ユートピアではなく


「やっぱ愛ダホ!idaho-net」代表、「いのちリスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」共同代表:遠藤まめた
【CGS Newsletter016掲載記事/特別特集:CGS開設10周年へ向けて】

島田暁さんと同じ時期にCGSに初めて足をお運び頂き、セクシュアルマイノリティーズ・インカレ・ネットワーク「Rainbow College」の立ち上げに関わり、日英ユースエクスチェンジにも参加した、遠藤まめたさん。まめたさんにとってCGSはどんな存在なのか、ご執筆頂きました。

 ずっと羨ましかった。三鷹の駅から電車に揺られて15分の町にある大学に通っていたころ、CGSはまぶしかった。ここにくれば仲間がいる。ここにくれば思ったことが言える。ここにくれば、自分でいられる。

 隣町の大学では、自分自身がトランスジェンダーであることを扱いかねていた私は、率直にICUの友人たちに言った。

「いいよね。学校の中にこんな居場所があって、まるでユートピアみたいだよね」

 すると友人はこう言った。

「あのね。ユートピアはないんだよ。ここでも自分のことを説明しないと、いないことにされてしまうんだよ」

 それは場への抗議というよりは、信頼だった、と思う。どこにもカンペキはないけれど、話しかけたら答えてくれる人がいるということが(おそらく、そのことだけが)安心できる場なのだ。CGSはアカデミックな場であると同時に泥くさい。そこがいい。そう思うようになった。

 様々な差別や抑圧のある社会において、私たちが本当の言葉を取り戻すためにはフェミニズムが必要だ。けれど、フェミニズムは出来合いの完成品ではなく、机に座って学ぶような学問でもない。むしろ、多様性という嵐の中で、口ごもり逡巡しながらも生まれるやりとりによってのみ価値のある生きものではないだろうか。

 これからもCGSの泥くささに期待している。

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