対談:「なぜシングルマザーは貧困に陥りやすいのか」

NPO 法人しんぐるまざあずふぉーらむ理事:赤石千衣子
大学院生:大和田未来

【CGS Newsletter013掲載記事】【ペーパー版と同一の文章を掲載】

 日本のシングルマザーの就労率は84.5% と、配偶者と子どものいる女性(50.7%)や諸外国のシングルマザー(アメリカ約60%、ドイツ約60%)と比べてもはるかに高い。にもかかわらず、児童扶養手当等を含めた平均年収は213 万円で、全世帯平均年収563.8 万円の4 割以下にとどまっている。なぜシングルマザーは貧困に陥りやすいのか。当事者団体「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」理事の赤石千衣子さん(A)と、自身もシングルマザーで社会学専攻の大学院生、大和田未来さん(O)の対談から、その構造を探っていく。

CGS 編集委員会

●シングルマザーの就労支援における問題点
O: 最近の行政の流れとして、手当の支給から就労支援へ、ってなっているじゃないですか。「なんで就労支援に流れてるんですか?」ってこのあいだ役所に聞いたら、「お金が無いからです」ってはっきり言われましたよ(笑)。貧困問題を解決してもらう役所にもお金が無いんじゃどうしようもないですよね。

A:ワークフェアは世界の流れのようです。しかし役にたつものは少ない。就労支援は、保育士、ホームヘルパー、介護福祉士、看護師など、いわゆるピンクカラーの仕事しかない。特に保育と介護は、賃金がすごく低いんですが、年齢制限もない分野なので、シングルマザーの就労先としては一番多いんですよね。こういった仕事は命を預かる重要な仕事なのに、多くは「社会の嫁」として扱われてしまって低賃金に据え置かれています。看護師は比較的報酬があるわけですが、二交代制で夜勤もあるために子どもの世話がみられず、結局仕事を辞めざるを得ない人もいます。

O:保育士とか、保育ママ(家庭福祉員)の斡旋も積極的に行われていますけどね。そもそも保育ママの資格要件自体に「保育経験があること」、要は子育て経験・母親経験があることが入っているから、結局、女は「社会の母」になればいい、と言われているように見えてしまう。しかも、賃金はそんなに高くないですよね。

A:保育ママはある程度稼げますけどね。ただ、休めないし、神経使う仕事ですから大変ですけど。保育園の入所待ちの待機児童が増えている時代ですから、国が保育士の労働環境を整えていけばいいのに、逆に民営化・非正規化しているのです。

O:シングルマザーが働きやすくなるように、保育園や保育士を増やすための補助金を出したとしても、その人たちが働いたら税金を払って還元してくれる、ということを、どうして国が考えていないのかが、意味不明ですよね。箱ものにお金をおろすのではなく、人にお金をつかって欲しい、と思います。

●行政による手当と税制における問題点
A:非婚の母子は父親の訪問や仕送り、認知の意思の有無を聞かれる調書を提出させられるんですよね。

O:結婚する意志があるかどうかも私は毎年確認されますよ。今は初回の申請時だけですけど、戸籍謄本も持って行かなくちゃいけない。それが提出できない人には児童扶養手当あげないよっていうシステムなんですよね。さらに、非婚の場合は認知されると父親から貰う養育費の8 割は収入としてカウントされるから、税金の対象になっちゃう。認知されていないで貰っている養育費は贈与と見なされるから、今度は贈与税が掛かる。ただでさえ収入が少ない貧困状態だから貰うもの、しかも子供のために貰うもののはずなのに、税金がかけられるんですよね。扶養控除も子ども一人に対して、母親か父親のどちらか一人しか入れられない。結婚してないと余分なところで税金取られるし、控除もない。

A:同じ単身での子育てでも、死別した母子の場合は児童扶養手当(約4 万円)の約2 倍の遺族厚生年金が支給され、税制でも再婚しない限り寡婦控除がついて優遇され、子どもが成人しても死ぬまでそれが続きます。離婚した母子には子どもを扶養している間だけは寡婦控除が適用されるのですが、婚姻歴のない非婚の母の場合だけは寡婦控除が全くつかない。男性と結婚してその人が死ぬまで看取り、男性への忠誠心をあらわした女性に一番手厚いというシステム。更に男性が例えば戦争など国家のために死んだ人ならば、戦没者遺族年金もついてもっと手厚い、非婚の母は論外というシステムですね。

O:もともと戦前の家父長制規範のもとで作られて運用されてきてる制度だから、非婚でも認知された子どもはおめかけさんの子どもと見なされて、父親から手当を貰えっていう話になる。

A:ホントに露骨過ぎてちょっと笑えるんですよね(笑)。

O:貧困なのにさらに税金をもっていかれる構造で、基本的には男性稼ぎ主型から離れたらペナルティが課され、我慢して現況届を書けば恵んでやる、という社会なんですよね。今年度から子ども手当がはじまりましたが、月々1 万3,000円支給はありがたいです。これまでも支給されていた児童手当は、就学前は1 万円貰えていても、就学後は半額くらいになってしまうので。

A:子ども手当をある程度普遍的に出すのは悪くないと思います。ただ、それと引き換えに一人親対象に出される児童扶養手当を切る、というような議論になる可能性は今後もある。そうなると、手当全体としては、女性一人で子育てする場合の所得の少なさに見合うものではなくなってしまう。そのときには、一人親に対する加算として、子ども手当に児童扶養手当をつけるべき、と言わなければならないかな、と思っています。これまでも母子家庭に対する施策を提言してきたわけですが、母子家庭に限定した制度はバッシングの対象になりやすいんです。だからある程度子どもに対するユニバーサルな制度がいいと思っています。

●子どもを応援する社会へ
A:男性の意識も多様化していて、共同親権運動をするくらいの人もいれば、全然無関心な人もいて、非常にややこしい。

O:会いたいときに子どもが親に会える制度が整っていればいいかなって思いますけどね。子どもが選ぶようにしてくれればいいんですよね、要は。

A:世帯主に支給されるのではなく、子ども本人に支給される手当とか、子どもに注目して子どもの育ちを応援する制度も今後必要になっていくと思いますね。あとは、親だけが子どもに責任を持つのではない世界がいい(笑)。

O:あ、それはいいですね、いろんな人が子どもに関わってくれる社会になって欲しいと思います。

(※文中で示したデータの典拠はマジェラ・キルキー著『雇用労働とケアのはざまで― 20 カ国母子ひとり親政策の国際比較』(2005 年、ミネルヴァ書房)と厚生労働省『母子家庭の母の就業の支援に関する年次報告(平成20 年度版)』です。)

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