卒業生が語る「私がpGSSで学んだこと」

ICU卒業生(2008年pGSS修了):藤栄麻理子
【CGS Newsletter015掲載記事】

pGSS専攻希望者から多く聞かれる「履修生の卒業後の進路を教えてください」という質問。今回は一般企業に就職した卒業生の藤栄麻理子さん(ID08)に、現在の仕事とpGSSで学んだことの関係を伺いました。


 私は生駒夏美先生のもとで卒業論文を執筆し、2008年にpGSSでICUを卒業した。現在、就職してから5年が経つ。いまの仕事は、ジェンダー・セクシュアリティに直接関わるわけではないが、pGSSでの学びはいまの私にとって、ふたつの大きな意味をもっている。

 ひとつは、企業社会に対するジェンダー・セクシュアリティの視点からのアプローチをもたらしたことである。私は、労働組合の活動を通じて働きやすい職場の実現をサポートする企業で、営業の仕事にたずさわっており、業務のなかでも、女性が働き続けられる企業づくりのお手伝いをさせていただくことがある。日々の仕事の中で、日本の企業社会の抱える問題がどこにあるのか、何がこれから必要なのかを考えるとき、pGSSでの学びは一助になっている。

 いま、多くの企業において、男女共同参画やダイバーシティ推進の取組みが課題とされている。労働力人口の減少や少子高齢化を背景として、性別や年齢、家庭環境などにとらわれず、多様な人々が働き続けられる組織づくりが日本企業に求められている。これまでの企業社会の中で不可視化あるいは周縁化されてきた育児や介護などの領域に目が向けられはじめ、各企業もさまざまな制度を整備したり、対策を講じたりしている。とはいえ、具体的な効果をあげている例は多くない。それは、その対策が「男/女」というジェンダー規範を前提とした枠組みを超えることができていない点に起因するのではないだろうか。このような状況の中で、企業社会やそこでの働き方をジェンダーの視点を通じて捉えなおすことは、私たちの働き方や、私たちと企業の関係のあり方を変えていく力になると感じている。

 もうひとつ、私にとってのpGSSでの大きな学びは、企業社会を含む今の社会全体をどのように見るか、その社会の中でどのように生きるかという、自分自身の軸のようなものを持つことができたことである。日々生活する中で、「女性」であることでの生きにくさや理不尽に対する怒りなどを感じることがある。しかしそんなとき、pGSSで学んだ視点や考え方は、私の大きな味方になっている。私たちを取り巻き、また、自分自身にも内面化されたジェンダーやセクシュアリティの構造に意識的になることは、様々な葛藤を生むこともある。しかし同時に、ジェンダー・セクシュアリティ研究の根っこには、「ひとりひとりがOK」というとてもあたたかな人間観があると思う。私はそこに魅力を感じているし、いま私たちが生きている社会をより良くしていく希望があると思っている。性別やセクシュアリティに縛られることなく、ひとりひとりが自分らしく生きられる社会をつくっていくために、私には何ができるのか。私の立場でできることを日々考えながら、理論を実践していきたい。

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