CGS 所員/国際基督教大学 講師 上遠岳彦
【CGS Newsletter014掲載記事】【ペーパー版と同一の文章を掲載】
2011年6月14日、セルフ=アウェアネス・ワークショップ・シリーズの第3回として、「加害者にも被害者にもならない! キャンパス・ハラスメント」と題して、広島大学ハラスメント相談室の北仲千里先生による講演会が、ICU人権委員会の協賛で開かれた。
まず、セクシュアル・ハラスメント(以下SH)について、具体的な事例を含めて解説された。たとえば痴漢は、それを行った個人に責任が帰せられるのに対し、SHは、その背景に、教員と学生、上司と部下、就職面接での面接官と志願者など「対等でない力関係」が存在することが多く、問題解決の責任も、個人だけでなく、学校、会社、団体と言った組織の責任も問われる性質のものであることが整理して示された。また、しばしばSHと認識されにくいケースとして、同性間、あるいは学生同士などの同世代間で、"サークルの飲み会で性体験の話を強要される"などのケースも紹介された。SHを類型化すると、優位な地位を利用して主に1対1で起こる「対価型(地位利用型)」、職場で噂を広められるなどの1対複数で起こる「環境型」に分けることもできるというが、これも、SHの認識には役立つ。「環境型」では、その背景に女性や性的マイノリティーの方への社会的蔑視なども深く関わってくるだろう。
講演では、職場、大学での、パワー・ハラスメント、アカデミック・ハラスメントにも触れられた。多くのSHケースは、その根底に対等でない権力関係が存在しているため、これらは、しばしば混在する。暴力的な行為や脅しなどの「分かり易い」ハラスメントだけでなく、精神的な追いつめなどのモラル・ハラスメント、メンタル・ハラスメントなどの事例を伺うと、だれでも経験するような事柄、例えば「厳しい指導」の延長線上に現れてくるもので、決して特殊な人が行うハラスメントだけではないことが分かる。とくに、加害者本人に加害意識が全くないケースも増えているということで、それぞれの立場で、ハラスメントに対する知識と感性が求められる。
SHについて話題になるとき、「どこまでがSHになるの?」と聞かれることも多い。これは、「どこまでやったらSHになるか」という「心配・恐れ」があると共に、その奥に「SH(或いは犯罪)にならないところもまでならやってもよい、やりたい」という意識があるかもしれない。この問いに対して北仲先生は、SHを「地位や権限を濫用して被害者の性的自由(性的自己決定権)を侵害する行為」と定義し、「『どんな言葉や行為をしたらSHか』という発想ではなく、『どういう立場の人は、どんな場面では何をしてはならないか』『性的な言動を拒絶された後で、どんな嫌がらせをしたら問題か』というふうに考えるべき」と述べている。法律や一般論から考えるのでは無く、ケース毎に異なる個別の人間同士の関わりとして、一人一人が考えて行く必要があろう。
最後に、被害を避けるには、まず知識を持ち、嫌なことがあったら早めに誰かに相談すること、そして、記録を付けておくこと、が大切であるということであった。個々人が 「すべての人を大事にする」精神を持って身近なハラスメントに声を上げて行くことが大切だが、そこに力関係が存在する以上、周囲の人の協力と、相談できるシステムの充実が求められる。
報告:SAWS第3回「加害者にも被害者にもならない!キャンパス・ハラスメント」
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