学生相談室のLGBT支援の試み


北里大学 健康管理センター 学生相談室 臨床心理士:柘植 道子
【CGS Newsletter016掲載記事/日本からのニュース:相談の現場から】

CGSは学生にも開かれたコミュニケーションスペースとしても機能しており、学生の皆さんからジェンダー・セクシュアリティにまつわる様々な相談を受けることが多々あります。他大学では相談に関して、どのような体制を築いているのでしょうか。今回は、LGBT学生サポートグループを立ち上げられた、北里大学学生相談室臨床心理士の柘植道子先生にご寄稿頂きました。

 北里大学健康管理センター学生相談室では、他の学生相談室同様、多くの学生に利用をしてもらえるよう学生相談室の周知を行っている。他相談室との違いは「LGBTフレンドリー」であることをうたい、「LGBTサポートグループ」の宣伝にあるのではないだろうか。

 LGBT学生にとって、学生相談室は信用できる場所とは言えず、利用価値がわからないだけではなく、人によっては、傷を負わされるのではないかという懸念を持たざるをえない支援機関なのである。私は今までに何人となく、LGBT当事者に学生相談室利用について尋ねてきた。彼らはカウンセラーから「同性が好きなのは気の迷い」「そのうち異性が好きになる」と言われ、セクシュアリティの話題を扱ってもらえなかったという報告をもらっている。私個人でも、臨床心理士がブログで「日本ではLGBTに対して、欧米のような肉体的暴力はない」と書かれているのを見つけ、間接的ではあるが「同性愛は精神分析で治す」と言った臨床心理士も知っている。すべてのカウンセラーがLGBTに対する理解がないわけではないが、LGBTの存在とホモフォビアを否定してきた学生相談室が信用を失っている現実を甘受すべきと考えている。

 信用回復のために、そしてなによりもLGBT学生にも学生相談室を利用してもらえるよう、当相談室は、新入生オリエンテーションをはじめ、学内広報誌、講義、FD、ホームページなど、思いつくすべての機会と媒体を使ってLGBTフレンドリーであることをうたっている。また、学生相談室だからこそ提供できるLGBTサポートグループ―LGBT学生が集い、セクシュアリティ、アイデンティティ、恋愛感情、社会からの圧力などについて、仲間と安心して語り合える場―を実践すべきだと考えた。最近は携帯アプリやネットが普及し、LGBTの仲間を見つけることは以前より容易になっている。しかし、学生相談室を訪れる学生の多くが「この大学の中に自分以外のLGBT学生を知らない」と述べる。学びの場に自分だけがセクシュアル・マイノリティ... そう思い込んで、セクシュアル・マジョリティのようにふるまい4年間を過ごす心理的デメリットはあまりにも大きい。「セクシュアル・マイノリティは自分ひとり」という孤独感から解放され、仲間と語り合えるLGBTサポートグループが精神衛生に果たす役割の説明は不要であろう。

 なんだかとても偉そうなことを書いてしまったが、大学をLGBTフレンドリーな場にするための教職員教育や学生への理解を促す活動は不十分であり、また、相談室に足を運べない学生への支援は実現していない。取り組むべき問題は山積しているが、不確かな情報がネットで氾濫している今、LGBT学生に向けての正しい情報を、学生相談室から発信することが求められていると感じている。

 社会的弱者の理解者であるべき学生相談室の多くが、社会的弱者を抑圧していた過去を認め、相談室のあるべき姿を再考した時、LGBTを迎え入れる体制、LGBT学生の成長促進のための支援提供、そして社会への働きかけが可能になるのではないかと信じている。

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