広島修道大学教授:河口和也
【CGS Newsletter009掲載記事】【ペーパー版と同一の文章を掲載】
2007年10月27日にクイア学会設立大会が、東京大学駒場キャンパス18号館ホールで開催された。当日は、季節はずれの台風が東京を直撃するという悪天候だったにもかかわらず、約300人が参加した。
大会の冒頭で、クレア・マリィ氏が開会の辞として設立趣旨を述べた。その内容は、クィア・スタディーズはレズビアン・ゲイ・スタディーズとフェミニズムという二つの学問領域の成果の上に生まれたものであるが、これら3つの領域は緊張関係のなかで相互批判や否定をしつつも、互いに成果を継承しながら発展し、ジェンダーやセクシュアリティの言説の場を広げることに貢献してきたこと、そして、これらの学問研究が社会全般やコミュニティ(とその実践)と切り離すことができないものであったこと、さらにそうした歴史継承と同時にその断絶が存在してきたことが確認された。さらに、過去の歴史をつなぎなおし、現在の状況へ介入し、未来のあらたな可能性をさぐっていくことを学会の理念として提示した。
総会では、「クィア・スタディーズに関心のある研究者に、相互交流と研究成果共有のための一つの場を提供すること、ならびに、多様な社会・文化活動に従事する人びとに広く知見の共有や意見の交換をおこなう場を提供すること」という目的、年会費(8000円、但し院生・学部生および常勤職の無い者は5000円)等も明記された学会規約案が提示され、承認された。なお、当面の主要な活動は、年一回の大会と学会誌『論叢クィア』の編集・発行となる。
また当日は、日本学術振興会科研費研究プロジェクト主催による「日本におけるクィア・スタディーズの可能性」と題された公開シンポジウムも同時開催された。これまで執筆・コミュニティ活動・運動・研究等をとおして様々な領域で活躍されてきた沢部ひとみ、砂川秀樹、野宮亜紀、伏見憲明、清水晶子の各氏をシンポジストとして迎え、自らの立場や経験から、「書くこと」「コミュニティ・研究・運動の関係性」「世代」「フェミニズムやジェンダー概念に対するクィアという方法論の有効性(あるいは無効性)」などの問題に関して討議が行なわれた。シンポジストのそれぞれの立ち位置や経験の違いにもかかわらず、歴史の継承や批評的な視座を保持しつつも実践と乖離しない研究の必要性については一定の方向性として示唆されたように思われる。そのような必要性について討議する場としての学会の意義は確認されたが、ではどのような方法論でそのニーズに取り組んでいくのか、すなわち「クィア・スタディーズはいかにして可能か」という問題は今後の課題として残された。フロアとの質疑応答では、現実に生起する切実な諸問題に対する対処や解決策に関する質問も数多くなされ、クィア・スタディーズが教育や研究も含めて多様な社会的実践への介入を要請されている学問領域であることを再確認した。
大会後に行なわれた懇親会には、台風の影響で早めの帰宅を余儀なくされた大会参加者もあったようだが、それでも多数の参加があった。日ごろ個別でクィア研究をしていても、研究のうえでこのように他の研究者と交流する機会はいまだ少なく、今後クィア学会大会が学問的知見の共有と、研究者やコミュニティ活動に携わる人たちによる貴重な交流の場のひとつとなっていくことを改めて感じさせられた。
※河口氏はクィア学会設立呼びかけ人のうちのお一人です。