日時:2008年11月15日(土)14時~16時
参加者:10名
報告:鈴木直美、丹羽尊子、石渡香奈子
最終回である第5回WSのテーマは「職場で使えるハラスメント対策・コミュニケーション術」であった。ハラスメントは現在職場で顕在化しており、相談件数は増えている。WSでは、ハラスメントとは何かを学んだ後にロールプレイを行い、最後に対策について考えた。WS中、辛く感じたりフラッシュバックを起こしたりしたらすぐに申し出るようにと高山さんからアナウンスがあったことからも、ハラスメントがいかに深刻な問題であり、人の心に傷を与える行為であるかが窺われる。
1.アイスブレーク:ハラスメント判断チェックリスト
最初にハラスメントとは何か?を考えるべく「ハラスメント判断」が行われた。高山さんが挙げた事例がハラスメントに入るか否か、4つの選択肢 から回答する。参加者からは「合意」があったなら仕方がない、努力が必要、身なりにも原因があるのでは?など、事例はハラスメントとみなせないという意見も出た。
2.ハラスメントとは?
ハラスメント判断チェックの後、ハラスメントの定義と種類についてのレクチャーがあった(内容は次ページの通り)。ハラスメントという英単語は「継続性」や「執拗さ」また構造的権力関係が伴うことを含意しているが、日本語の「嫌がらせ」にはそれらの視点が欠けている。この視点の欠如は、ハラスメント理解の妨げになっているだろう。
個人的な経験では、ハラスメントを受けたと訴えてもおおげさな反応だと見なされる一方、日常会話で「セクハラになるのでは?」と相手に過剰に言葉を選ばれることがある。ものの感じ方は人によって異なるものだが「ハラスメント」という言葉の理解に不備があることもまた、反応の違いや対策の難しさを生んでいるのではないか。
3.ハラスメントを体験してみよう!
次にロールプレイが行われた。被害者は派遣社員から正社員になったばかりの独身女性。加害者である上司から急な仕事が入ったと残業を命じられ、その後食事に誘われるというシナリオを、加害者役と被害者役に分けられた参加者が演じる。各自が目標を達成できるように詳細設定や話し方の工夫について作戦会議が持たれた後、ロールプレイが実演され、終了後にそれぞれがどのような気持ちで演じていたかを話し合った。ロールプレイは大変盛り上がりに楽しそうだったが、実際の現場で笑いがこぼれることなど絶対にない。
<ハラスメントとは>
ハラスメント=嫌がらせ
―自分が嫌がること、不快なことをされる→ストレスや心身の不調に繋がる
―暴力
―構造的権力関係が伴う(裁判、法律)
―継続性、執拗、しつこい(和訳の「嫌がらせ」という言葉にはもともと含まれない意味だが重要)
<ハラスメントの種類>
(1)セクハラ 性的に不愉快にする
時や場所をわきまえず相手を性的に不愉快にする言動
→加害者の意図 × 被害者の不愉快さ ○
⇒基準は「受けた側」
・環境型 ex.職場にヌードポスター
・対価型 ex.昇進⇔寝ろ 権力と密接
不安定雇用(低賃金、有期)≒女性
↑この状況を利用するケースがとても多い
(2)パワハラ
権力を背景に人格・尊厳を侵害。雇用環境悪化、雇用不安を与える。
アカハラ、ジェンダーハラスメント(ex.お茶汲みは女性だけ)、キャンパスセクハラ
権力・職権→不快
*セクハラとパワハラは一つだけで行われるより、組み合わさっている場合が多い。
(3)モラハラ (日本だけの名称)
フランスでは立法化されている。
基準作りが困難 ex.人前で嫌味、大きな声(罵倒)、無視、悪口
モラハラの難しさ→「不快」を避けようとすると注意もできない。信頼関係が破壊
・法的にもグレーゾーン
・具体的な線引きはこれからも社会的責任
各自が感想を述べていくうちに、それは認識された。加害者は演技であるにも関わらず何としてでも誘い出そうとエスカレートした。追い詰めることを楽しむ気持ちも生まれたという。一方被害者は、ハラスメントに対抗できない無力感を覚えていた。ロールプレイは数十分だったが、実際には毎日、長期間続くこともある。当初は加害者の性質に気づかず共に食事に行けば、その後にハラスメントが発生しても周囲には誘いに乗った方が悪いと責められる。またハラスメントが起こっていても、加害者は他の人間にその一面を見せないことも多く、周囲からの理解や協力を得にくい。またハラスメントに対して「NO」と言うことが強要されるが、それは非常に難しい。利害関係のある職場ではなおさらだ。
<「NO」と言うことのリスク>
・いじわる
・無視、村八分
・降格→子どもの学費が出せないなど、家族にも影響
・ストーカー
・傷害事件
・ネット、噂
・解雇→生活できない
・鬱、不安定→休職
自分だけの問題ではなく、家族の問題にもなる
「自分らしく生きる」 VS 「サバイブする」
→この二つを毎日天秤にかけさせられる
被害者は、加害者(上司など)も所属する組織(会社など)も変えられず、唯一コントロールできる自分に矛先を向ける。服装や対価を理由に、自分に落ち度があったと自身を責めることで着地点を見つけようとする。しかし、加害がなければ被害はないと高山さんは言う。社会の不完全さからくるmanipulationに絡め取られないように、被害に遭ってしまったら絶対に自分を責めず、また最初に取り組んだハラスメント判断の事例はすべて、間違いなくハラスメントであると考えて欲しい。ロールプレイはで加害者や被害者を演じたことは、その気持ちの理解に繋がり、同時にその深刻さの認識に繋がった。
4.ハラスメント対策
怒りへの対処法が通用しない、支配力や攻撃力の強い相手が増えている。それでも必ず取り組んで欲しいこととして、高山さんは記録の重要性や相談先の候補などご自身の経験を踏まえながらお話された。そして最後に「権利章典」をすべて読み上げ、ハラスメントに撤退を選ぶしかない時も、自分で納得してプロセスを踏めば次に繋げられることが話され、WSは終了した。周囲に言われて行動するのではなく、自分を責めるのでもなく、自分の道筋を決める。傷付き動揺した時に何かを決断することは容易ではないだろう。それでも、自分で決断し堂々と撤退することがその先の自分を救う。