インタビュー:NPO法人「LGBTの家族と友人をつなぐ会」

記者:二木泉(CGSスタッフ)
【CGS Newsletter010掲載記事】【ペーパー版と同一の文章を掲載】

Pamphlet of the association-front page想像して欲しい。ある日あなたの家族から「実はレズビアン/ゲイ/バイセクシュアル/トランスジェンダー(LGBT)なんだ」とカミングアウトされたら、あなたはどう反応するか。ショック、困惑、怒り、否定、そして苦悩……。LGBTに関して今でも正しい知識を持たない人は多く、カミングアウトを受けた家族はただ驚き、苦悩し、時に拒絶してしまう。そんなLGBTの家族や友人をつなげる活動をしている団体がある。NPO法人「LGBTの家族と友人をつなぐ会」(以下、つなぐ会)である。関西のメンバーの清水尚美さん、関東のメンバーの小林良子さん、小林たけしさんにお話を伺った。

つなぐ会ができたきっかけは、清水さんの息子さんのカミングアウトだった。「2006年1月に当時、高校生だった息子にゲイであることをカミングアウトされました。その時、私は全くLGBTに関する知識がなかったんです。私が若いころは同性愛というのは、自己愛、同性愛、異性愛という、発達段階の一時的な時点だと教わった気がします。だから「まあ息子も、そういう先輩とか誰かがいて、一時的なものだろう…」と考えていました。でも息子が私に講義してくれたことを聞くと、それとは全然違う。驚きました。」
しかし、それ以上に驚いたのは、LGBTを取りまく現状だった。「息子のカミングアウトはもちろんびっくりしました。でも、どこか腑に落ちるところがあった。私もすごく女らしいというよりは、男っぽいところがあったりとかして。だから、『ああ、そうなんだ』と。それよりも、当事者の方がすごく悩んでいるっていうのがショックでした。息子からもらった本にもそうあって、実際に息子も『自殺を考えたことがある』と言っていました。『そんなに悩んでるんだ!これはいけない、どうしよう』っていう感じでした。」そして清水さんは、それまで意識してこなかった部分に気づくようになる。「カミングアウトの2日後位に見たTVアニメの悪役が『おかま』だったんです。『悪の大魔王はおかまなのよ』って。毛むくじゃらに口紅で。このアニメは好きで昔からよく見ていたので愕然としました。もしこういう番組を息子が昔見て、LGBTを『悪者・皆の笑い者』と感じていたらと思うと、これはダメだ、止めないとって。いてもたってもいられなかったんです。」「まず、LGBTに対する正しい知識を皆が知らないのはどうしてなんだろう、と思いました。正しい知識がないから本人はもちろんカミングアウトされた親はびっくりする。これは学校で教えるべきことなんじゃないかと思って教育委員会とか人権団体とか様々な所を回りました。でも本当に皆さんご存知ないんです。窓口の方は勿論、ちょっと前まで高校の先生だった人権の担当者という方が『そんな生徒は見た事も聞いた事もない』と言うような状態だったんです。」
Pamphlet of the association清水さんは同じ立場の親たちとも話してみたいと試みるが、日本には当時「家族会」などは存在しなかった。「当事者たちはインターネットなどで同じ立場の方々に会えるけれども、その家族は孤立しているケースが多いことも分かりました。親や家族、友人もカミングアウトによってショックを受けたり、すごく悩んだりすることが多いのに、集まって話せる機会が全くない。そういうものを作る必要があると。それで本を書かれていた当事者の方に連絡して、親御さんを紹介してもらったりして、2006年4月に数組の家族が集まる機会をつくりました。最初に集まったのは6、7人でしたが、それが第1回目のミーティングになりました。そして次のミーティングにはまた新しいお母さんが来られて、号泣されて……。こんなかたちで、つなぐ会が始まったんです。」
しかし、各大学のLGBTサークルの若者に親を紹介してもらおうとした時、そこで知った事実に清水さんは新たなショックを受ける。「ほとんどの子どもがカミングアウトしていない。ごく少数いたけれど、バレたから仕方なくしているという子がほとんどで。しかも、『家族から汚いものをみるような目で見られる』とか、『そのような話題をするのは御法度になっている』『聞かなかったことになっている』と言うんです。社会の中だけじゃなく、家族の中で冷たい風に吹かれている子がいるということが、私にとっては大ショックでした。」今、会はそういった当事者と、会に参加するほかの親などをつなぐ存在にもなっている。最近の月一の定例ミーティングでは、家族よりも当事者の参加が多い。彼らは参加しているほかの親たちに、「どんなタイミングで何と伝えればいいのでしょうか」「やっぱり悩むんでしょうか」「孫の顔が見られないのはショックですか」などと問う。清水さんは「親ははじめは受け入れられないかもしれない。でもここに受け入れている親がいる。だから勇気を出して言ってごらん」と伝えている。「なんだかんだ言っても親は親。最後には絶対に子どもの味方になってくれる」と信じているから。
もちろん現実はそう簡単ではない。「どうしても理解できない。受け入れられない。」と訴え、号泣する親も珍しくない。関東の中心メンバーである小林良子さん、小林たけしさんは4年前に22年間『娘』として育ててきた子どもから「男性として生きたい」とカミングアウトされた。「LGBTについては、知識としては知っていたんです。でも自分の子供となると本当に天地がひっくりかえるほどびっくりしました」と良子さん。今は「頭では理解できている。でも心がついていってない状態」だという。「私は、男女関係なく子育てをしてきたつもりだったんですが、自分の中で『男』『女』とはっきり刷り込まれていたと気がつきました。20数年間、彼を『女の子』として育てて来たんだな、と」。一方たけしさんは「私の場合『ショック』の次にすぐに『受容』でしたから、一般的な反応とは違いました。父親と母親ではカミングアウトに対しての反応もちょっと違うようです」と語る。でも「親は長い間生きてきた分、理解するのに時間がかかる」とも。
最初は受入れられないのは当たり前。でも、会で同じような仲間に出会い、率直に話し、情報交換できれば、いつか当たり前のように、ありのままの子どもを受け入れられるようになると信じている。「『性』は『個性の性』。一人一人違っているのが当たり前なんです。LGBTについては本当は、親や友人が『受け入れる』とか『受入れない』とかそういう問題じゃなくて、もう『そう』なんだから、『知っているか、知らないか』という違い」と語る清水さん。「知れば、自分なりに学ぶなりなんなりしていかないといけないと思うんです。」LGBTのことに限らず、学生には「沢山本を読んで、マイノリティが様々なところにいて、色々な差別があることを知識として勉強して欲しい。そしてもしマイノリティの友達がいたら、色んな話をして欲しいですね」とたけしさん。
「東京プライドパレード」の参加者は世界の他の都市と比べて非常に小規模だ。日本でもLGBTに対する社会的な理解が進んでパレードの参加者が増えて欲しい。でも本当は「そんなものがなくなるほど、多様性を普通に認め合える社会を作っていきたい(清水さん)」と考えている。参加者がそれぞれ悩みを抱えているはずの「つなぐ会」は、みんな不思議と笑顔になってしまう力をもっていた。

公式サイト >>> http://lgbt.web.fc2.com/
ブログ >>> http://blog.goo.ne.jp/family2006/

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