報告:2009年度日本女性学会

ICU大学院修了:丹羽尊子
【CGS Newsletter012掲載記事】【ペーパー版と同一の文章を掲載】

2009年6月27・28日、お茶の水女子大学において日本女性学会大会が行われた。一般会員から分科会担当を募集したり、初日に行われることの多いシンポジウムをまとめとして最終日に行う等、学会設立から30年という歴史に安住せず、未来に向けた意欲が感じられる大会であった。
シンポジウムでは「今ジェンダーの視点で問い直す貧困と労働」というテーマで、栗田隆子(フリーターズフリー)、赤石千衣子(しんぐるまざぁず・ふぉーらむ)、田中かず子(女性ユニオン東京・働く女性の全国センター(ACW2))の3氏による発表が行われた。

栗田氏の発表は、独身女性+フリーター=「フリーター独女」という発表者自身を、フリーターである点からも女性である点からも従来の労働者の枠組みから外れており、従って労働者にもなれず、さりとて母性神話にとりこまれ無償労働に従事することもできない存在であると説明する。"結婚するからいい"と無視されてきた存在としての自らの懊悩と、それを引き受けて先に進むことの展望が示された。
赤石氏によれば、日本のシングルマザーの就労率は世界で4番目に高い(84.5%)にも拘らず、非正規雇用が多く、二重・三重就労をしても収入は低いという。生き延びるためには各種手当が欠かせないにも拘らず、就労支援を名目に福祉を切り捨てるという世界的なトレンドによって、さらに苦しい状況に追い詰められていくという現状がリポートされた。
最後の田中氏の発表は、女性の労働・貧困をめぐる、日本女性学会の歩みを社会状況の変遷を交えて概括し、ジェンダー・女性学の今後を展望するものであった。
それぞれ異なった立場からの発表であったが、女性の貧困の現状の把握と可視化及び女性の生き方のオルタナティヴの提示、という予め設定されたテーマの他にも、3氏の発表には「つながる」という共通のキーワードがあったように思う。
一般に、ある問題への解決策として「連帯」や「つながり」が示されることは多く、これは特に女性の問題で顕著である。しかし、今回のシンポジウムで興味深かったのは、「差異」の認識こそが「つながり」に必要なものだ、という視点もまた、三氏に共通して提示されていた点である。
そのことは栗田氏の発表タイトル "「他女」と関わること"にも端的に現れている。この「他女」という言葉は哲学用語の「他性」から発想されたものというが、「女性」という言葉に集う人々同士の「他性」をどう認めあうのか、「女」であっても「他者」であることを経験していくことの積み重なりこそが重要である、とする栗田氏の言葉は、理想としての「つながり」ではなく、「つながり」それ自身を生き永らえさせるための前提を改めて提示するものであったように思う。
安易に「女性」という共通項に寄りかかってしまいがちで、女性同士であっても個々人それぞれ様々である、ということは自明のことのようでありながら、意外にはっきりとは意識されていない。これは「女性」だけに限ったことではないが、安易な共通項への依存は、それがために"些細な違いが気になり許せない"という反目を生み、離合集散を繰り返すという悲劇の引き金ともなりかねないのではないだろうか。
自分と他人は違うし、他人は自分と違う。同じ部分があっても全てが同じというわけではない。この当たり前の事実を不断に確認し続け、その上で自分は何ができるのか、と問い続けることが、「つながる」ことへの第一歩であり、また、「つながり」の存続がかかる命綱なのではないだろうか。

月別 アーカイブ