「デートDVってホントに他人事?」: すみれプロジェクト(特集:すみれプロジェクト)

CGS事務スタッフ:加藤悠二
【CGS Newsletter019掲載記事】

CGSは2015年度、女性への暴力根絶を示すキャンペーンカラー・紫で、「誠実」「小さな幸せ」が花言葉であるすみれを象徴とし、デートDVなど身近な暴力について考える「すみれプロジェクト」を、学部生と共同で実施しました(2016年より「すみれネットワーク」に改名)。プロジェクトを担当したCGS 職員・加藤悠二がプロジェクトのあらましを、プロジェクトの発端となった学生・ぺんこさん(ペンネーム)が自身の経験と感想を綴ります。

 2015年4月、所員の紹介でCGSを訪れた学部4年生「ぺんこ」さんは、ICU生同士でのデートDVの経験者で、自分と同じ経験をする学生を減らすための活動を希望していた。ぺんこさん、相談に乗っていた同級生の同志「ちゅん」さん、私の3名をメンバーに活動の模索が始まった。

 ひとつめの活動は、2015年度在学生・2016年度入学生の全員に配布する、日英両語対応パンフレット「デートDVって本当に他人事?」制作だ。表面は「ぺんこさん・ちゅんさんの手記と、若者への調査データを紹介し、デートDVへのリアリティを喚起させること」を、裏面は「学内外の相談先リストを作ること」を目的とした。カミングアウトが難しいHIV 陽性者たちが匿名で綴った手記を用いる「Living Together 計画」のメソッドを援用した。前年度にNPO法人akta・多摩府中保健所と協働した、養護教諭向けHIV情報チラシの制作経験が活用できた。デザインや文章のディレクションは私が行い、「被害者=女性、という図式にならないデータを用意したい」といった方向性は確認したが、データのリサーチや選定は、ぺんこさん・ちゅんさんにお任せした。

 ふたつめの活動は、講演会の実施だ。「デートDVって、知ってる? ―学生発信型啓発活動の在り方を考える」と題し、早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター准教授の兵藤智佳さんをお招きした。兵藤さん司会のもと、同大4年生の湯山秀平さんによる「男性のデートDV被害」に関するアクションリサーチの成果発表から、学生にできるアクションの可能性や、被害のあり方の多様性が、臨場感をもって共有できた。

 最後に、ぺんこさんの「直接学生同士で話す場を設けたい」という強い希望から、「すみれカフェ」を実施した。グランドルールを設けた場には約10名が参加したが、ぺんこさんのファシリテーションの素晴らしさは、特に印象に残っている。プロジェクト開始当初、ぺんこさんはミーティング中に不意に涙を流すことも少なくなかった。しかし、学外のNPOに関わり、学内でも友人にカミングアウトを重ね、相談を受ける立場にもなる経験も通してか、秋口からぺんこさんが泣くことはなくなり、デートDVを語ることに対して、しなやかな自信を身につけていたように見えた。冬になりカフェを切り盛りするぺんこさんは、相手の言葉に真摯に耳を傾け、自分の経験や知識を丁寧に選ばれた言葉で語っていた。自身の経験を「被害/加害」と語ることを好まず、「私の前の彼氏はデートDVだった」と表現することも、その一例であると思う。自分に向き合って生き抜いてきた「サバイバー」としてのぺんこさんが、そこにいた。このプロジェクトで私の働きが皆無だったとは言わないが、それでもなお、「私はぺんこさんに伴走し、"デートDVを経験する"ことのリアリティを、傍で感じさせてもらうことしかできなかった」と、痛み入る想いだった。

 振り返ってみれば「すみれプロジェクト」は、ぺんこさんの回復の過程と共に歩んできた。ぺんこさん抜きの継続には、まったくの新規事業立ち上げとして取り組まねばならない。しかしなお、この花が咲き続けていけるキャンパスづくりが必要なことは、確かなことである。

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