ICU卒業生(ID 16):ぺんこ
【CGS Newsletter019掲載記事】
CGSは2015年度、女性への暴力根絶を示すキャンペーンカラー・紫で、「誠実」「小さな幸せ」が花言葉であるすみれを象徴とし、デートDVなど身近な暴力について考える「すみれプロジェクト」を、学部生と共同で実施しました(2016年より「すみれネットワーク」に改名)。プロジェクトを担当したCGS 職員・加藤悠二がプロジェクトのあらましを、プロジェクトの発端となった学生・ぺんこさん(ペンネーム)が自身の経験と感想を綴ります。
私は入学して数か月後に、学内の同級生と付き合い始めました。彼は優しく、気前よく食事もおごってくれ、私と一緒に居ることを最優先してくれる人でしたが、長く付き合ううち、怒りやストレスをコントロールできない人でもあることが分かり始めました。はじめは周りの物に向かっていた暴力の矛先は、次第に私に向いていきました。日常化する様々な暴力を経て、「私がいつも彼を怒らせてしまう」「けれど私だけが彼の全てを理解でき、受け入れられる」と歪んだ考えを持つようになりました。帰省した際、私の顔色の悪さから母が気づいたことを経て、私は彼からのデートDVをはじめて認識しました。
別れたあとも、暴力を受けた場所を通りがかったときのフラッシュバックや、夜中に自分の叫び声で目が覚める、学内で彼や彼に似た人影を見ると過呼吸になり他のことが考えられなくなるなどの後遺症に悩まされました。なんとかしたいと思った私は、友人に紹介されたNPOでデートDVの勉強を始め、自分と向き合っていきました。
1年が経った頃、周囲での「あの二人は彼氏側がやばくて別れたらしい」といった噂の一人歩きから精神的に参っていたこともあり、SNS上でカミングアウトしました。その結果、多くの人からの反響や相談を受け、デートDVを問題化する重要さを知りました。そして私が情報発信する意味も確信したのです。
すみれプロジェクトで、同志の友人と一緒にパンフレットを作って配布したり、カフェイベントでお話ししたりする経験を通し知ったのは、自分をちゃんと受け入れられないと他人を大事にできない、ということです。今の自分がとても嫌な人間だと思っていても、そこから目を背けず、正面から「私を認識する」ことが大事だと気づきました。また、暴力を振るってしまう人だけがおかしいのではなく、誰もがそうなってしまう可能性を持っていることも学びました。みんな心に飼った猟奇的な獣を、日々飼い慣らして生きている。飼い慣らせない人にこそ、焦点があてられるべきだと、強く感じました。私の周りは、私=被害を受けた側しか見ませんでした。しかし、好きで暴力を振るう人ばかりではありません。互いに互いを尊重し、相手に一歩踏み込んで向き合う関係が築けていれば良かったのだろうと、今は思います。そうすれば、彼が暴力の裏に持っていた悲しみや叫びにも、気がついたのかもしれません。
愛や恋愛って結局何なのだろう、と問い続けた4年間でした。単純に言ってしまえば、「自分と向き合い、相手と向き合うこと」なのだと、卒業間際にして改めて気がつきました。大学生活の半分は惜しいことをしたと思ったいりもしますが、だからこその今があります。自分に置き換えるとなかなか難しいと感じるときもありますが、この考え方は常に覚えておきたいです。
最後に、私の卒業後にプロジェクトを引き継いでくれる方を募集しています。このキャンパスでこうした問題が起きたこと・起きていることは事実です。パンフレットのポスティング中、「俺には関係ないなあ」「そもそも彼氏いないし」といった感想も耳に飛び込んできました。私も、入学当初に保健の授業で扱われたデートDVを、他人事と聞き流していました。しかし、実際に私は当事者になりましたし、周囲から相談を受けることが今も少なくありません。無関係な人などいないのです。このプロジェクトで大事なのは、デートDVや恋愛の経験の有無ではなく、お互いを尊重できる「ヘルシーな関係性」の大切さを伝えることです。お互いを尊重するということは、何も恋愛関係のみに限られません。友人や家族など、私たちは様々な人間関係の中で生きています。すこしでも興味を持ってくださった方は、CGSにご一報ください。