問題を分ける」という表現を使っていた。それは個人に問題があると判断するのではなく、個人が抱えている問題そのものを如何に解決していくかを考えるということである。この事を意識して燃え尽きようとしている人の相談に乗れば必ず何かしらの形で相手の助けになると思われる。燃え尽き症候群になっている人に限らず、人の相談に乗る際には相手が相手の人生のエキスパートである事を常に意識してコミュニケーションを行う事が必要なのだと、この講演会から学ぶ事が出来た。 

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