持続可能な共生社会に向けて:ジェンダー視点からの挑戦


お茶の水女子大学 ジェンダー研究センター 客員研究員:菅野 琴
【CGS Newsletter017掲載記事/アジアからのニュース】

2014年は「国連持続可能な発展のための教育の10年」の最終年となります。ユネスコ・パリ本部での勤務、駐ネパールユネスコ代表、カトマンズ事務所長などの経験をお持ちで、発展途上国における女性の基礎教育に関する研究を重ねてこられた菅野琴先生にご寄稿頂きました。

「持続可能な開発(Sustainable Development)」が、「環境と開発に関する世界委員会」の報告書"Our Common Future"で提唱されてから27年経つ。報告書は、人間の活動と生存は、地球の自然システムと資源が基礎であり、自然資源を補充するより早く消費することは持続可能性を脅かし、資源の枯渇を招くという環境的限界への警鐘でもあった。

 持続可能な開発の提唱は、「人間開発」や「開発とジェンダー」といった開発アプローチの転換とも重なる。採算性や生産効率性を最優先する社会では、出産、子育てや家事、さらに介護の主な担い手である女性は不利になりやすく、性別役割分担も固定化される。一方、持続可能性の高い社会は、環境保全、生物多様性・生態系の維持、過度な消費を戒める適度な経済的充足や経済活動の参加の機会均等や公正さを原則とし、その構築には価値観や行動の変革が前提となる。持続可能性の高い社会では、女性にとっても男性にとっても、自らの生き方や働き方の多様性が尊重され、ジェンダー平等の社会への道を開くことになる。このような方向性は、気候変動や災害により、地球規模の持続可能性の危機が叫ばれる今日、ベストな選択と言われる。

 開発途上国の環境は、開発が始まってからの方が悪化してきたといわれる。筆者がユネスコ勤務で滞在したアジアの国々でも大気や河川の汚染など、目を覆うものがあった。農村でも字が読めないために必要以上に化学肥料を使うとか、殺虫剤を撒いた夫の作業着を洗濯した女性の皮膚病のケースも聞いた。女性は、身近な生活の場で水の汚染や化学物質による健康被害を経験し、リスクも認識し、時には抗議の声も発する。女性が身を挺して森林を守ろうとしたインドのチプコ運動の例もある。しかし、女性の発言や行動は無知な素人の感情的な反応として無視されてしまうことが多い。女性の教育の低さや非識字率の高さと科学に弱いというステレオタイプ化された女性像が、持続可能な社会の構築への参加を困難にしているのである。しかも、持続可能な開発のための教育(ESD:Education for Sustainable Development)は、万人のための教育(EFA:Education for All)に比べ、貧困削減とジェンダー・エンパワメントに「沈黙している」(ユネスコ 2008)と言われる。持続可能性を高める挑戦が、地球全体の規模で展開されていくためには、社会的弱者や女性を含む変革の主体者を育てるエンパワメントの教育が求められる。教育は持続可能性への重要な鍵なのである。

 今年11月10日~12日に名古屋で開催される「ESDに関するユネスコ世界会議」に先駆け、11月1日、国際シンポジウム「サステイナビリティとジェンダー」が国連大学においてお茶の水女子大学との共催で開かれる。教育を生涯にわたる学びの場、エンパワメントのプロセスと捉える立場から、ジェンダー平等の視点をもつ持続可能な共生社会の構築のためのESD戦略や活動が討議される。ここでの議論は、ポスト2015開発に関する議論への貢献となることも期待したい。日本においても、この分野での議論がより深化し、次世代の研究者や専門家の方々へ引き継がれることを望んでいる。

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