報告:SAWS第2回「危険を近づけない! 心と身体のゴシン術」

国際基督教大学 学部生 リラ・デント
【CGS Newsletter014掲載記事】【ペーパー版と同一の文章を掲載】
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 2011年5月21日、CGSの運営委員で、ICUでは英文学指導でおなじみの C.サイモンズ准教授による『ゴシン術』のワークショップが行われた。会場の体育館には大きなエクササイズボールがいくつも転がっていて、「自己防衛のクラスに、ストレッチ運動は関係ないよね?」という疑問が浮かび、一瞬ピラティスのクラスにでも迷い込んだ気さえした。90分間のワークショップでは、様々な角度からの自己防衛術の知識の披露と、実地演習を通して楽しく学ぶことができた。
 何週間にもわたって指導教官に首を絞められたり、2リットルのペットボトルを相手にボクシングの真似事をさせられたりするアメリカの高校の自己防衛のクラスとは違い、サイモンズ先生のワークショップはまず、日常の問題的状況での「自覚がある」行動様式と「自覚がない」行動様式を比べるスキットから始まった。参加した学生達は、道ばたの不良のやじに悩まされたり、電車で痴漢に襲われる女性のスキットをみた後、自分達も演技をすることになった。グループに分かれ、怪しい人間が近づいて来たらどのように先手をとって身を守るかの練習を行った。こうした状況からうまく逃れるための手段は、そう難しいものではない。誰かが「自分の領域」(簡単に手が出せる距離内)に割り込んで来たと感じたらすぐにキッと目を合わせ、不安そうな姿勢を見せず、しっかりと足早に歩いて離れるのが基本である。
 それから話題はもう少し深刻な状況に移り、サイモンズ先生は一般市民が実際に誰かに襲われた場合、身を守るためにできること・すべきことを説明した。「何よりも『前向き』の思考にすることが大切です。まず、可能なら逃げることが一番です。逃げるのはカッコ悪いなどと思ってはいけません。でも、もし追いつめられたら、逆に前へ出て反撃する必要があります。本当に戦うのだから決して奇麗ごとではないですよ。ただ、自分の動きをいちいち考える必要はありません。」襲われる場面においても、最も効果的なのは、簡単で自然な動きである。向かい合って、相手の体の中心線から外れるように横に一歩ずれる。そして決め手となるのが「楔形」の動き。人間が驚いたり怖いものに面したときにでる、両手を三角形に揃えて体の前に上げて身を守ろうとする本能的な動きを、より意識的に、しっかりと狙いを付けるだけだが、誰にでも簡単にできるうえに、驚くほど効果がある。対人の演習に続いて、やっと例のエクササイズボールが登場した。飛びかかってくる大きなボールを「楔形」でたたき返すと、面白いように吹っ飛んでいく。体育館はボールの弾む音と皆の笑い声で一杯になる、ワークショップのハイライトだった。
 最後に参加者の一人が「特に日本のように、公の場での衝突を嫌う文化のある国に住む人にとって、有益なワークショップでした」とコメントしたように、充実した90分だった。『自己防衛ゴシン術』はカンフー映画に出てくるような豪快アクションとは限らず、「領域の自覚」や「前向きの思考」の観念や「楔形」の知識など、簡単なことを毎日の生活に取り入れることから始まるのだということを、皆を十分に楽しませながら教えて下さったサイモンズ教授に、厚く感謝の言葉を贈りたい。

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