ICUのキャンパスを巡る人権課題

CGSセンター長:生駒夏美
【CGS Newsletter019掲載記事】

 巻頭の言葉にあたり、正直沈んだ思いを抱えています。日本の状況も世界の状況も、ヘイトの言葉や行動が増え続け、悪くなるばかりです。翻ってICUでも、成果主義や原則論がより強まっているように思います。体制や原則そのものがマイノリティや女性排除的であることを忘れ、原則論を振りかざすことは、本学が大切とする世界人権宣言の精神に反しています。それなのに、異論を唱えること自体が体制的にどんどん難しくなっている。その背後には、女性蔑視やマイノリティ差別、ネオリベ的拝金主義が見え隠れしているように思います。

 CGSはそんな環境で何ができるでしょうか。まずは学生たちのために、ジェンダー・セクシュアリティを巡る言論状況が悪い中、キャンパス改善に働きかけ、すこしでも安心できる場を提供すること。駆け込んできた時に共感と支援、できれば解決策を提供することを目指してきましたが、敗北感にとらわれる出来事に続けて直面しています。

 ひとつは留学生から、学内のジェンダー意識・人種意識の低さを指摘されたこと。ある学内行事は、人種差別的かつマイノリティ/女性差別的にも関わらず、「伝統」の名の下に無批判に、かつ強制参加の形で継続されています。国際性や人権重視の姿勢に反することは明らかながら、学内では批判や被害の訴えを口にもできないと、その留学生は訴えました。別の留学生からは、ハラスメント被害の訴えを非常に軽く扱われて深く傷ついたという話も聞きました。これらの声には、CGSの活動が十分に届いていないことを思い知らされましたし、大学の全教職員の人権意識向上にますます強力に働きかける必要性を痛感しました。また、留学生がCGSの活動に関わりやすくする対策も必要です。

 もうひとつは新寮問題です。ICUはジェンダーを問わないフロアを持つ新しい寮を建設中です。LGBTが不安なく生活できるキャンパス環境が整備されぬまま、この寮が「LGBT 寮」だと誤解した報道がなされる現状には、不安が募るばかりです。大学側には寮則にマイノリティの視点を盛り込む努力を求めたいですし、また、入寮前にジェンダー・セクシュアリティに関する人権講習を必須とする必要性を感じています。建物を新しくするよりも、キャンパスの人権環境を整えることの方がはるかに重要かつ喫緊の課題です。

 設立から12年となるCGSですが、実現できたことは本当に少ない。ICUにはまだ託児施設もダイバーシティ推進部署もできていません。それでも私たちが落胆して声を上げることをやめたら、誰が声を上げるのかとも思うのです。わずかでも実現してきたこともある。そして、ジェンダー・セクシュアリティに興味を持つ学生が増えているのも事実です。少しずつでも良くしていけることを信じ、皆さんのご支援を力に、声を上げ続けていきたいと思うのです。

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