ライター:竹内絢
【CGS Newsletter013掲載記事】【ペーパー版と同一の文章を掲載】
●女が住居を確保する
数年前、フェミニストを自称する友人が「私、結婚したの...」となぜか申し訳なさそうに電話してきたことがあった。理由を聞けば、引っ越しをしたいがなかなか家を借りられなかったという。異性の恋人と結婚したところ、なんなく借りられたそうだ。 「 それだけの理由?」と当時は訝しがったが、今となっては理解できる。私の一人暮らしを支えていたのは「父親」という保証人の存在あってのこと。父や夫の存在なくして女ひとり、ボロアパートで暮らすことすらままならない。シングルの女、老いた女は、どうやって住居を確保するのか...。自分の将来を考えると暗澹とした気持ちになる。
●日本の住宅政策
そもそも家賃が高すぎる。生きていくために不可欠な「住」の負担がこんなに重いのはなぜか。戦後日本の住宅政策は、中間層の家族に向けた「持ち家政策」だった。そこでは「安定した収入を得られる仕事に就き、結婚し子どもを育てながら、やがてローンを組んで持ち家を買う」というライフコースが想定されている。日本全体の持ち家率は約6 割で推移しているが、39 歳以下の率は50%以下に下がり、民間借家率が上がっている。
さらに、日本の公的借家は全体の約6%と少なく、その対象は「高齢」「障害」「母子」などが主となっている。入居資格の収入基準も96 年には全所得階層の下から80%以内から25%以内に引き下げられた。2000 年以降、新規建設のない東京都営住宅の当選率は32.1 倍と狭き門。そもそも60 歳以下のシングル女性は都営住宅に申し込みすらできない。
●選択肢のひとつ、シェア
「ただの女」は、どこでどうやって暮らしているのか。実家住まいの人も多いだろうが、都市部では友人などと一つの家を借りる「シェア」が増えている。私自身、東京で友人3 人と3LDK のアパートを借り、4 年にわたりシェアをしていた。家賃負担は、広さなどにより差をつけ、インターネット料金や光熱費は折半、食費は各自、共用の消耗品は気づいた人が買うというルールだった。一人暮らしができるほどの収入がない場合でもシェアによって十分な広さの住居を確保できる。しかし、私たちがシェア可能物件を借りられたのは、日本国籍保有者であり、収入証明ができ、保証人をそれぞれ立てることができたからである。
女性向けシェアハウスを事業展開する会社も出てきている。その一つ、チューリップ不動産は「女性のお給料でも、東京で安全・快適・便利に暮らせてしかも夢に向かって自己投資できる余裕を」とコンセプトを掲げ、ほぼ満室という盛況ぶりだ。友人同士で借りるより割高だが、初期費用が少なく、緊急避難的に利用できる点で評価できる。 ただ、そもそも個人がどんな生き方を選ぼうが住居を確保できるようにしなければならない。市場任せにしていては、持たざる者は排除されるばかりだ。諸外国にあるような家賃補助制度を創設し、公的住宅を増やすことが重要だ。ライフコースやライフスタイルに左右されない住宅政策を求めていこう。これまで、家族向けのモデルとやがて家族を持つ個人向けのモデルしかなかった日本の住宅。シングル女性をはじめとするすべての人々の「居住権」保障のため、「家族規範」に根ざさない政策が必要ではないだろうか。