02. CGSのイベント: 2017年3月アーカイブ

ICU学部生(ID 18):松田英亮
【CGS Newsletter019掲載記事】

第4回R-Weeks(2016年5月31日(月)~ 6月11日(土))では、「WEL-COMING OUT!! 家族と友人にできること」と題し、NPO法人「LGBTの家族と友人をつなぐ会」東京理事・小林りょう子さんをお招きした講演会を、6月7日(火)に開催しました。このイベントで司会・コーディネーターを担った松田英亮さんに、この企画の経緯・実施報告をお寄せ頂きました。

 私はR-Weeksイベントとして「家族へのカミングアウト」をテーマに、ご自身もFtMの子を持つ親であり、LGBTやその家族・友人の支援活動を行う小林りょう子さんをお招きする講演会を企画した。カミングアウトをしたい・できないと悩む人も、カミングアウトをされて戸惑う人も、誰もが快く手を広げて抱きしめあえるような、互いにウェルカムな姿勢を持つにはどうすればよいのかを考える機会にすべく、「WEL-COMING OUT」というタイトルをつけた。

 しかし、小林さんご自身のお話や、活動を通して知ったという他の当事者のお話は、私には時に涙を流してしまうほど衝撃的なものだった。「気の迷いだと精神科に連れて行かれた」「学校に行くなと軟禁され転校させられた」「死んだ者扱いされた」、「『中絶すれば良かった』『頼むから死んでくれ』と親に言われた」など命がけの話に、自分の「カミングアウトはきっといつか成功する」という認識の甘さを痛感した。カミングアウトは常によい結果をもたらすとは限らない。小林さんは、カミングアウトを希望する当事者には「普段から何でも話せるようなコミュニケーションを相手ととれているか」を聞くそうだ。大学生が元々あまり関係の良くない親にカミングアウトをしたら経済的援助を止められたなど、自分の生活や夢が困難になる事例もあるため、慎重に考えるべきだという。また、カミングアウトを受けた親も、世間からの疎外感から孤立しがちで、自分や子どもを責めてしまうこともあるそうだ。

 これらのお話から私は、「WEL-COMING OUT」には互いの人生を尊重できる関係性が必要だと感じた。私には、家族へ自分の性的指向を伝えることに悩んでいる、大切な存在が身近にいる。私は、こんなにも素敵な人が「伝えたい事が伝えられない」と悩んでいる姿を見るのが悲しく、何かできる事はないかと悔しさの混じった気持ちも抱えていた。この企画には、その人のカミングアウトを後押しする気持ちが少なからずあった。今すぐにではなくともきっといつかできればと、長期的に応援する気持ちでいた。しかし本当にその人の生きやすさを考えるのであれば、時にカミングアウトをしない方がよい場合が、現在の社会には残念ながら存在することを学んだ。それでも私は、「今は言わない方がよい」とは口にしたくない。だからこそ、自分の身近な人には、日頃の関係性について再度考えてみて欲しいと伝えたいし、カミングアウトされる側の人には、日常会話の中でこの企画について触れるなどして、私はオープンであるという姿勢を示すだけでも環境は大きく変わるのだということを伝えたい。これは一部の特別な人間のみが考えることでは決してなく、ひとり一人に関係する事柄であることが、大学全体で考えられるような機会となっていたなら嬉しい。小林さんが、最後に紹介していた詩のように、ありのままに受け入れられる姿勢を、皆が持てるようになることを願っている。

「私の子供は四葉のクローバーのようです。性的指向はたまたま私と違っていますが、私にとっては、大切に守ってあげたい宝物です。四つ葉のクローバーは不自然なものではありません。ただ、珍しくて、大勢とは違っているだけです。私は、それから葉を一枚もぎとって三つ葉のクローバーに見せかけたいとは決して思いません。」
( 出典:PFLAG, Our Daughters and Sons (Washington, DC: PFLAG, 1995), 8, http://pflagupstatesc.org/forms/daughters_sons.pdf 日本語訳:かじよしみ)

ワシントン大学大学院社会学研究科博士後期課程、ICU卒業生(ID 13):平森大規
【CGS Newsletter019掲載記事】

性的マイノリティに関する経験的研究では、質的調査法が多用される傾向にあるなか、近年、当事者団体による各種実態調査や研究者による学術調査、広告代理店によるマーケティング調査など、計量調査が増加しつつあります。NPO法人虹色ダイバーシティとの共同研究の分析担当者である平森大規さんに、ご自身の経験を踏まえつつ、ジェンダー・セクシュアリティの分野において計量研究を行う意義や、性的マイノリティに関する統計データの読み解き方をうかがいました。

 虹色ダイバーシティが2013 年に「LGBTに関する職場環境アンケート」を開始した理由には、LGBT 施策の推進にあたって企業や行政などから性的マイノリティの困難・ニーズに関する統計データを求められてきた経緯がある。このように計量調査法を用いる意義として、ジェンダー・セクシュアリティに関する不平等の構造や傾向を数字の形で表せるという点が挙げられる。性的マイノリティにとって差別的な現状を変えるための手段として、質的データなどとともに統計データを蓄積していくことがいかに重要であるかが分かるだろう。

 しばしば「計量分析や数字で表わされるデータは中立的・客観的である」と思われがちであり、政策決定に採用される理由にもなっているが、本当に中立的なのは統計分析の部分のみである(誰がカイ二乗検定を行っても結果は同じになる)。実際のところ、計量研究を行う意義は、分析手続きの妥当性を第三者が検証できる点にある。「調査対象者やその抽出方法」「調査票における質問文の言い回し」「用いる分析手法の選択」など、研究者の主観的要素が研究過程のどこに入り込んでいるかを比較的明確に示すことが可能だからだ。

 このように考えると、「計量研究は自らを中立的だとみなしており、計量研究によって客観的知識を発見できると捉えている」というフェミニズム・クィア研究者からの批判はそれほど当てはまらないことが分かる。「数字は嘘をつく」ということを一番よく知っているのは、日々、計量分析を行うなかで主観的選択をしている計量研究者なのかもしれない。

 もちろん、計量研究者はフェミニズム・クィア研究者からの「自らの研究過程そのものが男女二元論や異性愛規範などを前提とし、社会の差別構造を反映している可能性を充分に考慮していない」「ジェンダー・セクシュアリティのカテゴリーを本質化し、ただの変数としてしか捉えていない」「カテゴリー内部の差異を不可視化している」などといった計量研究への重要な批判を真摯に受け止める必要があるだろう。しかしながら同時に、フェミニズム・クィア研究者も計量調査法の利用可能性についてさらに議論を重ねるべきである。

 それでは、私たちは近年増えつつある性的マイノリティに関する統計データをどう読み解いていけばよいのだろうか。私見では、性的マイノリティに関するものを含めた計量調査一般に関する統計リテラシーを身につけることが重要だと考えている。新聞やテレビ、インターネットなどで統計データが紹介された際にも、「誰が何の目的で行った調査なのか」「質問の選択肢は適切か」「分析結果の解釈は妥当か」など、調査結果を批判的な観点から考察すべきだろう。これらを踏まえると、今後性的マイノリティに関する統計データを蓄積していく上で、調査の詳細やデータそのもの(個人を特定できる情報を除いたもの)についても可能な限り公開し、誰でも分析の妥当性を検証できるようにすることが望ましいと考えられる。

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映像と性の政治 ―映画とその上映の実践から

日時
2017年3月5日(日)13:00~18:00
開場:12:30

言語
日本語 同時通訳なし

参加費 無料、予約不要

会場
国際基督教大学 ダイアログハウス2F 国際会議室

企画・司会
ヴューラー・シュテファン
 CGS研究所助手、東京大学大学院 博士後期課程

Program
開会の挨拶 13:00-13:10
 ヴューラー・シュテファン

Session 1 13:10-15:10 途中休憩あり
映画と(非)規範的な欲望の作り方

 アイデンティティ、欲望、そして女性映画 ―『キャロル』を手がかりに
  斉藤綾子 明治学院大学 文学部芸術学科 教授

 治安・非行対策の変遷からみる、戦後日本映画に描かれた〈青少年〉の異性愛
  中山良子 大阪大学 文学研究科 招へい研究員

 過ぎ去る列車と女性の表象 ―木下惠介『遠い雲』(1955)を中心に
  久保豊  京都大学大学院 人間・環境学研究科 博士後期課程

Session 2 15:25-17:30 途中休憩あり
映画祭とアクティビズム

 映画祭と情動:クィア・アーバニズム批判
  菅野優香 同志社大学大学院 グローバル・スタディーズ研究科 准教授

 日本における華語クィア映画の表象分析:「ひとつの中国」をめぐるクィア・ポリティクス
  福永玄弥
   東アジア×クィア×映像プロジェクト 呼びかけ人/第10回関西クィア映画祭 実行委員・華語特集責任者
   中国クィア巡回映画祭[中国酷儿影像巡] 展2014 キュレーター/北京クィア映画祭 [北京酷儿影] 展2013 キュレーター

 クィア・ビデオ・アクティビズム:中国における性的マイノリティによる「映像実践」をめぐって
  于寧 東京大学大学院 総合文化研究科 超域文化科学専攻 表象文化論コース 博士後期課程

クロス・トーク 17:30-18:00

 2016年、東京レズビアン&ゲイ映画祭が25年目、関西クィア映画祭が10年目を迎えた。映画・映像の上映は、これらのLGBT映画祭やクィア映画祭がそうであるように、主流派に排除されてしまいがちな「マイノリティ」に焦点を絞ることにより、オルタナティヴな映画空間、コミュニティやアイデンティティの形成につながりうる。一方では、どのような映画・映像も、市場原理や道徳的規範から完全に自由な形で制作されることがない以上、その上映が、非規範的なものの排除に加担するように機能する可能性も常にある。--どのような映画空間においてどのような性愛の描写、だれの欲望が許される、または忌避されるのか。このシンポジウムでは、これらの問いを出発点に、映画をみる実践、そして映画をみせる実践をめぐる性のポリティックスについてクィア・フェミニズム理論の観点から幅広く検討する。




クィア・フェミニズム映画理論 基礎文献読書会
2017年2月1日(水)、2月15日(水)12:50~15:00
シンポジウムで扱う映画も紹介予定。
講読する文献については決定次第、情報を更新します。

 当読書会につきましては、担当者の事情により開催を見送らせて頂くこととなりました。直前のご案内となり申し訳ございませんが、何卒ご了承くださいますようお願い申し上げます。(2017年1月31日更新)

第6回 みたかジェンダー・セクシュアリティ映画祭
2017年3月4日(土) 13:00~18:00
上映作品 上映後に監督・原作者トークつき
すべすべの秘法(2015、監督 今泉浩一、原作 たかさきけいいち)
Blessed ―祝福―(2001、監督 崟利子)

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第6回 みたかジェンダー・セクシュアリティ映画祭 in ICU

ジェンダー・セクシュアリティをテーマに、三鷹のコミュニティから世界へ向けて発信する映画祭です。

日程
2017年 3月 4日(土)12:30-18:30
無料・予約不要(先着50名、年齢確認あり)

「第6回みたかジェンダー・セクシュアリティ映画祭」では、1本目の上映作品「すべすべの秘法」はR-18のレーティング指定映画のため、上映の入場時に、IDカード類による年齢確認を実施いたします。18歳未満の方、また、年齢確認のできるIDカード類をご提示頂けない方(お忘れになった方を含む)は、どなた様もご入場・ご観覧をお断りさせて頂きます。  運転免許証については、写真と生年月日の部分のみが見えるようにするカバーを受付にご用意する予定です。その他のIDカード類でも、写真と生年月日以外の部分については、手や紙で隠して頂いて構いません(白紙やポストイットなどを受付にご用意します)。写真のない証明書の場合は、2種類の証明書をご用意ください。また、ICUの学生・教職員の方は、学生証および教職員IDカードの提示で構いません。

 年齢制限の制度自体への疑問はあり、日常的にもさまざまな抵抗・困難が生じる"IDカードの提示"を、ジェンダー研究センターのイベントとして求めることに関して、迷いはあり、また、ご批判を頂戴することもあると思います。
 しかしながら、現に年齢制限の制度の枠組みは存在しており、「すべすべの秘法」はそのなかで「R-18」として指定されている作品です。今回の上映に関しましては、上述の通り、「IDカード類による年齢確認」を実施させて頂きます旨、どうぞご了承ください。

 なお、2本目の上映作品「blessed―祝福―」についてはレーティング指定なしの作品ですので、残席がございます場合は年齢確認なしでご覧頂くことができます。

会場
国際基督教大学 ILC-163

上映作品1
すべすべの秘法 R-18
日本/2014年/81分/日本語音声、英語字幕
監督:今泉浩一
原作:たかさきけいいち

The Secret to My Silky Skin
Japanese with English Subtitles
Director: Koichi Imaizumi
Original Author: Keiichi Takasaki

作品上映 12:30-14:00
トークセッション 14:10-15:00

 両親と京都に暮らすリョータは東京での短期研修が決まり、「東京のヤリ友」であるイッセイの家に泊めてもらう事になった。朝はそれぞれが仕事に出かけて夜は一緒に過ごして寝る、ただそれだけになるはずの5日間。家に到着した最初の夜、イッセイはごく自然にリョータとセックスしようとするのだが、リョータは素直に応じることができない。実は彼には東京に来る前から一つ、気がかりな事があったのだった...。
 作品上映のあとには、監督の今泉浩一さん、原作者の漫画家・たかさきけいいちさんを招いたトークセッションを開催します。

司会、コーディネーター:加藤悠二(ジェンダー研究センター 嘱託職員)


上映作品2
Blessed ―祝福―
日本/2001年/78分/日本語音声、英語字幕
監督:崟 利子

Blessed
Japanese with English Subtitles
Director Toshiko Takashi

作品上映 15:30-16:50
トークセッション 17:00-17:50


 作者の崟利子が子ども時代に10年間を過ごした大阪の下町、西天下茶屋の路地。ふらりと30年ぶりに訪れた思い出の木造アパートには70歳をすぎたふたりの女性が当時のまま住んでいた。利子は動揺しながらビデオをまわす...。
 利子を想うサクラは、ストリップ劇場の舞台に立つダンサー。ショーの合間に、アパートを訪ねてみた。ところが誰もおらず、建物は荒れ果てている。ふたりは...? ―利子とサクラの絡み合う感情、老いた女たちの歴史、消え行く路地の風景、街のネオン、新幹線...。つきせぬ想いのつまった私的世界。
 作品上映のあとには、監督の崟 利子さんを招いたトークセッションを開催します。

司会、コーディネーター:東 志保(国際基督教大学 非常勤教員)


全体でのクロストーク 17:50-18:30
トーク:今泉浩一、たかさきけいいち、崟 利子
司会:加藤悠二、東 志保




関連イベント

シンポジウム「映像と性の政治 ―映画とその上映の実践から」
2017年3月5日(日) 13:00~18:00
 映画をみる実践、そして映画をみせる実践をめぐる性のポリティックスについて、クィア・フェミニズム理論の観点から幅広く検討する。

クィア・フェミニズム映画理論 基礎文献読書会
2017年2月1日(水)、2月15日(水)12:50~15:00
シンポジウムで扱う映画も紹介予定。
講読する文献については決定次第、情報を更新します。

 当読書会につきましては、担当者の事情により開催を見送らせて頂くこととなりました。直前のご案内となり申し訳ございませんが、何卒ご了承くださいますようお願い申し上げます。(2017年1月31日更新)

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