05. コラムの最近のブログ記事

 この度、一橋大学法科大学院生が同級生に同性愛者であることをアウティングされ、その後心身の不調を訴え転落死した事件を報道によって知り、大きな衝撃を受けました。当該大学院生の苦しかったであろう心の内を思うと、胸がかきむしられるような思いがいたします。心よりお悔やみを申し上げますと共に、ご遺族の方々のご心痛に寄り添いたいと思います。また、この報せを受け声明(http://gender.soc.hit-u.ac.jp/news.html)を発せられた一橋大学ジェンダー社会学研究センター(CGraSS)にも、連帯の意を示したく思います。

 残念ながら、LGBTという言葉だけが一人歩きし、性的マイノリティへの理解が進んでいない現状では、今回の事件は、本学も含め、どこの大学でも起こりうる(そしておそらく起こっているけれども、報道も、学内での共有さえもされていない)ことです。性的マイノリティのカミングアウトによって起きた良い側面だけに光が当てられ、あたかも世の中でマイノリティ理解が進んだかのような錯覚にとらわれがちですが、カミングアウト後に当事者が晒されるかもしれない差別の危険については、十分に語られてきていません。異性愛・シスジェンダーであることを前提とした制度や対応がまだまだ大勢を占めるキャンパスにおいて、性的マイノリティに属する学生たちのなかには、自分の性的指向や性自認、性別違和を周囲に言うことすらできないばかりか、他人に知られて好奇の目に晒されたり、差別されたり、いじめられたりするのではないかと、日々怯えて生活せざるを得ない方も少なくありません。しかしそもそも、マイノリティが生きづらい世の中であることは、マイノリティ側の問題ではありません。それがあたかも当事者の努力次第で変えられるかのようにしてカミングアウトを求めることは、むしろ差別構造の強化に過ぎません。ましてや、望んでもいないのに他人によって行われるアウティングは、いじめの構造そのものであり、紛れもない加害なのです。
 一橋大学側は当該大学院生からの相談を受けていたとのことで、その中で今回の事故が起きてしまったことは大変残念なことです。そもそも、そのような相談を大学にできずに苦しんでいる当事者学生が、全国の大学に多くいるであろうことが容易に想像できます。しかし、それでも起きてしまった今回の事件。もっと何かできることがあったのではないか、また二度とこのようなことが起こらないようにするために何ができるのか、全ての教育機関で考えなければならない問題であると考えます。特に、今回の事件は、当該院生に問題があったから起きたのではなく、日本社会全体の風潮を反映してキャンパスに蔓延する性的マイノリティ差別の空気に問題があり、また、その空気を大学側が教育的に変えることができていなかったことに問題があったから起きたのである、ということを確認しておきたいと思います。
 現在の性的マイノリティ差別の雰囲気は、小中高の教育課程において性教育・セクシュアリティ教育がまともになされていない日本の教育制度に端を発しており、その意味において高等教育機関が負う責任は大きなものがあります。一橋大学と同じくジェンダー研究の機関を持ち、学内のジェンダー平等や性的マイノリティ差別解消のためにも動いてきた当センターとしては、ますます自分たちのするべき課題を突きつけられた気持ちでいます。

 今回のような悲劇を二度と起こさないために、予防策を講じることが全国のすべての大学関係者にとっての喫緊の課題です。セクシュアリティのみならず、ジェンダー、障がい、国籍、人種や民族など、さまざまな属性を問わず全ての学生・教職員の人権が確実に守られる環境の構築に向けて私たち大学関係者は真剣に取り組む必要があります。すべての関係者の皆さんに、関係先キャンパスにおけるマイノリティ対応についての見直しの緊急行動を呼びかけたいと思います。人の命がかかっています。共に行動してきましょう。
 また今回の事件報道を聞き不安を覚えている学生の皆さん、特にジェンダーマイノリティ・性的マイノリティの皆さん、その方々を支える友人の皆さん、私たちは皆さんの不安を少しでも解消できるよう全力を尽くします。本学には人権委員会による人権相談員や、ジェンダー・セクシュアリティ特別相談窓口も設置してありますので、そちらも利用することができます。不安や悩みを一人で抱え込まずにすむように、私たちは相談してもらえるような場所でありたいと思っています。

国際基督教大学ジェンダー研究センター


CGSセンター長、ICU教授:田中かず子
【CGS Newsletter016掲載記事】

 2003年の準備年から数えると、私がCGSとかかわって今年は10年目になる。ジェンダー・セクシュアリティに関心のある人たちのコミュニケーションスペースとして出発したCGSは、学内外のさまざまな人たちの思いやアイディアがバチバチ化学反応を起こす触媒の役割を果たしてきたのではないだろうか。「場」の力は、実にすごい。私自身、CGSとのかかわりの中で、どれだけ触発されてきたことか。以下、私の中で起きた現在進行形の化学反応をみっつあげたい。

 ひとつ目は、性差別構造に、男女二元論と異性愛規範がつながったこと。当然と言えば当然なのだが、近代の性差別構造は男女二元論と異性愛規範を抜きにしては語れない。性別役割分業を前提として男女の格差を論じることは、まさに男女というふたつのカテゴリーを前提とし、かつ近代核家族の異性愛的結合を当然とする議論なのだ。性自認や性的指向をめぐる問題を問うことなく、男女間の不平等を追及していくことは、男女二元論、異性愛を当然視する議論を展開することになる。

 改めて性差別とは、性に基づく差別なのだから、女性に対する差別だけが性差別ではない。人は女か男であるという男女二元論に基づいて、生まれた時に与えられた性別に違和を感じる人たち(=ジェンダー・マイノリティ)を排除するのも性差別であり、異性愛規範から外れる人たち(=セクシュアル・マイノリティ)を排除するのも性差別なのだ。これまでのジェンダー研究では、異性愛でかつ性別違和をもたない「シスジェンダー」の男女を前提とし、議論してきたのではないか。

 ふたつ目は、排除されている人たちを周辺に追加するのではなく、中心に持ってくることについて。異性愛でシスジェンダーの男性を「標準」とした社会の仕組みはそのままに、「男女平等」をもとめるシナリオは、始めから限界があったのだ。性差別構造に挑戦していくためには、無償の家事育児ケアをになう人、かつ男女二元論的構造に違和があり、いわゆる異性愛規範から外れた人を「標準」とすれば、どのような社会の仕組みが必要になるのかと、議論の視点を転換する必要があるのではないか。

 みっつ目は、マジョリティの「当事者性」について。よくマイノリティ自身が声をあげて権利獲得のために立ち上がる必要があるといわれる。力のある側のものが力のないものを代表して論じることはできないが、マジョリティはマイノリティを排除する側の当事者であり、その当事者性をもって排除し不可視化する構造について論じる必要があるのではないか。セクシュアル・マイノリティを排除する構造を異性愛者は考える必要があるし、ジェンダー・マイノリティを排除する構造をシスジェンダーの特権を持つ人たちが問題提起していくべきであろう。排除された側がどうすれば声を上げることができるのかを考えるのは、第一義的に排除している側の責任ではないか。

 さて、あなたはどんな「場」でどんな化学反応を経験してきたのだろう。これまで心の中で温めてきた大切なこと、あったらいいなと思う理想を、ゆるゆると語り合っていきませんか。

CGS 運営委員/ 国際基督教大学准教授: 森木美恵
【CGS Newsletter013掲載記事】【ペーパー版と同一の文章を掲載】

 2010年1月28日・29日にタイの首都バンコクにおいて、"Women's Health, Well-Being between Culture and the Law"と題した国際会議が開催された。この会議は、長年にわたりWomen's Studies の分野で活躍されてきたアジア各国の研究者およびNGO関係者が中心となり企画運営されたもので、2009年春学期に特任教授としてICUでも教鞭をとられたタイ国タマサート大学のChalidaporn Songsamphan教授もその中心メンバーの一人であった。私はChalidaporn先生とのつながりからこの会議のことを偶然知ったのであるが、計8カ国のアジアの国々より様々な専門分野の方々が参加し、「新参者」研究者としては、研究・活動分野の軌跡を知り、そしてその発展マップ上に自分の研究がどの様に位置し得るのかを考える上で、有意義な経験となった。会議の開催目的の一つが、関係者相互のネットワークを強め、女性の健康とウェル・ビーイングについて多角的に検討する手立てとすることであった。実際に、この会議の運営委員を中心としてAsian Association of Women's Studies という団体も最近設立されており、今回の会議は分野全体としても、「今まで」と「これから」を結ぶ良い基点となったのではないだろうか。

かながわレインボーセンターSHIP:吉仲崇、星野慎二
【CGS Newsletter013掲載記事】【ペーパー版と同一の文章を掲載】

 横浜Cruise ネットワークは、神奈川県との協働事業として、2007 年9 月にセクシュアルマイノリティのためのコミュニティセンター「かながわレインボーセンターSHIP」を設立しました。SHIP の主な活動は、HIV/AIDS など性感染症の予防啓発活動と、セクシュアルマイノリティのためのメンタルヘルス支援に大きく分けられます。

ライター:竹内絢
【CGS Newsletter013掲載記事】【ペーパー版と同一の文章を掲載】

●女が住居を確保する
 数年前、フェミニストを自称する友人が「私、結婚したの...」となぜか申し訳なさそうに電話してきたことがあった。理由を聞けば、引っ越しをしたいがなかなか家を借りられなかったという。異性の恋人と結婚したところ、なんなく借りられたそうだ。 「 それだけの理由?」と当時は訝しがったが、今となっては理解できる。私の一人暮らしを支えていたのは「父親」という保証人の存在あってのこと。父や夫の存在なくして女ひとり、ボロアパートで暮らすことすらままならない。シングルの女、老いた女は、どうやって住居を確保するのか...。自分の将来を考えると暗澹とした気持ちになる。

Rainbow candles used by Kiristo-no-Kaze「キリストの風」集会代表:平良愛香
【CGS Newsletter 008掲載記事】【ペーパー版と同一の文章を掲載】

 セクシュアルマイノリティ・クリスチャンのための集い、「キリストの風」集会が東京で始まったのは1995 年9月のことでした。たまたま集まったゲイの中にクリスチャンがいたことから、「自分のセクシュアリティを神に懺悔したり、変えてもらえるように祈るのではなく、神が与えてくれたものと信じて感謝できる場が欲しい」という話になったのです。やがて「教会で礼拝をしたい」という思いが高まり、第一回「キリストの風」集会が開催されたのです。

国際基督教大学教授:御巫由美子
【CGS News Letter007掲載】【ペーパー版と同一の文章を掲載】

 やれやれ。案の定教育基本法改正が国会で成立した。改正法には現行法にはない「公共の精神」や「国を愛する態度」などが織り込まれる。改正法は、戦前の教育勅語のように国家の教育への介入・支配を示唆しており、それ自体非常に憂慮されるべきことであるが、ここではジェンダーの視点から、安倍政権が、教育基本法改正その他の政策を通じてめざそうとする「美しい国」の本質に迫ってみたい。

弁護士:石田法子【CGS NewsLetter 007掲載】

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【要約】
 近年改憲論が声高に語られ、政治の具体的スケジュールとなっている。安倍総理は、2007年の年頭所感で、自分の内閣での憲法改正を目指すことを、参院選の自民党の公約として掲げると表明した。
 しかしながら、自民党が2005年10月に発表した新憲法草案は、現行憲法の平和主義を放棄し、この国を、軍隊を持ち、集団的自衛権の名の下に米国と共に世界の隅々で戦争をする国にしようとするものである。またその体制を強固にするために、個人の利益に先立つ「公」の原理を、人権の制約原理に持ち込み、人権保障を後退させている。
 現行憲法は、14条で女性に平等を保障し、24条で「家制度」から女性を解放した画期的なものであるが、改憲論議の中で、24条への攻撃は激しく、その削除、改訂が主張されていた。新憲法草案ではその改訂は見送られているが、それは国民投票権を持つ女性の反発を避け改憲への道筋を開きたいとの狙いにすぎず、一旦改憲されると必ずや24条改訂は浮上する。
 改憲論の台頭と、ジェンダー思想を敵視するバックラッシュ、ジェンダーバッシングの動きの拡大とは連動し、改憲勢力とバックラッシュ勢力は重っている。新憲法草案が目指す社会は、ジェンダー的に大きな危惧がある。
 改憲に強く反対する。戦争の中で女性の平等は守れない。戦力で女性の権利は勝ち取れない。

東京メトロポリタンゲイフォーラム共同代表:赤杉康伸・石坂わたる【CGS NewsLetter 007掲載】

 2006年7月8日夜、高校3年の男子生徒ら少年4人が、東京都江東区新木場の夢の島公園で男性同性愛者(ゲイ)に暴行を加えて全治40日の怪我を負わせ、現金を奪ったとして、強盗傷害容疑で警視庁城東署に逮捕されました。また、4人組は男性を襲った直後、400メートルほど離れた同運動場内で別の男性も襲い、2週間の怪我を負わせました。4人は初めに襲われた男性の110番通報で駆け付けたパトカーのサイレンを聞いて、2人目の男性からは現金を奪わず逃走しましたが、間もなく同運動場内で捜査員に取り押さえられました。
 この夢の島公園は、ゲイ・バイセクシュアル(両性愛)男性が出会いを求める「ハッテン場」と呼ばれる場所のひとつです。異性間カップルにとっては社会の至る所に準備されている出会いの場ですが、可視化が進んでいない同性間カップルの場合、非常に少ないのが現状です。そのため、ゲイ・バイセクシュアル男性当事者は口コミやゲイ雑誌、最近ではインターネットなどの媒体により自分たちが出会える場所を形成してきました。それがハッテン場です。夢の島公園は東京都内に存在する野外ハッテン場では比較的規模が大きく、今回の事件における1人目の被害者のように全裸になる人やセックスをする人もいます。

北京師範大学、教育学院:林玲【CGS NewsLetter 006関連記事】

出会い:興味
 指導教官である鄭新蓉教授からご指導いただくまで、私は彼女がフェミニストであることを知らなかった。その後も、彼女とフェミニズムとの関わりが、私にそれほどの影響を与えるとは思ってもいなかった。しかし現在、私は指導教官と同じ分野に強く興味を持ち、彼女同様、フェミニストとなった。

早稲田大学大学院:森脇健介

 2005年11月12日、男女共同参画社会基本法の現状と、最近のジェンダー・バッシングをテーマとしたシンポジウムが早稲田大学において開催され、百人超の人々が参加した(主催:早稲田大学ジェンダー研究所)。タイトルは、「危機にある『男女共同参画社会』?」。そもそも今の社会は、男女共同参画の可能な社会となっているのか、そしてこの「男女共同参画」の理念は、真に「男女平等」の理念に立脚しているのか、という二つの疑問から、このようなタイトルが選ばれた。

ICU大学院 : 平野遼
【CGS News Letter005掲載】【ペーパー版と同一の文章を掲載】

 近年、LGBT雑誌業界の浮沈が著しい。ゲイ専門誌の老舗「薔薇族」は04年11月に廃刊になり、05年4月に復刊したが、再び06年1月号をもって廃刊となった。また02年創刊のレズビアン専門誌「カーミラ」も05年12月発刊のVol.10をもって終了した。しかしその一方で05年12月には、タワーレコードからLGBTを対象とする初のライフスタイルマガジン「yes」が新しく発行されてもいる。

ICU学部生 : 金子活実
【CGS NewsLetter 004掲載】【ペーパー版と同一の文章を掲載】

 2005年6月11・12日の2日間にわたって行われた日本女性学会年次大会の開会プログラムとして「フェミニズムと戦争―『銃後』から『前線』への女性の『進出』!?を踏まえて」と題したシンポジウムが横浜国立大学で開催された。

明治大学法科大学院 : 名取克也
【CGS NewsLetter 004掲載】

 『ジェンダー法学』という分野をご存知でしょうか。学問としての歴史はまだ浅く、2003年12月に「ジェンダー法学会」が発足したばかりです。そして、司法制度改革の一環として2004年度からスタートした法科大学院の一部には、ジェンダー法学を扱う科目が設置されました。
 このコラムでは、法科大学院でジェンダー法学を学ぶ者として、ジェンダー法学や法科大学院に対して感じたことを書いていきます。特に、外部からはあまり見えない法科大学院とジェンダーの関係や、ジェンダー法学の授業内容などを扱います。

編・CGS編集部 著・小林成生(フィリピン在住)、吉成愛子(ICU卒業生)
【CGS News Letter004掲載】

 2005年4月発行CGSニューズレター3号に掲載された吉成愛子さん(ICU卒業生)の記事『タイ・フィリピンの旅行産業と性産業』について、フィリピンに在住する小林武生さんからCGS編集部宛にメールが届いた。小林さんは、日本のフィリピンクラブの店長やフィリピン人芸能人プロダクション勤務を経て、現在フィリピンで生活している。吉成さんは、3週間訪れたフィリピンとタイにおける「旅行産業と性産業」の実情をCGSオンラインに掲載する記事としてまとめた。小林さんは、この記事の情報がフィリピンの一部に限定された偏った情報である点をあげ、性産業が栄えているという偏った情報は、フィリピンのマイナスイメージにつながると意見した。

 二人の議論はフィリピンの現状についてさまざまな点から展開され、多くの情報が引き出された。吉成さんが第三世界における旅行産業の中に性産業が「経済的搾取」の構造で組み込まれてしまっていることに問題意識を置くのに対し、小林さんは、フィリピンで生活する側からみた現地の状況に焦点を当てている。立場の違いから若干の齟齬はみられるものの、往復した書簡からは結果的に多くを得た。編集部では小林さんと吉成さんの間を中継し、数回にわたる書簡のやり取りとその全文を、お二人の許可を得てCGSオンラインで公開する。

ICU大学院 : 朱恵文
【CGS News Letter003掲載】

 日本で酒井順子著『負け犬の遠吠え』というエッセイがベストセラーになり、「負け犬」という「未婚、子ナシ、三十代以上の女性」を指す言葉が流行したのをきっかけに、「負け犬論争」が盛んに行われている。それとほとんど同じ時期に、隣の中国では、「中国式離婚」というドラマが大きな反響を呼び、「夫婦関係」や「妻のあり方」といった「勝ち犬」の話をめぐって議論が行われていた。

関東学院大学 : 細谷実
【CGS News Letter002掲載】

 21世紀に入って、日本のフェミニズムとその主張が取り入れられたジェンダー政策に対するバックラッシュが急速に広がった。まず、2001年までの、運動の成果を確認しておきたい。

国際関係学科 : 加藤恵津子【CGS News Letter002掲載】

 7月、日本女性の出生率が1.29人と発表された。過去10年ほどの出生率低下の犯人として、私を含む「男女雇用機会均等法第一世代」の女性たち、または彼女たちが仕事と家庭を両立できないような社会制度を指摘する議論が多い。だが今一度注目されるべきは、この世代の「夫たち」である。高度経済成長期の「おじさん」の価値観を受け継ぐこれら「ネオ・おじさん」は、妻と家事分担するだけの技術がないばかりか、最低限の生存技術を持たずに妻に「世話される」対象として、「子供」とともに「社会的未成熟者」のカテゴリーに属するといえる。このような男性は女性にとって、追加労働と過労、出産意欲喪失のタネである。託児所増設だけでなく、子供や家事を託せる「社会的成熟者」たる夫の増加がなければ、出生率向上など望むべきではない。

ICU在学生 : 中島聡
【CGS News Letter002掲載】

「軍隊に行って国に貢献しなければ男じゃない」昨年、韓国ソウルにある梨花女子大学に留学中、韓国人の友人の母親に言われた言葉だ。梨大(イデ)は、その名のとおり、女子大であるが、大学の交換留学プログラムを利用すれば男性も通うことができる。留学してから数ヶ月が経ち、韓国と日本では似た面が多くあると感じていときのことだった。たとえば、言語に関しても、語順は同じだし、「は」「が」「を」「も」などの助詞の使い方も同じである。しかし、男らしさの概念に関しては日本と韓国では大きく違うようだ。では、この男らしさの違いは、何からくるのか?

シリマン大学 : ポール・リッチ・J・ロマノ
【CGS News Letter002掲載】

 ゲイであることは、単に性同一性障害(GID)であることではありません。そうであると自分は信じています。ゲイであることは、自然、超自然の仮説の限度を超えています。ゲイであることは、選択されません。あなたがゲイであるような気がするときに、あなたはゲイであるということを知るのです。

センター長:田中かず子

 ほんの少し前までは全く馴染みの無かった「ジェンダー」という言葉が、一般の人たちの間にも浸透してきた反面、最近ではマスメディアによって否定的なイメージが付与されつつあります。特に男女共同参画社会基本法の施行以後、「ジェンダー・フリー」は人間を中性化して日本人の美徳を破壊する悪しきイデオロギーである、との批判が投げかけられています。

人文科学科: 宮坂夏美【CGS News Letter001掲載】

 テレビドラマを見ると、それぞれの社会の成熟度が見える。例えば英米のテレビドラマからは、ジェンダー・ステレオタイプはほとんど姿を消したが、日本では依然偏った男女観が横行している。最近のドラマでも、人気俳優のセリフには時代劇かと思うようなジェンダー差別が埋め込まれており、視聴者の多くを占める若者への影響について危機感を感じた。日本のメディアは社会の中で最も女性の進出が遅れている世界だという。圧倒的男性社会で、ナルシスト的な男性論理によって、番組が量産されているのが日本の現状である。だがこれはテレビ業界が特殊なのではなく、日本社会に存在するジェンダー観の発露に過ぎない。だから私は、社会の成熟度の差を突きつけられた気がして、暗澹とした気分になるのである。

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