学生相談に基づく新事業:LGBT学生生活ガイド、R-Week Project

CGS事務局長:加藤 悠二
【CGS Newsletter015掲載記事】

CGSでは2011年度利用者の声を受け、2012年4月「LGBT学生生活ガイド in ICU:トランスジェンダー/GID編」を発行しました。今後のガイド発行の展望と、2013年度開始を目指すR-Week Projectについて、CGS事務局長の加藤悠二がレポートします。

 2011年度のCGSでは、来室者数とイベント入場者数を合わせて、のべ2,357名の利用者があった。入口付近のラックで配布中のチラシなどを持ち帰り、入室はしない方々もよく見受けられるが、今回の人数には含まれていない。詳細は表をご参照頂きたい。

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 ここで特に注目したいのは、セクシュアリティに関する報告・相談事例だ。なかでもTG(トランスジェンダー)/GID(性同一性障がい)の学生からは、「健康診断やリトリートの部屋割りなど、男女別が基本のものに関して、個別対応をしてもらった」「学籍簿の記載変更の手続き中だ」などの報告を受けることがあった。ここ数年来の診療所(クリニック)や保健体育科による自主的な個別対応や、2003年より人権委員会が対応を開始した学籍簿の氏名・性別変更手続きは、評価・共有に値する先行事例であるにも関わらず、大学側が正確な情報をまとめておらず、学生間の口コミやインターネット上の書き込みが情報源となっていた。困難を感じた学生それぞれが自力で情報を入手し、各部署と交渉しているのが実情だったのである。

 これを受けCGSでは、学生の便宜を図ること、CGSスタッフを含めた教職員間の情報共有を図ることを主な目的に、「LGBT学生生活ガイド in ICU」と題した学生ガイドシリーズを企画した。2012年4月に刊行した第一弾「TG/GID編」は、TG当事者の学生2名と、支援経験を持つ教員2名へのインタビューから学内の先行事例をまとめたもので、RIA(研究所助手)の上田真央が編集した。刊行後に実施された学内他部署との連携会議を経て5月に内容を改訂し、9月には英語版をリリースしている。現在のコンテンツは下記の通りである。

1. 学籍簿の記載変更プロセスについて
2. 学生定期健康診断の個別受診について
3. 体育実技の履修について
4. だれでもトイレ(多目的トイレ)について

 今後はレズビアン・ゲイ・バイセクシュアルに対応した学生ガイドの作成を目指し、10月以降に当事者学生と教職員へのインタビューの実施を計画している。

 このようにLGBTに注目した施策・活動が必要とされる一方で、CGSにはアセクシュアルなど、いわゆる「LGBT」ではないセクシュアリティを生きる学生からの質問や相談も寄せられている。また、女性のDV相談窓口の資料を求める学生や、ハラスメントに関する相談事例も複数見られたことからも、学内で取り組むべきジェンダー・セクシュアリティ面での課題が多岐に渡っていることは明らかである。

 また、CGSの活動としては、ジェンダー・セクシュアリティの視点が第一に据えられるが、他の視点も欠かすことはできない。例えば「TG/GID編」では、TG学生の声として、ロッカールームでの着替えに配慮を求めるニーズがあることを提起した。しかし、身体的な事由や、宗教などの文化的な理由から、人前で肌をさらすことを避けたい学生のニーズもまた、容易に想定できる。また、そもそもどんな学生であっても、着替える姿を他人に見せない/見られない権利は保障されてしかるべきとも言える。関連分野の視点と連携なくして、人権や多様性が保障されたキャンパス環境をつくることはできない。

 これらを踏まえ、学生ガイド作成と並行して立ち上がったのが、「R-Week Project」である。このプロジェクトはキリスト教精神(Christianity)を考える学生週間「C-Week」に着想を得ており、性的多様性のシンボルであるRainbowのほか、Rights(権利)やReligion(宗教)、Race(人種)、Rearing(子育て)など、さまざまな意味を含むものとして名づけられた。ジェンダー・セクシュアリティの視点を中心に据えつつも、問題意識をひとつには固定せず、参加者にとっての「R」とはなにかをともに考え、解決に向けたアクションを起こす力を養う週間にしたいと考えている。
R-Weekは、C-Weekと同様に学生が中心となり講演会やワークショップなどを企画・実施し、CGSはその運営を全面的にバックアップする。2010年度よりRIAの蛯谷真美・堀真悟が準備に携わり、現在は学生の参加を呼びかけている。この秋学期、CGSでは前年度のセルフ=アウェアネス・ワークショップ・シリーズを受け、「性教育」「DV・デートレイプ」をテーマに新入生向けワークショップを開催する予定だが、このようなイベントも、2013年度以降はR-Weekの一環として実施したい。

 これらの取り組みはICU学内を想定したものだ。しかし、「TG/GID編」公開に影響を受けた他大生が、それぞれの大学の保健センターに連絡を取り、健康診断の個別受診が可能である旨を確認したという報告がTwitter上で複数見られたことからも、LGBT学生支援に関する情報集積のニーズが広く存在していることが感じられる。

 また、関東圏外在住でTGの高校生からは、ICUの支援情報を知りたいという問い合わせの電話があった。高校ではTGであることを理由にいじめられており、大学ではいじめられずに、希望する性別で生きたいことを消え入りそうな声で語るその電話は、LGBTユースへのサポートの必要性があらためて感じられるものであった。

 小さな大学の小さな取り組みではあるが、こうして情報を発信し続けることが、学内外を問わず、勇気や希望の糧となること、新たなアクションのきっかけとなることを信じ、これからの活動に取り組んでいきたい。

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