「おいしいセックス」と性の健康調査結果

大阪教育大学学校危機メンタルサポートセンター:野坂祐子
【CGS Newsletter013掲載記事】【ペーパー版と同一の文章を掲載】

「出会い系サイトはキケン」「セックスをしてお金をもらうなんて、イタイ目にあうはず」「愛のあるセックスが一番!」セックスにまつわるこんな言説、はたして本当なのでしょうか? 近年、インターネットや携帯電話の普及に伴い、性風俗店に勤務せずとも出会い系サイトなどを利用することで、個人的にセックスをしてお金を得る手段が広がりました。セックスワークのプロとアマチュアのボーダレス化ともいえる現象が起きています。

 こうしたセックスの実態を把握するために、18 歳から29歳の女性を対象にweb アンケートを実施しました。厚労省エイズ対策事業(研究代表者:大阪府立大学 東優子)の一環で行われたもので、ここでは2,264 名の回答が得られた2007 年度調査の結果を紹介します。まず、「個人的に何らかの性行為をしてお金を受け取った」ことがある人は全体の14.2%、「セックスをしてお金を受け取った」人は11.8% でした。回答者の約8~9人にひとりの割合です。お金とセックスをつなぐおもな手段は「出会い系サイト」でした。
次に、お金のやりとりがあった場合となかった場合のそれぞれについて、セックスによるトラブルを尋ねました。結果、68.8% が「妊娠したかもしれないと心配した」経験を持っていました。それは"お金のやりとりがない相手とのセックス" で起きたものでした。また、「性器のかゆみやおりものの変化」(30.4%)、「コンドームを使いたかったのに、使わずにセックスをした」(30.3%)というコンドーム不使用のトラブルも、お金のやりとりがない場合に起きていました。お金のやりとりがない相手とは、おもにパートナーやセックスフレンドなど特定の相手と考えられます。つまり、女性にとってセックスのもっとも大きな不安は、特定の相手とのセックスで起きた計画外の妊娠や性感染症だったのです。

 一方、金銭目的のセックスでのトラブルとして多かったのは、「相手の容姿や性格がいやだった」(35.5%)、「精神的苦痛が残った」(33.6%)という精神的なものでした。妊娠や性感染症への不安が少なかった理由として、金銭目的のセックスをした女性の半数が、相手と会う前に「コンドームを使うこと」を条件にして交渉していたことが挙げられます。実際には、その約束が守られずコンドームが使えなかった場合もありますが、事前の交渉が、トラブルの少なさにつながっていると考えられます。従来、特定の相手とのセックスは「安全なセックス」と言われてきました。しかし、セクシュアルヘルスの観点からみると、女性の健康リスクが高まるのはむしろ特定の相手とのセックスだといえます。このことは、出会い系サイトが安全であるということを意味するわけではありません。実際、金銭目的のセックスでは、「ストーカー行為をされた」(7.5%)や「勝手に写真やビデオをとられた」(6.5%)というトラブルも起きています。ただし、同じことが特定の相手とのセックスでもほぼ同じ割合で起きているのです。

「特定の相手なら大丈夫」という"特定神話"から脱却し、「誰とでもコンドームを!」というメッセージが、女性のセクシュアルヘルスを高めることにつながると考えられます。本研究班では、「安心できるともっと感じる」をキャッチフレーズに、セックスの安心と安全をみんなで考えるサイト『せくすばっ』(http://www.sexba.jp/)を運営しています。調査結果やイベント情報なども掲載していますので、ぜひご覧ください。

月別 アーカイブ