ICU大学院:セザレ・アルベス・フェハジ
【CGS Newsletter012掲載記事】【ペーパー版と同一の文章を掲載】
日本には職業の分配に関してバイアスがかかったジェンダーアプローチがあり(玄田, 2005)、日本の警察は同様の心的態度を再生産していると言える。男性は警察機構の中核に位置づけられ、積極的にコミュニティ・ポリシング(コミュニティにおける警察活動)に参加し市民との直接的交流を伴う毎日のルーティンワークを行なうための空間は女性からは奪われている。本稿では、日本のジェンダー不平等、またそれが日本の警察にどのように影響を与える可能性があり、ブラジルのような日本以外の国々での所謂「交番モデル」の実行にどのように制限を与える可能性があるか検討する。
コミュニティ・ポリシングは、警察・コミュニティ間のより良い関係、つまり市民に友好的で人権に敬意を払い平和を促進するような治安維持のアプローチを必要とする。しかし同時に「女性の」役割と特性--例えば「親密な関係を作り、維持し、より融和的で非攻撃的な警察活動を実践する」(Miller, 1999, p. 197)というようなこと--を強調して、より多くの女性を組み入れ、男性・女性警察官双方にとっての警察活動のイメージを再形成するなどの、警察によるジェンダー概念の再構築も必要とする。この点で、日本の警察は偏ったジェンダーアプローチを自身の内部でどれ位再生産してしまっているだろうか?それは、ブラジルのような他の国々でのコミュニティ・ポリシング・プログラムの実行における問題を説明できるだろうか?
まずはじめに、ブラジルとは違う日本の文化的な特性を見てみよう。Hofstede(2001)は、文化の区別に役立つ5つの主要な特徴を明らかにした。1Hofstedeは、日本が非常に高い男らしさ指標--調査された全ての国の間で最も高い国の1つ--を示していると確言する(see Graph 1)。これはこの国が高い程度のジェンダー分化を経験していることを示し、男性が社会と権力構造の重要なシェアを支配し、女性が男性の権威の支配下にあるということである。
Shire(2006)によると、日本には、特に職業選択を考えた場合、ジェンダー認識の中心的役割が存在するという。例えばフルタイムの職は、子どもの為に時間を割くこともできない休みないプロセスを意味し、主として男性に適用される概念である。「"男性稼ぎ手モデル"は、男性を労働者として、女性を妻又は母親として定義するために、ジェンダー関係性と社会政策がいかに交差しているかを示す」(Shire, 2006, p. 2)。日本の「男性稼ぎ手モデル」は、組織の内側での職務の分配に関し、日本の警察にどう影響しているのか。神奈川県の多摩警察署へ数回訪問したのだが、その署で働くおよそ200人の警官のうち女性はたった10人だった。男性が警察署のたいていの部門を支配しており、当該管轄地域内の交番のどこにも女性の警官がいなかった。課ごとの女性たちの配置については、交通安全に5人、コミュニティの安全に3人、犯罪捜査に2人、コミュニティ・ポリシング(交番)に0人であった。交番の機能を含めた伝統的な男性の任務を行う女性の能力について尋ねると、日本の男性警官たちからは、女性警官は事務職のほうがより能力を発揮するだろうという回答があった。玄田(2005)によれば、日本ではフルタイムとパートタイムの仕事の間のヒエラルキーが確立されており、女性たちはその最下部に配置される。日本の警察について言えば、その職務はフルタイムで、基本的にすべての警官がフルタイムの被雇用者である。この場合には、たとえ警察の中でフルタイムの職務に従事している場合でも、女性たちは主として、補助員として見られ、この男性優位の構造を維持するような事務的な仕事に従事する傾向がある。
加えて、コミュニティ・ポリシングに警察・市民間により親密な関係とより深い信頼を作り出す可能性があるなら、警察組織がどうジェンダーのイメージと構造を取り込んでいるかは無視できない。そもそも日本の交番システムはアメリカのコミュニティ・ポリシングの概念とは違う。自身がジェンダー平等を提供したり、そうする必要性に気付いているとは思われない為だ。それ故、文化的背景の違いだけでなく日本自体がジェンダー的に不平等であることを考えると(Hofstede, 2001; 玄田, 2005; Shire, 2006)、交番システムがブラジルの警察にジェンダー平等の重要性を紹介することなどできるのだろうか。日本の警察は他の国々にモデルを提案する為に、自身のジェンダーのあり様を改革する必要があると気付いているのか?
日本のジェンダー不平等は社会の政策に影響を与え(Shire, 2006)、不公平に分配された職業の不確実性に結実し(玄田, 2005)、結果コミュニティ・ポリシングの職務に女性を殆ど引き付けないでいる。例えば、日本中の交番において男性警官と女性警官が偏りなくその姿をあらわすというポリシーは、警察内部の「男らしい」活動と「女らしい」活動の間の矛盾を和解させる手段として、推薦されうるだろう。従って、警察組織内部におけるジェンダーのパースペクティヴを分析することは、警察とコミュニティの信頼関係だけでなく、コミュニティ・ポリシングの分野におけるよりすぐれた国際的協力の実現への将来的な見込みとも、本質的に関係しているのである。
REFERENCES:
Hofstede, Geert. Culture's Consequences: Comparing Values, Behaviors, Institutions and Organizations Across Nations. Thousand Oaks, CA: Sage Publications, 2001.
Miller, Susan L.; Gender and Community Policing: walking the talk. Boston: Northeastern University Press, 1999.
Shire, Karen. Gender Dimensions of the Aging Workforce. Institute of Sociology
Institute of East Asian Studies, Essen: University Duisburg (draft) June 1, 2006.
Genda, Yuji. A Nagging Sense of Job Insecurity: The New Reality Facing Japanese Youth. Tokyo, Japan: International House of Japan, Inc, 2005.