かけがえのない〈自分〉と出会おう:セルフ=アウェアネス・ワークショップ・シリーズ開催

CGS センター長/国際基督教大学 上級准教授:加藤恵津子
【CGS Newsletter014掲載記事】【ペーパー版と同一の文章を掲載】
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 2011 年度春、CGS は、新入生歓迎企画として全3 回の「セルフ=アウェアネス・ワークショップ・シリーズ」を開催しました。「セルフ=アウェアネス」とは日本では耳慣れない言葉ですが、直訳すれば「自分に気づいている状態」。自己の存在と、そのかけがえのなさに気づいていることを意味します。
 「自意識が高い」という日本語には、いまだに否定的・批判的な含みがあります。最近では育児書やビジネス書に「自信力を育てる」などの表現が見られるとはいえ、成人が、自分が自分だというだけで自分を大切に、誇りに思うよう奨励される機会は、日本では少ないように思います。これは日本を含むいくつかの文化圏における「自己」の捉え方の特徴から来ていると考えられます。
 ある文化心理学の研究によれば、アジア・アフリカ・ラテンアメリカ・南欧の人々は、自己を家族や友人などとの関係で規定する、つまり自己を周囲の人との「相互依存的」イメージで捉えるといいます。これと対照的なのが、周囲の人々や状況がどうであっても、自分が何者であるかは常に変わらず一貫しているという、北米や西欧の人々の「独立的な」自己観です。
 「相互依存的な自己」観は、他者への思いやり、争いの回避など、多くの良きものへとつながります。しかし同時に、不快・苦痛があっても改善の努力をせず、結果としてトラブルに加担する場合もあります。たとえば、「自分はその気も準備もないが、パートナーからセックスを求められ応じる」ほか、「夜道で知らない人に道を聞かれ、無視すると悪いので対応する」「教師や先輩に二人きりで飲みに行こうと言われ、嫌だがついて行く」といった行為は、「思いやりのある人」が陥りやすいトラブルへの入口です。
 このような自分の弱点に気づいていること。他者からのまなざしや評価よりも、まずは自分自身が大事だと認識していること。自分には自分を守れる力や知識があると知っていること。これらの「自意識」が私たちを守ると信じ、毎月異なるアプローチを企画しました。4 月はNPO 法人ぷれいす東京代表の池上千寿子氏に高校までの性教育が取りこぼしていた性に関する知識を、5 月は本学英文学准教授のC. サイモンズ氏にゴシン(護身・護心)のスキルを、6 月は広島大学の北仲千里氏に被害者にも加害者にもならないためのキャンパス・ハラスメント防止策を講じていただきました。いずれも最新の情報に基づく実践的なワークショップでした。来年はさらに充実した「自己との出会い」を企画したいと願っています。

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