アンパサンド法務行政書士事務所(http://andlaw.jp/)
ICU卒業生(2005):清水雄大
【CGS Newsletter018掲載記事】
2015年3月末に、一部の同性カップルへのパートナーシップ証明が可能となる条例が渋谷区で成立し、大きな話題となりました。この条例のポイントや限界、今後のぞまれる展開について、卒業生であり、行政書士として性的マイノリティの支援や情報発信に携わる、清水雄大さんにご説明いただきます。
2015年3月31日、「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」が、東京都渋谷区議会で可決・成立した。
この条例の最大の特徴は、区・区民・事業者による性的少数者への差別を禁止した上で、「男女の婚姻関係と異ならない程度の実質を備える」同性カップルについて、そのパートナーシップ関係を区長が証明することができるという内容を盛り込んだ点にある。この特徴から「同性パートナーシップ条例」などと呼ばれることも多いこの条例は、同性パートナーシップの法的保障を図る公的な制度として、国・地方を含め日本で初めての制度となった。
パートナーシップ証明を受けた同性カップルは、区民・事業者からは「最大限配慮」され、区内の公共的団体からは「十分に尊重」され「公平かつ適切な対応」がされる。このようにパートナーシップ証明がもたらす効果についての条例の定めは極めて曖昧なものであるが、具体的には、(1)区内の賃貸住宅への入居(区営・区民住宅や民間の賃貸住宅)、(2)区内の医療機関での対応(パートナーの一方が入院した際の面会や医療同意の代行)、(3)区内の職場での対応(家族手当、慶弔休暇などの労働条件の改善)などといった場面で、一定の効果を発揮することが期待される。
パートナーシップ証明を得るためには、(1)相互を任意後見受任者の一人とする任意後見契約、及び、(2)共同生活を営むにあたって当事者間の関係性や財産関係を規律する契約、という2種類の契約を公正証書により締結する必要がある。本条例のパートナーシップ証明に関する部分は本稿執筆時点で未施行だが、本条例可決後の4月26日に投開票され、本条例の是非が争点の一つとなった区長選で当選した長谷部健区長(当選前、区議会議員として本条例の制定を推進した人物である)は、就任後初の記者会見で、10月末までに証明書発行を開始する予定であると表明している。
今回の条例には、(1)その法的効果が不明確であり、法的な強制力が弱いため、差別や不利益の問題が発生する都度、当事者が本条例を使用して自ら解決していかなければならないこと、(2)異性間の婚姻関係に付与される相続、税制、社会保障などの権利は一切保障されず、婚姻にはほど遠く及ばないものであること、(3)公正証書の作成に最低数万円必要であり費用負担が重いこと、などといった問題点がある。また、成立過程に関しても、本条例による「多様性」推進の喧伝と並行して宮下公園を始めとする区内の公園における野宿者排除の動きがあったことから、一種のピンク・ウォッシングではないかという批判が提起されている。
本条例はかような限界を抱えつつも、これを受けて安倍晋三首相が同性婚について国会答弁を行うなど、国内では未だかつてないほどの広範さをもって議論を喚起するに至っている。この動きを、量的な面では他の自治体や国政レベルにまで広げ、質的な面では同性カップルの法的保障を異性間の婚姻と同じ内容にまで引き上げ、これにとどまらず性的少数者全般の権利擁護に結び付けることができるか。今後の展開にこそ、本条例制定の真価が現れることになろう。