ICUで「ジェンダーと国際関係」を教えること

CGS 運営委員、ICU 准教授:高松 香奈
【CGS Newsletter015掲載記事】

高松香奈准教授は、2011年より国際関係学・pGSS担当教員としてICUに着任し、CGSの運営委員もつとめています。この1年、ICUで「ジェンダーと国際関係」を担当することを通じて見えてきた気づきについて書き記します。

 私はpGSS生の専門科目である「ジェンダーと国際関係」を担当しています。これまで2回「ジェンダーと国際関係」の講義に携わってきた経験を振り返り、ICUで本講座をオファーすることの意義とはなにか考えてみたいと思います。

 これまで2回の講義を通し、「国際関係論とは極めて限定された課題を扱う学問である」という考え、つまり「国際関係」とは「国家」の話であるという考えを持っている学生が多いという印象を受けています。

 ジェンダーと国際関係を学ぶ上で、最初に行わなくてはならないことは、「主流」といわれる国際関係の議論を批判的に考察することです。「主流」の国際関係とは、すなわち「安全保障」や「主権国家」という国際関係の中心的課題とされてきたトピックを、ジェンダー化された排他的な諸概念の上で議論することと表現できるでしょう。そのため、「主流」の国際関係の議論に慣れ親しんだ学生は、「ジェンダーと国際関係」の論点や取り扱うトピックについて、最初は戸惑いを感じると思います。一方、ジェンダー研究に慣れ親しみ国際関係をはじめて学ぶ学生は、むしろ主流とされてきた国際関係の議論に驚くかもしれません。ジェンダー視点から国際関係の課題にアプローチすることにより、国際関係の再検討が促され、「国際関係」と「私たち」の距離の近さ―国際関係の取り組む課題とは私たちの生活そのものであるということ―に気づくでしょう。

「ジェンダーと国際関係」を牽引してきたTickner博士は、フェミニスト視点からの国際関係の考察は、私たちのグローバルシステムに対する考え方を変え、さらに深めると言いました。私も、ジェンダー視点から国際関係や国際関係の課題にアプローチすることにより、グローバルシステムの捉え方が確実に変わり、さらには、これまで排他的な国際関係の議論で不問とされてきた課題を追求する機会が与えられると考えています。例えば、Tickner博士と同様に、「ジェンダーと国際関係」研究のフロントランナーであるEnloe博士は、軍事化のプロセスにジェンダー関係がいかに影響を与えているか丹念な考察を行い、女性が軍事化に組み込まれていくプロセスを丁寧に説明しています。また、私たちの生活に密接に関わる経済のグローバル化なども、ジェンダー視点からアプローチすることにより、見えてくる景色はだいぶ異なります。

 このような「ジェンダーと国際関係」をICUでオファーする意味とは何でしょうか。ICUでは国際性を育むことをひとつの使命としていますが、「ジェンダーと国際関係」に触れることは、真の国際性を養う上で、不可欠なものといえるのではないでしょうか。今年度も、国際関係とは「国家」の話ではなく、私たちの日常を扱っているという意識を持ち、自分自身の周辺から国際関係を考察することから始めたいと思います。皆さんの経験を聞きながら、「ジェンダーと国際関係」を一緒に学んでいきたいです。

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