「越えてゆく」理由:日英LGBTユース・エクスチェンジとその彼方

イギリス側コーディネーター:細見由紀子
【CGS Newsletter010掲載記事】【ペーパー版と同一の文章を掲載】

Flyer for the YEP open event on August 24, 2008自国でLGBT 当事者と出会うのにも苦労するのに、なぜ何千マイルも離れたLGBTユース同士が国境を越えて出会う必要があるのか。逆説的だが日英LGBTユース・エクスチェンジ・プロジェクトを行う理由はそこにある。このプロジェクトは、異性愛至上主義と性別に関する固定観念が、それらに合致しない人を阻害し差別するこの社会で、LGBTの若者達/そうかもしれないと思う若者達が居場所を確保し、仲間や自分自身について考える場を提供するものである。日本でもイギリスでも若年者はLGBT コミュニティーの中でもマイノリティとなりがちだし、誰にとっても大問題であるカミングアウトは、親に扶養されている若者には更に困難になりうる。

しかし若者の文化交流だけが目的なのではない。これは性的指向やジェンダーアイデンティティに拘らず全ての人が尊重されるような社会を築くため、若者達が、現在お互いが抱える問題を共に乗り越えるための問題解決型セッションである。社会に深く根付くホモフォビアをなくすためには、多くの人々が協力して解決策を見つけ実行する必要がある。今回の交流で、日本の若者が単に「イギリスは進んでいる」「日本は遅れている」と感じ、結局無力化につながるのではという懸念もある。しかし、共に社会を変えようとする挑戦の中に身を置くとき、2国の比較に意味はない。傍観者の目からの単なる「比較」ではなく、この交流で若者自身と周りの支持者に求められるのは、主体的に「参加」することである。文化の違いを学び友情を深めるのは勿論、お互いの意見を分かち合い、社会を変えるために共同で提案を出すという作業に、それぞれが主体的に関わることに大きな意味がある。
近年イギリスではLGBTへの差別を禁止する法律などが制定され、状況は好転しつつはある。しかし未だに学校では、多くのLGBTの若者が同性愛嫌悪によるいじめを経験し続けている。ブリストル市の2つの小学校では、同性愛嫌悪をなくす学校の取り組みに対して一部の親達が反対運動を起こし、家族の多様性を描いた本(『タンタンタンゴはパパふたり』など)を学校から撤去せざるをえなくなった。差別禁止の法制化の後も、LGBTの若者達が自分の人生を思いきり楽しむことができる社会の実現には未だ多くの課題がある。対照的に、私見ではあるが、日本のLGBTの運動で驚いたのは、若者が中心となりクリエイティブな方法で運動をリードしているということである。しかも、こういったことが公的支援の全くない中で行われている。両国のLGBTの若者の直面する困難さには共通した部分も多く、彼らがこのプロジェクトでお互いから学びあうことによって得るものは大きいだろう。
「LGBT」と呼ばれる人々はどの文化圏にも存在してきたと言われているが、残念なことに「LGBT」に対する差別や暴力が存在しない国を見つけるのは難しい。英紙インディペンデントの一面で、19歳のイラン人ゲイ男性が強制送還の危機にあると報じられたのも古い話ではない。この若者は、自国イランで迫害の危険があると感じイギリスに入国、難民申請を行ったが認められなかった。しかしそれに対して国内外から激しい反対運動が起こり、最終的に申請は認められ、在留の権利を得たのだった。多くの人々が彼の状況に共感し、誰かのために「自分」の枠を越えて行動したことが彼の命を救ったのである。本プロジェクトは、様々なことを「越える」ことにより、人びとの心に種をまき水をやる作業であるとも言える。それぞれの種が芽吹くことで、LGBTを含む全ての人にとってよりよい社会を作ることが可能となるであろう。

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