ICUでジェンダー・セクシュアリティ研究を学ぶ意味

CGS研究所助手 pGSSサポート担当 安永達郎
【CGS Newsletter014掲載記事】【ペーパー版と同一の文章を掲載】
 ジェンダー・セクシュアリティ研究プログラム(Program in Gender and Sexuality Studies:以下PGSS、ピグス)が創設された2005年当初、教養学部は6つの学科で構成されており、PGSSは学科間専攻プログラムの一つと位置付けられた。2008年度の教学改革によって学科を統合しメジャー制度を導入したことで、PGSSはプログラムから32あるメジャー(専攻分野)のひとつとなり、独自のメジャー表記としてpGSSを使っている。2010年度までにPGSS専攻でICUを卒業した学生は累計で22名である。しかしながら今年度はpGSS専攻で卒業研究を行う学生が12名に急増し、メジャー制度への移行によってpGSSがアクセスしやすい選択肢の一つとなっていることがうかがえる。学内におけるpGSSへの関心は、確実に高まってきているといえる。CGSはpGSSを魅力的なメジャーにすべく、その運営を支援しながら、pGSSを専攻する学生を様々な形でサポートしている。
 筆者自身、2008年にPGSSでICUを卒業した。現在はCGSでpGSSのサポート業務を担当しており、自身の経験をふまえながら、いかにしてICUの学生にジェンダー・セクシュアリティ研究の魅力を伝え、pGSSでの充実した学びを支援できるかについて日々模索している。pGSSでの学びが学生のその後の人生に対して提供できる価値をいかに伝えるかという重大な課題を乗り越えるには、pGSSをふたつのアプローチから価値付ける作業が必要となるだろう。
 第一に、職業生活とのレリバンスをポジティブに捉えるアプローチである。若年層の就業問題が日本社会の重大な課題として顕在化して以降、学校教育の職業に対するレリバンスを問い直そうとする議論も多く見られる。そういった状況においてCGSに課せられる重大な使命は、ミクロなレベルで学生に寄り添うことで、学生の就職を取り巻く日本の労働市場や職場で起きているポジティブな変化を捉え、ジェンダー・セクシュアリティ研究ならではの利点を広く伝えていくことであろう。多くの日本企業は男女共同参画への取組みに強い関心を示してはいるものの、依然として抜本的な成果をあげるケースは限定的である。pGSSを専攻しながら就職活動をする学生からは、面接で人事担当者がジェンダー研究に対して関心を示すケースもあるという話を耳にする。日本社会全体が男女共同参画に向けて変化する中で、pGSSを通して得た視点は企業の制度や組織作りに有益なものとして評価され得ると言えるだろう。
 第二に、ICUのリベラル・アーツ教育の本来的な理念からpGSSを評価するアプローチである。学問分野の垣根を超えた「教養教育重視型のカリキュラム」こそが、ICUのリベラル・アーツ教育の本来的な特徴である。そうした前提のもとに、ICUならではの学びのひとつとしてpGSSの価値を見出すことも重要であろう。つまり、職業生活も含むあらゆる社会生活に応用可能な、より抽象的なレベルでの思考能力や多角的な視野を養う為の学びとして価値付けることが必要である。あらゆる人々がジェンダーやセクシュアリティの構造と権力関係の中に置かれ、困難を抱えながらも適応や抵抗を繰り返しながら生きているという事実に意識的になることは、ひいては自分自身や他者に対するより深い理解と思いやりに繋がると筆者は感じている。社会集団の中で人々と向きあう根本的な能力をこそ、pGSSを含むリベラル・アーツ教育で養われるべきではないだろうか。筆者自身、ICUでの学びはそうした視点と思考能力を身に付けるひとつの訓練であったと感じている。そういった要素を十分に学生に伝えながら、ジェンダー・セクシュアリティに関する問題関心に引きつけてpGSSでの学びへと学生を導きサポートしていきたい。

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pGSSに関する詳細については、pGSSホームページをご覧下さい。
http://web.icu.ac.jp/gss/

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