ICU学部
A Homosexual Asian Male Bitch From CA/NZ/JP:
マサキチトセ
【CGS Newsletter010掲載記事】【ペーパー版と同一の文章を掲載】
日本の高校に通っていたころ、ボクはクローゼットのゲイだった。「ゲイ」という言葉も知らなかったかもしれない。自分のセクシュアリティを受け入れてはいたけれど、カミングアウトしている人なんて一人も知らなかったから、友達や家族がどう反応するのか見当もつかなかった。もし十七でニュージーランドに行っていなかったら、果たしてカミングアウトすることができていただろうかと今でも時々考える。日本で。日本の高校で。……きっとできなかっただろう。
ICUの新入生のほとんどは高校を卒業したばかり。ストレートもいれば、クィアもいるだろう。みんな様々な性的バックグラウンドを持ち、性的な歴史を持っている。みんな違うのだ。しかし悲しいことによい「違う」と悪い「違う」があるようで、後者にカテゴライズされればクローゼットに押し込められることになる。ボクの例にも明らかなように、中学校や高校でカミングアウトしている人は非常に少ないのだ。
しかし大学は違うよ!ということを新入生に伝えたくて、性の多様性を象徴する虹色を使った何かをしようと思い立ったのだった。CGS、セクシュアル・マイノリティのサークル「シンポシオン」、更にはそれ以外からも多くの参加者を迎えて、新D館ラウンジの二つのテーブルをレインボー色に飾り付け、ICU の2008年度春学期第一週は始まった。全員がしなければいけない活動というものは用意せず、「レインボー・エリア」と名付けた華美なテーブルの周りに座ってダベったり勉強したりお昼ご飯を食べたりした。一日ごとに参加者も増え、飾りやテーブルも増え、学生や教員の支援も増えた。手作りの立て看板に書かれたスローガンは「性 アウトロー」。「性」はセックス、ジェンダー、セクシュアリティの全てを包含した言葉であり、「アウトロー」はKate BornsteinのGender Outlaw(邦訳『隠されたジェンダー』筒井真樹子訳)から来ている。一週間のあいだに、合計100人以上の人がレインボー・エリアに来て座っていった。「なんのイベントですか?」と聞いてくれた人。「セクシュアル・マイノリティのサークルとかってあるんですか?」と聞いてくれた人。更に、のちにCGSを訪問してくれた人もいた。
「自分みたいな人が他にもいるんだ」と気づく瞬間は、セクシュアル・マイノリティの若者にとって非常に重要なものである。調査によれば、米国および英国の十代のゲイ・レズビアン・バイセクシュアル・トランスジェンダーは同世代の異性愛者に比べて自殺率が何倍も高いという。同時に重要なのが、彼らが高い確率で中学・高校でイジメを受けているという事実だ。よって、当事者以外の「ああいう人ってフツウにいるんだ」という気づきもまた重要になってくる。その点で、レインボー・エリアはICU 生の意識を更に高める効果をもたらしたと言えるだろう。ボクたちが避けたことは、異性愛者と「それ以外=変態」を事前に振り分けてアイデンティティを使った主張をすることである。ボクたちのスローガン「性 アウトロー」は、自分を異性愛者だと思っている人が自分の異性愛というセクシュアリティを見つめ直し、実際に、本当に、不可分なく「ノーマル」で「アウトローでない」のかを自らに問い直す助けとしてこそ作られた。ストレート/クィアの代わりにどうしてもノーマル/アブノーマルを使いたいという人は、「ノーマル」向けのポルノを良く見直してみるといい。一体何がノーマルでアブノーマルなのか分からなくなるだろう。「えー、わたし性アウトローかもしんなーい!」と言った学生の言葉を、ボクは希望として見ている。