水商売のひとのための労働組合「キャバクラユニオン」

キャバクラユニオン交渉委員: 根来祐
【CGS Newsletter013掲載記事】【ペーパー版と同一の文章を掲載】

「キャバクラユニオン」(代表:桜井凜)は、個人加盟労働組合「フリーター全般労働組合」の分会として2009 年12 月に発足した水商売初の労働組合です。本記事執筆者の根来祐(ねごろゆう)さんはキャバクラユニオンの組合員であり、自身もキャバクラで働いていた経験を持っておられます。以下では根来さんがキャバクラユニオンでの活動で得た想いを主に綴っていらっしゃいます。

CGS 編集委員


●寄る辺としての水商売
 キャバクラユニオンで団体交渉に携わる交渉委員を始めて4 ヶ月が経つ。短い経験だが自分が気づいた事を書き記しておく。20 代前半、映画の仕事をやる為に家出同然で上京した。映像制作の技術を身につけ、男並みに働いても得られるお金は時給換算すると最低賃金以下。体と精神を壊 して不安定な状況に陥った。そんな時に水商売が支えになった。東京に出るお金はスナックで稼いだし、東京でもクラブで働き続けた。危機的状況にいた私に とって水商売は「セーフティーネット」だった。ユニオン発足当初、水商売を経験していた交渉委員はわずか二名。水商売で働いていた事を家族には隠していた ため、私は匿名で活動するつもりだった。しかし、名乗り出なければ社会は変わらないと思い、カミングアウトして活動する決心をした。

●好奇に満ちた視線と自分の中の「男性性」
 ユニオン結成以来、様々なメディアが取材に訪れたが、私たちはまるで「見せ物」のように報道された。マスメディアは女性の貧困問題ではなく「華々しい夜の 世界で働く貪欲な若い女」について興味本位の関心をもっているようだった。実態と異なる組合員たちの描かれ方に悔しい想いをした。また、自分の中の偏見に も苦労させられた。ヤクザまがいの男性経営者と渡り合う時に必ず論理的で口のたつ経験豊かな男性組合員の同席を望んだ。事前の打ち合わせでも、女性組合員 がいるにもかかわらず、わからないことを男性組合員に質問することが多くなった。そして暴力的な経営者に対して「男らしく」「果敢に」交渉する自分に気づ く事もあった。そんな時は、はっと我にかえり愕然とした。

●水商売従事者への支援、支援者への支援の必要性
 水商売の現場では(性)暴力やいじめなどは日常茶飯事だ。その為か、時に相談者の感情が自分に転移しているのではと感じる事もある。そんなとき、傷ついた当事者と共に考え、適切に対応してゆくスキルが必要だと強く感じる。そのためには、相談を受ける側にも、メンタルヘルスの専門家のアドバイスや支援が必要 だ。そういった考えもあって、私自身、外部の女性グループに赴いてトラウマを抱えた人々へのサポートについて研修やワークショップを受けている。私は不完 全で、弱虫で、論理的でなく、頭もよくないし、経験も浅い。これまではそういった事は専ら自尊心をさげる要因だったが、嫌な経験や惨めな体験が、これから ユニオンに駆け込んで来る女性達に対する想像力の糧になればいいと今は思う。「勝利」も「敗北」もない。当事者にとって一番納得のゆく労働運動を目指して、みんなでちょっとずつ進んで行きたい。一人一人の女性と共に交渉をしてゆく事は私自身の尊厳の回復にも繋がっている様に思える。

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