社会的に不利な立場におかれたベトナム女性集団の、セクシュアル/リプロダクティブヘルス(性と生殖に関する健康)について

健康と人口イニシアティブセンター:ホァン・チュ・アン
【CGS Newsletter015掲載記事・全文】

ホン先生よりご紹介いただいたホァン・チュ・アン先生が、ベトナムのセクシュアルヘルス・リプロダクティブヘルスの最新情報をお寄せくださいました。ホン先生のバックグラウンドともなる同国の状況をご紹介頂いています。

 1994年カイロで開催された国際人口開発会議以降、ベトナム政府は様々な地域や集団間の格差を縮めるべく、リプロダクティブヘルスケアの改善に関する重要なプログラムや法律・施策を展開してきた。これまでに、HIV・エイズ予防管理法(2006年)、ジェンダー平等法(2006年)、DV予防規制法など、たいへん進歩的な法律もいくつか施行されているが、データをみる限り、社会的に不利な立場におかれた女性に対する性と生殖関連医療に関しては依然、深刻な格差が存在することは明らかだ。

 ベトナムにおける避妊具使用率は全体に高く、農村部と都市部でその使用率に大差はない。しかし、女性の教育レベルの度合いや、北部デルタ地域と中部高原地域(ターイグエン)を較べるとその差は歴然とする(国連人口基金-UNFPA 2009)。農村部の出生率は2.28%で、遠隔地ではさらに上がる。一方、都市部の出生率は1.73%と低い(UNFPA 2009)。民族的マイノリティに属する女性が健康医療サービスにアクセスする際は、地理的な遠さ、食料購入資金や交通手段に関する制約に加えて、村の保健師の性別も障壁となる(保健師が男性である場合、女性は支援を求めることをためらう傾向にある)。山岳部に住む女性の56.1%は自宅で出産し、親戚、隣人、友人が出産を手助けしている(CCIHP(Chicago Careers in Health Professions (CCIHP)、シカゴ大学保健専門職育成プログラム)2009)。

 全国平均では、86.5%の女性が妊娠中に3回妊婦健診を受けているが、民族的マイノリティ女性に限ると、この比率は45%以下に落ちる(UNFPA 2007)。また産婦死亡率は10万人につき410人と、紅河デルタ地域(10万人につき40人)の10倍にのぼる(Tran Thi Phuong Mai, 2005)。

 全国調査によると、若い女性の性的活動開始時期が早まっていることがわかる。過去5年間に、少女の初交年齢は19.5歳から18歳に低下した。しかし、避妊に関する情報を積極的に求めたものは、そのうち47%で、65%はいまだにコンドーム使用をためらっている。さらに、月経周期における妊娠可能期間に関して正確な知識をもつ成人女性は、わずか18%だった。これに関しても、農村部(17%)と都市部(23%)では格差がみられ、また民族的マイノリティ(12%)と主流であるキン族・ホア族(19%)との差も大きい(ベトナム保健省、2010)。

 農村部から都市部に移住する少女や成人女性に対しての、人身売買や性的虐待のリスクは高い(Rushing 2006, CISDOMA(Consultative Institute for Socio-Economic Development of Rural and Mountainous Areas、農村・山岳地域向け社会経済開発諮問機関) 2008)。工場、娯楽施設、性労働に従事する女性の移住労働者は、虐待的な扱いを受けたり、HIV感染をはじめとする性感染のリスクが高く(Nguyen Truong Nam et al 2010; Ngo Duc Anh, 2010)、保健サービスへのアクセスも限られている。住民登録の難しさ、経済的困窮、社会からの疎外(周縁化)によって、診療所に行くことを躊躇する女性は多い(CISDOMA 2008, UNFPA 2010)。

 女性のHIV感染率も高まっており、2012年には、48000人の妊婦がHIVに感染していると推計される(ベトナム保健省, 2009)。 22県を対象とした2009年の調査によると、女性のHIV陽性者の84.3%はHIV陽性者の恋人(訳者注:性的パートナー)がいるが、男性のHIV陽性者においては53%に留まっている。また同調査によると、女性のHIV陽性者は性と生殖に関する健康について、限られた知識しか持ち合わせておらず、性と生殖に関する健康問題に遭遇するリスクが高いことが判る。HIV陽性と知らされた後に妊娠した女性は 24%、そのうち31%は避妊手段がないために妊娠したと回答している。これらの妊婦のうち, 61%は妊娠中絶を受け、13%は最低2回受けている。9%は妊娠中絶を受けられなかったため出産し、24%は調査前の12カ月以内に性感染症の症状があった(Khuat Hai Oanh et al 2009)。 他にも、女性のHIV陽性者が、息子を産まねば、という周囲からの強い圧力に苦しんでいることを示す調査がある (Hoang Tu Anh et al, 2009, Pauline et al, 2008)。

 心身の障害は、女性の家族や性生活に多大な影響を与える。障害をもつ既婚者のうち、女性の比率は30%と少ない (Le Bach Duong and Khuat Thu Hong, 2008) 。障害をもつ女性が、性と生殖に関する権利を十分に享受できない主な理由は、社会的烙印(スティグマ)と差別である(Hoang Tu Anh et al, 2010, Do Thanh Toan 2009)。医療関係者やクリニックは、障害をもつ人々への親身な対応や配慮に欠けることが多い。性と生殖に関する教育資料のなかに、障害をもつ人への情報が含まれることは稀で、ほとんど存在しない (CCIHP 2010)。

 施策にもこうした欠落が見受けられる。多くの場合、女性貧困者は施策に含まれているが、女性のなかでも移住者やDV被害者、HIV陽性者、障害のある者、民族的マイノリティに属する者、同性パートナーをもつ者などは、しばしば性と生殖に関する現在の法律や施策に含まれず、顧みられない。

結論
 ベトナムは、国の行動計画に提示された目標に向かって大きく前進しているものの、不利な立場に立たされた女性たちを社会的に放置することは、国の目標達成を妨げている。これらの女性たちが直面する性と生殖に関する健康リスクが、ジェンダーギャップをさらに拡大し、ジェンダーにおける不平等がこのリスクを高める顕著な要因となる。社会的に不利な立場にある女性たちが性と生殖に関する権利を享受するためには、ジェンダー関連の課題や、性と生殖に関する権利の否認、それぞれの固有のニーズに対応できる、親身で配慮ある保健医療サービスなど、取り上げるべき課題はまだまだあるといえるだろう。




参考文献

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Ngo, Duc Anh, Sherul A. Mccurdy, Michael W. Ross, Christine Markham, Eric A. Ratliff, and Thi Bich Hang Pham. 2010. Female Prostitutes' Life in Vietnam: Findings from a Qualitative Study. Vol. 21. Vietnam: CCIHP.

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