一橋大学教授:木本喜美子
国際基督教大学教授:田中かず子
【CGS Newsletter011掲載記事の全文バージョンです。ダイジェスト版はこちらからお読み下さい。】
【お詫びと訂正:紙媒体版のタイトルが、「木本美喜子先生(一橋大学)と田中かず子先生(ICU)が語るジェンダー・セクシュアリティ教育の未来」となっておりました。正しくは「木本喜美子先生(一橋大学)と田中かず子先生(ICU)が語るジェンダー・セクシュアリティ教育の未来」でした。ここにお詫びして訂正いたします。】
GenEPとPGSS
鈴木直美(以下:鈴木)
本日は、ジェンダー・セクシュアリティ教育のカリキュラムの構築にそれぞれの大学で取り組まれ、現在もその発展にお心を砕いていらっしゃる一橋大学の木本喜美子先生とICUの田中かず子先生に、ジェンダー・セクシュアリティ教育のあるべき姿や今後の展望などを語っていただきたくお招きしたという次第です。
よろしくお願いいたします。
早速ですが、木本先生からは、「一橋大学における男女共同参画社会実現に向けた全学的教育プログラム」であるGenEPの資料やリーフレットをご提供いただきましたが、これは、一橋大学では「GenEPで卒業」ということが可能なのですか?
木本喜美子先生(以下:木本先生)
いえ、今はこの科目群をオーガナイズし、学生・院生に提示するというところまでしかできてないんですよ。こういう科目群が提供されていることを示して、アンケートをとったりしてるけれども、「認定」というような形まではまだ行っていないんです。もうすこし時間をかけて、と思っているところです。
鈴木
最終的には、そういうところを目指すという感じでしょうか。
木本先生
出来ればそのほうがいいかなぁと話し合ってはいます。その「認定」マークは、企業にとっても意味があるようにしなきゃいけないじゃないですか。なるほどこういう知見を持っている人であるのか、っていう......。
それとやっぱり、社会学部・社会学研究科のスタッフの協力がすごく大きいんですよ。他学部や他の研究科の方々も協力者として出てきてくれたり、オムニバスで組んでいる授業に出動してくれて、コラボレーションということでやっているのですけど......。
特に[GenEPの]中心は社会学研究科なので、大学院までってなると、経済学とか商学の大学院生はあまり関係ないですよね。
「認定」という時に、私たちは一年生から大学院までの緩やかなスロープ状に科目群を配列する設定をしているんだけど、大学院は事実上「社会学」となってしまいますから、学部までのところで認定をとれるようにできればいいかな、と。科目数なんかはなるべく緩やかにしてね......。
その辺のところを考えなければいけないね、と言いながら、今は精いっぱいで、そこまでは至っていないんです。
報告書に学年別の構成が載っていますが、これは構想した段階のもので今はもっと科目は増えているんですが、どうしても社会学部のところが膨らんじゃうんですね(笑)。
田中かず子先生(以下:田中先生)
そうですね~。
鈴木
一橋の、社会学部以外の領域の先生方も参加なさっているんですか?
木本先生
ええ、この中にも経済学部、法学部、商学部の方たちが何人もいらっしゃるんです。でもまだ本当に「点」という感じですね。
田中先生
なるほど。
鈴木
どうですか田中先生。CGSと組織的に似ている点・違う点などはありますか?
田中先生
ええと、「CGS」っていうのはセンターなんですよね。
鈴木
ああ、そうですね。カリキュラムとしては「PGSS」ですね。
田中先生
そうそう。Program in Gender and Sexuality Studies、日本語で「ジェンダー・セクシュアリティ研究プログラム」なんですが、これが学際プログラムなんですね。
木本先生
はい。
田中先生
基礎科目と専門科目......というように、他のプログラムと同じ構造になっているんですよ。
木本先生
ほかのプログラムってことはつまり、大学が置いているプログラムってことですか。
田中先生
そう、色々な......今は31デパートメントまで細分化した新制度が始まっているんですが、その中にたとえば社会学だとか、人類学だとか、政治学だとか、ってありますよね。
木本先生
ええ。
田中先生
それが一つずつ独自のカリキュラムとなっていて、それぞれに基礎科目・専門科目のリストがあり、その中から必要な単位をとっていくことになります。
PGSSは学際プログラムの一つで、他のデパートメントのカリキュラムと同じ構造をしているのです。
木本先生
なるほど。そうすると、そういうプログラムがいくつもいくつもある中の一つということなんですね。そして、そこからとればそこの専攻っていう。
田中先生。
そうです。
木本先生
そうすると、専攻は二つくらいとるということですか?
田中先生
専攻は一つでも二つでもいいんです。学生は「メジャー、マイナー」とか、「メジャー、メジャー(ダブルメジャー)」とか、一つのメジャーに専念するとか、色々できるようになったんですね。二つのカリキュラムをぜんぶクリアすれば「メジャー、メジャー」になりますし、私はジェンダー・セクシュアリティ研究をマイナーにして、歴史学をメジャーで専攻しますっていう風なこともできる、と。この場合マイナー科目は履修の拘束がゆるくなるわけですね。
この仕組みが始まったのが今年度からで、私は今年度はリーブなので(笑)あまり今実感がないのですが、でもダブルメジャーもメジャー・マイナーも、一つメジャー可能ということですね。
木本先生
なるほど。そうすると私たちのところとは全然違っていますね。
私たちのところは基本的に社会学部なら社会学部のカリキュラムが要卒単位であって、授業ごとに学年のグレードが決めてあって、一年生しか取れないとか、二年になったらとれる......という風に階段を上って行くんですね。
その階段にはジェンダーは直接関係なくて、今までは各先生方が、担当されている授業にジェンダー視点を入れるっていうのを勝手にやってきたわけですけれども、今回GenEPを立ちあげることによって、私たちは「ジェンダーにかかわる関連科目を、こういう形で体系的に履修できますよ」と、ジェンダー関連授業の束を学生に提示したということなんですね。つまり、ジェンダー関連科目の体系的な履修を推奨するプログラムを毎年つくっているのです。その運営母体がジェンダー社会科学センター(CGraSS)です。
CGraSSウェブサイト→http://gender.soc.hit-u.ac.jp/index.html
だから、ここの束をもっと充実させるために、新しい科目群も置いたんですよ。
鈴木
あ、これ[GenEP]のために授業も増やした......という
木本先生
そうなんです。
田中先生
あ~、なるほど
木本先生
だから、ちょっと負担も増えてるんですけれど(笑)、ただあたらしい授業っていうのには限度がありますよね。みなさんノルマで課せられている責任コマがあって、そこにプラスで持ち出すっていうのはすごく大変なことなので、どうしてもオムニバス形式にならざるを得ないんですね。だから大学院の「社会科学の中のジェンダー」という授業も、スタッフがオムニバス形式でやっているんです。それぞれの専門分野の中にジェンダーっていう視点を導入した時にどういうところが拓けたのかという視点から、人類学・社会学・地理学......いろんな専門の人たちが話をするっていう、そういう科目なんです。
田中先生
同じような科目がうちにもあって、PGSSの学部の基礎科目に入っています。
木本先生
あ、学部生のレベルで。それは研究として、ですか?
鈴木
「ジェンダー研究へのアプローチ」という授業なんですけれども、
木本先生
あ、こちらに前お伺いしたときに、顔写真がいくつも貼ってあるポスターの......
田中先生・鈴木
そうです、そうです!
鈴木
高校を卒業したばかりの方だったりするとジェンダーについてよくわからないだろうから、あれをまず取ってみて、どなたの話でも、何か興味をひかれるものがあったらPGSSについても考えに入れてみませんか、っていう勧誘のようなものなんです。
木本先生
それは、あまり専門的ではなく導入的な授業なんでしょうか。
田中先生
いえ、それぞれの領域は専門的なんですよ。たとえば文化人類学の中でジェンダー研究がどういう風に発展してきたのかとか、政治学がご専門の先生だったら、政治学の領域でのジェンダー研究の一つの例としてこういう風な研究がありますよって提示してもらうとか、人によってやり方はかなり違うんですけれども。
各分野の専門家に、その分野におけるジェンダー研究の例とか、ジェンダー研究の現状や問題点を紹介していただいて、どのような研究が可能なのか考えることにしています。
色々な専攻分野の中でジェンダーがどういう風に取り上げられているのか、学生たちがインター・ディシプリナリーに把握していく中で、学際的なアプローチを自分たちの中に積み上げていくことを目的としているんです。
鈴木
ジェネラルアイディアといったことは、田中先生などが一回だけ、最初の授業でなさいますよね。
田中先生
そうそうそう。
鈴木
そこでジェンダーっていうのはどういう概念で、どう発達してきてっていうことをとりあえず詰め込んだ上で、実際にどういう研究が第一線でなされているかっていうことに入っていくという感じです。
木本先生
そうすると、オムニバスの方たちは大体ICUの方々なんでしょうか。
田中先生
専任の人が2/3で、外部の人が1/3ぐらいですね。
木本先生
そうすると非常勤で一コマ分でお願いするという形ですか。
田中先生
いえ、一回だけ来てもらうっていう。
木本先生
謝礼はその場合、大学から出るんですか?
田中先生
はい、大学からでます。
木本先生
私たちのプログラムは下から手を挙げて作ったものなので、もちろん科目認定はしてもらっていますけれども、ある意味勝手にやっているわけです。それは私たちだけではなくて、マスコミ研究の人たちも、政治学系統の人たちも、私たちのような体系的なプログラムは持っていませんけれども、どこも学部の中でスタッフが持ち合ってやっていて......。
結局持ち合わないとできない科目っていうものを、エネルギーを持ちだして、ノルマを越えてやっているわけですよね。私たちはそれをより強くやっていることになるわけですよ。いくつもいくつも持ちだしたり、学外の協力者にオーガナイズを依頼したり、そことコンタクトをとりながら運営したりっていう、そういう感じなんです。
それで、私たちの新しい授業などが加わることによって、より豊かなプログラムを提供している形になるんですよね。
私たちがこれを始めて、つまりプログラムが動きだしてからは2年、その前にプランニングに2年かけてますけれども、まだ2年度目がようやく終わろうとしているところなんですね。目標として、何らかの単位認定とか認定証のようなものを考えましょうっていうのは常に考えているんですけれども、本当にまだそこまで着手できないというか。
あくまでもエントリー制にしているので、春に向けてそろそろ、来年度はどこがエントリーしてくれるか募集してプログラムを作っていく時期がきていますね。
「ジェンダー」について教える、という困難
田中先生
これは、たとえばこれらのコースの中で、ジェンダーっていうものがメインのもの......たとえば「ジェンダーと心理学」っていったらメインですよね。
木本先生
ええ
田中先生
それとは別に、コースの中で一回だけジェンダーを取り上げますよっていうものとがありますよね。
木本先生
それは分類しています。学部・大学院にそれぞれ連携科目と基幹科目っていうのがあって、分けているんですね。基幹科目はほぼ満遍なくジェンダーについて主要に議論していくっていうことで、それもエントリー、つまり教員が自分で選んでいるわけなんですね。連携のほうは、専門の話が中心なんだけれども、その中に1回でも2回でも3回でもジェンダーを織り込みますっていう人たちが、これも手をあげてくれているんです。
鈴木
結構......ICUになくて、あったらいいなぁというものがありますね。
田中先生
(笑)ありますね。
木本先生
たとえばどんなものですか?
鈴木
ジェンダーと心理学なんか、あまりICUでは中心的に扱っている授業はないんじゃないですか?
木本先生
これはICUご出身の柘植道子さんがやって下さっていますよ。
田中先生
ああ、そうですか!
鈴木
あと羨ましいのはセクソロジーですね。
木本先生
これは村瀬幸浩先生が、もう18年にもわたってやって下さっていて、来年度もお願いできたんですけど、すごく重要な科目なんです。
田中先生
重要ですね。
鈴木
どうでしょう。ほかにうらやましい授業はありますか?
田中先生
そうですね......ちょっと話は変わるんだけど、ジェンダーという概念をどういう風に「使う」かは人によって違っていて。私はジェンダー概念自体がすごく鍛えられて展開してきているから、やっぱりその展開をキャッチアップすることも、絶対やらなくてはいけないと思っているんです。
木本先生
うん。
田中先生
でも当初の、女性学が始まったときの「ジェンダー」概念で、今も議論している人もいる。たとえば男と女という「生物学的な性差がある」という前提はそのままに、社会的文化的な性差としてジェンダー概念を使う。でももうその前提を当然として議論することはできなくなってきているでしょう。
セックスもジェンダーなんだっていうバトラーの洞察までも、私もそれを一番はじめにイントロで教えてしまう。「ジェンダーはこういう議論を通って鍛えられて展開してきた概念なんだ」と教えるでしょ。そうすると、「あの先生の言ってるのと違う!」とか、そういう風になっちゃうのね......。
木本先生
あ~。
鈴木
素人考えですが、たとえば「セックスもジェンダーだ」っていう話とかって、学生たちのレスポンスを見ていると伝わっている層と伝わっていない層に確実に分かれていて、伝わっている層っていうのはどういうことかっていうと、やっぱりそこにそもそも作為性を感じていて苦しかったんだ、っていう人たちで、その人たちには確実に伝わっている。
木本先生
はいはいはい
鈴木
でも、「別にいいじゃん、困らない」って思っている人にはどうやったって伝わらなくて......。もういいや、って思ったりするのですが。
田中先生
(笑)それはもうしょうがないのよ。だけど、私は「セックスはジェンダーだ」っていう議論がなんでそうなったのかっていうことを、イントロのところでしなければいけないじゃない。
鈴木
はい。
田中先生
でも、実際の問題を議論していくところでは男/女っていう風な形で議論せざるを得ない時ってあるわけですよ。
木本先生
うん。
鈴木
あ~、先生の中にも、そこで一貫しているわけではないように"見えて"しまう時が出てきちゃうということですよね。
田中先生
うんうん。だけど単語としての男と女なんて、たとえば「女子労働」とかね、男子労働なんて用語はないのに女子労働ってのはあるわけだから、労働は「一般」、「男」の......
鈴木
労働っていったら男の労働に決まってるだろう、みたいなね。
田中先生
(笑)そうそうそうそう。そういうのがあるわけじゃない。で、確実に「女だから」っていって差別的な待遇がなされている現実もあるわけじゃない。その時にね、そこを取り上げるっていったら、男/女は、とか、「女」は、ってならざるを得ない。で、そうなっていくと、ねぇ......。
鈴木
そうしたらアクティビスムについても視野に入れないといけないんじゃないですかね。
田中先生
いけないと思う。
鈴木
実際に世の中を変えようっていう動きの中で、色々な経緯をたどって<セックスもジェンダーだ>が必要だということになってきたと。それが、そういう男・女の話にならざるを得ない手のアクティビズムの現場においても重要だっていうのが多少なりともあったから、これだけみんなの心をひきつけ続けているんだとおもうんです。そこを......。うまく言えないですが、個々の議論を越えたところでは矛盾してないっていうことを伝えるにはアクティビズムも視野に入れないと無理ですよね。
田中先生
それが頭の中だけで言っていることなのか、実際にそこで運動している人たちがそれをどういうふうに考えているのか、といったことをね......。
たとえばね、「働く女性の全国センター」を立ち上げたじゃないですか。2年前に。その時に、メンバーを女性だけにする、というようなことがね......。でもね、ここ[CGS]の男性のスタッフもメンバーになりたかったのよ。でも、職場でセクシュアルハラスメントに遭ってしまった女性は、男性の顔を見るっていうのだけでなんていうか......「ゲボッ」とくるのに、活動をする所に男がいるのは苦しいっていうのがあって。「当然でしょ、男を排除するのは」っていう意見もすごいあるわけよ。
木本先生
うんうん。
田中先生
だからすごく難しいわけ。
鈴木
「あえて」の選択なら当然ありだと思いますけど......どうでしょうね。その「あえて」のつもりがないんだったらまずいですけど。「わかってる、まずいのはね。だって、例えば女だって思ってないのに女扱いされてる人も含めた層への差別はどうすんの?女扱いされている人への差別なら女性への差別として扱うべきかもしれないけど、でもその"人"に対しては......あれ???みたいなね」っていう、そういう問題を全部無視していいのかっていうのはもちろんありながらも、でも、あえて、私たちは「女」だけにフォーカスしたい、そのいばらの道を選ぶの、っていうのならありな気がしますけど......
田中先生
でも「当然でしょ?」みたいなのはね......
鈴木
ええ
田中先生
だけど、結構大きいんだよ、当然でしょっていうのは。......話がちょっとずれてしまったけど。
木本先生
でも戦術という点で切り分けるんじゃなく......
田中先生
ええ。......そこら辺をね......複雑なものを複雑なままに引き受けるっていう......。
こう、ざーっと線を引いて、ハイ終わり!って言うんじゃなくて、こうこうこうで、こういうことで、こういう風な歴史的コンテキストの中でこんなにして作られてきてるんだ、っていう複雑さっていうものを引き受けながらやっていかないといけないんだと......
木本先生
ですよね。だって学生だって、自分自身のアイデンティティとか日常的な実践っていうことに、得た知識をどう取り込むかっていうことは一番難しいわけだから。知的実験としてはどういうところまで行けるかっていうことを面白がって聞けたとしても、自分の日々の実践にはなかなか生かせなくて壁を作ったまんま、とかね。そういうところを少しでも破っていけるように......。
だから、最前線の一番ラディカルな議論について来て実践できなきゃあなたたちだめですよって話じゃないですよ。だから、議論の進化過程というか、議論の蓄積過程というか、その中の、発展段階の端緒にその人は立っているかもしれない。でもそれはいいんですよ。AからBに来たっていうところがね、重要なんであって。
だから何となく最先端の議論になって、ジェンダー研究も最初のプリミティブな問題意識からある意味より高度化しているじゃないですか、理論的に。そこに参入していくのに、かつてはそんなに障壁も高くなかったと思うんだけれども、だけども現実に高くなっていってしまって......。その中で学生たちが、非常に閉じた領域として受け止めてね、そこに入り込むことが困難という風に考えるか、もちろん、閉じた領域だからこそ研究が面白いっていう人たちもいて、そういう人たちには問題ないのだけれども、だけど、ちょっと閉じていて......どうですか?これ以上の議論はついていけない、みたいなところってないですか?
田中先生
いや、たとえば、だんだん閉じていくとか高度化していくってことじゃなくて、今までのフェミニズムの理論が、ある特定の人を対象にしてきたってことじゃないかと......
木本先生
特定の人。
田中先生
特定の人を前提としているということに目覚めていくわけだから。例えばヘテロセクシュアルの女性を"当然"としていた、というふうに目覚めていくわけで。
木本先生
あぁ~、それから白人女性とか、ミドルクラスとか
田中先生
そうそうそう。だから、自分の考えが......「自分」が当然って思っている大学生っていうのはやっぱり恵まれている層なんだから、自分たちで考えるというと中産階級のヘテロセクシュアルのアイディアなんだっていう、そこを前提としてしまっていたんだっていうのに気付いて、で、そこを破っていくんだから、高度化っていうよりももっと解放されていくプロセスなんだと思う......
木本先生
あ~、解放。なるほどなるほど。
田中先生
だから「簡単じゃなくなった」っていうのは、もともとそれだけ複雑なものを、わりかし単純に「自分たちだけが『女』よ」って言ってたっていうだけなんじゃないの?っていうふうに問われたわけだから。
木本先生
うんうんうん。
田中先生
だから、「解放」させていく。やっぱりそれが分からないと......単純に男/女でいいでしょって言っているだけでフェミニズムが理論を作っていくと、排除していく人たちっていうのをたくさん作っていくわけだから、排除する側にあんた立ってるんだよ!っていう自覚を必要とするわけで......。
だからそれは、わからないぐらい高度化された抽象的な理論とかではなくて、自分の中にある差別意識とかね、自分の中の前提としているものっていうものを問うっていう、「内側を問う」ようなことになっていくと私は思っているんですよね。
木本先生
なるほどね。
田中先生
むかし私が思っていた「男女平等」とかの「女」って誰だったのっていうときに、簡単に理論化していくプロセスでは、やっぱり中産階級の女をメインにして理論化し、「結婚」するのが当然で専業主婦になっていく......みたいなね。そういう女たちが「虐げられている」って言っても、それは、たとえば結婚できなかったり、そういう「女」っていうものの規範のイメージから外されている人っていうのを排除して成立していた議論で。そういう議論を問い直していくっていうのが今こう......来てるっていう。だからすごくダイナミックなもので、人のことじゃなくて自分のこととして語らなくてはいけないっていうのをね、私は結構求めているんです(笑)。
木本先生
なるほどね。とてもよくわかります。ただ......ね、そこで私が感じるのはね、私の世代なんかはそうでもないけれども、ちょっと若い世代、たとえば30そこそこぐらいの若い研究者にとっては、もう先に道があったっていうかんじでね、フェミニズムだとか、女性学、ジェンダー・スタディーズにある程度の蓄積がある所に参入してくるじゃないですか。もっと若い世代はよりそうだと思うんですけれどもね。そうすると、とにかくその高みっていうのに、とにかくキャッチアップしていかなくちゃいけないっていうのが、すごくあって。
鈴木
あ、ああ、それはなんかわかる。
木本先生
で、そこで文法を早く獲得しなくてはいけない。その時に、これを言ってはいけない、あれを言ってはいけない、っていう約束事みたいなものを変にマスターしちゃって、という傾向を感じることがあるんですよ。
田中先生
へぇ~。
木本先生
そういう発想を言ってしまったら危うい話になりますよ、とかね(笑)
田中先生
えぇ~?(笑)
木本先生
そういう世代が......
田中先生
コワイ......(笑)
鈴木
それは確かに感じます。
木本先生
あるでしょ?それはわたし問題だなって思ってて。やっぱりね、田中さんが今言ったように絶えず自由な発想で自らを問う、それから自らを問うっていうことは既存の理論を問い直すことだから当然批判ということになり、それを乗り越えたり......。でもそれを言っちゃいけない、この業界ではこの人にはそれを言っちゃいけないとか、そんなことばかり考えてるのかどうかは分からないけれども、約束事に縛られて自由な発想できにくいんじゃないかってね。
鈴木
それすごい感じます。それで、自由な発想ができないという思い込み......その「抑圧」とやらを乗り越えて新しいとこに行けてるかっていうとそうでもなくて......。
ヘテロセクシュアルのフェミニストとかには結構多いように思うんです。たとえば、"レズビアンの女"には、自分たち"トランスでないヘテロの女"こそが既得権益を享受する加害者なんだっていうところを忘れちゃいけないよね、って思いながらも、そこに屈託を抱えているような感じ......。自分の加害者性が、自分の被害者性を目減りさせているような思い込みを持っている......それでなにか鬱屈を抱えているような感じがするんです。
木本先生・田中先生
ああ~
鈴木
でも、そんな風に勘違いするならいっそそれを言えばいいって思うんですけれども、それはなんか、言ってはいけないっていう決まりにもうなっているから言えない、みたいな
木本先生
そうそうそうそう、それそれ。
鈴木
言えばいい......たぶん、当然叩かれますけど、言えばなにか別の......。
なんだか、私も含めて今この時点の、この一瞬に私が「どう」かみたいなのが問われているような空気があるんですよ。ものすごい失敗してバーンって壁にぶつかってバーンって落ちても、またバーってやってく、これ全部見なくちゃいけないのに......
田中先生
(笑)間違えたくないんだね。
木本先生
(笑)そう
鈴木
あ~そうかもしれない。
田中先生
ね?
木本先生
そう。それは、フェミニズムとかジェンダー研究という人たちというというところの特性ではなくて世代の問題かもしれない。......そう、教育的にこう、エリートでやってきた人たちが、道は誤れない!みたいなね(笑)。
田中先生
一回間違えたら、もう自分はない、とか?
鈴木
でも、フェミになってる時点でもう間違ってますよね。
木本先生・田中先生
(笑)
自分のフェミを生きる
木本先生
みんなそうやって脱ぎ捨てられればいいんだけど、ある程度日本でもフェミニズムとかジェンダースタディーズがある程度エスタブリッシュされてきたじゃないですか。学術会議もとても頑張ってくれているわけだし。大学の中でも......。
田中先生
......されてきてるかねぇ、大学の中で、ねぇ......
木本先生
どうだろう。
鈴木
エスタブリッシュされたら、結構フェミってスポイルされちゃいませんかね。
田中先生
スポイルされちゃうよね......
鈴木
エスタブリッシュされてるフェミがフェミか......フェミなのか......みたいな気持も......。
田中先生
(笑)なんかねぇ、そこら辺がねぇ......。
鈴木
最近なんだか、「いや、あれは、フェミじゃないんですよ」っていう言い訳ばっかりしてるんですよ。
木本先生
えっ?!
鈴木
なんていうか、「あの、厚労省の言ってるあれとかはフェミとは違うんですよ」とかっていう言い訳ばっかりをしている気がする......。
木本先生
あなたがフェミを代表しちゃってるの?何かそれは......
鈴木
そういうんじゃ......でもそうなんですかね?......うん、そうなんですよ(笑)。
私はフェミの代表なんてできないんだから、それはフェミでそれはフェミじゃないなんていう分類をすること自体が間違っているんですけど、でも、私のフェミ話を聞いてもらうまでにそういう作業が必要になっている。その人の中に降り積もったフェミ像にまず立ち向かわないと、っていう。でもフェミが多様化するのはいいことで、いろんなフェミがいていいんですけど、ただ、嫌われているフェミが、案外......フェミではないんじゃないかなぁっていう。
木本先生
うん......うん。
田中先生
......まぁ、自分のフェミを生きるのよね、みんな。(笑)
鈴木
(笑)しかないですかね......。
田中先生
(笑)フェミだって言ってるならその人にとってはそれがフェミなのよ。
鈴木
あ!そうかそうか。それはそうですね。そうだ。
田中先生
だから、それは「自分のフェミ」を生きるしかないんだから......。で、それで間違ったら、「あ、あのとき間違った、ゴメン!」ってさ。
鈴木
で、また仕切り直せばいいんですよね。
田中先生
そう、仕切り直して、今度はわたし、こういう風に考えが変わりました~、って。
......あの、わたし日本に帰って来て89年からここで教え始めてね、セクマイの学生たちとかかわるようになり、セクシュアルハラスメント関係のキャンパスネットワークに入っていろいろやり、人権関係のこともやり......っていうそのプロセスの中でね、わたし、すごい変わりましたもん。
木本先生
うんうんうん。
田中先生
自分の視点が。
だから私はね、ほんと......"本当に"育ててもらった。この環境にね。
で、もうほんと、当時の私?......うっ(隠れる素振り)って感じ(笑)
木本先生
(笑)
田中先生
たとえば大学院のときにオフィスをシェアしていたオフィスメイトはレズビアンの人で、レズビアンのコミュニティにも連れて行ってもらったりして。そこで自分はマイノリティなんだけど、スーッと溶け込んでいけたのは、私がアジア系の女でね、ひとりでいるからだったんだと思うんだけど......。まぁいいか、ちょっとなんか変だけど......っていう感じで受け入れてもらったんだろうと思うんだけどさ(笑)。でも私はね、それでセクマイのことなんてわかっているって思ってたわけよ。
木本先生
うん、ああ。
田中先生
レズビアンのことも。友達だったし。でも私の友人、80年代の終わりのアメリカで、自分はレズビアンだ、っていうことは言えないの。テニュアをとるまではね。
木本先生
ああ、うん。そうですね......。
田中先生
テニュアを取ってはじめてコミュニティにカミングアウトしたの。でもさ、80年代の終わりだよ、それも大学街よ?
木本先生
うん......。
田中先生
でも言えないっていう......ね。
でも私は、わかっているつもりだったわけよ。まぁ、ある程度セクシュアリティについて話をするから、セクマイの学生たちも近づいてきてくれたんだと思うんだけども。学生に話を聞いていくと、「なんて私わかってないの?!」っていうことがすっごいわかってくるわけ。
木本先生
ああ~。
田中先生
だから、自分が本当にわかっているなんて思ったらとんでもないことだっていうのを、そこでひしひしと突き付けられた。で、その中で、そことの関係で、ずーっと学んでいったの。
木本先生
うんうん。
田中先生
セクシュアルハラスメントなんてアメリカにいる時からずっと聞いていたし、論じられているものも見てきたし、そういうことあるんだっていうのも分かってて、わかってるつもりになってたわけよ!でも実際セクシュアルハラスメントの被害者の話を聞いてるとね、何をわかってると思ってたの?!バカバカバカバカ!っていう感じよ。
木本先生
うん。
田中先生
だからそういうのでさ、私は本当に育ててもらった。人によって。
CGSを立ち上げる時、5年間私は自分のエネルギーと時間とを捧げます、って決めた。その時にも全然負担に感じなかった......むしろ私はもう、恩返ししなきゃ、って思ったもん。
木本先生
なるほど。
田中先生
恩返し。その人たちに恩返しはできないけど、自分ができるところで、自分が何ができるかっていうことで。そこにやっぱね、CGSを立ち上げる前の10年間の積み重ねが出るわけよ。
木本先生
なるほど~。ああ、私もなんか少し、自分が分かってきたっていうか(笑)。
私が立命館から一橋に移ってきたのは90年なんですよ。でもその時に一橋にはジェンダーの授業はなかったんです。ただ、あとでわかったんですけど、村瀬幸宏先生の授業は同じころ始ってたんです。私、その存在を来たばっかりだったので知らなかったんですけど。
で、私は家族社会学担当だったから、当然のように「ジェンダー」っていうのを全部そこに織り込んでやったんですけど、そんな授業始めてだったんですよ。
そして、当時は教養の一・二年生用の「社会科学概論」っていうのを社会学のスタッフが持ち回りで持ってた時期なんですけど、あなたも半年間そろそろ持ちなさいって話が91年か92年かに来たんです。その時に、「社会科学とジェンダー」って出したら、まだジェンダーっていう言葉をみんながあまりよく知らない時なんで「それなんだ」って感じで、もう階段教室にものすごい数の学生が集まって遠巻きに見てるんです。その時、話をしていくと、身を引いていく人と前のめりになる人とが出てきて、みたいな(笑)。
田中先生・鈴木
(笑)
木本先生
で、授業が終わったとたん、放射線状の階段を駆け下りてくる男女の学生たちがいるんですよ。質問をしに。私は、一橋の学生って活気があるんだぁって思ってたらね、学生に言わせるとね、一橋ってこんなに元気な話をする先生っていないんですっていう話で(笑)
田中先生・鈴木
(笑)
木本先生
私もね、やってみて初めて、そういう学生の受け止めを見て......しかも遠ざかっていく、絶対受け入れられないっていう人もいるわけですよ。それも反応がすごく面白くて。
私はすごくソフトなアプローチしかしなくて、ラディカルには全然やらないんだけど、それでもとっても耳触りだっていう。
田中先生
(笑)
木本先生
そういう人の中の一人は、こんな反応もあるのかって思ったんですけど、「先生の授業ってすっごく嫌いだ」っていうんですよ。「だけどね、僕はずっと聞いてなくちゃいけないと思ってる」っていうんですよ。
田中先生・鈴木
おぉ~。
木本先生
でね、考えた末に、単位の届けは出さないって。自信ないっていうんです。答案だかレポートだかに正解を......自分は正解を書くように訓練されている人間だけれども、この授業に関しては書けないんで、自分は登録しませんよって。......勝手にすればって思ったけど(笑)、でも「登録しないけど聞きますよ」って言いに来るの、わざわざ。
田中先生
へぇ~。
木本先生
面白いでしょ?ああ、そういう反応するんだなって。まぁ、その子なんかはまだいいほうで、気になっちゃって居てくれるんだけど、遠ざかって行ってしまう人ももちろんいるわけですよね。......そういう中でね、そういう意味では私も本当に、学生の窓口みたいなところから学んだことってすごく大きかったなぁって思いましたね。
田中先生
うんうん。
木本先生
うちも遅まきながらセクハラのガイドラインを立ち上げた時、学生に調査したんですけど、本当にびっくりするくらいケースがあるんですね。言えないできたケースがね......。
だからガイドラインを作らなきゃと思い、またこういうプログラム[GenEP]を立ち上げて......これは本当に私たちが下から手をあげて、上からの業務命令だったらきっとやらなかったと思うんですけれども(笑)。下からみんなで、教員でやっていこうと、本当に100%エネルギーの持ち出しでやったんです。
田中先生
うんうん。
木本先生
走ったでしょ?準備の二年間と運営しての二年、四年間で私の人生変わったんですよ。いろんな意味で(笑)
田中先生
(笑)
木本先生
免許証もなくしたしね(笑)。更新の督促が来ているのに忙しくて郵便物を横にしてて、ついに失効していることに去年の春に気がついたんです(笑)。
田中先生
あぁ~!
木本先生
それだけじゃなくて(笑)、友達というか強い絆......こういうボランタリーなことをみんなでやろう、みたいな。そういうものも得たし、学生・院生もバックアップしてくれたし。そう、だからわたしも「恩返し」っていう言葉はあまり思いつかなかったんですけれども、ある意味、趣味としてというか...肩肘張ってオブリゲーションっていうわけじゃなく、バックラッシュがあんなにひどかった時代で、そういうときには足腰強くしていくしかないよねって、
田中先生
うんうん。
木本先生
だったらやっぱりみんながそのことを考える機会っていうのを学生時代・院生時代にちゃんと持つっていうことだよねって。......そういう感じですね。
......でもやっぱり持ち出しています。お金もないし(笑)。そこが私たちの一番つらいところです。
田中先生
辛いですよね。
木本先生
ええ。そこはなんとか模索していかなくてはいけないですけど。
......でもこれ[GenEPのパンフレット等]は私たちが勝手に編集して出したものですが、学生の履修のための分厚い手引書にも1ページもらって、GenEPについて示すっていうのもやってるんですね。だから、パンフレットなどはゲリラ的なわけだけども、そうやってちゃんと教務のシステムの中に組み込んでもらっているので、見ている人たちも「ああ、2年目も走れてよかったね」って見守ってくれてる教員も結構いらっしゃるので、それを頼りにやってるんですけどね。
エスタブリッシュのことに話は戻りますけど、そうするとどうなんでしょう。エスタブリッシュっていうことは、うちよりもICUのほうがずっとね......。
だってもうカリキュラムの中にジェンダーのプログラムがあって、メジャー、マイナーとして取れるっていう......それはある種のエスタブリッシュですよね。
ネットワークにエンパワーされる
田中先生
エスタブリッシュはエスタブリッシュかもしれないけれども、今のこのままでいいって思わなくて......。ICUなんかは小さな大学なので、教員の数なんかも本当に少ないし、そこの中で回していくっていうのはカリキュラムとしては非常に......弱い。
木本先生
あ~はい。内部で......
田中先生
内部で。だからもう少し外部との連携っていうのを強めて、ネットワークを作って学生同士のエクスチェンジやったりできないかっていう風に思っているんですけどね。そっちの方向に行きたいなって。
まぁPGSSも学部から始めたので、これをいつか大学院のレベルに持っていけるような仕組みをいつか作りたいと思うんですけれども、それにもやっぱり、できるだけ外部とのネットワークを作って、そこで単位の互換制度のようなものを作って、カリキュラムをこう......リッチにしたい。
木本先生
うんうん。
田中先生
ジェンダー研究っていうのは要するに、ジェンダー研究のスペシャリストっていう人と、特定の専攻分野でジェンダーの視点から研究する人がいる...例えば社会学とのダブルメジャーにする人と、社会学の中でジェンダーの視点でやっていくっていう......まぁいろいろあると思うんですけど、要するにジェンダー研究にどういう風なアプローチをしていくのかっていうところが重要ですよね。それを、それぞれの大学のそれぞれの教員がそれぞれのやり方で教える。
だれだれ先生につきたいとか、たとえば文学でやりたいとか、どこに所属するかっていうことはおいおい決まるだろうけれども、大学間でネットワークを作ることでいろいろなジェンダー関連の授業を取ることができるように大学院レベルでできないかなぁと思っているんです。
大学院も修士と博士とあるんだけれども、修士はもう学部の延長みたいな感じでね、学部のときにちゃんとできなかったからもう少し勉強したいっていう人が多いと思う。でもPh.Dまで行くってことはスペシャリストになりたい......っていうことですよね。
木本先生
そうですね。
田中先生
Ph.Dのジェンダースペシャリストっていうので、仕事はあるのか......。
木本先生
うーん。
田中先生
だったらもう、既存の専攻分野を主として、例えば文学者、でもジェンダーバリバリ、とか......それだったら文学でポジションがある、とかね。そういうキャリアのところも大学院の後期に入ると......
鈴木
考えますねー。
田中先生
考えるでしょ?だからその辺までつないでいって......そういうネットワークができると学内でジェンダープロパーの教員っていうのは2・3人だとしても、かなり強気の発言ができる(笑)。それは、人事の採用のときでもね、力が出てくるんじゃないかなって。
なぜ私がそういう風な妄想を持っているかというと、キャンパスセクシュアルハラスメント全国ネットワークを作った、あの威力っていうものを実感しているからなんですよ。私はそのメンバーになって、関東ブロックの世話人を戒能民江さんとやったりしていたんですけど、やっぱり一人だったらセクシュアルハラスメントや人権関係についても、言えることっていうのはすごく限られていた、っていう。
木本先生
うん、うん。
田中先生
だけど、私はネットワークにつながっていて、ネットワークでものすごく鍛えられるプロセスがあったから、だから話せる、要求できる。私はキャンパス内でのセクハラ防止のためのポリシー、ガイドラインを作ってださいって、93年から言ってきたんですよ。
木本先生
うんうん。
田中先生
でも、年に一回ぐらい「あれどうなってますか」ってたずねるんだけど、あまり力にはならなかった。日本女性学会の大会の中でセクシュアルハラスメントのワークショップが必ずあって、そこに参加してきた。
だけどキャンパスセクハラのネットワークを作ったっていうのが、私の中ではすごく大きかったんですよ。みんなと一緒にキャンパスセクハラについて考えたり、実際に被害者にあった方に話を聞いたりしたことが大きかった。......それでICUは98年に綱領ができたんですよ。その時、「私がどれだけ言えるか」っていうのは、ネットワークにかかわってきたことで全然違うなって感じた。
木本先生
うん
田中先生
同じようにキャンパスの中でジェンダー・スペシャリストっていうのの数が少なくても、外部とのネットワークがあって、そこに「豊かなもの」っていうのを実感することができたら、学内での発言も結構大きくなって、ジェンダー関係の人を採用するという力も発言力が増してくれば......まぁ、私のイメージとしてですけど(笑)。
木本先生
それは......例えば女性学会ってあるじゃないですか、ネットワークじゃないですけれど。そういう学会組織ではなくて?
田中先生
ではなくて。
木本先生
ああ
田中先生
だから、カリキュラム同士のネットワーク......大学院のね。
木本先生
なるほどね。
田中先生
なぜか分からないんですけれども、これはみんな不思議がるんですけれども、ヌエックがリサーチすると、女性学・ジェンダー研究っていうコースは、日本の大学でものすごくたくさんオファーされてるわけ。
木本先生
うんうん。
田中先生
だけど、カリキュラムがある大学っていうのはものすごく限られているわけ。
木本先生
そうですよね。
田中先生
で、なぜ日本の大学にジェンダーカリキュラムがないのか、なぜ大学のキャンパスにジェンダー研究センターがないのか......数が少ないのか。
私が思うのは、学部・学科の力が強くて、それぞれがお城を築いていて、インター・ディシプリナリーな、横のネットワークを必要とするようなジェンダー研究っていうのは、すごく作りにくいのかなぁ、とか......なぜだと思われます?
木本先生
キャンパスの中をとらえた時にもそう思われるし、また学会レベルで見た時にも、各学会のディシプリンも一つじゃなくて多様な人がいろんな所に入ってて、ジェンダーに関心を寄せてる人っていうのは拾いあげればものすごくいて、授業でも1・2回であれ何回であれそういうものを提供している人って多いと思うんですよね。今どきはね。
だけどそういう人たちが、大学のカリキュラムとして連携して情報交換っていう風にいかないのは......やっぱり個別の、個々の大学の中の事情によるんですかねぇ。
田中先生
私は、キャンパス内でコアに3・4人ぐらいがガッとスクラムを組んでやれば、何とか出来るような気がするんです。だけど、ジェンダー研究をやるとなると社会学と文学っていう風につながっていかなくちゃいけない。......そうすると、その時のお互いの城塞っていうのはすごく高いのかなぁって
木本先生
うん。高いんじゃないでしょうか(笑)
田中先生
高い(笑)
木本先生
そこを低くして連携しないといけないってことになりますかね。
田中先生
うーん......そういうアイディアが、ないのか。それとも自分たちのテリトリーなんだから、なのか。「ジェンダー研究カリキュラムっていうのを成立させるために、ジェンダー関係の文学者を雇おう」っていう意思を持たざるを得ないような状況っていうのは......嫌がる?
木本先生
ああ~。
うちなんかは、人事をやったら「あ、この人ジェンダーできる人だ」って、ついでって言ったらあれですけれども、ね。
それはある意味偶然なんだけども、それぞれの専門のところが発言力を強くして候補を絞っていく時の話なので、ジェンダージェンダーってこちらが言っているわけではないんですけど、結果、あ、またいい人来てくれた、みたいなことにはなってますね、最近。
田中先生
こういう風なプログラムとかカリキュラムがあるっていうことが可視化されて、そして、ばらばらになっているジェンダーじゃなくて一つの......イメージみたいなものがキャンパスにできているってことが、求心力みたいになってるのかしら。
木本先生
いや、そこまでは(笑)。
田中先生
ない?
木本先生
とても......。
ディシプリンを越えたところでの議論がものすごくつながっていて、共感できる場合と、その学問分野の作法に慣れなくて、なかなか理解のとっかかりが得られない場合とがあって、戸惑うことも少なくないですよね。
田中先生
う~ん。
木本先生
うん......。そういうふうに、やっぱり壁は厚くて。それぞれの作法っていうのが全然違っていて、作法が違っていても身近に引き寄せられる、っていうところにも、すごく限界があるなって、思うことがありますけどね。
田中先生
(笑)
鈴木
運営委員会ではどうなってるんですか?
田中先生
今は......
鈴木
文学の先生がおひとりと、
田中先生
文化人類学が二人と、私が社会学。あとコミュニケーション学の方。だから文学の先生がおひとりで、あとは社会科学系なの。
鈴木
文学の先生の学生さんにも、社会学でずっとやっていて、社会学の先生についていて、でも扱っているものが文学の先生のテーマと非常に近いということで、社会学をやりながら文学の先生のところで卒論を書きなさいということになっていたりとか。
田中先生
それは面白い例だよね。
鈴木
そういう学生さんもいるので......これは本当に素人考えですけれど、先生方がほかの方の専門のほうに近寄る必要はなくて、ただ学生さんはたくさんいるから、その中には社会学一本ではそれはかけないだろう、という子もいると思うんです。そうしたら、お互いの領域について"知って"おきさえすれば、メインはあの先生で書きなさいって言えたりできますよね。
木本先生
うちの大学にはサブゼミを取っていろんな所に入り込んだりするっていうのがあるんで、わりとそれができてきてますね。それから、もともと外国語を教えて下さっている先生たちが大学院を作ったんですね。言語社会研究科っていう。そこの人たちはジェンダー・セクシュアリティの文学理論の最先端の研究を担っていて、そこの院生の人たちがときどきサブゼミで大学院のゼミナールを取ってくるとか、そういう形ではつながりはありますね。
田中先生
学生たちはね......。いろんな先生の話を聞いて自分の中でテーマを決めてやっていくので、結構インター・ディシプリナリーですよ。
鈴木
私はその文学の先生のところの学生なんですけど、田中先生の授業を片っ端からとりました。何にも分からない状態で修士に入ってきて、さあ二年間で論文書きなさいって言われた時に、とりあえず、知れるものは全部知っておかなきゃっていう......。だからそのサブゼミのような仕組みは必要だと思います。ただ先生がたの関係っていうのは、学生からはどう......ですかね。重要でしょうか。
田中先生
いや、でもね、話が通じるっていうのは......。
たとえばジェンダーっていう概念一つだって歴史家が言ったり文学者が言ったり社会学者が言ったり......って、いろんな人がいろんなことでやってきてるわけでしょ。文学をテキストにするのか、社会現象っていうのをテキストにするのか、っていう違いはあるにしても、そこのところで共通言語を持っているっていうのがあるので、焦る必要はないけれど、瞬間に分かる必要はないんだけれど、私は目をつぶったままでも......「大丈夫、私たちは話ができる」っていう(笑)「確信」があって。
木本先生
うんうん。話は出来るんですよ。そうそうそう。
たとえばこの先端課題研究っていうのは、12人ぐらいスタッフが入ってくれているんですよ。院生も毎年たくさん集まって、たぶん一番規模が大きい先端研なんです。だけれどもみんな、忙しいでしょ、教員って。
だから報告の番のときは来てくれるんだけど、それ以外はなかなか来れず...ってかんじでしたね。私はずっと出てたので、いろんな人たちの専門の話を聞けて、まぁ、文学の人がいなかった......文学を嫌っているというわけではなく(笑)、私のディシプリンから離れた人がそんなにいなかったので、すっごく楽しめたんですよ。だけど、本当ならみんなに楽しんでほしかったんです。
田中先生
そうですよねぇ~。
木本先生
ほんとうにいま、大学教員が忙しくなっちゃってるでしょ。異常に。
田中先生
忙しいですねぇ。
だけど......教員が疲弊するといい教育っていうのはできないから。あんまりにも教員を忙しくさせるっていうのはね、むちゃくちゃなことになると思いますよ。
木本先生
ほんとですね......。さっきも言いましたけど私たちやマスコミとかいろんなところがね、オムニバスを組んで授業をやっているんですよ。だけどそれはカリキュラムの中に乗っかっているけれども、正規かどうか、本来のノルマの中に入っているかっていうと、ノルマ外をみんなで持ち出しあっている......。
結局、この科目に一コマ出し、次の科目にも出す...ってやっていったら結構な数になったりするわけですよね。
そこをやっぱりきちんと考えて、責任コマっていう考えをもう少しフレキシブルにしてほしいっていう要望をね、少しずつ少しずつ出しているんですけどね。
鈴木
あの、ちょっと、さっき田中先生が大学院同士のネットワークっていうお話があって、ネットワークがあれば逆にキャンパス内で力になる、っていう お話だったじゃないですか。
田中先生
私、そう思うんだよね~。
鈴木
その......幻想のビッグな共同体みたいなものがあれば、それが、先生方だけじゃなくて大学側のほうにも「ある」ってことになったら、力になるってことでしょうか。そうしたら、"田中先生"がなんか言ってる、じゃなくて、"なんかすごくビッグな共同体から来てる田中先生"がなんか言ってる、っていうことになって、それじゃ聞くしかないか、って感じになるってことですよね。
田中先生
そう。
鈴木
それは絶対必要ですよ。
田中先生
やっぱりね、日本女性学会っていうのは、いろんな大学の人が集まってやっているんだけれども、カリキュラムのレベルで連携しているわけではないし、研究者個人があそこに所属しているっていうだけなんだよ。
鈴木
そうすると、「社会学」とかっていうのと比べても弱いですよね。
田中先生
弱い弱い。
鈴木
だって趣味みたいなもんなんだもん、全体。
田中先生
え?(笑)
鈴木
いや、あの、扱いが。「あ、ジェンダー"も"やってらっしゃるんですかぁ」って感じで。で、こっちには「社会学」とか「文学」っていうのがある。
田中先生
ただね、たとえば「文学」っていったって、キャンパスの中ではカリキュラムなんだけど、キャンパスの外にネットワークがあるわけじゃないでしょ。
ジェンダーっていうのは、キャンパスの中でやるって言ったってすごく限られた人しかいないわけだから、そこをアトラクティブなね、カリキュラムにしていくっていうのにはさぁ......。
鈴木
でも文学にも幻想上のネットワークはありますよね。それこそエスタブリッシュされた「文学」っていう権威のようなものが。ジェンダー・セクシュアリティ研究の大学院カリキュラムのネットワークは、そういったものがジェンダー・セクシュアリティ研究に欠けているために必要だ、ということではないんでしょうか。
田中先生
いや、もっと実質的なものを考えてるんだよ。
鈴木
あぁ。
田中先生
自分が、取りたい科目っていうのが他大学にあると、A大学とかB大学とか、で、自分はこれとこれをとったらこれが専門科目としてカウントされてっていう。それとか、ここの、この先生のこれとこれとこれをとって自分の博士論文を書くときに役立てる......。
木本先生
はあ~。
田中先生
そういうのがあると、自分が所属しているのはここの大学なんだけれども、自分のジェンダー研究の土壌っていうのは、自分の大学の外にもガッチリある。それはさぁ、強いわよ~。
鈴木
あぁ、強いですね~。
田中先生
これもう、イメージとして自分のそれぞれの大学名っていうのが自分のアイデンティティっていうよりも、このジェンダー研究っていうのがアイデンティみたいになったら......。
鈴木
いいです、いいです!
田中先生
大学で分断されているっていうんじゃなくて、そこのところを広くジェンダー研究っていうアイデンティティで......ね。
所属しているのは一橋だけど、自分はジェンダー研究やってるっていう、このアイデンティティができる。
鈴木
いいですね~!
田中先生
だって、ナニナニ大学には全然カリキュラムがないけれど、すごく面白いジェンダーの先生がいるっていうのが、こういうポツンポツンポツンっているのが、全部ネットワークできる......って言ったら
鈴木
いいね~、いいですねぇ~。
田中先生
でも!ものすごい難しいのよね。
木本先生
うん(笑)。
田中先生
大学院のそういうのっていうのは。でも、そういうアイディアを持たないと何にも始まんないでしょ?
鈴木
そうですよ。
田中先生
だから、こういうのが欲しいねっていうのをいろんなところで「欲しいね、欲しいね、欲しいね」って言い続ける。
そんなことできないっていう人のほうが圧倒的に多いけれども、これ[CGS]を作るときだって、あんなことできないって言っている人のほうが圧倒的に多かったけれども、言っているうちに「そんなに言うんだったらやってみる?」っていう(笑)。
木本先生
(笑)
鈴木
そうか~。
田中先生
そういうことになるわけよ。
木本先生
大学院レベルですねぇ。
田中先生
学部はね、まだ学内とか非常勤の方々に来てもらっていろいろやるのもありかなって思うけれども、大学院レベルは、学問っていうのを大学の中で完結するのではなくて、次のジェネレーションはさあ、大学の外に出て、この広いネットワークの中で大海を泳ぐっていうイメージが(笑)
木本先生
(笑)
田中先生
......あるんだけど。それができるんじゃない?って。
もうすでにエスタブリッシュされたところは、壊すの大変。既得権にしがみついて壊したがらない人っていうのはいっぱいいるだろうから。でもあたらしいものはさぁ、そこに作り出していくものだからさ、別に壊さなくていい。きっとね、そういう風にしてやったら錚々たるメンバーの、すごいカリキュラムができそうな気がするんだよね。
大学院レベルの地域ネットワーク
鈴木
ですね~!
あの~、でも今ふっと思ったんですけど、実働はだれがやります?スタッフは......
田中先生
そういう風にして動けるところっていったら......たとえばCGSがある、って言ったら......
鈴木
わ~わ~わ~~!!!
ええ~っとぉ~......(笑)、だからその場合は......、CGS三年間はそれしかやらない、みたいな、そんな風に上主導であらかじめ予定を立てておけるなら......。
木本先生
えぇ、すごい!
鈴木
いや仮の話ですけど(笑)!
それぐらいしかないですよ。もうニューズレターも年一回、みたいな(笑)。もしそんな風にできるなら......ってことです。でないと......
田中先生
え~......だって、この効果はすっごい......絶大だよ。
鈴木
まぁ......ですよね。ヤラシイ話になりますけど、それ成功したらCGSもすごいことになりますよ。レピュテーションもバーンですよ(笑)。
田中先生
でもあの~......、だめだったらぺちゃんこだよね(笑)。
鈴木
あそっか。
全員
(笑)
木本先生
いや、ぺちゃんこにはならないわよ(笑)。
私ねぇ、考えたのは......そのイメージは持っていなかったんですけど、点として各大学に存在しているヌエックが調べているような科目を学部なんかで持っている人たちは、みんな孤立分散している可能性が高いんですよね。その人たちをつないで栄養補給とか、あるいは教育実践を伝え合うとか、この頃の学生たちがジェンダー教育にどういう風に影響受けたり、あるいは距離をとったりするかというようなことを分析するようなね、シンポジウムやりたいなっていうのが私の野望なんですよ。
ところが自分とこのお金さえないというね......お金をどっから取ってきてどういう風にしたら出来るかなって、私はまずそこを考えているんです。
田中先生
来年私たちはそれをやろうとしているんです。
木本先生
えっ、本当に?
田中先生
出発しようと思って
木本先生
じゃあ、私たち、お金ないけどそこに乗っからせて......とかって(笑)
田中先生
助成金を申請していて......
木本先生
えっ、どこに?
田中先生
それは、キリスト教系の大学への援助をしているところなんですよね。まだ下りるかどうかは分からないんですけど......。
まずはこの近郊の人たちに呼び掛けてね、2カ月に一回集まって、ゆるやかなネットワークみたいに......まずは自分のところがどうなっているのかっていうようなインフォメーションからでもいいし。
何をどういう風にしてやるのかっていうのはまだ具体的に決めていないけれども、ゆるやかな情報交換をやっていきたい。というのは、私たちはあまりよく知らないからそれを一年やって......次年度はそれをベースに大きなネットワークを稼働させて、アジアのネットワークとつなごうと。
木本先生
おぉ~、すばらしい!
田中先生
そういう2年ぐらいのを......
木本先生
本当に?
田中先生
うん。
木本先生
まぁ、素晴らしい。
田中先生
それで、その一番最後のところをシンポジウムみたいな形にして公開してもいいですよね。
木本先生
うんうん。
田中先生
実際に私たちがどういう状況にあるのかっていうことを、それぞれが情報を共有するところから必要なので、
木本先生
まずは、そうですよね。
田中先生
2カ月に一回ぐらいだったら負担は少ないかもしれないから、だから一人ポツンと孤立した状況のそういう方はたくさんいらっしゃると思うので、
木本先生
思いますよ。
田中先生
どういう風にしてそういう人たちにアクセスできるのかっていうのは難しいかもしれないけれども、そのお金が降りたらチラシを作るなり、ネットに流すなり......何かしながらこのあたりの地域ぐらいから始める......。
あんまりナショナルにするとか、関東って言っちゃうとまたちょっと大変かなって。でもこの地域って結構大学が集まっているから、だからいいかな~って。
木本
なるほど~
田中先生
まぁ、まず手始めに、ゆるやかにやりませんかっていうのでプロポーザルは出したんですよ。
木本先生
通りそうですか?
田中先生
たぶん......通ると思いますよ。
木本先生
どれぐらいの規模のお金?
田中先生
100......
木本先生
うわ~......。
田中先生
この地域だと移動にはそんなにかからないけど、たとえばそういうものを原稿に落としてwebにアップするとかね。第1回に報告されたどこどこの状況、とかね。まぁ公開できるところとできないところはあるのでcloseのところとopenのところは分けて、みんなで共有できるところはwebにアップしていく、というような作業をしてもらわなくてはいけないので、その人件費とか。会場は大学を使えばいいでしょうし、そんなにはお金はかからないんじゃないかなぁとは思っているんですけど、それをまた冊子みたいにするのか、DVDみたいな形で落とすのか、あとは最後にシンポジウムをする時の会場費とそれを知らせるための広告とか......そこをざっくりで100万で申請しているんです。
木本先生
それは2年間の?
田中先生
1年間で
木本先生
つまり当初の一年。
田中先生
ええ、それは一年間で更新していかなくてはいけないものなので......
木本先生
そうすると、シンポとなるともう一つ取ってこなくてはいけないですよね。
田中先生
それを2年目でやるかは、具体的に1年目がどういう風な状況になるのかっていうのを見ながらやらなきゃいけないでしょうね。
本当はここら辺の地区から始めても、やがてもっと広げていって、日本の中のこういうネットワークができれば、アジアのほうにも橋渡しをしていきたい。
日本の中のネットワークがないので、みんな単発でつながっているだけなんですよね。せっかくアジア女性学会ができたんだけれども日本の参加っていうのが本当にできていない。そこんところにつないでいってね、そうするとお互いの状況が分かれば、もっと発言できると思うのよね。自分の発言の場があるし。
みんなそれぞれが、もちろんそれぞれ忙しいっていうのもあるけれども、孤立している。それをなんとか......したい。それを2年間くらいでやっていって、で、それが動いていくようになるとね、また別のステージに行くんだろうと思います。
木本先生
はあ~。いや、私たち本当にお金の目処が......こればっかり言ってますけど(笑)、立たないので、やりたいねって言ってて......
田中先生
ぜひ一緒にやりましょう!ぜひ!
木本先生
ええやりましょう!なんとか。そしてそういう試みなんだっていうことで学内からお金を取ってくるなり、学外からっていうことも考えて......ですね。
田中先生
コアの部分で、100万て言ったのに50万に削られてもできないことはないので、とにかく始める。来年1年かけて2カ月に1回ぐらい集まって、みんなで顔が見える関係っていうのをまずはつくって、それからネットワークだと思うのね。
木本先生
うんうん。
田中先生
あの人......名前しか知らない、っていったらなかなか関係が作れないですよね。だからそこを、ゆるやかに作っていくのが来年度。
木本先生
じゃ、ジェンダー教育っていうのを、もちろん女性学も含むんだけれども、そういうコンセプトでの集まりですよね。
田中先生
そう......ですね。
木本先生
教育ですよね。研究じゃなくて、教育ですもんね。
田中先生
それを、どういう風にするのか......。ただ、教育でもいいし研究でもいいんだけど、研究っていうんだったらもっと、日本女性学会みたいなところがね、活発にやらなくてはいけない。
木本先生
そうそうそうそう。日本女性学会では、そういう教育の問題は考えないんですか?わたし、会員だけど全然出ていないのでごめんなさい(笑)、しらないんですよ。
田中先生
ないですよねぇ......。
木本先生
ないんですか。一番そういうのを作りやすい組織のようにも見えますけど。
田中先生
あそこもやっぱりボランティアで動いてるから、幹事の人も全部ボランティアですから......。
木本先生
もちろんどの学会もみんなそうでしょ?
田中先生
そうですよね。結構、学会を運営するだけでね......前は年に2回やってたじゃないですか。
木本先生
ああ、そうなんですか。
田中先生
最近1回にしたんですけどね、1回にしたから研究会みたいな集まりっていうのにお金を出そうっていっているけれども、それでもそれが活発じゃないし......なんか......なんなんでしょうね?
鈴木
他の分野だったら大会やってたら充分じゃないですか。「今日もためになる話を聞けましたね」程度で終わりでもいいんだと思うんですけど、たとえばフェミだったら、面白い話だったけど何にも世界が変わっていないって言ってしょんぼりして帰ることになるから、あれ?って。次のもう一歩は?っていう感じになるのでは。
田中先生
(笑)要求が出てくるわけね。
鈴木
だから......やっぱり大学の先生が持ち回りでボランタリーでやってる学会がそういう要求をかなえるっていうのは、そもそもそういう発想がないですもん、無理ですよ。
木本先生
うん。
鈴木
国とか......がその人に1千万円どーんとつけるとかならあるかもしれないですけど......。
田中先生
うーん。だけど......それにしても余裕ないですね、日本女性学会。
木本先生
う~ん、そうですか?
田中先生
2カ月に1回ぐらいは集まっていますけれどね、幹事会。
木本先生
あ、そんなに頻繁に?
田中先生
ええ、でも大会関係がメインですよね。バックラッシュのときはバックラッシュをどうするんだっていうことをやりましたけど、あれも不十分だったし......。
まぁ、ジェンダー「教育」っていうのは、ないですね、日本女性学会にはね。ジェンダー研究......研究?まぁ、そういうのの発表みたいな感じならありますけどね。
木本先生
うん、教育ねぇ。もったいないですよね、何にもつなぐものがないっていうのはね。だからそれは本当に、シンポジウムやりたいなって思ってたの。何年かのちに......準備して。
田中先生
うんうん。
木本先生
そして、いい教育実践の人に報告してもらったりして、みんなそこから学んだり出来るでしょ。アジアの人たちもシンポのときにはお呼びして、それぞれの国の中でどういう風にジェンダー教育が展開するのか、課題を持っているのか、っていうようなね。
......やっぱりね、私がいま考えているのは階級の問題なんですよね。いま女女格差とかいろいろ言われてますけれども、うちの卒業生たちが出ていく場面ってわりと......もしかしたらエリートの世界で終わりかもしれない。
だけど社会がこれだけ分裂している中では、どこに着眼するかという問題がでてくる。ジェンダーにも階級差とか階層差とかがあふれて、今また新しいジェンダーの秩序が再構築されようとしている......私たちはまさに今そういう中を生きているわけだから、そこを見るまなざしみたいなものには、やっぱりジェンダーだけじゃ全然足りなくて、いろんなものと交錯させて実際に分析してみなければいけない。
学生たちもその現実を生きていて、諦めたり、自分たちより下の階級には目を閉ざしておこう、それで当面生きられる、とかね......。でもそれじゃだめなんじゃないのかって、そこをどう揺り動かしていけるかってところが、特に教育に身を置く者にはあるじゃないですか。
学生が持っているまなざしっていうのは現実をいろんな意味で映し出していると思うんですよね。そこを私たちが学んで、その学びをみんなに、教育担当者につなげる。......そしてそれをエネルギー補給として、また現場に立ち向かっていく、みたいな......。
なんかそういうことがないとね、知識だけで終わらないわけだから、本当の意味ではエネルギーを発揮できないんじゃないかなと思うんですよね。
分断されずにつながる
田中先生
うーん......。たとえばね、働く女性の全国センターを立ち上げた時に、研究者・学者が本当にいない。
鈴木
参加者に、ですか?
田中先生
参加者......いや会員にいない。だからね、自分の問題っていうんじゃなくてね、「あれらはきっと解雇されたり低賃金で働かされている人たちの集まりだ」っていう風に思われているのかなって。「自分」の問題っていう風になってなくて、「あの人たち」の問題っていう風になっているのかなぁって。それぐらいに、研究者の参加って......。
木本先生
うーん、なんていうか、どういう風に入っていいか分からないっていうか、どういう風に距離を取っていいのか分からないっていうのがあると......
田中先生
でもね、あれは声を上げたのは現場の人たちだったんだけど、現場の人たちがそういう風に声を上げた時に、「おんなじよ!」っていう風にね、自分の問題としてね、飛び込んでいけないんだろうかっていうね......。
鈴木
......普通に会員費払うだけでも......。
田中先生
会員費払うだけでもねぇ、だって年会費1000円だよ?(笑)何で1000円かっていったら、ものすごく大変な人たちがちゃんと入れるようにするためだから。でも、1000円以上払ってもいいのよ、1万でも2万でも(笑)。
だけどね、そこのところのコンセプトをそういう風に設定すると「自分たちの問題じゃない」っていう距離の取られ方をするのか知らないけど......。同じような環境に置かれている人たちだけじゃなくって、教育関係の人たち、研究者の人たちにもっともっとアピールしていかなくちゃいけないなぁって......。私たちがアピールしていかなくちゃいけないターゲットが、もっとこう......。
鈴木
その一歩引いた感じってなんなんでしょうかね。
田中先生
なんなんだろうなぁ。
鈴木
遠慮......なんですかね?
木本先生
自分たちの問題じゃないから関係ないや、っていう反応とは限らないと思うんですよね。その組織の性格とか、また研究者であれば、自分たちが持っている知識がどう役に立つかとか......。やっぱりそこのところのつなぎ目がちょっと見えづらいと、いろんな組織ができてきても、いつもいつもフォーカスしていないので、何か......どうかかわっていいか分からないっていう、そっちのほうが強いんじゃないですか?
私なんかはどっちかというとそうですよ。「関係ないわあの人たち」なんて全然思わなくって、どういう風に私たちに......出来ることがあるんだろうかっていうことは考えますよ。
田中先生
リーチの仕方がね......。
まぁ2年目で、情報を全国に発信するというと、全国センターっていうのは関東ブロックとかと違ってものすごく大変なんですよね。
でもそこのところのアピールの仕方がね......現場の人たち、つまり働いていていろんな問題に直面しているその人たちをターゲットにしているのか......。
女性ユニオンがネットワークの骨子に入っていて、そこにシングルマザーの人たちとかDV関係の運動をしている人たちとか、女性の団体とか、そういういう人たちがメインで声をあげたんですよね。だから、現場の目線っていうのが主になっていて、たとえば弁護士とか、教員とか研究者とかっていうところへのアピールっていうのが......少ないのかなぁって。
鈴木
アピール側の問題......ですか?
田中先生
うーん、ただね、アピールするって......会費1000円だったらね......お金がないんですよね(笑)。だけどそれをやっていかないと、みんなの運動にならないなって最近思うんですよね。
木本先生
やっぱりその、性格なんかのアピールっていうのが十分に見えないところもあるんじゃないでしょうか。たとえば、Working Women's Networkなんかは、私は入りやすかったんですよね。
田中先生
うんうん。あれは裁判を闘うというところで立ち上げたんですよね。
木本先生
ええ。だから位置関係がはっきりしているし、お役に立てることがあるかもしれないし、すごく学ぶことがある。裁判を闘っている人たちからいろんなことを教えてもらったりって......。
「私はインテリです」とか「知的な奉仕ができます」みたいな意識は全然なく、すっと......。ネットワークだし、ゆるやかだし。
田中先生
あれって教員とか弁護士は結構多かったんですよね。
木本先生
ええ、結構入っていますよ、あれは。
田中先生
ああ~......。本当に、片手間にやるというのは本当に難しい......。あそこは二人ほど定年退職した人が中心になってやってるからエネルギーもものすごくあるし......。
木本先生
いえ、当初は定年になっていなかったんですよ。まだ商社に勤めてたんだけど、その後定年になってっていう......。
田中先生
それで、ものすごく求心力がある。
木本先生
凄いですよね。
田中先生
それは、専任を置かないとやっぱり無理。
木本先生
でもこれNPOでしょ?
田中先生
いやまだNPOになってないの。立ち上げたばっかりだから。私は、これはね、私が退職した時に......
木本先生
あと何年ですか......とか言って(笑)。
田中先生
(笑)あと4年なんだけど、退職するときにこれを作りたい!とずっと思ってたのよ。でも危機的な状況にどんどんどんどんなっていって、「どうするこれ?!」って、「今だよね!」って......だってもう、派遣法があんな風になって労働契約法がこんな風になって...とか、国のほうがものすごいいきおいで規制緩和をダンダンダンダンとやってくるわけでしょ。
木本先生
うん。
田中先生
これ、5年待ったらどうなんのぉ?っていう......(笑)
木本先生
ハァ......。
田中先生
大変ですよね......。
だけど、なんかねぇ、横につながっていく力っていうのをみんなが持たなきゃいけなくって......つねにつねに分断する力が働くから、そこをうまくつないでいく。
分断しないでつないでいくっていう、この賢さっていうかさ、知恵をさ......。そのためには抱え込まない、自分の領土っていう風に。
鈴木
うん。本当にそうですよね。
ただその時に......なんていうか、さっきの持ち出しの話に戻るんですけど、どれぐらいやるかっていうことって共有されたほうがよくないですか?
田中先生
え......?
鈴木
すいません。つまり......出来る時に出来るだけやるっていう......。「あ、ちょっと今は無理、また余力ができたらやるから、今はごめん」みたいなのっていうのは......
田中先生
あ、全然それはいいのよ。
木本先生
うん。
鈴木
ですよね。ありですよね?
でもそこら辺が共有されていない感じもするんです。関わるといったらフルパワーか、あるいははじめから0か、みたいな......。フルパワーで関わるなら、もちろん結果は出さなくちゃいけないし......って。そうするともう自分の陣地を抱え込むしかなくなるんじゃないかな。
で、分断......。
田中先生
ああ~そうか。
うーん、私ね......。
......わたしは実は、私が死ぬまで変わらないだろうなぁって思って生きてきたの(笑)。だからすぐに変わらなきゃどうこうっていうなんて、そんなおこがましい。一人の人間が何かやってザーっと変わるなんて、そんなこと期待なんかできないよ。
......だけど!できるところはやる、っていうぐらいでないと......生きていかれないよ(笑)。
鈴木
はい(笑)。
田中先生
やっぱり、やれるところでやっていくぐらいしかないし。体こわしました、なんていったらさぁ、研究も何にもできなくなってマイナスのほうが大きい。だから、そこのところを調整しながらできるところをやっていくっていうのがスタンス、ですよね。
木本先生
そうですね。
田中先生
自分の出来るところでフェミ(笑)。
木本先生
(笑)
田中先生
でも、カリキュラムについてはね、ほんとうに大学の外に開いていきたいっていうのが、私の要望としてはあって
木本先生
なるほどね。
田中先生
それがどれぐらいできるかっていうのはまだ分からないけど、人的なネットワークのほうは呼びかけて...まあできるだろうと。カリキュラムは大学を相手にしなきゃいけないからこれはちょっと準備がね......、まぁそんなに簡単にはできないだろうと。
でも、人的ネットワークができて、それを積み上げる中でどっちの方向に行くのかっていうときに、そういうアイディアが出てきたらあるいは......。
そうすると「21世紀はこっちよ!」っていう風になる。20世紀の学問っていうのはこういう感じだったかも知れないけど、もうグローバル化の時代、21世紀はネットワークよ、って、ある程度ストックができるとそっちへ動かす力も出てくる。......今は口だけですけど(笑)。
木本先生
私たぶん......田中さんはほら、サバティカルとられて元気だから(笑)
田中先生
(笑)
木本先生
私は疲弊している(笑)。それもあるし......で、私はもうちょっと手前のところでさっきのものを考えていて、やっぱり一人一人の担当者の思いによって支えられている科目ってすごく多くて、その人がつぶれちゃったらもう供給できませんっていう性格だと思うんです。それこそくたびれちゃったらちょっと......だし、バックラッシュをすごく感じれば、もうやって行けなくなったりする。
そういう人たちが、ちゃんとほかの大学にもこんな人たちがいて、みんなそれぞれの条件は限られているけれどもやっているんだっていうのを知るっていうこととか、場合によってはサポートできることがあるかどうかとか、教材で、もっとこういうののほうが面白くてインパクトあるよ、とか、学生の意識の分析だとか、なんかそういうエネルギー補填のような合流、それがしたいんですね。そこの場に行ったら何か学べるっていう、ね。
だからこの近郊っていうのはたしかにすごく現実的で、まぁ、お金かけずに集まれる範囲なので(笑)、そこからスタートさせていくっていうのは大事ですよね。それやりたいなぁ。
田中先生
で、ホームページ作ってリンクして、そこにみんながアクセスできるような感じでね。それで、「あ、あそこで面白いことやってる!」ってなると、来れない人でも元気になる。そういうところあるじゃないですか。それで少しずつ少しずつ広げていく。いっぺんに全国というのはね......
木本先生
そのイメージだと、やっぱり学部科目も視野に、っていうかむしろそこを入れたいんですね。大学院はまぁ、あるところとないところがあるしね。
田中先生
あ、それは、ジェンダー研究をやっている人のネットワークっていうことで......
木本先生
そうそうそう。
鈴木
実際に単位互換という形にする時は、単位互換制度を使って事実上っていうか......部分的に進めるんですか?
田中先生
いや、一番初めはどこか二つの大学の間でそういうシステムを結んで、こっちの二つでもやって、こっちでもやって......って、そのうちに、あ、じゃあこれとこれもつないで~っていう風にして実質的に積み上げていくっていうのも、一つの手としてアリだから。
木本先生
そうそう。
鈴木
その、最終的につながっていくまでっていうのは、時間的にどれぐらいを考えてらっしゃいますか。
田中先生
大学院で?5年か10年。だから、2‐3年ぐらいで人的な、顔が見えるネットワークを作って......。やっぱり信頼関係って重要だと思うのね。で、そこで問題点を共有し、弱いところは......そっとしておいて(笑)、強いところを強めていく。小さかったら小さいなりの強いところと弱いところがあって、大きいなら大きいなりに強いところと弱いところがあるので、それぞれ強みを生かすような形で補ってくような形で信頼関係ができたら、わりかし大学教員って動くじゃないですか、だからそんなに難しくないかなぁって。
木本先生
うん。
田中先生
でもその前には、たとえば二つの間での単位互換制度なんかを少しずつ少しずつ始めていって、それができるうちに人のネットワークもできるし、そういうカリキュラムの積み重ねもできる。5年ぐらいで出来たら万々歳だけど、でも、大学院のカリキュラムを作るだけの力っていうのは、今の私たちにはないので......。というか、今のPGSSをそのまま使えばできないことはないと私は思うんだけど、でも、もうひと働きしなきゃいけないのね。
でね、このもうひと働きするタイミングがね......。
その時に外とのつながりがあるっていうのはすごい強い。
木本先生
なるほどね。
田中先生
やっぱり外とつながりがあって、しかも、なんていうか......今ではなく「将来」を見てる...だから、エネルギーが積み上がってく。......エネルギーが生まれてくるのね。そのような感じのアピールをしていく。
そんなことできるはずがないっていうリアクションがはじめはあるのよ。一番初めは。でも、少しずつ少しずつ積み上げていって言い続けていく。ダメだって言われても言い続けていく。できないって言われても言い続けていく。少しずつ少しずつやってると、既成事実みたいに「なんでやらないんですか?」っていう風になってくる(笑)。私の実感としてね。
このキャンパスでも「やらないんですか?」って言い続けた。そしたら!CGSができたら今度は「なんでCGSとかいうのが1年で出来るんだ」って......。
なんていうことっ、10年間かけてんですよ!って(笑)。そういう風にしてやっていかないとね......。だけどそのとき、つながっていくと力になるから、「できない」とか言われたって「へっ」て感じで受け流すことができる。
木本先生
そう!だから私たちのセンターなんか、空っぽなわけですよ(笑)。部屋代をやっと調達し、人もついていないわけでしょ、予算が付いていないわけだから。みんなボランティアでやっていくしかなくて持ち出してる......。
でもやっぱり、センターがあるっていうのは、外から見た時に、「ああ、一橋がんばってますね」みたいな......。それで、「ほら、がんばってるってみんなが見てくれてるんだからお金くださいよ」とかね、たとえばね(笑)。
田中先生
(笑)
木本先生
そういう風にプレッシャーかけていけるでしょ。この報告書も、「ほらこれ立派でしょ。これ、他大学の人が欲しがって下さるからすごくありがたいんです」と宣伝しまくるんですよ。
田中先生
(笑)
木本先生
だから何かね、幻想が......組織なりなんなりがそれらしい形でとにかく存続していくと、そこが基盤になって、受け皿になってあるイメージを外的にも内的にも与え続けることができますよね。
田中先生
そうね。
木本先生
それでやるしかない。......ドアを開けたら空っぽなんだけど(笑)
田中先生
でもお金がないっていうのはねぇ
木本先生
いちばん悲しいことですね。でもね、下から手をあげて自分たちの志でやったんだっていうのが支えなんですよね。人から言いつけられてやっているんじゃない、業務命令じゃない。だったら自分たちの力が尽きるまで......っていうとあれですけれど。まぁ、頑張ろうっていう、そういう感じ。
田中先生
ホント、ぜひこれを......
木本先生
これを実現したいですね!
田中先生
ええ!
木本先生
これ、具体的にはどうしますか?
田中先生
ええとですね、その助成金がおりるとしても5月の末なので6月からなんですけど、それはもう全然関係なくて
木本先生
準備はしていけばいいんですもんね。
田中先生
ええ。だからちょっと、まわりのひとに声かけをして、具体的に顔を知っている方たち、一橋の方たちとか、そのほかにも周りの大学で教えてらっしゃる方とか、
木本先生
そうやってリストをもうあげていってね、
田中先生
そう、それで声かけをしてね、「一度集まりませんか」とか言って......。まぁ私たちは2カ月に一回ぐらい集まるっていうようなイメージを持ってたんだけれども、どんな風にしていきましょうかねってところから......。
一応プロジェクトを立ちあげたので、来年はCGSが事務局になっていろいろなことをやりたいとは思っているんです。
木本先生
そうですね、具体的に声をかける範囲を決めて、春から準備していけますよね。
田中先生
そうなんですか。まぁ、まずはすぐに集まることができるような、一日がかりで来るっていうようなんじゃなくって......
木本先生
結構いらっしゃるとおもいますよ。大学いっぱいありますよね。ヌエックで検索してリストアップして、知っているかたには直接お知らせすればいいし、知らない方にはメールで......。
鈴木
結構もう情報収集とかはしてるんですか?それともまっさら......
田中先生
まっさら
鈴木
じゃあまずはリストを作ってって感じですね。非常勤の先生とかはどうしますか?
田中先生
非常勤の先生も入ってもらったほうがいいと思いますよ。
木本先生
そうね。
田中先生
若い人たちは非常勤が多いし。その人たちが入ってきてエンパワーするっていうのは
木本先生
そうね、非常勤部会ができたらいいですよね。
田中先生
いいですし、そこには常勤に物申したい人たちがいるかもしれないし、それはちゃんと受け入れていくことができるような組織にしないと、なんか......自分たちだけの集まり、みたいになっちゃうからね。
鈴木
たしかに。
木本先生
いろんなセンターがそれをそれぞれ位置づけてくれると強いですよね。
田中先生
回ってもいいですよね。一橋でやって~、ICUでやって~、って。
木本先生
で、それぞれのホームページにそれを載せていけばね、派手になる(笑)
田中先生
活動してますぅ~って(笑)。
こういうね、構想とかそういうの、大好き!
木本先生
何とか......したいですね。これはもう、お金がないから私の野望は潰えるかなぁと思いながら......
田中先生
いやいや、お金なくてもできますよ。
木本先生
ですね。そんな感じしてきましたね。シンポまで持っていって......シンポまではまぁ、2年かかってもいいわけだし、もっと先でもいいわけだから。
田中先生
まぁ様子を見ながら。私たちが考えていなかったような要望とか、こう......ニーズみたいなのがあるかもしれないから、それをくみ出して。またそれを自分たちの知恵として、それをこう、提供していくっていう風にすると、すごく活力のあるネットワークになっていくと思う。
木本先生
そうですよね~。
田中先生
私はね、すごくニーズがあると思う。あの、キャンパスセクハラのネットワークの時なんかね、ものすごいニーズがあったんですよ。
木本先生
あの時はまさにそうでしたよ。だって文科省が圧力かけて作れ作れって言ってきて、その前でしょ?ネットワークは。
私は、ネットワークは会員で、お金払ってただけだけど、ニュース読むだけでもすごい勉強になって。
鈴木
ああ、ノウハウの発信も役に立つんですね。
木本先生
そう。しかもあのネットではね、査定というか、もうすでにさしあがったガイドラインを査定して、「これはアプローチしづらい、ペケ」とか、「告発していったら逆につぶされる」、とかね。
田中先生
(笑)
木本先生
あ、そういう機能も果たすんだって。
私たちのところは「絶対これはやったらだめだよね」って。私たちは後発だったのでそういうのにまなびながら作っていったんですよ。
田中先生
いや~もう手探りですよ。
木本先生
そうでしょうね。最初の段階ですもんね。
田中先生
みんな手探りだけどとにかく必要!って、そういう思いだけで集まって。ある時なんか京都にみんなで泊りがけで行って、夜中までかかって添削して、じゃ、これで文部省に送ろうって。......けんもほろろにポイッてやられたけど(笑)。でもその時は「必要!」っていう思いがものすっごくあったのにいろんなところで孤立してたからね。
木本先生
うん
田中先生
今そういう風な思いで孤立している人たちっていうのがいれば......
鈴木
......幻想のメインストリーム感が得られると思います。自分は、自分の研究はメインストリーム、って。で、元気が出る。
木本先生
そうそうそう。
田中先生
やってていい、と。
木本先生
うん。で、他所の大学にあんなセンターあっていいな、とか、あんなカリキュラムあっていいな、でもそこと繋がっているよ、っていうのってすっごく大事ですよね。
田中先生
うん。
......ぜひ、やりましょう。
全員
(拍手)
田中先生
(笑)
木本先生
今日の成果(笑)。
田中先生・鈴木
(笑)
木本先生
でもね、まだ私たちのCGraSS(Center for Gender Research and Social Sciences:一橋大学ジェンダー社会学研究センター)のところでも、「やりたいんだけど」っていうのは言っているんだけど、誰も本気にはしてくれていないというか、「お金ないでしょまず」って言われて、ホントすみませんって感じで(笑)。
まず目の前を生きていかなきゃいけないしっていう(笑)。
だから野望なんですよ。見果てぬ野望。でも、ね、一歩進めるかもしれない。
田中先生
やっぱりこう、コアになって......意志を持った人たちが何人かいれば、呼びかけて活動をしていくことができるから。
木本先生
うん
田中先生
そこの中で......わりかし共有している考えっていうのがあればね、いろんなことがあったとしても、ぶれないでいけるし。
木本先生
ですね。
田中先生
ぜひ
木本先生
はい。やりましょう!
田中先生
よろしくお願いします。
木本先生
ぜひぜひよろしくお願いします。
田中先生
そんなに大変なことをやるわけじゃなくて、地道にね。それぞれがエンパワーされて「あ~、今日は楽しかった」って言える。あとは、「学んだ」とか「あの人のことをよく知ることができた」とか、「自分が今まで知らなかったような問題っていうのがあるんだって知ることができた」とかっていうふうになると、自分の世界が広がった感じでうれしいんですけど。
木本先生
うんうん。
田中先生
イメージがないとね。どういう風にしていくのか、何を求めていくのか。集まっただけじゃなくて、その次のステップに何があるかっていうのをイメージしていないと。
木本先生
そうですね。
田中先生
では、よろしくお願いいたします。
木本先生
はい、よろしくお願いいたします。
鈴木
本日はありがとうございました。