ICUに保育施設を作ろう!「保育施設創りproject」発足記念座談会

【CGS Newsletter012掲載記事の全文バージョンです。ダイジェスト版はこちらからお読み下さい。】

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酒井さんのプロジェクト名がICRSU(ICU Child-Rearing Support Union)と決まりました!
e-mail---> icrsu.since2009@gmail.com
URL---> http://groups.google.co.jp/group/ICRSU
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鈴木(CGSスタッフ。以下:鈴)
今日はお集まりいただきましてありがとうございます。今日はICUの保育施設について学生さんの間で動きがあったということで、そこら辺のお話をお伺いしたく、皆様にお声をおかけしたという次第です。ここで情報を共有して、より実現性の高いプロジェクトをお互いに進めていけたらと考えております。
じつはCGSはですね、かつてICUにおける保育施設の実現の可能性を探ってみたことがあるのですが、やはり学生のニーズが見えてこないと大学側も新しいことには踏み切れないのだろうな......という感触を得て話が止まり、その後は次の一歩を踏みだしあぐねているうちに時間がたってしまった......という状況にあります。なので今回の学生さんからの動きというのは本当にすごいことだと感じていて、思わず飛びついてしまいました。
まずは6月16日に行われた「保育施設創りproject」の説明会のお話から伺ってみたいと思います。聞くところによると、大変盛況だったということですが......

二木泉(CGSスタッフ。以下:二)
すごくたくさん来てました。32人......ぐらいかな?

高畑乃枝(ICU学生・学生新聞「探求」記者。以下:高)
33かな?


あ、じゃあ滑り出しとしてはかなりたくさんですね!

生駒夏美(ICU教授。以下:生)
すごいよね!ビックリした。


あ、予想としてはもうちょっと小さい規模を......。


そう。本館102(小教室)でやったぐらいだから......。結局椅子が足りなくなって他所から持ってくるぐらい。


教室あけてびっくりしちゃった。違うところに来ちゃったかと一瞬思ったけど、二木さんいるからやっぱりここでいいのかって(笑)


話としては「これからプロジェクトの方向性について考えて行こう」って言う感じだったんだけど、参加者からの質問がすごく具体的で、たとえば「法律で保育士さんは雇わないといけないと思うんですけど、そうするとお金が必要になってきますがそこら辺はどうでしょう」みたいな感じで、話がどんどん具体的になってたのが印象的だった。何だろう......関心がある人が多いのか、重要な問題として考えてるのかなぁ。


うん、考え始めている人は多いと思うなぁ。


今は逆に託児施設がないほうが珍しいんですよね。

参加者
うんうんうん。


国立がやらないといけない状況になったっていうのもあって、増えてきているっていうのと、あとは女子大は元々多いような印象がある......それと保育関係の学科のあるところも。


そう。2008年3月に大学を一覧にしている人がいて、2008年1月現在ですごいたくさんあってビックリした。


ただICUと似た大学......例えばSFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)のような、都心から離れていて、駅からも遠くて、学生も少なくて、共学で......という大学はやっぱり設置されていないケースが多い......。


あぁ、そうなんだ......。


SFCって、たしか最近保育のサービスが......


はい、ベビーシッター制度のようなものが確か......


ですよね。


ただ、ICUと似た条件の大学には「国立みたいにしっかりと......」っていうケースはなくて、そう考えるとICUの条件っていうのは厳しいですよね。


津田塾大学が......やっているけどあれは女子大だね......。


やっぱり「女子」の問題としてとらえられてしまっているのかねぇ。


そうなんじゃない?


女子大のほうが女性の先生も多かったりするんでしょうか。


そういうことはあると思いますよ。


そうすると決定権も女性の教員が握っていたりとか......


いや〜......大学はまた違うのかもしれないけど、一般企業だと、たとえ社員に女性が多くても上のポストは男性が占めてるっていうのはよくある図式なので、それは一概に言えないんじゃないかな......。


ああ......。


でも上のポストがどうこうといっても、やっぱり人数の力は大きいし、あと冒頭でも言ったけれども、大学にとって学生というのは「お客様」であるという側面もあって、そのお客様が全員女性だということは大学を動かしうると思う。


そう考えるとICUも女子のほうが多いので......。

参加者
ああ〜


どれくらいの比率なんでしたっけ。


6:4......?たしかそれくらい。
[※正確には、2009年10月の時点で男子1,090人、女子 1,865人]


大学って、共学だったら男子が多いのが当たり前の中で、そこが逆転してるというのは本当に女子が多いと考えていいと思います。


それでも......ねぇ。


いやぁ〜難しいね。

参加者
.........


(笑)話が止まってしまいましたが、保育施設作りprojectを特集された学生新聞「探求」のことをちょっとお聞きしたいと思います。2009年6月に第一号を発行されましたが、これは今後どのくらいのペースで発行なさるご予定なのですか?

坂本進(ICU学生・学生新聞「探求」記者。以下:坂)
え〜っと、まだ詳しいことまで考えていないのですけど......(笑)

参加者
(笑)


お2人とも4年生......


そうです。


あら、ということは次代を育てることも必要に......


そうですね、もう何人かやりたいって言って来てくれた人がいたんで、ホント......


ホッとして......(笑)

参加者
(笑)


それは一安心ですね。それにしても「探求」ってすごい名前ですよね〜。


いいよスゴクいい名前。


ICU生はもともと真面目な人が多いので、そういうほうがアピールするかなあっていうのもあって(笑)。


それはいい狙いだね(笑)。


実は2人とも五月病にかかってしまって......途中ずいぶん滞ったんですけど(笑)


一週間ぐらい......


音信不通になって(笑)。廊下でばったり会ってさすがに「やろっか」ってなってやっと......


6月にもなったしねって(笑)。そんな危機がありつつ......

参加者
(笑)


今後はどんな記事を掲載しようと考えているんですか?


今後は......なんか考えてる?

参加者
(笑)


私はこの酒井さん(ICU学生・保育施設創りproject主催で本座談会の参加者。あとから合流)の活動をずっと追っていきたいというのと、先生方のご意見を聞くと、他の大学の状況を取材してどんどん伝えたほうがいいよ、というお話をよく聞くので、そこら辺も学生が知りたがっているところだと思うので、取材していきたいです。ただ夏からアメリカに留学するので、戦線離脱になってしまうんですが......(笑)


(笑)はい......


じゃあアメリカからの情報を......


そうですね。コラム、とかいって(笑)。アメリカの大学における子育て支援の状況とかを書くのもいいかもしれません。


アメリカはもっとひどいんだよね。実はね。私も8月からアメリカのボストンに行くんですけど、高畑さんはどちらに......


ノースカロライナです。


じゃあ結構近い......といえば近い......か(笑)

参加者
(笑)


そのアメリカのひどさというのは、お金を持っている人が自分で勝手に預ければ?って感じなんですか?


そうでももう「ヤバイ」レベルで(笑)、ちゃんとした保育施設は月に23万とか......


はぁ〜?


ありえないでしょ?

参加者
(笑)


いや、だって、月に23万も稼げないんですけど(笑)。


それだけで家計マイナス......


はぁ〜?と思って......でもとりあえず何とかしなくちゃいけないから、フルタイムはそんな感じでありえないので諦めて、パートタイムなら半額だから......半額っていっても13万ぐらいなんだけど、その条件でとにかく申し込めるところには全部申し込んだんだけど「ウェイティングリスト70人です」とか言われちゃって......


えぇぇぇ〜?!


断りのレターが次々と舞い込んでいま凹んでいるところです......。


思ってたよりひどいんですね......


私も搾取に加担せざるを得ないのかも......と悶々と悩んでしまって


ああ、シッターに......。


そうなんだ......ほんとにびっくりした......。公立っていうのは全くないんですか?


ないんだよ。


だってさ、医療保険すら公立のはないんだから......

参加者
(笑)


そうそうそれと同じ。もう「自分でケアして」っていう精神。だから辞めちゃう人多いって。

参加者
はぁ〜............。


......ね。もう仕事やめて自分で面倒見たほうがずっと安上がりだから、「とりあえず子育ての期間は辞めます」って言って辞めちゃうんだって。

参加者
......


すごく変でしょう。


23万って......

参加者
(笑)


もう言葉出ないでしょう。


その状況にフェミは何もいってないんですか?私専門が違うのでカバーし切れていないだけかもしれませんけど、最近の社会問題として、アメリカのフェミが育児支援体制に何かいっているのを見たことがないような気がするんですけど......。


そういえば見ない。


カリフォルニア大学からきているスーザンさんなんかはブーブー言ってたよ。多分個々人でブーブー言っている人はたくさんいるんだと思う。アメリカのやり方はありえなーいって。


大学には保育施設はついていないんですか?


ううん、大学についているのがそんなに高いの......。

参加者
(爆笑)


あ、じゃあ一般の施設はもうちょっと......


ところが一般も同じくらいなんだけどね。

参加者
(爆笑)


......もう入れる気ないだろって感じですよね......あ、いやウェイティングリスト70人なんだっけ。......毎月23万も払える人が大学のキャンパスのどこからそんなに沸いてくるんだろう......。


それがよく分からないの......

参加者
(笑)


資本主義の理論が勝っているんだろうね......。


そうそうそう。ホントそう。


お金持っている人だったら「入れば?」みたいな。


さっきのシッターの話に戻りますけど、シッターを教育する制度というのは整っているんですか?


それは監督機関があるということなんだけど、ただシッターさんも日に80ドルぐらいかな?それぐらいかかるから、もしフルで雇ったら週400ドルでしょ?そうすると月16万はかかってくる。


ええ〜......


「ええ〜」でしょ。もう奨学金がそこに消えていくという......。


それは......辞めますよね。そんなんじゃ。


やはり公的な支援なしには、どうやってもムリですよね。そのシッターだって助成を受けてるわけじゃないから、彼らの働きには公正な賃金を全額こっちが払う必要があるし......。


そう。だから辞めるか、辞めないとしたらその「公正な賃金」を払わない方向に手を出すしか......メキシコとかフィリピンとかの女性を雇って搾取をせざるを得ない。


やっぱり市場の原理ですよね。全額自分で払うか、払えなかったら諦めるか、全額払わないでいい抜け道に手を染めるか......。


搾取か......。そう考えると日本ってまだマシなんですかね。


いや......比較の対象があまりにも悪いのかもしれない。まぁただ、アメリカにずっといた人は日本で子ども産みたいってみんな言うのよね。日本のほうが子どもを産み育てる環境が整っているからって。毎回それを聞くとびっくりするんだけど。


そうなんだ......。


私が行く大学にも託児所は6つもあるって聞いていたから、そういう支援体制が整っているんだなぁって、それだけあればどこかには預けられるだろうっていうのがあったんだけど、ぜんぜんだめで、しかもそんなに値段が高くて......。


それは教員を対象にしているものなんですか?


というより教職員。それと学生も......

参加者
(笑)


ムリですよね......


......払えない。


う〜ん。日本のほうがマシかどうかっていう話に戻りますけど、搾取に手を染めないですむっていう点で日本を評価できますかね。だって待機児童が多いから保育施設に入れられないことが多くて、そうなると結局辞めて自分でケアするという選択肢しかない。そうすると移民の女を搾取していなくても、結局辞める女を搾取しているわけで。搾取がどこで起こるのかという違いなだけじゃないのかな。


うん。


ただ、ICUで託児所ということを考えると、社会のまなざしというか、社会通念としてはアメリカよりはマシなんじゃないかと思ったりはする......。さすがに全額払えよとは言えないんじゃないでしょうか。
ああ、でもICUでは「難しい」という大学側の判断が一旦あったわけで......。
......今私が怖いなって思ったのは、ICUにも、もしかしたらそういうアメリカの市場原理と同じようなものが働いているのかなって......。全額払えとはとても言えない......という意味での「難しい」という判断だったりして。

参加者
(爆笑)


考えたくないけど......でもあるのかもね。


お金を出したらいいよ、っていう......。


同じ穴のムジナ的なね......。だって難しい理由ってズバリ経済的な問題なんでしたよね?


そうそう。


問題は「全額」支払うことの是非なんですよね......。もちろん搾取は避けるべき。でも「全額出せないなら自分でケアしろよ」っていうのもなんか変って思う。......まぁそこが重要なんだっていう議論もあるかもしれませんけど。子どもを産み育てるのが「贅沢なわがまま」なんだとしたら、産んでおいて全額支払う気がないのはおかしいということにもなりますからね。......私はそうは思いませんけど。


はぁ。資本主義だねぇ。


資本主義かぁ。


資本主義コワイ!って話で行き......ますか?

参加者
(笑)


でも資金をどうするかっていうことは重要なテーマだと思うんです。出せないことはないと思うんですよね。あれだけ新建造物の建設に着手できて、きっとICUの資金はゼロではない。どこに出すのかっていうことが問題となってくるわけで......


はい。


でも戦い方は別にもあって、例えば独自財源を目指すとかね。


財源のことはいちばん考えないといけないですよね。


<ここで酒井さん合流>


お茶は、莉亜奈ちゃんはほうじ茶ならのめるかな?

酒井美智子(ICU学生・保育施設創りproject主催。以下:酒)
うん。


いいなぁコップでもう飲めるんだ。


いやぁでも、最近わざとこぼすのがどうやらマイブームで......

参加者
(笑)


もう撒き散らして......


やるやる。


それは何か目的があってのことなんですか?


うちの子の場合は単に水溜りが面白いみたい。


2歳ぐらいになると隠すようになりますよ。「あっ!」とか言うと、「なんでもない、ぜんぜん平気」みたいな感じで。

参加者
(笑)


「怒らないでっ!」とか言ってくる(笑)。莉亜奈ちゃんは?


ウチは「あっ!」っていうと逆切れしてきますね。

参加者
(笑)


年齢や個人差でずいぶん違いますね(笑)。じゃ、莉亜奈ちゃん、冷めたらこのほうじ茶をどうぞ。


ええと、いま先に色々話してたんだけど、ちょっと撒き戻して、まずは6月16日お疲れ様でした。


お疲れ様でした。


思ったより人が集まって、嬉しいサプライズだったねって話していたところなんだけど、正確には何人集まったんですか?


最終的には35人ですね。

参加者
おお〜


その後は、出席者のなかからは一人しかメールが届いていないんですけど、まぁいま学期末で忙しいから、落ち着いたらもしかしたら届くんじゃないかと期待しているんです。でもそれ以外の、16日に出席できなかった人からメールが結構届いていて、ええと、数えたら出席者とメールだけくれた人を足すと54人になっていて......

参加者
おお〜


それだけ関心のある人が学生さんにもいるって言うのは心強いですねぇ。


いまは院生のほうと、あと今日これから高校のときの担任の先生に......私はICU高校出身なんですけど、この間お話したらやっぱり仕事をしていると母乳が止まって大変だったというお話だったので、チラシを配って呼びかけようと思っています。


ICU高校にも保育施設はないんですか。


ないんです。それでみんな職場に復帰されて、母乳が止まったり大変な思いをされたというお話を聞くんですよね。なのでアプローチを。


なるほど。


16日のチラシにも書いてありますが「現実的な」実現を目指したいということで、今日も「現実的な」お話ができたらなぁと思っているのですが、16日の説明会ではどうだったのでしょうか。かなり具体的な質問も出たと聞いているのですが、具体的なアプローチの仕方として何か参加者から提案があったりしたんでしょうか?酒井さんの目から見てどうでしたか?


あの日は話し合いというよりは、どういう方針でやって行きたいのか、というお話をしました。「保育施設を作りましょう」って言ったら、ICUならたぶん「そうだね、つくればいいね」っていう反応になるだろうと思うんです。あとは、学生の間にどれだけニーズがあるのかという話になりがちだと思うんですけど、そこらへんに陥らないで話を進めていきたいっていう話をしました。
私が思うに、保育施設をつくればいいという話ではないので。現実を見ると、あってもぜんぜん使われていなかったり、料金や他の理由からとても使えるようなものじゃなかったりして、そういうものを作っても意味がないと思うんです。利用者の実情にあった本当に使えるものをつくるっていうことが大事なので。
それとニーズに関しても、今現在ICUにいる学生のニーズっていったら限られたものに、なってしまうけれども、今後は高校からストレートに上がってくる人だけを受験生として捉えていては志望者が頭打ちになってしまう。母子家庭や父子家庭の忙しい人で、もう一回学びなおしたい人などが受験したくなる大学ということになれば、受験生獲得にもつながると思うんです。そういうところまで視野に入れた保育施設ということで考えていきたいなって思っています。


そうですね。大学はやはり、もっと社会に開かれた存在へと変わっていかざるを得ないと思っているんです。それは生涯学習といったものを含めた話ですけど、働いていて、大学へ戻って学びなおしたいという人はかなりいるんですよね。私の身近な友人にもかなりいるんです。でも実際戻るとなったら「子どもをどうしよう」と。それが非常に大きな躓き石になっている。
先ほどもお話したけれども、アメリカよりは保育所に関してまだマシ......なんです、確かにね。でもそれも、フルタイムで働いていればアメリカよりは安くで預けられるという話で、それが学生となると、とたんに預けることすら難しくなってくる。
そういう人を対象とした預け先がある大学ということになってくれば、大学としても一つの大きな強みになると思います。


やはり学歴がないと就職も難しくなってくるので、母子家庭などで聞いた話では、結局パートでずっと働いている人というのがすごく多くて。もともと安定した仕事についていて母子家庭になった人は別ですが、そうじゃない人で急に母子家庭になった人は、そこから急いで仕事を見つけて......ってことになる。
もし大学卒業の資格を持っていても、新卒じゃないし、社会経験のブランクが長かったりほとんどなかったりすると、「一応大卒だけど」程度にしかならない。そうすると本当に仕事を探すのは大変で......そういう人がもう一回入りなおして新しい知見を身につけたり、それこそ新卒っていうことになるだけでも相当違ってくる。それはかなり救いになると思うんです。

莉亜奈ちゃん
ああ!<お菓子を要求>


すみません。ものすごい食いしん坊なんです......。

参加者
(笑)


そうなんだ〜。いいなぁ。


あれ、あんまり食べないんですか?


食が細いんだよね。もう食べさせるのが大変で、1時間ぐらいかかっちゃう。


ええ〜......とか言って、普通どれぐらいかかるものなのか知らないんですけど、どれぐらいですか?


どれくらいかなぁ......うちは......あ、でも逆にものすごい食べるから1時間ぐらいかかりますね。

参加者
(爆笑)


先ほど、他大の施設のお話で、中にはぜんぜん使われていないものもあるというお話がありましたが、料金的な問題以外にはどういった問題があるんですか?


例えば長期休暇中は開かれない、というような施設だと、教員のかたで"主に学期中だけ預けたい"というような方以外は......例えば学生で母子家庭だったりすると学期中以外は学費や生活費を稼ぐために集中的に働かなくてはいけないですよね。その場合に保育施設のサービスが学期中だけとなると、ほとんど役に立たないですよね。


なるほど。


ただこれにはほかにも問題があって、たとえ長期休暇中でも開く、ということになったとしても、親の仕事場所が大学のそばでないと実際はあまり意味がなかったりもするんです。例えば私が家のそばで仕事を見つけた場合、一旦こちらにつれてきて預けてから家のほうに戻って働いて、終ったらまたこちらまで来て......ということになる。これはあまり現実的ではありません。
早稲田など、都心部で駅からも近い大学なら仕事も周辺で見つけやすいでしょうから、また違ってくるんでしょうが、ICUのような辺鄙なところにある大学だと休暇中に施設をどうするのかというのは大きな問題になってくると思います。もちろん長期休暇中に限らず、母子家庭などだと土日や放課後も働く可能性がありますから、この問題は一年を通じて大きいですね。


なるほど......。


ここについては簡単に結論は出ないと思いますが、もっと言えば、大学の保育施設は"親が働いている間"のケアをどうするべきなのか、という問題だけではなくて、授業のある日のありかたも問われると思うんですよ。家に帰ると、やはりどうしても子どもには手がかかるからまとまった時間が取れないので。


うんうんうん、ホントにね。


色々子どもの世話をして、12時までに家事を全部終らせて、そこからやっと勉強、という生活になってくる。だからもし施設ができたら"大学に行っている間は子どもを預けられてまとまった時間ができる"ってなって本当に助かると思うんです。
ただ、逆に言えば危惧しているのは、施設ができても休み時間や授業をとっていない時間は「空いてる時間でしょ」って言われて引き取らないといけないことになったら......


ああ〜


それが怖いなって。こんな生活だと、大学にいる間の空き時間が安心して勉強に打ち込める唯一の時間なので、本当に貴重なのに......。
もっと言ってしまうと、勉強だけじゃなくて、子どもの面倒を見て働いて勉強して......という生活の中では、そこで友だちと会ってちょっと話したりするというのも大事な時間になってくる。


ホントですよね......。


だからそういう実情がきちんと考慮されるといいなぁと思います。
あとは安全面の問題ですね。例えば学生ボランティアが中心という運営はやはり不安がある。リーズナブルになるのでしょうけど、預けて大丈夫なのか確信が持てない。


やはり責任の所在があいまいになりがちなので、私が思うに、そういう施設だとICU側としても許可できないものではないかと思います。


保育士さんは教育を受けたプロなので、子どもにとってもボランティアより安心できるという側面はあるかもしれないですね。


SFCはたしか学生ボランティアを積極的に使っているんでしたよね。利用率ってどんな感じなんでしたっけ。


いや、スタートが6月からだという話だったので、まだ本当に始まったばかりで......

参加者
へぇ〜


だからホームページなんかもまだ情報が限られていてよく分からないところもあるんですよね。


そうなんだ〜。まずニーズがあって、それに応える形でできたのかな。


そうみたいですよ。学生のニーズが大きかったんじゃないでしょうか。


それは一度見学させてもらいたいですね。


あ、だけど、莉亜奈ちゃんは確か1歳半ぐらいですよね。あそこは確か3歳以上とか、もっと大きい子を対象にした施設みたいです。


ああ〜、学生ボランティアをたくさん入れているんじゃどうしてもそうなりますよね......。


そういうところじゃ0歳児や1歳児は怖くて預かれないというのはあるでしょうね。


預ける側からしても、施設で何かあっても3歳になったら自分で親に言える歳ですもんね。


そうですね。まだ自分で何か言えない歳のばあい、預け先は慎重にならざるを得ませんよね。


そういう、"安心して預けられる施設かどうか"という意味では、「保育所」が作りたいんです。「託児所」ではなくて。昨年末から今年にかけて託児所に預けてたことがあるんですが、もうずーっと泣き止まなくなってしまって、目がすごく腫れあがってしまうくらい泣くんです。頻繁に怪我をつくって帰ってきたり、「椅子からぶらぶらさせていたのでぶつけてしまったんですよ」と説明されるんですが、それまでの保育所ではそんな怪我はしてこなかったし、いまもそういうことをしないので、なにか不安で......。そんなに泣くということもありませんしね......。敏感な時期に転園が重なってしまったというのもあったのでしょうけど、やはり不安で。
ただ託児所にもいいところはあって、親はすごく助かることは助かるんです。給食も出るし、玄関でお願いしますって預けたらもうそれで終わりで、すぐ仕事なりに向かえるんです。洗濯も全部してくれますし......。保育園だと、行ってから親がちょっと世話をしていかないといけないし、洗濯はもちろん親が家で行わなくてはいけませんから。


そんなにしてくれるんだ......。でも費用は高くなるんじゃない?


そこはすごく安くでお願いできて。

参加者
おお〜


あ、でもマンションの一室なので、環境はやっぱりいいとは言いがたい感じだったんです。


そっかぁ。


スタッフの人はプロの方々なんですか?


一応保育士さんや幼稚園の先生の経験者がいるという話だったけど、詳しくは聞けなかったんですが、アルバイトも入れている感じでした。


認可の保育所だと全員プロってことになるという認識でいいのかな。


そう。ただパートさんはいるけどね。朝のパートさん、夕方のパートさんっていうのはいて、その人たちは資格がない場合もあるけど、資格を持った人が定められた割合で配置されてはいる。
あの、私も託児所に預けていたことがあるんです。私の頃はまだ制度が変わる前だったので、育休がのばせなくて......。つまりどういうことかというと、早生まれなので2月に子どもが1歳になったんだけど、そこで育休は切れちゃうのに4月まで保育所には入れられなくて......っていう......。


育休は......


その頃は延ばせなかったの。どうやっても2月には復職しないといけない。だから4月までの2ヶ月間どうしよう!って。それでしかたなく1日1万円ぐらいのところに預けるしかなくて。そこもやっぱりマンションの一室で、私が気になったのはそこでは子どもにテレビを見せるんです。朝と夕方と2回も。


そう!そうそうそう。


ね。「家庭的な雰囲気で」っていうことだったんで、その一環といえなくもないけど......

参加者
(笑)


でも保育園だとテレビを見せるってことはあまり聞かないから、そこがなんか気になって。


テレビ見せると子どもっておとなしくなりますもんね。


そうそうそう、見せているあいだはね。ただそこも親にとっては確かに助かる場所ではあって、朝早くから夜遅くまで預かってくれたし、いろいろと融通も利いたんだけど、やっぱり、なんといっても高すぎて......


もう23万とあまり変わらない話だもんね。

参加者
(笑)


まぁウチは2ヶ月だって分かってたからちょっと無理して預けたっていうのはあったけど、続くときついですよね。まぁ希望どおりひとり目は4月から保育所に入れることができたんで、そのときはまぁよかったかな、と。でもその後私は会社を辞めて大学院に来たんですけど、それから二人目が生まれたんですね。そのときが大変で、お姉ちゃんは区立の、駅前で便利なところに預けられたんですけど、弟のときは私が学生なのでポイントが低くて、私立の2歳までしか預かってもらえない園になっちゃって......そこはみんなが第10希望に書くようなところなんだけど、そこにしか入れなくて......。そこから2年間は2箇所に預けるという生活が続いたんです。

参加者
あら〜


大変......。


ホントに......。送りも迎えも2箇所なので自転車でダッシュして......って感じで。


前後ろに......


そうそう。前後ろに乗せて。


それからずっとずっと希望を出し続けて、いま修了してフルタイムに戻ったので、希望がやっととおって、2人ともお姉ちゃんのほうの園に預けられるようになったんです。


大変だったでしょう。


そのときは必死だから分からないんだけど、今1ヶ所にまとまってから思うと、こんなに楽なものなんだ、あの時あんなに大変だったんだって(笑)

参加者
(笑)


やっぱり学生だとポイントは明らかに低くなってしまうんですねぇ。


そうだね......。二木さんは住所は?


中野区です。


区によってずいぶん違うっていう話だから......


でも中野ってかなりいい方だって聞きますけど......


いいほうらしいですよ。


新宿や中野の名前は、まだいい方な場所として聞くことが多いから......先生、世田谷は結構悪名高いというか......


そうなの!色々調べるんだけど他所と比べてだめなところが多いの!


世田谷は専業主婦が多くて所得の高い世帯も多いから、あまり必要とする声が届かない......


っていうか無視してもいいや、的な存在なんでしょうねぇ。


ああ、胃が痛い。


あの、先ほどから「託児所」とか「保育所」といった区分が出てきますが、正式な区分は......


えっと、保育所には「無認可」と「(東京都による)認証」と「認可」があって、さっき話が出てきたマンションの一室でテレビ見せるところは「無認可」。


......そうだ、さっき玄関先で預けるから楽だという話をしたんですけど、ただそれだと中の様子が見れないので、それも不安でしたね。この子を預けていたところは、テレビも子ども向け番組やビデオじゃなくて、ちょっと子どもには見せたくない感じのバラエティーだったりして、でも「えっ」て思ってもさっと内扉を閉められてしまうからなにも言えなくて。


ええ〜それは......酷いね。中は見たことないの?


内扉の向こうに3部屋ぐらいプレイルームがあるという話だったんですけど、中は一度も見せてもらえなかったので......

参加者
ええ〜


実際どうなのかは分からないんです。ただチラッと見えた感じでは大きなテレビがあって子どもたちがその前に座って見てるっていう状況で。


いや〜教育的にはどう考えても問題がありますよね。


そこって結構大きい子も通うようなところ?


そう、5歳まで。それで24時間年中無休なので


ああ〜それはたしかに助かる。


助かるね......


そう、すごい助かっていいの。園長もすごく理解があって、こちらの事情をわかってくれて、すごく、いいんですけど......


でも保育の仕方には、やっぱり問題がありますよね......。


ICUでの保育所の実現に絡めて考えたときに、ひとつ知りたいんですけど、企業が運営するとそういう保育になってしまうと考えていいんですか?


いや〜......


そういうわけではないと思います。


企業が主にやるのは、さっきの三つのうちの「認証」保育所なんですよね。無認可とは違うんです。コンビプラザとかがそれに当たります。それに加えて最近では、自治体が企業を募集するという形で、認可保育所の中にも企業の保育所が食い込んできていますね。中野区でも最近公立の園が私立に変わるということがおきています。私が知っている例ではピジョンっていう子ども用品のメーカーが入って、認可保育所としてやっているんです。
もともと公立の園だったところだから保護者の目がすごく厳しくて、そこは公立と同レベルの保育サービスを提供するということを言っています。


企業が入る利点というのは、自治体としてはコスト削減になるんですか?


そうそう。コスト削減ですね。


コスト削減の中で雇われるわけですよね、そこの保育士さんは......。私の懸念としては、保育士さんの......というか各保育士さんの提供するサービスのクオリティが低下したりはしないのでしょうか。


企業を入れて私立に変わると、自治体は大体公立の頃の6割の費用で済むといわれていて、その理由は人件費が安くなるから、なんですね。私から見ても私立は若いスタッフしかいなくて、昇給も少ないし結婚すると大体みんなやめてしまう......少なくともそういう前提でやっているなというのを感じます。
それに比べて公立は、育休が3年間取れて、公務員なので他の公務員と同じシステムで昇給があって......という条件なので、辞める人がいないんです。それで、中野区に限って言えば10年間新卒採用がないという状況なんです。というのもそうやって辞める人がいない上に、新規で公立の園を作ることもしないので......。


新規は全部私立なの?


そうなの。......だから公立の園の組合は怒っていて、既存の公立までどんどん私立に変えていく今のやり方はおかしい、と批判を行っています。この私立化の流れは中野区に限らず全国的なものですね。


確か早稲田はポピンズで、やはり企業が入っていますよね。今の話を聞くとケアに当たる人の労働条件はどうなるのかな、と心配になります。


そうですね......。私たちがCGSとして要望を出したときに、どういう形がありえるかという話まで、一応出たことは出たんです。そのときもそういう"企業に丸投げ"という形が簡単ではある、という話になりました。ただこのやり方は企業に丸投げするわけですからそれなりの費用がかかって、それは利用者の負担になりますよね。
それに加えて、そのやり方とICUの理念、ICUらしさって合致するのかなっていう問題があります。......企業を入れたらICUらしさは出せなくなりますよね。

参加者
うんうん。


企業はノウハウを持っているので簡単なんですよね。新規に園を設置しようとしている団体にとっては。こちらの条件を出して、この中でやってくださいといえばその通りにやってくれちゃうから。基本的に一般の企業内の保育施設に関してはほとんどそういう"企業に丸投げ"タイプになってます。


特に理念がない場合は、それが確かに正しい選択なんでしょうからね......


そうそう。とりあえず預けるところを、という場合にはね。


特に会社なら、働いているあいだだけで他の時間、他の期間はどうするとか、そういう問題もないですしね。


そうね。それに一定以上稼いでいる人たちが対象だから、利用料もある程度までは支払える、というのもありますしね。


このやり方を大学でやろうとするとちょっと......あ、でも大学によっては学生には補助が出るというところがありますね。


早稲田がまさにそうですね。


どれぐらいの補助なんだろう......。


もともとフルタイムで10万円近いはずだから、そこから......聞いた話では半額ぐらいの補助だということなので、5万ぐらい......になるんでしょうか。


そうなるのかな......。


まぁ、しつこくこのネタ出してアレですけど、23万よりは現実的ではありますけどね......。

参加者
(笑)


国の基準をクリアしているのが「認可」、国より少しゆるい東京都の基準をクリアしているのが、「認証」、それ以外の「託児所」と言われるところは「無認可」ですが、認証や無認可と認可の大きな違いって、認証と無認可は園が勝手に保育料を定められるんですよ。この二つは申し込みも希望の園に直接する。
これが認可になると、区とか市といった自治体が管轄しているので、その自治体に申し込んで、自治体が順位が高い人順に園を割り振るんですよね。だから立地などは希望通りにならないことが多いです。
認可園の場合、私立と公立がありますが保育料は同じで、保護者の収入に応じて、三鷹市の例では最大で6万円弱、収入がない人や生活保護の受給者はもちろんゼロ。


なるほど。


私も夫もフルで働いていた時期は、中野区の場合の当時のマックスで、確か5万8千円ぐらいかかっていました。ところが私が学生になって収入がなくなったらすごく安くなって、2万3千円ぐらいですね。


それは一人当たり?


そうです。それで2人目はその6割で済みますので、それも助かりました。


やっぱり公立はいいね〜。


でも何もかもがいいことばかりじゃなくて、さっき言ったように場所をこちらで選べなくて、入園は優先順位が高い順なので、私のように子どもが別々の園になってしまったりと、必ずしも希望の園に入れるわけではないし、延長保育が認証や無認可より短い。中野区の場合、延長保育は1時間のみ、最長19時15分までです。


うん......そうだね。そこら辺が限界なんだ。


じゃあ残業ほとんどできないね。会社が遠かったら5時上がりでも厳しいんじゃない?


そう。だからお金のある人は10時ぐらいまで預かってくれる認証保育所を選ぶことが多いみたい。ただ公立の認可のほうが圧倒的に安くて、特に収入が低い場合はそれに応じて安くなるから、そういう世帯は認可を申請しますね。


あ、あと公立は休日保育はまた別途申し込みが必要だったりとか、学生には厳しい条件が多いですね。


そうですよねぇ。ICUは祭日も授業をやることが多いし......。平日でも6時か7時までっていうと、5限までが限界ですもんね。家が遠い場合は4限が限界ってことも考えられますし......。学年が上がると5・6・7や6・7の連続授業が多くなるじゃないですか。そこら辺は全く出席できませんねぇ。


延長保育でも、6限が終わってダッシュで帰って、それでもギリギリって感じだったね。5・6・7はどうやってもムリ......。

参加者
無理だねぇ......。


6限まではなんとか......とはいっても、授業の後に質問したり、グループワークの話し合いとか色々あるじゃないですか。それもおちおちしていられない感じですよね。


そうそうそう。終ったらバタバターっと帰っていくしかない(笑)。

参加者
(笑)


また、社会学となると5・6・7の授業が本当に多い。院の授業はそうでもなかったんですけど、学部の授業でとり直したり新たにとりたいものってあるじゃないですか。だからその日は夫にお迎えをお願いしたりとか、そうやってなんとかやりくりして、なんとか乗り切ってましたね。でもきつかったです。諦めたものも多くて......。


そうね......。そうやって外部のサービスが"保護者が学生"という状況を想定していない中では、子育てをしている学生でも学業機会を奪われないようにするっていうのは、大学の義務だと思うんですけどね......。そこをなかなか分かってもらい難いみたいで......。


大学側としていちばんネックとなっているのは......?そこまで話はすすんでいないと思いますが、実際に交渉された感触ではどんな印象でしたか?


やはり経済的な問題がいちばん大きい......というような印象でしたね。


もしそれを私たちが解決したら、話はすすむと思われますか?それとも他に何か無理な理由を出してくるんでしょうか。


ICUに限ったことではなくて、保育施設に関していちばん大きな課題になるのは安全面ですよね。今度はそこがネックになると思います。CGSが交渉にいったときにすでにその懸念はぶつけられました。もし事故があったときにどうするつもりなんだ、誰が責任を持つんだ、ということですよね。大学側の責任ということになったときどうなるのか、というようなお話でしたね。


うーん......。ひとりの命を預かるということですからね、難しい問題ですね。ただ......事故は親と一緒にいても起きますよね?それに、認可に準じる基準でちゃんとした保育施設をつくったら、そもそもそういった事故は起き難いんじゃないかと思うんですが......。


うーん。ただ、認可に準じるいい施設を作ったから事故が起きにくいというのは......それは必ずしもそうとは言えないと思う。


そうか......。そうだよね。なんていっても事故だもんね。100%は防げないよね。
......ただ私が気になるのはね、二木さんもそうだったように、みんな結局外部の保育施設に無理して預けるわけでしょ?そうやってなんとか学業を続けるわけで、場合によっては不安を感じつつも怪しげな無認可に頼らざるを得ないこともあって......。そういう中で大学が保育所を作らないということはさ、そういう不安定な状態を学生とその子どもに強いている責任の一端が大学にもあるってことで、その預け先で万が一事故が起きた場合に、構内で起きたんじゃないからって、本当に大学には責任がないのかな。


いや、だからそもそも無理して学業を続けること自体が誤り、という認識なのかもしれないよ。


子どもができたらしばらくは家にいて子どもの面倒見てなよ、と?


そうそう。学位なんてあとからとればいいじゃない、みたいな(笑)


いや、でもそれは......そもそも母子家庭や父子家庭じゃなくて、しかも旦那の収入がすごくいいとか、母子・父子家庭でもものすごくたくさん貯金があるとか、そういうのが前提ですよね。事故が起きなくても、仕事もないし学位もないしで、うちなんか早晩飢え死にしますよ。


ホントだよね......。

参加者
............


本当に難しい問題だよね......。さっき公立の認可の保育園の保育士さんは育休が3年取れて条件がいい、というお話があったけれど、お給料が出つつ子どもと向き合える時間があるのは確かにとても素晴らしいことではある。
でも学生は「育休」だっていってもその間どこからもお給料が出ない。母子家庭や父子家庭では本当に飢え死にが現実的になってくるぐらいですよね。彼らにとっては学位をとって早くそれを生かして仕事につけたほうがいいわけで、そこでは「子どもと向き合う時間が大事でしょ?」という発想は素晴らしいどころか何の助けにもならないわけです。


そうですね......。


これは「やっぱり育休なんてなくていいんだね」という話ではもちろんなくて、どういうスタイルの子育て支援がその人とその子どもをいちばん活かすか、ということは一律には言えない、ということなんですね。
例えば私も、学生でも母子家庭でもないけれども4ヶ月で復帰したんです。でもそれに対して「どうして?」という空気を感じることがありました。余裕があったらできるだけ子どもと一緒にいたほうがいい、という考えを一律に適応していては、そういうことになってしまいますよね。
だから本当に......育児支援に関してはなにがベストかということは個人差が大きくて一概には言えないんです。条件だけ見ていても分からない。私は外から見たら必ずしも必要ではないように思われるのでしょうが、私にとって早い復職は必要だったんですね。どちらが良い・悪いではなく、個々人で違うんですね。


そういう意識の問題もあるかもしれませんね。育児とはどうあるべきか、という部分の共有された考え方が影響しているのかもしれません。


学生は、実はお給料がないばかりか出て行くんですよ......。


そうだった!ICUではね......


そう、ICUでは最長でも2年しか休学ができないし、休学費として年間の学費の3分の1を納めなくてはいけないんです......。これを支払いながら生活費を捻出しつつ、来たる復学に備えて資金をためることは、はっきり行って母子家庭には不可能です......。


残るは飢え死に......ってのもあながちありえない話でもなくなってきますね。休学費っていうのは、他の大学で聞いたことがないんですけど、日本では結構一般的な制度なんですか?


いや、少なくとも国立ではないよ。


私立は残念ながらとっているところが結構ありますね。


そうなんだ......。


でもこれも変わりつつあって、例えば慶応は去年廃止したということです。......まあ、そもそもICUは年間の学費が他所より高いので、それの3分の1となると、他では考えられないくらい高額な休学費なんですよね......。


そもそも授業受けてないのにそれ「なに代」なの?何に払ってることになってるの?


ホントだよね。ほんと「なに代」なんだろう。


ま、なんかあるんでしょうねぇ......。というのもICUには、一旦退学して期限内に復学できる制度がかわりにあるじゃないですか。


そうですね。先輩にも、一旦退学して一年間世界を旅してまた復学した人がいました。


長期間大学を離れることが分かっている人には退学の制度を使う人が多いですよね。


そこなんですよね......。私もそうでしたが、休学費を払ってまで休学している人って、きっと最初は「一学期間だけ」とか、短期間だけのつもりで休学を選ぶひとが多いと思うんです。でも結局戻って来られなくてどんどん長引いて......ってケースは少なくないんじゃないかな。


そうだよね。だってはじめから長期化することが分かってたら退学するんだから。


そう......。それはきっと、世界を旅する目的で、とかじゃなくて、不意に休まざるを得ない状況に陥って......っていうときに、特にそうなるんじゃないでしょうか。「それでも大学とつながっている」ってことが、そういう思わぬ事態で休まざるを得ないときにこそ精神的に必要になるんだと思うんです。


そっかぁ......。退学したんじゃないんだ、「休学中」なんだ、ということ自体が支えになるということは、そういう場合にはありえることですよね。その場合、思わず長引いたというケースでなくても、休学のほうを選びたいという気持ちはすごくよく分かります。


そうね。退学してしまうと身分がなくなっちゃうわけだからすごく不安ですよね。どこかに所属していることは安心を生みますからね。


本当に......よほどバイタリティーがないと、大学を完全に辞めた状態で、復帰を目指してあのつらい日々を過ごせるのかどうか......。


好きで世界を旅しているのとはわけが違いますものね。


そう(笑)。それでそのうち新しい生活ができてきて、そっちに馴染んで「もう良いや」って思ってしまうのが怖くて。私は本当に勉強がしたかったし、大学に戻ってきたかったので、ここで辞めたらそうなっちゃうのかもと思うと怖かったですね。


話がちょっと戻るんですけど、生駒先生がおっしゃったような立場や考え方の違いって、かなり大きい問題だと思うんです。「育児ってどうあるべきものなのか」というところの考え方の違いですね。
先生のお話では、事情によっても個人の考え方によっても違うのが当たりまえだから、個々のケースに合わせたきめ細やかな対応が必要である、ということでしたが......取材していても感じるんですけど、やはりそこの意識を統一するのはかなり難しいんじゃないでしょうか。


それはすごく感じますね......個々人の考え方の部分はひとまずおいておいて、おかれている状況による違いにだけ目を向けたとしても、意見集約は難しいでしょうね。CGSで大学側とお話したときにもね、「教員には"いい"んでしょうね」といわれるんです。
つまりね、オンキャンパスの保育施設があれば、教員は子どもの近くで仕事ができて、休み時間には会いに行って授乳をすることも許されるけれども、職員はそうは行かないでしょうね......と。職員の皆さんは決められた時間はお仕事をする時間ですので、ちょっと時間が空いたからって、会いに行って授乳をすることは許されないのだ......ということですね。
それだけ労働の形態に差があるのに、その中で誰向けの施設をつくるつもりなんだ、大学として施設をつくるという話なのに、職員にとっては使えない施設ができるに過ぎず、それは不公平なのではないか、というお話でした。


......実際に労働形態がそれだけ違うわけですから、保育サービスの理想のあり方をすり合わせるのは難しいですよね。


そうなの......。そこが企業の保育施設と違う難しさですね。いる人がそもそも多様ですからね。
もう一つ言われたのは世代間の不公平についてですね。今まで何の支援もなく子育てをやってきた方々や、私のように早期の復帰を望んでいても、条件の合う預け先がなくて泣く泣く休職して自分で育てられた方々がすでにたくさんいらっしゃるのだ、と。その中で今後の世代だけが保育所の支援を受けるというのはまた不公平ではないのか、というお話でした。


うーん......でもそれだと前の世代に配慮してずっと前進できないことになりますよね......。ICUとしてはそれでいいんですか?

参加者
(笑)


背景には、子育てに関する考え方がここ10年〜20年で大きく変わってきたということがありますね。それから、そもそも女性が働くということに対する考え方がね、大きく変わってきたということがあると思うんです。つまり、「自分は自力で子育てをやり遂げてきたんだ」という世代は、女性が働くということに関しても、働きながら子育てすると言うことに関してもパイオニアなんですね。いまも充分とはとてもいえませんが、彼らが働きながら子育てをしていた頃は支援なんて全くなかったぐらいなんです。その中で手探りでやってきた人たちですから、そうすると考え方はどうしても違ってきてしまいますよね。


そうなんですね......。


それと、ここまで話に出ていませんが、やはり今のこのお話自体も「女親をどう支援するのか」ということを中心にすすんでいますよね。もちろんこの場は、酒井さんや二木さんや私といった女親が多く参加しているせいもあるでしょうし、現実問題として女性が子どもを抱えて右往左往させられているわけですから、「女性への支援」という形を"あえて"前提にして話しているんだと思います。
でも大学側との交渉の中でそういう論調になるのはね、やはりそこには「子育ては母親がするもの」という意識が潜んでいるんだと思うんです。お話したときも、そういう意識っていうのが大きなネックになっているなぁというのは実感しました。


......私はさっきから安全面のお話がすごく引っかかっているんです。大学側は酒井さんのような母子家庭の親が学生になることをまったく想定していませんよね。母子家庭の子女が入学することは想定していてもね......。
親が2人揃って収入も安定しているケースしか念頭にないから「安全面のことも考えて、子どもができたらお母さんは家にいたほうがいいよ」という非現実的な話になる......という風にさっき落ち着きましたけど、そこがどうにも引っかかるんです。
そこでは、「親が2人揃って収入も安定している」ことだけじゃなくて、「どちらか片方が育児に専念する」ことも空気のように当然視されていませんか?


そうね......。2人揃っていても、両方とも早期に復帰したいかもしれないのに......。


そう!生駒先生の早期復帰に「なぜ?」という視線が向けられたのも、「片方は子育てに専念するもんだ」っていう意識があってこそじゃないのかな。


しかも片方って、ようは母親ですものね。

参加者
............


ため息ばかり響いてますが(笑)

参加者
(笑)


事故についても......私は親ではないので、やはりどうしても無責任な発言になってしまうとは思いますが、どこでも起きうると思うんです。


自分で全部面倒を見ていてもね、完全には防ぎきれないと思います。残念ながらね。


......もしお母さんが四六時中つきっきりで面倒見てたなかで事故が起きたとしたら、きっとその一瞬をお母さんは死ぬほど後悔して、一生自分を責めるんじゃないでしょうか。
なんていうか、上手く言えないんですけど......他所に預けるということは、育児を分担するってことですよね。誰かひとりに責任を押し付けないやり方......というか。
でも預け先で何かがあったときにも、お母さんがひとりで分担してた場合と同じぐらいに自分を責めるんだとしたら、それってきっと「本当なら自分が全部やるべきだったのに」って思っているからなんじゃないかと思って胸が痛いんです。


そうね......。子どもが小さいうちは女性が専従で子どもの面倒を見るべきだ、見るものだ、という考え方がそこにもあるんだと思いますよ。


......まあ子どものことですからね、何かあればそれはどうやっても大きな傷になると思います......。でも、そこの「本当なら全部自分が......」っていう二重の自責と後悔の念......そこのところをもっと分散できないものなんでしょうか......。


自責の念だけじゃなくて、実際にそうやって批判されることも多いですよね。あなたが仕事なんかするから......っていうふうに。


そうですね。私の母は子育てしているときは専業主婦だったのですが、それでも私が怪我をしたときなどは母が不注意だと責められてましたから、それが預け先で、ということになれば批判はもっとすごいと思います。事故を完全に防ぐことはなんて誰にもできないんですけどね、本当は。......個人的な理想ではありますが、せめて「全部あなたの責任なのに」という理不尽な"外圧"が母親にかからない世界を目指したいなと(笑)。


......でもやはり自分にも、負い目というか引け目を感じるところはあって......

生・二
あるあるあるある!


えっ、それは怪我がどうとかじゃなくて、預けること自体に?

酒・二
そうそうそう。


私の場合、預けるのは仕方ないと割り切ったとしても、向こうは働いていてこちらは学生という構図なので、「稼ぎがない分私がやらなきゃ」というふうに思ってしまって......「勉強させてもらってる身なんだから送り迎えも自分でしなきゃ」って。


育児以外は?


......も私が主にやってる。


それで育児も自分がやらなきゃ......って?


そう。


そうかぁ......。


お金を稼ぐ労働をしているほうが偉い......という発想はやはり資本主義の影響ですよね。最近は「俺が稼いでいるんだからお前があとは全部やれ」なんて直接言うようなケースは減ってきていると思いますが、お互いが口に出さないレベルでどこかそんな風に感じていて、女性のほうが自分からそう身を処してしまうということはたくさんあると思います。


私がこのプロジェクトをはじめてから、大学院生や大学院の卒業生ともお話させてもらうようになったんですけど、なかには大学院にいる間に子どもができたという方もいて、例えばICUのシブレーハウスなんかだと、夫婦向けの部屋はあっても子どもが出来たら出て行かなくてはいけないですよね。


そうそう。あそこは夫婦向けであって家族向けではないということなので。


実際出ていかざるを得なかったケースもあったらしいんです。でも大学院生はただでさえ学費やら何やらでたいへんなのに、そこに子どもができてさあ大変っていう時に、せっかく入れた条件のいい寮からも追い出されて、そこから部屋探しをしないといけないなんてあまりだと思いませんか?これもお金を稼いでいない大学院生だからなんでしょうか?


そういうところから声ってもっと上がってこないものですかね?


大学院生はね......。必ずしも全員がそうとは限りませんが、大学院生には大学教員を目指している人も多いですよね。なのでちょっと一般の学生とは条件が違ってくるんです。というのも学費を払ってそこにいる学部の学生と違って、彼らは「大学」という機関に雇われようとしている身なので、そこにはあまり強く言えないという弱みがあるんです。すでに教職員となった人はさらに、構造的に声を上げにくいというのもありますね。


でも、それもまた資本主義ですよね。


稼いでいないから、というのとはまた別の形のね。

参加者
ああ〜


そことどう折り合いをつけるかっていうのは、やはり重要になってきそうですね......。


ちょっと話が変わりますが......ICU教会の幼児園というのはどういう施設なんでしょうか。


あそこはですね、もともとは教会に属しているICU関係者の子女のためにつくられた施設だったらしいんです。ただ、大学ができた当初と違って学外に住む先生も多くなりましたので、今は関係者の子女だけのためではなくて、近隣の住民にも開かれた一般的な幼稚園のようになっているんです。


あ、幼稚園とほとんど同じ形態なんですか。保育所ではなく。


そうらしいです。教員の中には利用者がいないこともないのですが、やはり幼稚園ですからね、午後の早い時間に迎えに行かなくてはいけないので、延長があるとかないとか、そんな話以前の問題になってしまいますからね(笑)。


それじゃ、仕事のほうを短縮せざるを得ませんね......。


せっかく近くにあるのに残念ですね......。


そうですね。ただあそこは大学の所有ではなくて教会の施設なので、大学の教職員のニーズがあるからサービスを拡充してくれと勝手なことを言っていくことはできませんのでね。

<酒井さん、ここでプロジェクトの宣伝のために一旦席をはずす>



先ほど、大学は労働形態が多様なので、公平な保育所の実現が一般企業よりも難しいのではないかというお話がありましたが、一般企業の保育所でもいろいろ問題はあるらしいんです。


それは例えば......。


社内の保育所ということになると、子どもに関する情報が社内に全部もれてしまうんですね。例えば子どもがどんな疾患を抱えているのか、だとか、子どもも大きくなるとけんかをしたりいじめが起こったりしますので、誰がいじめっ子でいつどんなけんかが起きたか、とか、そういった情報が職場で広まってしまうんですね。それにそういった問題が同僚の子とのあいだに起きることになる......。
そういった理由から社内の保育所は要らない、あっても利用したくない、という声もあるらしいんです。これは在籍期間が限られている学生が保護者の場合はさして気にならないことかもしれませんが、教職員の方々にとっては深刻な問題ですよね。


そういう声はICUの教職員の中でもよく聞きます。仕事のときは仕事に集中したいのに、託児所が仕事場にあると常に子どものことを考えざるを得なくて、それはかえって負担になる......というお話ですね。


私の懸念は、そういったことを気にしている余裕がない人たちの声がそれでかき消されないかな......ということなんです。そういうことを気にして他所に預けることができるという人は、やはりどこかしら恵まれているんだと思うんです。公立に預けられたとか、私立の認証に預けられるだけの余裕があるとか。
もしこの先ICUにオンキャンパスの保育施設ができたとしても、関係者全員がそこに預けなくてはいけない、ということにはなりませんよね。


そうですね。余裕があってそういうプライバシーが気になる人は他所に預ければいい。余裕がなくてとにかくあずかって欲しいという人は、オンキャンパスの施設を利用すればいい、というだけのことですよね。


そうだと思うんですけど、やはり他所の話では、それを理由に施設そのものに反対された方がいたみたいなので、そういうところで話が進まなくなるような、そういうことにならないといいなぁと思っています。


本当ですよねぇ。


それも意識の違いですよね。ほんと違いはたくさんあって......うまくすり合わせられたらいいんですけど......。


話を聞いていると、ICUとの交渉にしても、そういう一般企業での前例にしても、なんで「ここが私にとっては気になるんです。ここを必ずクリアした施設にしてくださいねっ!」っていう風にならないんですかねぇ。なんでもかんでも「ここが気になるのでそんなのはやめてください」っていう話し振りになるのがすごく残念で......。そこでガンガン声を上げていって意見がちゃんと通れば、自分の理想に近い保育施設ができるかもしれないわけでしょ?


本当にねぇ。


不平等ってどこにでも発生するから、それをどう解消するかという工夫のほうが大事ですよね。


やらない理由っていくらでもひねり出せて......それは「どうしても必要なんだ」という声がまるで届いていないんだなっておもうんです。例えば待機児童がすごく多い自治体で、親が困り果てて役所に子どもを連れて行って「私は子どもが預けられなくて困っているんで、あなたたち預かって下さい」って言って役所においてきたという話もあるんです。


いや、切羽詰るとそうなりかねないよね。


うん(笑)。


いや〜その気持ち分かる(笑)

参加者
(笑)


だから、それぐらいの切羽詰まり方なんだよってことが見えてない、つたわっていないんだなって。


そうですねぇ。どうしても他人事な人が多いんだと思うんです。育児中の母親っていうのがいかに大変で、時間がなくて、日々追われるように生きているかっていうことを、おそらく実感としてお分かりにならない方が多いんだと思うんですよね。
それは男性の場合に特に多くて、「それは女性の問題だ」としてね、「女性なんだからなんとか頑張って」って、「頑張れるでしょ」って......実感として切羽詰っていることが伝わらないから、なんとかやればなんとかなるんだろうと軽く思われている節があります。
役所においてくるのだって、なんとかならないからこその窮余の一策ですけど、それがきっとつたわっていないんでしょうね。


残念ですけど、ICUの学生に関していえば、女子でも「保育施設の必要性が実感としてわからない」という人は多いと思います。そもそも学生のうちに子どもを持とうっていう選択自体に......なんて言うか......


なんでそんな選択しちゃうの?って感じ?

参加者
ああ〜


そうですそうです。何で産んだの?っていう流れになりかねない空気を感じるんです。実をいうと私も、酒井さんとお話しするようになってそういう選択があるということ、だからこそ支援が必要だということをやっと分かり始めてきたところで、まだ自分の問題としては遠いなって思うこともあるんです。実際の体験をしていないので。


さっきから子どもを育てながら大学で勉強をするという体験について同じように話してきてますけど、やはり私より酒井さんのほうがずっと大変だと思うんです。私は院生だったし、2年目で授業がかなり少なくなってから2人目を産んだんですけど、それでも大変だった。......それが彼女は母子家庭で、しかも学部生なので復学してから1学期に18単位もとっているんですよね。それは本当にギリギリの......ほんっとうにたいへんなことだと思うんです。


そうですよねぇ......。私は親もとにいて、なにもかもおんぶに抱っこだった時代に18単位とかやっていましたけど、それでも相当きつかったですから。そこに家事育児が入ってきたら......心配ですね......。


そうね......学部生は院生と違って、授業に行くこと、教室に行くことが大事だから、院生がやるみたいに、家で全部終らせてから、夜遅くなっちゃうけど本を読もうとか、論文を書き進めよう、それでなんとかなる......という感じとは全く違いますよね。時間の拘束がね、学部生の厳しさは他にないと思う。


確かに......会社員時代は、なんだかんだ言っても子供が熱を出したら有給があるからなんとかなったんですよ。自分の仕事を、何をやっていて今どういう状況かってことを普段からオープンにしておけば、必ず誰かが助けてくれてたんです。
でも学生は代わりが聞かないじゃないですか。一回一回本人が出ることに意味があるので。しかも3回休んだらアウトとか、会社員より厳しい条件ですよね。会社員なら有給使い果たしても無給になるだけで、アウトにはならないから......だから彼女のたいへんさは本当にすごいものだと思います。毎日ヒヤヒヤして暮らしていると思うんです。


それなのに大学からは何も支援がないなんてね......。子供が熱出したらどうしよう!ってつねに考えますものね。


先生も思いますよね?


思います思います!


それも代わりがいないからですよね。職種によってはこういうことになるから......本当に状況次第で必要な支援は変わってきますねぇ。


この話はもっと大きな社会問題につながっていくと思うんだけど、いま社会全体で少子化が問題だっていってますよね。それで、どう女性に子どもを産ませるかってことに知恵を絞っているわけです。つまり、産めよ増やせよってことですよね。でもその割にね、若年層の妊娠出産に対しては厳しい目を向けるという......

参加者
ああ〜確かに。


タブー視に近いですよね。


そう。実際に出産に踏み切った人には差別があるし、いわゆる"出来ちゃった婚"についても、結婚してから子供が出来るケースより、どこか一つランクが下がるという認識......というか、どこかミソがついちゃった、というような考え方が根強いままです。
学生でいながら子どもを産むことに対しても「どうして?」という目線が向けられがちですよね。


それはまわりの学生たちの中でも本当にそうで、「どうして?」っていう意識を強く感じます。


ええ〜?


そうなんだ......


差別とまでは行かなくても、とても特別なケースだと思われていることは間違いないです。


「自分とは違う人」......「自分とは別世界の人」の問題でしょ、ってことですよね?自分とは全く関係ないって思ってしまうんじゃないですかね。


確かに、「当然辞めるんだよね?」みたいな空気がありますよね。


私も、実をいうとCGSのニューズレターの酒井さんの寄稿を読んで「えっ」ってなったんです。子供が出来たあとも大学行くんだ!って。産むって決めたら大学を辞めるのが当然だと思い込んでたので......。そういう認識は確かに大勢を占めていると思います。


その......「産むっていう決心をしたら」っていうけど、予定外の妊娠っていうことも当然ありえますよね。その話が今出てこないのが気になってるんです。
中絶は選択肢の一つとして当然認められるべきだし、そういう選択をした人を全力でサポートしたいとも思っていますけど、でも実際私が予定外の妊娠をしたとして、そんなにすっぱり決心できるのかなぁって言うのには、正直自信がなくて......。それは、「やっぱり中絶は反対派の言うように"悪い"ことかも......」とかでは全然なくて(笑)、それなりに重大な決断に思えるので、その決断をわたしに......特に大学生の頃の私に出来るのか、出来たのか......って、思うんです。


そうだね。難しい決断だよね。


そうすると、そうやって決断がつかなかったり、そのほかにも知識がなかったり、助けを求められなかったりして、図らずも産むことになるってことだって充分ありえると思うんです。それって、大学生のほとんどにいつでも起こりうる出来事ですよね?それを考えると他人事には思えないと思うんですけど......そういう風にはならないのかな。
かわいそうに不運だったね......っていうカテゴリに入れられて終わりなんだろうか......とか考えてしまうんですよね。でもそれって、「不運」じゃないほうの子にも、相当過酷な世界に見えます。運が悪けりゃおしまいよ、みたいな。それでいいのかな......。もっといい世界に生きたい!みたいなのはないの?


本当だよね......。またそれをね、別の視点から見ると、産むっていう選択肢もあるんだってことを知らないで、それこそさっき高畑さんが言ったように「産むと決めたら大学は辞めるもの」って思い込んでいたら、中絶することが唯一無二の選択肢ってことになりかねないでしょ。でも中には「産んで大学に残るという選択肢があるなら産んだのに」って人もいるかもしれないんだよね。


それも考えられますねぇ。


そういう意味でも「オンキャンパスで保育施設がある」というのは大事な意味があると思うんです。社会全体で子供を育てていくんだ、っていう認識をね、赤ちゃんや子どもが日々そばにいる環境から学んでもらえると思うんです。
それはね、子どもを産むという選択をしたとして、でもその結果、その子を育てる労力や責任がその母親にすべて行くんだっていうこととは違うんだっていう認識を育て得る......そういう今とは違う社会をつくる大事な一歩になると思うんです。
なんで今の社会が、さっき言ったように"実際に稼ぐ労働をしている者"が偉い・強い......というような資本主義の影響を強く受けた社会になっているかというと、一つには介護や家事や育児が社会から切り離されて、社会の外に置かれていることがあると思うんです。社会で稼ぐものはそういうことをしなくていい、外の人間に任せておけばいいというわけですよね。その社会の外には主に女性がおかれているわけですけど......。


それをもっと目の当たりにさせる、社会のど真ん中でやってやる、ってことですよね。


そうそうそう。


そうすれば子どもを産んでも社会の外に出て行く必要もないし、子どもを産んだからには出て行くんでしょ?っていわれることもないし、「産んでも産まなくてもここにいていいんだ」って思えばもっと自由に選択できますものね。


それは学生だけじゃなくて、男女問わず教職員がオンキャンパスの保育施設に子どもを預けて仕事を続けていたら、子どもを産んだことによって自分の人生や自分の目標が損なわれていない......というか、諦めなくていいっていうことを見られることになるわけですから、将来のイメージがもっと膨らむ可能性がありますよね。


子どもがいても、私にはいろんなことが出来る、その可能性があるんだ、って思えますよね。


それはすごく意味がありますね。


特に女子にはね......。あの、友だちでもそうなんですけど、"出来ちゃった"ら「婚姻」に押し込めて無理やりハッピーッ!って粉飾するんですよ。もちろんそれに至るまでのいろいろを知っているから、私からしたらその唐突な結婚には「ハッピーッ!」どころか不安を感じてやまないんですけど......

参加者
(笑)


その裏には、「婚姻」からはみ出しちゃったむき出しの妊娠出産が「どん底」だっていう認識がやっぱりあると思うんです。産むことそのもの、子どもを持つことそのものがむき出しになっていることに強い臭みを感じるからこそ、そうやって色々粉飾するように思えて......。
そうだからこそ、妊娠しかねない自分に恐怖と劣等感と憎しみのようなものをずっと抱えているんだと思うんですよね、女子は......。ってか私がそうだったんですけど。

参加者
(笑)


それがね、むき出しでいいに決まってるじゃない!ってことになれば......少なくともキャンパスでは「いいに決まってるじゃない!」ってなれば、かなりたくさんの人間にとって、生きるうえでの安心が増すと思うんですよね。


そうね......。学生ってね、結婚への憧れを結構口にするんですよ。男女ともに。その裏にはね、やっぱり結婚しなかった場合の不幸なイメージ、あるいは離婚したあとの悲惨な末路......みたいな

参加者
(笑)


そういう固定化したイメージがかなり影響を及ぼしているんじゃないかって思いますからね......。その固定化したイメージは、結局結婚のその先まで効いているんですよね。つまり「結婚したからには子どもを産まないといけないんじゃないか」となって、子どもを産んだら「子どもが小さいうちは育児に専念したほうがいいんじゃないか」となるわけです。それが唯一の幸せの形であるという風に思えたら......どうも多くの学生にはそう思えているようなんですけど、やはりそこに拘束されてしまいますよね。


でもねぇ......二木さんや酒井さんの話を聞けば分かりますけど、そんな甘い話じゃないじゃないですか。育児に専念なんてねぇ......簡単には出来ませんよ。

参加者
(笑)


さっき生駒先生が"介護"を話に出されましたけど、介護がすごくいい例だと思うんですが、「結婚」にはなにかマジカルな余剰労働力が隠れていると思われているとも感じるんですよね。「介護って大変だけど、結婚......というか家族から、なんかソレ用の労働力が搾り出せるだろう」みたいな。


そうだね。あるね。


それを今ふっと思い出して、そうすると、妊娠出産を婚姻関係に押しこめたい欲望にはそういう「労働力」の問題もあるかもしれないと思ったんです。つまり、「結婚もしないで、例のマジカルな余剰労働力をどこから出すのぉ?!」っていうことですよ。「あれがないと子育て出来ないでしょぉ〜?!」っていう感覚。ないですか?


あるある。


で、マジカルな余剰労働力があるのに子どもを持たないと、「なんで2人でのんびり暮らしてんのぉ〜?!」ってなって、「例のマジカル使いなよ〜」ってなるんじゃないかな。

参加者
あるかも(笑)


でもね、そのマジックってたいていのケースでは「お母さん」が八面六臂の働きで無理やり捻出してるんであって、ぜんぜん「結婚」とか「家族」から沸いてくるもんじゃないよね、って思うんですけどね。

参加者
うんうん。


......私は23で結婚して24ぐらいで子どもを産んだんですけど、私も出来ちゃった結婚だったんですね。社会人だったんですけど。そのとき、子どもが出来て私は人生がすごく変わったんですよね。それまで子どもが身近にいたことがなかったし、自分は子どもが好きじゃないって思ってたんですけど、子どもを持つことで私は子どもが大好きになったし、そのおかげで「生きる」っていうことの意味をはじめて考えるようになったんですね。


うんうん。


それでね、「ああやっぱり大学院行きたい」って思ったんです。


へぇ〜。


だから......それまではそんな人生を考えたこともなかったし、正直早いなって思ったけど、私は子どもを産んだことでそれだけ考え方も人生も変わったから、今では早くてよかったなって考えてるんです。ただ......それまでそういう人を見たことがなかったから、当時はこれでいいのかなって不安でした。
だから私は、こういう生き方もあるんだよっていう、いろんなケースをそれこそ学生のうちから見ることができるといいなって思うんですよね。


そうですよね......。今女性には二つのロールモデルがあるといわれていて......というか二つしかないんですけど(笑)

参加者
(笑)


一つは結婚して、退職して、子どもを産んで......それで"幸せなお母さん"としてやっていくというモデル。もう一つはキャリア志向でバリバリ働いて、結婚や家族についてはちょっと二の次......っていう、そういう二つしかないんです。

参加者
うん。


でね、ICU生ってどっちを目指している人が多いのかって言うと......どっちもやりたいんですよね。なのにそれをどう実現するのかっていうビジョンがない。モデルを知らないんです。


それ、両方やろうとしたら相当サポートが絶対に必要ですもんね。


そうそうそう。個人で出来ることではないの。そこには社会の支援が絶対に必要になってくる......


そこを求めていかざるを得なくなってくる......と思うんですけど......


うーん......でも「幸せなお母さん」と「バリバリキャリア」って、ICU生にとってはどちらも"善"のイメージですよね。むしろどちらも「やりたい」んじゃなくて「やるべき」ことじゃないですか?ICU生の間で固定化したイメージとして。


うん。


そうすると、両方頑張るのが善なることなのに、やろうとするときに社会にサポートを要求するのって、「わがまま」だっていう判断に容易に陥りませんか?
多分ICU生も、在学中に子どもを産んだけど、すっごく苦労しながらも自力で子どもも育てつつちゃんと卒業して、今ではバリバリキャリアでぇーっす!みたいな話は好きだと思うんですよ。そうじゃないですか?

参加者
(笑)


そうだね(笑)。


ICUは"二つのうちのどちらのロールモデルの影響力が強いからどうこう"、ではなくて、両方が同じ強さでロールモデルとして光を放ってしまっているっていうか......ま、何を言ったところで現実的に無理ですから、実際やってみたら変わるかもしれないけど、でも学生のうちから保育施設に支持を得るのって難しいだろうなって思いますね......。


今は外で働いているお母さんも外では働いていないお母さんも、どっちもものすごいストレスを抱えていて、どっちも本当に疲弊しているんだなって言うのがだんだん分かってきたので、もちろん私自身も疲弊しているし......だからそういうお母さんたちでみんなでケアしあっていこうよ、っていうグループを立ち上げたんです。でもそれを紹介したら、他のお母さんたちから「何で自分がもっと大変になるようなことばかりやるの?」っていわれたんです。そんなことやったら自分を追い込んでもっと時間がなくなるじゃない、って。


あぁ......。


でも私にはそこしか道がなかったから自然にそこに行ったってだけだったんだけど、そういう考え方もあるのかって思って......私って「わがまま」......っていうか、そこまで行かなくてもなんか......


「うるさ型」みたいな?


(笑)そうそう。だから、仕事をセーブすればいいじゃない、そんなにつらかったら仕事をやめればいいじゃない、って返されちゃって......。


母親同士の意見集約は難しいでしょうね......。私は保育園育ちなんですけど、小学校に上がったら幼稚園に通わせてた母親と保育園に通わせていた母親でバトルが行われていたっていう......

参加者
(笑)


けんかしたときとか「これだから保育園上がりは」とか言われたりして(笑)。

参加者
ええ〜?!


それはとどのつまりは外で働いている母親と外で働いていない母親の争いってことですよね......。突き詰めればクラスの問題ともいえるでしょうね。日本には階級がないなどといわれますけど、やはりそういうところに現実が表れていますね。


そうですね......。それとあとは、さっきロールモデルの話が出ましたけど、「幸せお母さん」と「バリキャリ」の二個しかモデルがない場合、どちらを選んでももう一つに無意識に心が残るんじゃないかなって思うんですよ。だってどっちをえらんでも無理がありますもん。どう考えてもその排他的な二択は不自然だもん。


うん。


ね?だから、別に「乱暴な子!」でもいいのにわざわざ「保育園上がりが!」って言う。保育園に行かせてたあなたは酷い母親だ!って言いたくなる。稼げる労働に従事しているほうが偉いという考えかたの影響力について、これまでも何度か話が出ていますが、稼いでいない自分にどこか負い目を感じているからこそ、あなたは稼いではいたかもしれないけど、母親としては失格ね!って鬼の首を取ったようにいいたくなるんじゃないかな、って思います。それは逆もまた然りで......


そうね。働いている人は逆に、自分が母親業・妻業をおろそかにしているんじゃないかっていう負い目に苦しんでいるんですよね。だから働いていない女を非生産的とか甘えているとか言って非難したくなる。......そもそもが引き裂かれたモデルだから、二木さんがさっき言っていたように、どちらを選んでもストレスがたまる......。どっちの立場でも、相手が持っているのは自分から失われた部分ですからね、嫉妬心が芽生えるのかもしれません。でもそれはすごく不毛だと思うんですよ。

参加者
うんうんうん。


なにか意見を述べるときとか、ましてや誰かを非難するときっていうのは、それがおかしいことだと純粋に批判したいから、というだけでなくて、どこか自分を守りたい気持ち......のようなものが働いていることがあります。このケースではそれが顕著に現れているのかもしれないですね。どちらの側にもね。

参加者
............


(笑)


またため息ばかりが聞こえてくる会議室となってしまいましたが......(笑)。でもこれって簡単には解決できないですよね。あなたはその不自然に引き裂かれたモデルの、どちらか一方を無理やり選ばされたんです。もう片方を選ばなかったことについて、負い目なんて感じなくていいんですよ。どちらを選んでもいいし、選ばなくてもいいし、途中で変えたっていいんですよ!......って言っても、選択してそれを生きたこと自体がもうその人の一部だから、私の今の発言自体が、その人の存在の大事な一部を否定するものに聞こえかねないですよね......。


そうだね......。


......保育園を1人目と2人目で別のところに通わせていたって言いましたけど、そのとき感じたことには、1人目は親が2人ともフルタイムで働いててポイントが高かった頃にはいった園だから、周りの親も共働きで両方バリバリ働いている人が多くて。でも2人目のときは私が学生でポイントが下がっちゃったときに入った私立の園だから1人目のところとは母親の種類が違うんです。


種類が(笑)。


もう、種類としか言いようがないんだけど(笑)、そこはフリーのジャーナリストとか、休職中とか、ヤクルトレディとか、いろんな職種のいろんな人がいて、私は個人的に話がしやすくてそっちのほうが居心地はよかったんですけど......それこそ話題も服装も押してくるベビーカーまで1人目の園と違うの!

参加者
そんなとこまで?!


そう。お姉ちゃんのほうの公立の園はスーツの人が多くて、延長する人は少ないですね。逆に2人目を通わせてた私立の園はスーツは少なくて、作業着とかジーパンとか......それで延長がすごく多い(笑)。それと印象的だったのはお父さんが迎えに来るケースがすごく多かった。

参加者
へえ〜


みんなが第10希望ぐらいで出すって言う私立の園のほうの話?


そうそうそう。男女共同参画ってことで言ったら、そっちの園のほうがよほどすすんでいるって言う印象(笑)。

参加者
(笑)


でも公立のほうさ、保育園を延長しないで正社員で働くって難しいと思うんだけど、そのお母さんたちどういうところで働いてるの?


そこがねぇ、旦那のほうはだいたい企業でバリバリ働いているんだけど、でも妻も企業でっていうケースは少なくて、妻はほとんど教師とか公務員とか、帰る時間が読める仕事についてるの。だからお父さんは迎えには来ない......。お父さんは残業!って感じ。


二木さん浮くんじゃない、そこで。


すっごい浮いてるんだよ(笑)。


(笑)今2人ともそこなんでしょ?


そうそう2人ともそこ(笑)。謎のお母さんだと思われてると思うんだよね......だって最初の2・3年はスーツで送り迎えしてて、それが突然ジーパンになったから。


しかもいきなり延長が多くなったわ〜って(笑)


そうそう。延長が多くなっただけじゃなくて5・6・7のときはお父さんがお迎えに行くからそこもね(笑)。それを見た人からは「お父さん理解あるよね〜」って言われるんだよね。


あ、5・6・7の時のお迎えで「理解ある」なんだ......。


そう!今はTAやってるから仕事で5・6・7ってことがあるんだけど、それにも「理解あるよね〜すごい協力的だよね〜」って。

参加者
(笑)


いや、でも仕事なんですけど、って思うんだけど......


その人たちにとったら、お迎えにいけなくなるような仕事をえらぶこと自体が母親がすることじゃないんだろうね。もう選択肢にそもそも入っていないっていうかさ。でも父親がバリバリ一直線じゃ、自分がお迎えにいけないようじゃ現実にやっていけないって言うのもあるしなぁ......


そうなんだよね。しかもどちらが幸せかって言うのは、結局分からないんだよね。

参加者
うん......。


だから......なんか話が遠くに来ちゃったけど、結局どちらを選んでもいいよ!......って言ってもね、それは本当なんだけど、そんなに簡単に選びなおせないし、そもそもその選択自体がかなり階級に縛られちゃってるから、そこを何とかしないことにはなんともね......。


うーん、やっぱり階級かぁ......ちょっと敵にするには手に負えない感じなので、さっきからさりげなく話をそらそうとしてきましたけど、ダメでしたね。

参加者
(笑)


やっぱ階級っていうのは大きいんですかねぇ。


......階級の違いって、保育園の頃は親同士の話で済むかもしれませんけど、小学校にあがったらさっき言ったように、そこの違いを理由に非難されたりもしだすし、もっと大きくなってからは、さっきの引き裂かれた二つのモデルの選択にもかかわってくるんじゃないでしょうか。
私は母がバリバリ働いていたほうだったので、それを当然って思っていて、将来について考えるときは自分もそうなりたいなって思うんですけど、ICUってお金のある家の子が多いから、専業主婦の家庭の子が比較的多い......


えっ、そう?!


そうなんです。そうすると、今4年なので就職活動も佳境にはいって、将来について結構具体的に話し合っているときに、私が母みたいに働き続けたいっていうと、「子どもはどうするつもり?」って必ず聞かれちゃうんです......

参加者
ええ〜


でも分水嶺はやっぱり子どもなんだ。


子供なんだねぇ。むかしはそれが結婚だったんで、そこが違ってきてはいますけどね......。
あの、ちょっと今の話の流れがね、専業主婦がよくないというニュアンスにも取れるような感じになってきていると思うんだけど、もちろんそういうことではないんですよね。
専業主婦は、これまで何度か出てきている"稼ぐ労働"ではないので、今の社会ではきちんと評価されていませんよね。そこはやはり変えていかなくてはいけないというのと、あと、やはりそれが好きで、それが向いていて、それをやっていて幸せだということだっていくらだってある。男女ともにね。そういう人が自由に主婦・主夫業を選べたらいいですよね。
やはり目指さなくてはいけないのは、どんな選択でも好きなときに自由に出来て、しかもそれをお互いが認め合う社会だと思うんです。

参加者
......うーん........................難しそう〜(笑)


ですよねぇ(笑)。


育児もそうなんでしょうけど、介護のケースで特に感じるんですが、「やっぱりそういうケアの領域には、もっと公的な支援がさしのべられるべきだよね!」とか言っていても、今現在ガッツリ1人でそれを担っている人にとっては、必ずしも全面的にうなずける話ではない......というような感じを受けることがあるんです。
例えばその家にはその人しか介護のリソースがなくて、もう彼女に頼りっきりの状態で彼女はクタクタで大変なんだけど、でもそれが彼女のアイデンティティの一部になってしまっているような場合にはね、「これが軽減されたらやりたいことが出来るでしょう?」っていうような話が、私が独りよがりで「いいだろう」と思っているほどには賛成されなかったりするんですよ......。

参加者
うん。


もちろん実際問題として倒れる寸前だから支援は助かる......と。でも介護を一手に引き受けているということが彼女自身の重要な一部になっているから、それ抜きの自分っていうのを考えてみると、何かを奪われたように感じているような......。ここら辺、まだうまく言語化できないんですけど......。


存在意義のようになってしまっているんでしょうね。どんな仕事でもそうだけど、「自分がいないと回らない状況」って、大変なんだけどある意味全能感を得られて気分がいいんですよね。特に介護や育児は、回らないどころか相手の命にかかわるから、私がいないと......っていう風にさらになりやすい。そこら辺も関係しているかもしれませんね。


そうですねぇ......。そこに賭けてしまう背景には、本当に現実味のある恐怖もかかわっているのだと思いますけど......。
あの、先ほど「家事労働がきちんと評価されるようにならないと......」というお話でしたけど、いざ全職業を並べて評価してみましょう、ってなったとして、家事や介護や育児が従来の賃金労働の一段下っていうことに、本当にならないと思いますか?


うーん、今のままでは難しいだろうね(笑)。


そういう、「白日の下に晒されたときにはきっと、きちんと評価されないんだろう」っていう、諦めのような不安感が根底にある気がするんですよね。そしてそれはかなり現実味がある恐怖ではある。......私の中にそういう恐怖があるからそれが投影されてそう見えるだけかもしれないんですけど......。
ここまで話してきてアレですけど、私自身が知っているロールモデルの多様性に問題があるという可能性もあるんですよね。なんか......ないですか?(笑)


元気の出るロールモデルが(笑)


個人的な話になりますけど、私の祖母は......母の母ですが、ずっと専業主婦で三人の子どもを育て上げて、そこから、栄養士だったこともあってNPOを立ち上げて、以来ずっと忙しくしているんです。

参加者
おおお〜!


私のロールモデルは、確かに仕事を続けた母のほうなんですけど、でも祖母を見ていると、専業主婦でがんばって、子どもが手を離れたら子育てのスキルを生かして地域に貢献するというのもすごくやりがいがありそうだなって思うんです。


ホントだねぇ!ホント素晴らしい


いいですねぇ〜!やっぱり自分に限界を設定してアレも出来ないコレも出来ないって思ってちゃダメなんだな......。だってどれが幸せかは本当に誰にも分からないんだもんね。


そうそう。

参加者
(笑)


(笑)。元気が出たところでICUにおける保育施設のほうにちょっと話を戻しますが、階級差や生き方の選択の違いによって女性の間に溝があるということがはっきりしてきましたが、それでもなんとか......共闘しないまでも足を引っ張り合わない関係をつくって、保育所の実現にこぎつけることは出来ないものでしょうか。
やはり「どんな選択でも好きなときに自由に出来て、それをお互いが認め合う社会」には、保育所は......全員にとって不可欠とはいえませんが、多くの人にとって不可欠ですよね。


そうですね。


でも大学側には必要性がいまいち伝わっていない......。そんな中ではどういうアプローチがありえるでしょうか。


やはり財源が大きな問題になってくると思うんですが、独自財源というのは残念ながら現実的ではないですよね。大学に、それはぜひとも予算を組んでやりたい、やらなくては、と思わせる方向でアプローチしていかなくてはならないと思うんです。ひとつ追い風だと思うのは、別に日本初っていうわけではないんですよね。すでに先例がたくさんある。そこから学ぶというのは有効な進め方ですよね。

参加者
うんうん。


それとやはり決定的になってくると思うのは、酒井さんのように学生から声を上げることですよね。学生というのは、大学にとってはお客様でもあるので、その声を無視していては立ち行かなくなるんですね。だから学生のニーズを伝えていくと変わる可能性があるんじゃないかって、これは私の期待でもあるんですけど(笑)


CGSの調査では、学生で子どもがいる人って4人だけだったじゃないですか。3000人ぐらいいる学生の中で4人......。その数がどう判断されるか、ですよね。ニーズはある。でもかなり規模は小さい......という状況で、無視してもいいという判断にならないとは限らないと思うんです。


そう。そこが小規模の大学の弱みなんですよね。少数者が本当に「少数」になっちゃうんです。妊娠していたり子供がいる学生がつねに在学しているという状況が、今の支援体制では特に考えにくい......ですよね。
ただ、大学院をより魅力的なものにしよう、とかね、海外からの留学生をもっとアトラクトしよう、という話は大学側も真剣にやっているんです。そのときにオンキャンパスの保育施設があれば実際に強みになります。

参加者
うん。


だから、現時点でニーズが少ないからやめましょう、っていうのではなくて、酒井さんもおっしゃっていたけど、やればニーズが増えるんです、っていうところですよね。それは大学にとっても決して悪い話ではないはずなんです。


それと......この例がここで適切かは分からないけれども、障がいを持った学生さんってICUにもたくさんいますよね。障がいのありかたにはもちろんひとりひとり違いがあって、大学側はそれにあわせたきめ細かな対応を求められていて、応えているのだと思うんです。
それを考えると、同じ困難を抱えた人間が4人もいるのに、それには対応できないという特別の理由ってなんなんでしょう。
あの、これは、障がいを持つ学生へのケアが不必要だとか、そういう話ではもちろんないんです。それは当然やるべきこととしてあって、後退すべきでは決してないんですが、同時になぜ妊娠・出産・子育てという困難が、同じく"当然支援すべきこと"として見られないのかな、っていう純粋な疑問......っていうことです。


それこそプライベートな問題だと思われているんじゃない?妊娠出産なんて......自分が好きでしたんでしょう?って。だったら自分で頑張って何とかしてください、って。だから障がいを持つ学生への支援とは全く別次元だと思われていると思う。致し方なさがまるで違う......とかね。この時期に産むのは単なるわがまま、とかさ、理由付けはいくらでも出来ると思うよ。
まあでも、いまや産まないこともわがままだからね......。

参加者
(笑)


じゃ、どうしたらいいのよ〜?!


だから、プライベートですから、自分で頑張って!って(笑)


そんなこといわれたらさぁ......産まないよ?

参加者
(笑)


いや、何の脅しにもならないけどさ、でも言ってることが毎回全然違うんだもん。社会のいろんな切り口で。
産めってことなの?産むなってこと?空気を読んで、みんながこの時期ならいいんじゃないって言ってくれそうなときにぱっと産むならいいよってこと?でもそんなの無理でしょ!


ホントねぇ......。みんな「どうしたらいいのよ?!」って思ったまま時は流れて少子化になっちゃったんだけどね(笑)。

参加者
(笑)


でも産まないこともわがままなんでしょ?


わがままだってよ(笑)。


なんでよ〜(笑)。そういう話を実際に聞く?


うちの姉が結婚して7〜8年経つんだけど、子どもは産まないって宣言していて、その通り産んでないのね。そうするとさ......


何で産まないの?って?


いや、何で結婚してるの?って


そっちなの?!


そうそう。結婚してる意味あるの?って。


もう結婚が子ども生産装置なんだね......。


そう。一方で不妊治療をすごく頑張っている人もたくさんいるんですよね......。


ううう......。なんか苦しくなってきた。もう考えなくていい?

生・二
(笑)


不妊治療を無理して頑張っているのをみると、なんで?!って思っちゃうんだよね......。自分で妊娠出産した私が言うのはおかしいことなのかもしれないけど、なんか、ほかに方法はあるんじゃないかなって思ってしまって。


養子縁組とかね......。私、養子については結構真剣に考えたりするんですけど、シングル女性の場合、日本じゃほとんど無理なんですよね。でも婚姻関係にあればできるのにな......。


理由としては、彼の子が欲しい、というのはよく聞くけど。


そこなの?自分の子が欲しい、じゃなくて?


彼......っていうのも多いですよ。


日本って血のつながりへの信仰があるからねぇ......。


でも......さっきから不謹慎かもしれない例ばかり出して申し訳ないんですが、事故で取り違えられたまま他所で育てられるケースって聞いたことありません?


あるあるある。でもさ、大きくなって実は他所の子でした〜とかいわれても、急にかわいくなくなるわけがないんだよね。ていうかいまさら他人とは思えない。


だよねぇ?


<ここで酒井さん再合流>


今ちょっと話が大きくなってきてて、結婚とは、親子とは、という感じのところを経て、とうとう日本人の血縁信仰のなぞについて考え始めたところです(笑)。


その血への信仰もさ、イエ制度の崩壊と関係があるといわれているんだよね。昔......それこそイエ制度でガッチガチだった江戸時代とかは、逆に養子縁組がよく行われていたでしょ?でも今はイエが信頼できるシステムじゃなくなってしまったから、もう、信じられるのは自分の血しかない、みたいな感じで。


近代家族のシステムの中で、家事・育児・介護っていうのが、家庭の中にあるべき"プライベート"なものとして"パブリック"な領域から消されたんだよね。そこにそういう"自分と自分の子"で出来た核家族の成立があって、そういう"プライベート"なことがその核家族の中でやること、ってことになってしまった。

参加者
うん。


でもむかしは大家族で住んで、子どもは親戚みんなで育てる......っていうのが普通にありえたんですよね......今は、そういうふうにみんなで分担するための新しいシステムが出来ないままに核家族化してしまったので、母親一人が面倒を見るというのが当たり前になってしまっているんですけど......時代を経て、家族のありようって逆に柔軟性を失ってきてしまってますよね。


でも一気に昔に戻れるとも思わないんです。核家族っていう選択にもそれなりの利点・理由があったはずなんじゃないかと思えて......全くいいところがなかったらだれも飛びつきませんよね?


そうね......。だからここから先、どうまた変わって行くかという問題でしょうね。核家族以外のあり方を思い浮かべることが今みんな出来ないので、それが唯一絶対のあり方じゃないんだよってことを示すとかね。
例えばブータンに行ったときに驚いたんですけど、あそこでは赤ん坊の面倒を見ているのがほとんど男の人だったんですよ。おんぶしながら野良仕事してたり......

参加者
ええ〜


で、聞いてみたらね、ブータンにはジェンダーによる役割分業という考え方がそもそもないんですって。


スバラッシイ!ああブータンに行きたい!


ホントね!その背景には何か理由があるんですか?


それが......私が思うに、一つは農業国だからって言うことかもしれない。農業って基本的にジェンダーによって差が出ない業種ですよね?日本がかつてジェンダーに関係なくみんなで赤ん坊の面倒を見ていたことから考えても、そこは関係しているんじゃないかなって思うんですよね。


ブータンって、肥沃な土地とは言い難いですよね......?


そうだね。


昔フィンランドの人に聞いたんですけど、フィンランドも不毛の土地で、労働力に余裕がないからジェンダー関係なくみんな仕事をしてきたんですって。そこでは分業する余裕がなくて、手のあいた人が子どもの面倒を見るというやり方しかできなかったために、逆に女の仕事・男の仕事っていうのはないんだって。フェミのお国自慢も入っているので誇張もあるかと思いますけど、そういうのもあるかもしれませんね。


そうね。ブータンでも男女が全く同じように働いてたから、それはあるでしょうね。もうここのほうがよほどジェンダーの問題への対応に関しては先進的じゃない?!って思っちゃうぐらいだったので(笑)。


じゃあ余裕が出来てきて、IT化とかしちゃったら、逆に分業がすすんじゃたりして......。


専業主婦って確か資産があることの証として、ファッションとして流行し出したんですものね......ありえるかも。ブータンの現状って、国民からしたらどういう評価なんですか?


GDPじゃなくて国民総幸福量で国の価値を量るっていう方針なんですよね?


そう。それで幸せだって思っている人が実際多いの。


え〜いいなぁ。


そういう日本以外の国のあり方を知らせて行くのは重要だと思うんですよね。今の日本のやり方しかない、これしか家族のあり方はない、って思い込んでしまっているわけですからね。


なんで日本はこんなになっちゃったんでしょうかね......


高度成長期っていうのは大きなターニングポイントだったと言えるかもしれませんね。戦時中の工場などは女性や子どもが働く場所だったんですよ。これもジェンダーで分業している余裕がない、という例の一つでしょうね。でも戦後になって男性が帰ってきますよね。そのときにその働いている女性たちを家に帰さなくてはいけなくなった。それで専業主婦を称揚するようなキャンペーンをずいぶんやったらしいんです。
そして高度成長期に入ると、家事・育児・介護を女性が一手に引き受けて、男性はそういうものから解きはなたれて企業戦士としてやっていくという体制が確立します。それがあの頃は効率がよかったんですね。......少なくとも効率がいいと信じられていた。


国や地方自治体にしてみたら、介護や育児がただで済みますしね。


そうそう。他にもいろいろ原因があったと思いますが、高度成長期というのは主要な原因の一つでしょうね。


高度成長期って、すごくいい時代として記憶している人も多いですよね。


昭和ブームみたいに?アレって戦後の高度成長期前夜とか、高度成長期とか、とにかく昭和っていっても戦後ですよね。


そうだね。つまりサザエさんってことか。


そうですそうです。そういう話を耳にすると、あの時期に今の問題につながる問題の種が撒かれたんだということをいっても、信じ難いんだと思うんです。信じたくないというか。


考えにくいんだろうねぇ。お父さんが外でバリバリ仕事をして、お母さんはいつもうちにいておいしいご飯を作ってくれる......っていうイメージだよね。


はい。そうやってすごくいいイメージがあるから、家から出て働きたがるお母さんはダメっていうことになるし、子どもは自分で育てなさい、っていう話になるんじゃないでしょうか。彼らにはそうとしか見えない、っていうか。
保育所のことにも、そういう生きてきた時代ごとに違ってきてしまうイメージとか社会の見え方が影響しているんじゃないですかね。


確かに希望はあった......らしいですもんね。高度成長期って。


まあどんどん経済がよくなるっていう実感があったわけだからね。


逆に私なんかは下り坂しか知らなくて......

参加者
(笑)


92年だかにバブルが崩壊して、その頃だいたい12歳でしょ?やっと経済とかにも関心が向き始めた頃で、あとはずっと下り坂って言う......


でも私たちにとってはそれが日常で、別に異常事態でもなんでもないんだから「失われた10年」とか簡単に言って欲しくないんだよね。

参加者
(笑)


私はそれを「ゆとり教育」に感じますね(笑)。


なるほど......。確かに世代で見える現実はかなり違うのかもしれない......。私の子どもも、私とは全く違う目で社会を見るのかもしれないですね。


そうですね。


祖母に会ってもそういうのは感じますね。私の父は3人きょうだいで、それこそ高度成長期に入る前、まだ余裕がなかった時代の話なんですけど、男の子2人はお肉とか食べさせてもらえてたらしいんですね。でも女の子は粗食だったんですって。

参加者
ええ〜?


今でも叔母はそれに文句を言っているんですけど、私にはそれが信じられなくて。祖母って今はぜんぜんそんな感じじゃないんですよ。もちろん「女の子なんだから......」みたいな古いことを言ったりはしますけど、でも女の子だからって粗食させるようなタイプではないんです。
余裕が出てきてからはそういうこともなくなったみたいなんですけど、もしかしたら祖母が育った頃は逆にそういうのが普通だったのかもしれないですよね。それで、余裕がなかったころは自分の子どもにもそういうやり方をしてしまったのかもしれないなって思うんです。


世代もそうだけど、経済的状況とか、その時々の条件も関係しているんでしょうね。


うーん、そうするとまたクラスの話に戻っているような気もしますけど......

参加者
(笑)


ただ、どうやって大学側にアプローチして行くかという問題でしたよね?


あ、そうでした。世代間の共闘の可能性を探るのではなくて、ですね。


そう。それを考えたときに、どの世代にも納得してもらえるようなものを、って言うのはもう不可能だということが分かりましたよね。

参加者
無理ですね。


そうすると、新しい時代の流れを見せて、それは必要だなって分かってもらえる人を説得して行くしかないと思うんです。


うんうん。独立行政法人化以降の国立大学って、他がやっているからにはやらないわけには行かないっていう雰囲気があるみたいなんですけど、そういうのって「新しい時代の流れ」として伝わらないものなんですか?


ICUはいい意味でも悪い意味でもisolatedなんですよね......。確かにそういう国立の機運っていうのは私大にも影響をしていますが、結果として保育施設に結実するのは女子大かマンモス大学で、そもそもニーズが一定以上あるか、保育関連の学科があって教育上有用だという場合ですよね。ICUはそのいずれにもあてはまりませんので......。


あの、説明会に来てくれた人とメールをくれた人の、合わせて50数人の中に何人か、保育士を目指して資格を取得中だっていう人がいましたよ。

参加者
へぇ〜!


せっかく学科がなくなったんだから、そういうカリキュラムを用意することだって、そんなに非現実的な話でもないと思うんですけどね......。


本当に、なにが一番伝わるんだろう。


学生のニーズでしょうね。学生にニーズがあるということは大学にとって大きなインセンティブになるはずです。


今は、数としてはそんなにニーズはないですけど、例えば施設をつくってそれを前面にだした宣伝を打った場合に、どういうニーズが増えると見込まれて、また施設自体もどうやったら黒字化が見込めるか、といった試算をちゃんとデータとして出して呈示する、というやり方もありえると思いますか?


そういった試算が出せたら、数字はやはり強いですから有効でしょうね。


受験生の増加がもし見込めたとすれば、受験料で潤う可能性もありえますよね。


そうですねぇ。


闘いかたとしては、それとは別に考えておいたほうがいいなって思うことがあって、いくらマンモス大学と女子大にしか保育施設ができていない、と言ってもやはり全体として増えていることには変わりはないんです。このまま行けば、遅くとも10年経つころには、ICUもどうやったって作らないわけには行かないという事態に陥ると思います。
だから問題は、それをどうやって前倒しさせるか、ということと、施設が出来ることになったとしても、それが利用可能なものになるかどうか、ということですよね。


10年じゃ遅すぎますもんね......。


ねぇ......。ただ重要なのは、施設の可能性が全くゼロなのではないんだ、ということですね。10年と言ったら遅すぎはしますけど、可能性が絶対にないということではないんです。だからデータなども、それを前倒しさせるような、よりよい施設に導くようなものを呈示して行くといった選択は有効になってくると思います。


......これからどういう活動をして行こう、といった予定はあるのでしょうか?


さっき言ったデータを集めたり、といった、目に見て分かる資料作りですね。理由としては、私が経営学専攻なので、黒字を出せないだろうかということにはそもそも興味がある、というのが一つ。もう一つは、決定権を握っている年代の、いわゆる壮年の男性はデータにすると話が通りやすいと言う経験があるんです。私がカフェをやっていたころの社長も、口頭でそういう経営じゃダメですっていくらいっても伝わらなかったのに、それを全部書面にしたらコロッと「それいいねぇ」って。

参加者
(爆笑)


データが伝わりやすいならデータにして出せば可能性は上がるんじゃないかなって思っているんです。


それってたとえば他大ですでに施設があるところが、実際どうなのか......例えばそれを理由に受験者数が増えているのかとか、利用者数は安定しているのかとか、そういうのも調べたらいいデータが取れるかもしれないですよね。


どうだろう......利用し難い施設が多いから......少なくともそういう印象を受けるので......。


ただそれも調べてみたいとね......。ここにはこんないいところがあって、でもここがダメ、とか、別の大学はまた別の強みと弱みがあるかも知れない。そういうのを積み重ねていった先に、現実的でよりよい施設の一つの可能性が、自分でもはっきり見えてくるってことはあると思いますよ。


あるいはいくつか納得できるレベルの成功モデルを厳選して、データを採ったり参考にするのはそこからだけっていうふうに、対象を集中させるっていう手もあると思います。


なるほど。ICUでも実現可能な形態の施設でさえあれば、厳選して検討するというのもアリですね。


他にはありますか?


もう一つ注目しているのは、自治体の中には高校中退者などが高校に再び入学できて、卒業資格が取れるように支援しているところがあるらしいんです。やはり学ぶということはそれだけでとても価値のあることですし、卒業資格は具体的に就職の際に助けになりますので、私が大学における保育施設の必要性について考えるときと同じ発想がそこにはあるな、と思っていて、そこから自治体と何か連携が出来ないかなぁって考えるようになりました。


ちょっと先生にお聞きしたいんですけど、こういう風に学生が説明会を開いて動き出していますよね。その記録......例えば何月何日に説明会を開いてどういう話になった、と言った情報を記録しておいて、定期的に大学の担当の方にわたすというのは、意味があると思いますか?
この動きの存在がそもそも伝わっていない、なんてことになったら、せっかくの説明会やミーティングなのにもったいないと思うんですよね。


それをやったらプレッシャーには確実になると思いますね。


今回はあえて、事前にこちらについてお知らせすることは控えたんです。やはり学生の集まりなので、もっと綿密に戦略を練ってからお話を持っていったほうがいいだろうなって思っていて。さっき言ったようにきちんとデータを集めたりとか、交渉の相手になる方がデータより他の形を好むかもしれない......という可能性も考えて、そこらへんもきちんと情報収集して、もしそういう場合は戦略を変えたり、といったことが必要なんじゃないかと思っているんです。


そうですね。直接交渉する段階になったらそういったことも大切になってくるとおもいます。想定されるやり取りをロールプレイしておくとかね。
ただ、いまの段階では、「学内でこういうことをやっています、こういう動きがあります」って報告しておくことはいいことじゃないかなって私は思います。


うん。途切れずに続いている運動なんだなっていうことが伝わったほうがいいから、ミーティングのたびに報告をあげておくことは意味があると思う。内容は、それこそ人数にもこだわらずに、日時と場所と話し合われた内容の報告だけでいいとおもうんだ。
じかに報告書を手渡ししに行けば、実在する人間なんだな、実在する運動なんだなって実感してもらえるし、真剣なんだってことを真剣に分かってもらうためには、交渉のときだけ事務的に顔を合わせるというよりは、普段から顔なじみになっておいたほうがいいと思うし、そうやっていったら相談に乗ってもらえるかもしれない。


私が怖いのは、実際にこれは私がやりたいこと、私に必要なことだから、こうやってチラシをつくって配って回って説明会もやっているだけで、そうすると所詮は"ママ"の内輪の集まりでしょって......逆にじかに接触することでそう軽く思われて終わっちゃうだけなんじゃないかなって、そういうところなんです。
それは心配しすぎかもしれないんだけど......だからとりあえず50人は集めようと思っていて、そうすると報告を受けるほうも内輪の声っていうよりは"団体"として受け止めてくれるんじゃないかって思って。


なるほど。


でも一回目で50人越えちゃったので逆にこれからどうしようって感じなんですけど(笑)。


もっと大人数を目指してもいいんじゃない?


そうですね......。私が目指したいのは、「なんか聞いたことがある」っていうような団体じゃなくて、スムステとか、名前を聞いただけで何をやっている団体かみんなぱっと思い浮かぶような団体なんです。参加者もたくさんいて、いつ何を企画しているのか大体伝わっている感じにまでなれたらいいですね。


そうですね。そこまでなれば内輪のグループとして無視されることは絶対にないですからね。


それを目指して今はW3(学内サイト)に載せた情報を毎日更新しています(笑)。


それも重要ですよね。長期的には大きな団体になったほうがいいけれど、今からでもコンスタントにニーズがあって、コンスタントに活動している学生がいるんだってことを大学は知らなくてはいけないし、知らせない手はないと思いますから。W3は大学もチェックしているので、いい手だと思いますよ。


いまのままだと学生の大半が、「へー大変だね」で終ると思うんです。だから私たちも、学生がそういったことを自分の問題として考えられるようになるように、チャンスを提供していく必要があるなって思っています。やはりこちらからアプローチしないと変わらないと思うんです。言えば分かってもらえると思うんですよね。


ホントそうだと思います。ロールモデルの話が出ましたけど、目に入る範囲にそういう生き方のモデルがないとか、あっても目に入っていないだけなんですよね。でも子どもを抱えて苦労しながら大学に来ている人がいる......支援を必要としている人がいるんだっていうことを見せていけばね、ちゃんと分かると思いますよ。


それは、男子学生にもすごく重要なことだと思うんですよね。学生として他の学生たちの中にいると、妊娠についてすごく安易に考えている学生が残念ながら目に付くんです。知識が間違っていたり、中でも男子学生は本当に他人事になりがちで、そこから女性が妊娠・出産ってなったときも、子育てについてまるで準備が出来ていなくて、女性はどんどん学んでいくんですけど、男性は何をしたらいいかわからないままのようなんです。そこに関しても、やはり学べる機会をつくることが大切だと思っています。


そういう意味でも赤ちゃんがキャンパスにいる状況というのはとてもいいと思います。自分自身も兄のところに赤ちゃんが出来てから初めて「赤ちゃん」というものを知って、そこではじめて学んだことも多いんですね。なのでそういう状況はあると絶対ためになると思います。


そうですね。何を目指すにしてもやはり教育というのは重要ですね。せっかく大学なんですから、教育というアプローチを積極的に展開していきたいですね。


......そろそろお時間となりますが、このあたりでお開きとさせていただいてもよろしいでしょうか。
個人的な感想ですが、今日はじめて知ったこともすごく多くて、やっぱりこういう顔をあわせての情報交換の場って重要だなって思いました。今後も、進展があってもなくても情報交換を続けて英気を養いつつ、お互いに頑張っていけたらいいなって思いました。本日はありがとうございました。

参加者
ありがとうございました!

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