B. Pick Up!: 2017年3月アーカイブ


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 ジェンダー研究センター「すみれネットワーク」の活動の一環として制作したリーフレット「デートDVってホントに他人事?」「デートDVって意外と? 身近」のデータを公開します。学生の手記・ファクトデータ・相談先リソースをまとめました。
 このデータは、クリエイティブ・コモンズの 表示 - 非営利 - 継承 4.0 国際 ライセンスで提供されています。
 特に、裏面のリソース集を、それぞれの地域や大学に応じたものに再編集して発行して頂くことを念頭に制作しています。再編集に際する許諾は必要ありませんが、利用状況把握のため、 cgs☆icu.ac.jp (☆を半角@に変えてください)まで、メールにてご一報をいただけるとありがたいです。裏面の状況については、2017年3月1日現在のものであるため、再発行の際はご自身でのご確認をお願いします。
参考URL:https://creativecommons.org/licenses/by-nc-sa/4.0/deed.ja

 リーフレットは広げるとA3サイズで、両面印刷の4つ折り観音開きで制作しています。


表面Aタイプ:学生による手記とファクトデータを並べたタイプ
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表面Bタイプ:ファクトデータを全面に出し、学生による手記を2ページ目にまとめたタイプ
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裏面:相談先のリソース集。左ページはICU学外、右ページに学内の情報を配置
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データは以下URLよりダウンロードが可能です。
http://web.icu.ac.jp/cgs/archive/SumireNetwork.zip(ZIPファイル、14.8MB)



むらさき色は、女性に対する暴力をなくすための国際的なキャンペーンカラー。
すみれネットワークでは、ジェンダー・セクシュアリティを問わず、お互いに暴力のない関係を築くきっかけを、みんなで一緒に考えていきます。

参考記事(CGS Newsletter019掲載)
「デートDVってホントに他人事?」: すみれプロジェクト
健康的な恋愛って?

CGSセンター長:生駒夏美
【CGS Newsletter019掲載記事】

 巻頭の言葉にあたり、正直沈んだ思いを抱えています。日本の状況も世界の状況も、ヘイトの言葉や行動が増え続け、悪くなるばかりです。翻ってICUでも、成果主義や原則論がより強まっているように思います。体制や原則そのものがマイノリティや女性排除的であることを忘れ、原則論を振りかざすことは、本学が大切とする世界人権宣言の精神に反しています。それなのに、異論を唱えること自体が体制的にどんどん難しくなっている。その背後には、女性蔑視やマイノリティ差別、ネオリベ的拝金主義が見え隠れしているように思います。

 CGSはそんな環境で何ができるでしょうか。まずは学生たちのために、ジェンダー・セクシュアリティを巡る言論状況が悪い中、キャンパス改善に働きかけ、すこしでも安心できる場を提供すること。駆け込んできた時に共感と支援、できれば解決策を提供することを目指してきましたが、敗北感にとらわれる出来事に続けて直面しています。

 ひとつは留学生から、学内のジェンダー意識・人種意識の低さを指摘されたこと。ある学内行事は、人種差別的かつマイノリティ/女性差別的にも関わらず、「伝統」の名の下に無批判に、かつ強制参加の形で継続されています。国際性や人権重視の姿勢に反することは明らかながら、学内では批判や被害の訴えを口にもできないと、その留学生は訴えました。別の留学生からは、ハラスメント被害の訴えを非常に軽く扱われて深く傷ついたという話も聞きました。これらの声には、CGSの活動が十分に届いていないことを思い知らされましたし、大学の全教職員の人権意識向上にますます強力に働きかける必要性を痛感しました。また、留学生がCGSの活動に関わりやすくする対策も必要です。

 もうひとつは新寮問題です。ICUはジェンダーを問わないフロアを持つ新しい寮を建設中です。LGBTが不安なく生活できるキャンパス環境が整備されぬまま、この寮が「LGBT 寮」だと誤解した報道がなされる現状には、不安が募るばかりです。大学側には寮則にマイノリティの視点を盛り込む努力を求めたいですし、また、入寮前にジェンダー・セクシュアリティに関する人権講習を必須とする必要性を感じています。建物を新しくするよりも、キャンパスの人権環境を整えることの方がはるかに重要かつ喫緊の課題です。

 設立から12年となるCGSですが、実現できたことは本当に少ない。ICUにはまだ託児施設もダイバーシティ推進部署もできていません。それでも私たちが落胆して声を上げることをやめたら、誰が声を上げるのかとも思うのです。わずかでも実現してきたこともある。そして、ジェンダー・セクシュアリティに興味を持つ学生が増えているのも事実です。少しずつでも良くしていけることを信じ、皆さんのご支援を力に、声を上げ続けていきたいと思うのです。

CGS事務スタッフ:加藤悠二
【CGS Newsletter019掲載記事】

CGSは2015年度、女性への暴力根絶を示すキャンペーンカラー・紫で、「誠実」「小さな幸せ」が花言葉であるすみれを象徴とし、デートDVなど身近な暴力について考える「すみれプロジェクト」を、学部生と共同で実施しました(2016年より「すみれネットワーク」に改名)。プロジェクトを担当したCGS 職員・加藤悠二がプロジェクトのあらましを、プロジェクトの発端となった学生・ぺんこさん(ペンネーム)が自身の経験と感想を綴ります。

 2015年4月、所員の紹介でCGSを訪れた学部4年生「ぺんこ」さんは、ICU生同士でのデートDVの経験者で、自分と同じ経験をする学生を減らすための活動を希望していた。ぺんこさん、相談に乗っていた同級生の同志「ちゅん」さん、私の3名をメンバーに活動の模索が始まった。

 ひとつめの活動は、2015年度在学生・2016年度入学生の全員に配布する、日英両語対応パンフレット「デートDVって本当に他人事?」制作だ。表面は「ぺんこさん・ちゅんさんの手記と、若者への調査データを紹介し、デートDVへのリアリティを喚起させること」を、裏面は「学内外の相談先リストを作ること」を目的とした。カミングアウトが難しいHIV 陽性者たちが匿名で綴った手記を用いる「Living Together 計画」のメソッドを援用した。前年度にNPO法人akta・多摩府中保健所と協働した、養護教諭向けHIV情報チラシの制作経験が活用できた。デザインや文章のディレクションは私が行い、「被害者=女性、という図式にならないデータを用意したい」といった方向性は確認したが、データのリサーチや選定は、ぺんこさん・ちゅんさんにお任せした。

 ふたつめの活動は、講演会の実施だ。「デートDVって、知ってる? ―学生発信型啓発活動の在り方を考える」と題し、早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター准教授の兵藤智佳さんをお招きした。兵藤さん司会のもと、同大4年生の湯山秀平さんによる「男性のデートDV被害」に関するアクションリサーチの成果発表から、学生にできるアクションの可能性や、被害のあり方の多様性が、臨場感をもって共有できた。

 最後に、ぺんこさんの「直接学生同士で話す場を設けたい」という強い希望から、「すみれカフェ」を実施した。グランドルールを設けた場には約10名が参加したが、ぺんこさんのファシリテーションの素晴らしさは、特に印象に残っている。プロジェクト開始当初、ぺんこさんはミーティング中に不意に涙を流すことも少なくなかった。しかし、学外のNPOに関わり、学内でも友人にカミングアウトを重ね、相談を受ける立場にもなる経験も通してか、秋口からぺんこさんが泣くことはなくなり、デートDVを語ることに対して、しなやかな自信を身につけていたように見えた。冬になりカフェを切り盛りするぺんこさんは、相手の言葉に真摯に耳を傾け、自分の経験や知識を丁寧に選ばれた言葉で語っていた。自身の経験を「被害/加害」と語ることを好まず、「私の前の彼氏はデートDVだった」と表現することも、その一例であると思う。自分に向き合って生き抜いてきた「サバイバー」としてのぺんこさんが、そこにいた。このプロジェクトで私の働きが皆無だったとは言わないが、それでもなお、「私はぺんこさんに伴走し、"デートDVを経験する"ことのリアリティを、傍で感じさせてもらうことしかできなかった」と、痛み入る想いだった。

 振り返ってみれば「すみれプロジェクト」は、ぺんこさんの回復の過程と共に歩んできた。ぺんこさん抜きの継続には、まったくの新規事業立ち上げとして取り組まねばならない。しかしなお、この花が咲き続けていけるキャンパスづくりが必要なことは、確かなことである。

ICU卒業生(ID 16):ぺんこ
【CGS Newsletter019掲載記事】

CGSは2015年度、女性への暴力根絶を示すキャンペーンカラー・紫で、「誠実」「小さな幸せ」が花言葉であるすみれを象徴とし、デートDVなど身近な暴力について考える「すみれプロジェクト」を、学部生と共同で実施しました(2016年より「すみれネットワーク」に改名)。プロジェクトを担当したCGS 職員・加藤悠二がプロジェクトのあらましを、プロジェクトの発端となった学生・ぺんこさん(ペンネーム)が自身の経験と感想を綴ります。

 私は入学して数か月後に、学内の同級生と付き合い始めました。彼は優しく、気前よく食事もおごってくれ、私と一緒に居ることを最優先してくれる人でしたが、長く付き合ううち、怒りやストレスをコントロールできない人でもあることが分かり始めました。はじめは周りの物に向かっていた暴力の矛先は、次第に私に向いていきました。日常化する様々な暴力を経て、「私がいつも彼を怒らせてしまう」「けれど私だけが彼の全てを理解でき、受け入れられる」と歪んだ考えを持つようになりました。帰省した際、私の顔色の悪さから母が気づいたことを経て、私は彼からのデートDVをはじめて認識しました。

別れたあとも、暴力を受けた場所を通りがかったときのフラッシュバックや、夜中に自分の叫び声で目が覚める、学内で彼や彼に似た人影を見ると過呼吸になり他のことが考えられなくなるなどの後遺症に悩まされました。なんとかしたいと思った私は、友人に紹介されたNPOでデートDVの勉強を始め、自分と向き合っていきました。

1年が経った頃、周囲での「あの二人は彼氏側がやばくて別れたらしい」といった噂の一人歩きから精神的に参っていたこともあり、SNS上でカミングアウトしました。その結果、多くの人からの反響や相談を受け、デートDVを問題化する重要さを知りました。そして私が情報発信する意味も確信したのです。

すみれプロジェクトで、同志の友人と一緒にパンフレットを作って配布したり、カフェイベントでお話ししたりする経験を通し知ったのは、自分をちゃんと受け入れられないと他人を大事にできない、ということです。今の自分がとても嫌な人間だと思っていても、そこから目を背けず、正面から「私を認識する」ことが大事だと気づきました。また、暴力を振るってしまう人だけがおかしいのではなく、誰もがそうなってしまう可能性を持っていることも学びました。みんな心に飼った猟奇的な獣を、日々飼い慣らして生きている。飼い慣らせない人にこそ、焦点があてられるべきだと、強く感じました。私の周りは、私=被害を受けた側しか見ませんでした。しかし、好きで暴力を振るう人ばかりではありません。互いに互いを尊重し、相手に一歩踏み込んで向き合う関係が築けていれば良かったのだろうと、今は思います。そうすれば、彼が暴力の裏に持っていた悲しみや叫びにも、気がついたのかもしれません。

愛や恋愛って結局何なのだろう、と問い続けた4年間でした。単純に言ってしまえば、「自分と向き合い、相手と向き合うこと」なのだと、卒業間際にして改めて気がつきました。大学生活の半分は惜しいことをしたと思ったいりもしますが、だからこその今があります。自分に置き換えるとなかなか難しいと感じるときもありますが、この考え方は常に覚えておきたいです。

最後に、私の卒業後にプロジェクトを引き継いでくれる方を募集しています。このキャンパスでこうした問題が起きたこと・起きていることは事実です。パンフレットのポスティング中、「俺には関係ないなあ」「そもそも彼氏いないし」といった感想も耳に飛び込んできました。私も、入学当初に保健の授業で扱われたデートDVを、他人事と聞き流していました。しかし、実際に私は当事者になりましたし、周囲から相談を受けることが今も少なくありません。無関係な人などいないのです。このプロジェクトで大事なのは、デートDVや恋愛の経験の有無ではなく、お互いを尊重できる「ヘルシーな関係性」の大切さを伝えることです。お互いを尊重するということは、何も恋愛関係のみに限られません。友人や家族など、私たちは様々な人間関係の中で生きています。すこしでも興味を持ってくださった方は、CGSにご一報ください。

CGS事務スタッフ:加藤悠二
【CGS Newsletter019掲載記事】

CGSは「ジェンダー・セクシュアリティとキャンパスライフ」というシリーズタイトルを冠し、「Vol.1:できることガイド in ICU」を2016年4 月に、「Vol.2:やれることリスト108 at University」を同年9 月にリリースしました。制作指揮の加藤悠二が、このシリーズ制作の背景を解説します。

 CGSには学外から2015年度通年で85件、2016 年度は春学期のみで38件の問い合わせや講師依頼があった。「性同一性障害の学生への対応」や「LGBT 学生支援」に関するものが多く、他校やメディアからは「先進的な事例」と扱われることも少なくない。
(註:2017年3月17日現在、2016年度の問い合わせ件数は138件にのぼっている)

 これらの取材対応では、熱意ある他大の教職員の存在にエンパワメントされる一方、疲弊することも少なくなかった。過多な件数をほぼひとりで対応する人員的問題もさることながら、「ICUは先進的ではない」「できていないことばかりだ」と否定を重ね続けることが、大きな精神的苦痛となったためだ。実際、ICUの「LGBT 学生支援」は「先進的」とは言い難い。「トランスジェンダー学生の学籍簿上の名前・性別変更が2003年度からシステム化されてきた」「ジェンダー・セクシュアリティの学際的研究カリキュラムが整備されてきた」といった点は、国内の大学を先行する事例ではある。だが、入試願書には今もなお、男・女の性別欄が残る。また、卒業式で学部生が着用するガウンは、「女性は襟つき・男性は襟なし」のジェンダー区分を迫るものだった(度重なる要望から、2016 年3 月卒業式にようやく廃止)。この大学は基本的に、入学から卒業まで、男女二元論・異性愛主義が基準だ。その原則を頑なに維持したまま、マイノリティを特別扱いして対応する体制において、「先進的」「LGBTフレンドリー」といった評価の甘受は決してできない。

 また、「LGBT 学生支援」という枠組みを自明としたうえで話を求められることも、負担感を強めるものだった。「LGBT」「学生」「支援」の各概念の丁寧な検討もなしに、「問題なのは"LGBT"ではなく、" 女性やあらゆるマイノリティ/マジョリティを含めた、キャンパス全体のジェンダー・セクシュアリティをめぐる環境"だ」という視点の共有もままならず、「LGBT 教職員」の存在は不可視化されていく(筆者自身のカミングアウトが無化されることさえあった)。「目の前のLGBT 学生が抱える困難を支援・解決したい」というニーズに対し、実践事例の紹介は有用かつ必要だが、そこに時間を割く結果、根本的な視座の共有もできないままに「LGBT 学生支援」の話を繰り返すことには限界が多い。

 これらの課題に挑戦すべく制作したのが、冊子シリーズ「ジェンダー・セクシュアリティとキャンパスライフ」だ。「Vol.1:できることガイド in ICU」は、現状のICUで可能な各種対応状況をまとめたガイドブックで、「LGBT学生生活ガイド in ICU」を拡充・リニューアルしたものだ。新刊「Vol.2:やれることリスト108 at University」は、国内の大学が法改正なしに、大学独自の判断で実行可能な「やれるはずのこと」を108個リスト化した改善提案集だ。そこでは学生参加の重要性を強調した。そもそもICUの対応は全て、マイノリティとされてきた学生たちのカミングアウトなしには成り立ち得ないものだったからだ。大学が上から「LGBTフレンドリー」な施策を用意するのではなく、学生も含めた全ての大学構成員が大学を根源的に見直し、改善していく。そんな動きの一助に、これらの冊子がなっていくことを願っている。

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