構成:CGS事務局長 加藤悠二
【CGS Newsletter017掲載記事/特集「ICUにおけるジェンダー・セクシュアリティ対応」】
ICUは、2003年度から性別違和のある学生の学籍簿上の氏名・性別表記が変更可能になっています。最初のケースから10年以上が経ついま、布柴達男先生(学生部長)、相原みずほさん・土屋あい子先生(人権相談員)、田中かず子先生(元教員、最初のケースの対応経験者)、上田真央(CGS助手、「LGBT学生ガイドinICU:TG/GID編」編集担当)、加藤悠二で座談会を開催しました。
【座談会要約】
人権相談としての学籍簿変更
田中:私は性別違和があるという学生たちから話を聞く機会が何度もあり、困難なことを具体的に教えてもらうなかで、「これは絶対に人権マターだ」と確信し、人権委員会で取り上げることを決意しました。学生個人の問題ではなく、シスジェンダーを前提とした男女二元論的社会構造が内包している構造的問題であるからです。それでも私にとって、トランスジェンダーの困難さは、話を直接聞かないと分からない、大きな衝撃でした。だから、「まだ分からない自分がいる」ことは分かっているんです。
相原:いまのお話にはすごくホッとしました。私も人権相談員を始めた当初は「このお仕事のなかで一番難しい」と、苦手意識が強かったんです。最初は決まり文句での応対でしたが、学生さんとの立ち話や、CGSとの情報共有ができるようになった頃から、私たちが気にもとめない部分で、苦労したり傷ついたりしていることがようやく分かってきて、新しい相談も「またひとり、相談に来てくれてよかったなぁ」という思いで出会えるようになりました。こうしたつながりに、すごく感謝しています。
「LGBT学生生活ガイドinICU」の意義
上田:学生間で「学籍簿変更システムがある」「健康診断で個別対応してもらえる」などの情報は、口コミレベルで共有されていました。私たちが分かる範囲の情報でも集約したらシステムの使い勝手もよくなるかと思い、学生さんや対応経験者の先生から聞き取った内容をガイドにしました。出す前はこんな基礎情報だけでいいのか不安でしたが、ICU生はもちろん、他大生からも「参考になる」と好評で、出せてよかったです。ただ、学生対応の流れが分からず、対応部署を探すのも大変でした。
布柴:学籍簿変更は健康診断や体育の実技などにも関わります。個別にいちいち頼みに行かずに済むよう、各部署がもっとリンクしていていいはずですよね。
相原:近日中に関係部署で変更手続きの流れを整理して、フローチャートにしたいね、と布柴先生と話していたところです。
土屋:様々な学生に出会う教員にも、このガイドは心強いものになります。学内での認知をさらに広められたらいいですね。
布柴:教授会でも配布する機会が作れるといいですね。
今後の展望
相原:私が対応した学生さんには「この制度があるからICUに来た」と言いきる方もいます。大学で人生を再スタートさせたい方・ハタチを迎える方も多いなか、こうした対応の有無は、大学を選ぶ際のポイントとなって当然だと思いますね。
田中:最初のケースから10年以上経つんだから、そろそろ大学としてのスタンスをきちんと表明してもいいと思うんです。
布柴:同時に、スタンスだと言うからには、それにあわせた施設面の充実も必要があると思います。他の先生と話していて、「なにせお金がかかる」と言われたことがあるのですが、「意識を変えるのはもっと大変で、お金で変えられるなら、軽いものじゃないですか!!」って言ったことがあるんです(笑)例えば寮でも、既存の問題をなるたけ解決し、各寮の特徴を明確にして多様性をもたせ、入寮時に選択してもらうというのもありかと思います。「全員にベストな寮」は無理でも、「その人にとっていいものに近い寮」は実現できるのではないかと思っています。
田中:トランスジェンダーの学生が入寮できなかったこともありますが、本当は運用次第で対応できるはず。そういった視点をきちんと入れていくことも重要ですよね。
布柴:そうですね。最近、ICUの対応について取材問い合わせが多いことを人権委員会で報告すると、まんざらでもないという反応を感じます。だから僕はトランスジェンダーフレンドリーのスタンスを出せるかもしれないと期待しています。私個人としては是非そうしていきたいですね。