報告:「自己尊重・コミュニケーショントレーニング」心のクセ 見なおしてみませんか~自分が変われば、相手が変わる~

ICU大学院:丹羽尊子
【CGS Newsletter011掲載記事】【ペーパー版と同一の文章を掲載】

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CGS主催「自己尊重・コミュニケーショントレーニング」について、この企画に携わったCGSスタッフとして報告したい。このイベントは5回に亘って行なわれたワークショップ(以下WS)で、各回のタイトルは以下の通りである。
・第1回「私の短所を長所に」
・第2回「ストレスに対処する」
・第3回「肯定的に話すスキルを身につけよう」
・第4回「怒りを理解する」
・第5回「職場で使えるハラスメント対策・コミュニケーション術」

本WSには予想以上の参加希望者があり、企画者として嬉しかったのと同時に、これほど多くの人が人間関係に悩みを抱えているのだとも実感し、改めて現代社会で生きていくことの難しさを突き付けられたように思った。

特にサブタイトル「心のクセ 見なおしてみませんか」に心を引かれて参加を希望した方が多かったようだ。「心のクセ」とはなんだろうか。「クセ」は、「ある人が無意識的にしばしば行うちょっとした動作」(大辞林)であるという。行動にクセがあるように思考にもクセはある。話をしてみると、例えば「許せる」ものと「許せない」もの、その線引きには個人差がある。こういった物事への判断・考え方・その後の行動は、反射的となっていることも多い。これが「心のクセ」である。そして、クセは無意識だから直せない、というものでもない。講師の高山直子氏によれば、そんなクセが自分にもあると意識するだけでも意外に効果があるものだという。
例えば、「NOと言ったら冷たい人と思われるかもしれない」という不安はごくありふれたものである。一度だれかと関わりを持つと「いつ・どんな時でもその相手を受け入れる必要がある」と暗に感じている人は意外と多い。しかし、冷静になって考えてみれば、「いつ・どんな時にも相手を受け入れる」ことができる人など、どこにもいないことは明らかである。この冷静になれば当たり前の事実は、同時に逆の真理を伝えてもいる。つまり、「どんな時でも他人に受け入れてもらえる人もいない」ということだ。こういったことに気づけず、"受け入れる"か"拒否"かの二つしか選択肢がない世界で生きていては、どちらに転んでもかなりツライ。でも、もしかしたらそれは単なる「心のクセ」かもしれないのだ。
高山氏によれば、"受け入れる"と"拒否"の間には、実は「受けとめる」という地点があるのだという。「受けとめる」とは、話は聞くが、要求を飲むわけではない、という状態である。つまり、私たちには「相手の行動や要求を受け入れることができなくても、その気持ちだけは受けとめる」という選択肢もありうるのだ。これを知ることは、行動を受け入れてもらえなくても、気持ちは真剣に受けとめてもらえるかもしれない、という可能性に気づくことでもある。
何もかも受け入れなくて良いなら、逆に、受け入れられない部分があるからといって全て拒否する必要もない。これならもう少しリラックスして人間関係を結ぶことができるのではないだろうか。「怒り」のような対処の難しい自分自身の心の動きに対しても、拒否(抑圧)か受け入れる(爆発)かの二択をはなれ、「受けとめる」ことができれば、きっともっと楽になる。そして、その変化はいずれ周りにも伝わるだろう。自分が変われば相手も変わる。その小さな変化はやがて世界を変えるだろう。こう願うことはナイーブに過ぎるかもしれないが、このWSはそれだけの希望を私の胸に灯した。

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