東日本大震災におけるセクシュアルマイノリティ被災者支援

宮城学院女子大学大学院 人文学会 /性と人権ネットワークESTO 正会員:内田有美
【CGS Newsletter014掲載記事】【ペーパー版と同一の文章を掲載】
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(性と人権ネットワークESTOロゴ)

 2011年3月11日、東日本大震災が起こった時の長く激しい揺れの恐怖と信じ難い津波の映像は、今も頭から離れない。この様な状況の中、国内外の多くの方々からご支援をいただき、被災地は着実に復興に向かっている。この場をお借りして、被災地で生活している一人としてお礼申し上げたい。
 私は以前から性的少数者(以下、LGBTI)の問題に関心があり、当事者団体である性と人権ネットワーク ESTOで活動を行っている。ESTOでは、震災後の仙台交流会で「震災とセクシュアリティ」について参加者同士で震災の体験や思った事などを話す機会を設けた。また、GIDの当事者から「断水で洗濯もできず、1枚のナベシャツを着続けている」という話から、各地より寄せられたナベシャツの寄付を行った。ESTOの他にも、多くの当事者団体で支援が行われている。だが、支援には多くの課題も残っているため、被災したLGBTIへの支援について考えてみたい。
 被災してまず問題となるのは、「医療へのアクセス」や「安否確認」の難しさである。医療へのアクセスは、GIDの当事者や性分化疾患当事者は保険証の性別記載や外性器・内性器の関係から、病院へ行きづらい状況にある。病院に行ったとしても、被災地では野戦病院の様であり、LGBTIの知識がある医療従事者でなければ混乱が生じると思われる。また、意識が無い状態で運ばれた際には「見た目」の性別で治療が行われる可能性が高く、身体的性別特有の疾病である場合、すぐに適切な処置を受けることは困難ではないだろうか。安否確認の難しさも同様で、亡くなった方の情報は「見た目」を中心にしたものが公表されるため、見た目と戸籍上の性別が不一致であった場合、安否確認は難しい。これらの問題は、同性愛者にも生じる。パートナーが病院に運ばれたり、遺体となって見つかったりした場合、事実婚状態であっても法律上の「家族」ではないため、治療の判断や遺体の引取を行えないという問題がある。
 次に、避難した際には「避難所生活の難しさ」が問題となる。「男女」で区分される避難所生活では、GIDの当事者は精神的性別・身体的性別どちらかに区分される。精神的性別の場合は、集団で風呂に入る際や更衣室利用などに支障をきたす恐れがある。身体的性別の場合は、常にストレスを感じることになる。このように、現在の避難所は「LGBTIはいない」という前提になっており、LGBTI当事者が安心して避難生活を送れる環境ではないことが多い。
 最後は「復興への支援を受ける難しさ」である。性別記載のある書類を提出する場合には、GIDの当事者や性分化疾患当事者は、窓口で性別を確認される等の問題が生じると思われる。
 この他にも、被災したLGBTI当事者はそのセクシュアリティ故に多くの困難を抱えている。そのため、このような状況を是正するよう社会に求めるだけでなく、LGBTIについて知識のない人や機関とLGBTI当事者を仲介するような支援も必要ではないだろうか。
 上述したような困難は生活と権利を守る上で重要な問題であり、蔑ろにされることではない。被災したLGBTI当事者がQOLを確保するための支援が今後も必要である。

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