インタビュアー CGSセンター長、ICU教授:田中かず子
インタビュイー 「働く女性の全国センター(ACW2)」代表:伊藤みどり
【CGS Newsletter015掲載記事 特集:働くと「生きる」をジェンダーの視点から考える】
ベーシックインカムのような新しい制度への試みが必要とされる一方、現状のデータから労働・社会の在り方を見直すことも必要です。若者の雇用環境について調査を重ねてきた「働く女性の全国センター(ACW2)」の伊藤みどりさんに、CGSセンター長・田中かず子がお話を伺いました。
---若者をめぐる最近の労働環境について教えてください。
バブル崩壊後の20年間、若者の雇用環境は厳しさを増していますね。職場で若者を育てることが基本だった70・80年代と比べて、現在の若者は即戦力となることを求められ、自己責任論で追い込まれています。就労形態については、総務省統計局「労働力調査」からも分かるように、不安定で低賃金の非正規雇用者は、90年代には15~24歳では男女ともに2割でしたが、現在は5割と倍増しています。男女ともに、早い段階での転職や、複数の仕事をかけもつ複合就労がフツーにみられるようになってきました。一方、正規雇用者も長時間労働改善の兆しは見えていません。過労死レベルといわれる週60時間以上働く男性労働者は、25~34歳・35~44歳で3割近くに上っているし、近年は女性でも過重労働の傾向がみられます。
シングルの男女では生活時間に差はほぼありませんが、性別役割分業が社会基盤となっている日本では、家事・育児から自由な男性の働き方が労働標準となっています。70年代以降の晩婚化で女性の就業率も上昇したものの、現在でも出産・育児を契機に7割の女性は退職しています。家事・育児の責任を負いながら男性並みに働き続けることが困難なためです。女性が男性と対等な労働者として仕事をし、家庭や趣味など自分の時間を確保するためには、「女性が男性のように働く」のではなく、「現在標準となっている労働者像を変えていく」必要があります。
---若者たちへのメッセージをお願いします。
私は「短く働いて、豊かに生きる」ことを提案したい。個人的には、1日6時間・週4日働くのであれば、自分のために自由に使える時間や豊かに生きる空間を得られるでは、と考えています。
そのために、私は"錆びついた労働三権を磨こう"と呼びかけたい。憲法28条で保証される労働基本権には、団結権(労働者が使用者と対等の立場で交渉する目的で労働組合をつくる・加入する権利)、団体交渉権(使用者と交渉し協約をむすぶ権利)、そして団体行動権(団体交渉において使用者に要求を認めさせるためストライキを行う権利)、いわゆる労働三権が含まれています。しかしこれらは今ではすっかり錆びつき、活用されていません。
これまで労働者は、主に大企業の男性正社員の利益を代表してきた既存の労働組合にも象徴されるように、性別・年齢・雇用形態など様々な違いによって分断・対立させられてきました。しかしこのような分断を超え、賃金によって生計を立てる労働者として連帯し、資本に抗する力を育てていく以外、現在の閉塞状況を打破することはできません。生活する労働者の立場から資本の論理に歯止めをかけるよう、労働者同士の分断をうまない新しい視点で、労働三権を行使していく力をつけていく必要があります。いま私たちがすべきことは、この労働三権を磨いて、それぞれの立場から実践していくことでしょう。